四星球、悲願の初出演「HEY!HEY!NEO!」舞台裏を完全レポート
“日本一泣けるコミックバンド”四星球が、バンドの悲願である「HEY!HEY!NEO!」の初出演を果たした。
「HEY!HEY!HEY!に出たかった」という楽曲を持つバンドが、『HEY!HEY!HEY!に出た』瞬間――番組収録の感動の舞台裏を完全レポート。
『HEY!HEY!HEY!に出たかった』が『HEY!HEY!HEY!に出た』になった日
初めて逢った10年くらい前、ダウンタウンが大好きな、『HEY!HEY!HEY!』が大好きな康雄にそう言われたのを未だに覚えている。しかし、その夢は2012年12月番組終了した事で、あっけなく散ってしまった。翌年8月リリースのアルバム「COMICBAND〜アホの最先端〜」に収録された「HEY!HEY!HEY!に出たかった」には、「出たかったんだ 夢だったんだ」、「夢は叶わなかったな」といった言葉と共に、その無念さが、これでもとかというくらいに込められた。特に「人生諦められたのに 夢は諦められないの」という歌詞は、あまりにも酷だった…。「ミラクルエースの格好で出たかったんだよ HEY!HEY!HEY!」という歌詞にも切なさしかなかった。
2015年9月、若手新人が出演するスピンオフ番組『HEY!HEY!NEO!』が放送される。その後、2016年6月に第2回も放送されたが、一気に四星球まわりは騒がしくなった。2016年10月にはビクターからメジャーデビューも決まり、『HEY!HEY!NEO!』への出演は夢ではないと全員が想い始めていた。実際、この2年半くらいメンバーと逢う度に、そんな話ばかりしていたのも事実。そして、もちろん、出演できたら、何をどう歌うか、どうダウンタウンと話すか、ほぼ妄想に近いシミュレーションもしまくっていた。
今年2月末、康雄、U太それぞれから出演決定の連絡が入った。ただただ、もう「やったー!」としか言いようがない訳だが、そこでU太から収録当日の同行レポートを頼まれる。何も断る理由は無く、見届ける為、すぐさま承諾。来たるべき日も3月9日に決定する。歌う曲は、「HEY!HEY!HEY!に出たかった」。完璧である。
3月9日朝イチの新幹線に乗り、9時に集合場所JR品川駅へ。康雄、U太、まさやん、モリスのメンバー4人、バンド回りスタッフ2人、そして私。いつもとそんなに変わらず、バンドワゴンに乗り込み、湾岸スタジオへ向かう。バンドワゴンあるあるだが、車内の会話は当たり前の様に無い。そんな中、U太がビクタースタッフからの電話を取り、「今、レインボーブリッジを渡っています」と話し出す。「今、手前の橋を渡っています」でも良いのにな、でもレインボーブリッジと言われた方がフジテレビ感が凄いかなどと、どうでもいい事を考える。後で他の5人にも確認したら同じ事を考えていたらしい。そんなこんなで緊張しすぎないように全員が気を紛らわしている内に、バンドワゴンは無事に湾岸スタジオへ到着。フジテレビスタッフとビクタースタッフのお出迎えを受け、駐車場で荷物を降ろして、運んで行く。楽器機材<段ボール小道具…鋼鉄の段ボーラ―こと、まさやんお手製の段ボール小道具が大量に湾岸スタジオへ普通の顔をして入っていくのは感慨深い。
明らかに段ボール小道具が大量という事で、四星球の楽屋はエキストラの皆様が使うかのような大部屋が用意されていた。ケータリングの豊富さに喜んだり、共演者で顔なじみの岡崎体育チームと談笑したりと、まるで大阪の泉大津(四星球、岡崎体育が愛する夏フェス「OTODAMA〜音泉魂〜」開催地)の様なバックヤード感覚。想像していたアウェー感がゼロで、圧倒的なホーム感しか無い。
そうそう、駐車場の時点で気付いていたのだが、メンバーとフジテレビスタッフの距離が異様に近い。聴くと、この1年、三浦淳プロデューサー始め、フジテレビスタッフは四星球のワンマン、フェス、イベントなどライブに通いつめて、親交を深めてきたという。ならば、もう安心。ここで私の緊張感は勝手に無くなり、愛あるフジテレビスタッフ皆様に委ねたら何とかなるでしょうと勝手に思えた。実際、楽屋での打ち合わせも何の問題も無く、笑い声が絶えない中で終わる。普段のライブでも見かける事が多い、段ボールで作られた御祝い花の組み立ても始まった。ステージ上に飾れるのはスペースの都合で6組だけとなったが、先輩同世代問わずライブハウスで共にやってきたバンドの面々、そして、お世話になってきた四国や関西のイベンターなどの名前が書かれた段ボール御祝い花がたくさん並ぶ。一緒にやってきた全ての人たちを『HEY!HEY!HEY!』に連れて来たかったという彼らの熱い思いがたまらない。誠に四星球らしい一場面であった。
12時過ぎ、完成した段ボール御祝い花も持ち、いよいよスタジオリハーサルを。楽器機材セッティング差し置いて、番組スタッフの「花の位置、決めまーす!」という声が響き渡る。スタジオ内に組まれたライブ時のステージ、ステージ裏の出演者たまり、どこに段ボール御祝い花を置くか、番組スタッフも加わって大の大人が大人数で必死に決めていく。トークリハでも段ボール歌詞カードを持ち、ダウンタウンとの距離感、トークの進め方を演出、プロデューサー、ディレクター総出で真剣に丁寧にメンバーと考える。いわゆる、フリートークのシミュレーション。他の演者よりも、そこに割かれる時間がダントツに長い。「これ音楽番組ですよね?」と思わず聴きたくなるような時間。で、肝心のライブリハは1回通しただけで、一瞬で終わった。が、『HEY!HEY!HEY!』のステージで四星球が歌ってるという事に感極まって、単なるリハなのに、どうしようもなく涙が溢れ出てくる。アカンアカンと涙を必死に拭いながら、ふと横の三浦淳プロデューサーとビクタースタッフ女史を観ると、同じく大粒の涙を流していた。いやー、本当に四星球は関西四国の西だけでなく、東京でも素敵なアホばっか(褒め言葉)に囲まれてるなと改めて安心する。特殊な愛に包まれたリハは全て終わり、後は本番を待つのみ。
13時楽屋に戻ると、康雄は「もう1回、ミラクルエースを観返します」といってスマホとにらめっこする。今更だが、ミラクルエースは90年代の少年たちが夢中になった『ダウンタウンのごっつええ感じ』のコントキャラクターであり、時代背景的にいくと当時『HEY!HEY!HEY!』に出演してダウンタウンとのトークが盛り上がり、浜田からツッコまれた若手新人は翌日からスター…、そんな時代だった。そんなものを目の当たりにしていたら、そりゃ夢は諦められないだろう。そして、ミラクルエースへの異様なこだわり…。康雄の座る椅子の横には紙で作ったお面、下着とももひきを改造した独特の衣装、マントにする風呂敷を完全再現したミラクルエース一式が置かれていた。これは本気で有言実行する気である…。
メンバー全員のメイクも終わり、後は15時半にスタジオへ移動するだけ。自然に全員の口数が減っていく。落ち着かない康雄は何度も深呼吸して、喉用の漢方薬を飲む。飲んだ瞬間、「普段むちゃくちゃ苦いのに、今日は味せえへん」と苦笑いしている。緊張はピークに達しているようで、「スタジオに行ってから、(トークを)組み立てたらいいですよね?」と聴いてくる。誰がどう観ても、ダウンタウンへの、『HEY!HEY!HEY!』への愛はずば抜けているだけに、「考え過ぎず、ただ好きだという気持ちを素直に伝えたらいいよ」と既に何度も言ってきた言葉を返す。
16時、遂にスタジオへ移動する。移動中、突然、康雄が「倉本さんいましたね!僕、声だけでわかるんですよ!!」と喜びだす。ダウンタウンを大阪時代から支えてきた構成作家である倉本美津留。『HEY!HEY!HEY!』の立ち上げ時からの構成作家でもある。ダウンタウン大好きな康雄ならではの発言だが、さっきまであれだけ緊張していたのにと呆れながらも、これくらいの楽しむ余裕があれば心配ないなと胸を撫で下ろす。
16時15分、収録スタート。ダウンタウンが話すステージの後ろに作られた、たまりエリア。一番最初にカメラで抜かれた時、しっかりと四星球は顔を作ってリアクションをしていた。別室モニターで見学する四星球関係者スタッフ一同喜ぶ。やはり収録が始まると腹を括ったのか、あの異様な緊張感からは解き放たれているようだ。1ブロック目の収録が終わり、休憩でスタジオを出る。康雄はリラックスして岡崎体育と喋っており、もはや変な緊張感は無い。2ブロック目として収録再開されたさだまさしの出番。ダウンタウンが憧れの年上のミュージシャンにグイグイ迫りながら盛り上げていくトークは、往年の『HEY!HEY!HEY!』を彷彿させるものであり、そのグルーヴ感に圧倒される。さだまさしの歌の録りも終わり、休憩でスタジオから出てきた康雄は、すぐ寄ってきて想像通り「『HEY!HEY!HEY!』っていう感じでしたよね!凄かったなぁ…、いやぁ凄かったなぁ…」と興奮しながら繰り返す。再び緊張感に襲われると厄介だなと不安視したが、逆に吹っ切れた様で気合いが完全に入れ直されていた。
18時過ぎ、3ブロック目が始まり、19時前、満を持して四星球の出番。今回、特別に作られた「エンディングテーマのコーナー」。90年代、「誰やねんのコーナー」からシャ乱Q、ウルフルズらが世に出て行った姿をリアルタイムで観ているだけに、四星球の為にコーナーが作られているなんて…と胸が熱くなる。演出、プロデューサー、ディレクターとの打ち合わせ通り、ダウンタウンとの距離を自然に詰めていき、全く台本の無い状態のフリートークをしていく。物怖じしていないし、ちゃんと愛と敬意を持った上で絡めている。とてつもなく康雄がのっている事が伝わってきた。ここからはテレビをご覧の通りだが、まさかまさかの歌い出しでのマイクのトラブルで歌い直しと、これでもかというくらいに盛り上がる。全ての運が味方していた。トークで、気が付くと寡黙ながらもモリスがダウンタウンとの距離感をしれっと縮めていたのも、彼らしくて最高だった。
ライブはと言えば、いつも通り康雄は客席に飛び込むし、観ている人を驚かそうとする四星球らしいライブであったが、個人的ハイライトは、間奏で康雄が仕込んでいたミラクルエース衣装に着替えていた時、気付いた浜田が松本に教えていたシーン。四星球のネタに、あのダウンタウンが反応している…。観ているこっちの感情がぐっちゃぐっちゃになってしまう。この時点で、もう安定と言うべきかぐらいに泣きながら観ていた。最後は康雄が松本にミラクルエースのお面を渡して、松本の「要るかー」で〆。リハと同じく、三浦淳プロデューサーとビクター女史も大粒の涙を流していたので、泣いていたのは自分だけじゃなくて良かったと一安心する。
収録を終えて、スタジオを出てきた康雄は「ばぁ〜っと気持ちが溢れました!(ダウンタウンに)むっちゃ引っ張ってもらえたので、ただただ好きをぶつけられました。それで良かったんですね!でも、もう何も覚えてないです!」と興奮しきって喋りかけてくる。U太、まさやん、モリスも完全にやりきった良い表情をしている。そこに倉本が、「素晴らしかったわ!マイク壊れるのも、よう出来てたし!こっからが始まりやな!!」とわざわざ激励を述べに来てくれた。ダウンタウン大好きな康雄にとっては、「ひとりごっつ」の大喜利のお題を出す大仏の声をしていた人なわけで、感激もひとしお。その後、ダウンタウン浜田が帰るのをお見送りして、楽屋まわりで記念撮影をしまくり、祝勝会という名の打ち上げへと出掛けた。
一番印象深かったのは、収録後、楽屋で康雄とU太がずっと「今が2018年じゃなくて、1998年なら完全に売れていましたね!」と冗談交じりに繰り返していた事。確かに90年代、『HEY!HEY!HEY!』で盛り上がった若手新人は放送翌日CD棚からスッカラカンになるなんていう都市伝説もあった。今は、また音楽の聴かれ方も変わっている為、同じような現象が起きるかはわからない。でも、今回の放送をきっかけに音楽にあまり詳しくない方々が四星球を知ってくれたら、それこそテレビドリーム…、夢がある。また、過去2回の『HEY!HEY!NEO!』と違って、今回の放送時間帯が本家『HEY!HEY!HEY!』と同じMONDAY NIGHT(『HEY!HEY!HEY!に出たかった』歌詞参照)なのも夢がある。
最後に余談をひとつ。打ち上げで康雄本人から聴いたのだが、ミラクルエースの衣装は康雄のお母さんが何度も何度も映像を確認しながら縫ってくれたものだったという。昔からダウンタウンがテレビに出ている度に、「あんたが好きな人が出てるよ!」と教えてくれていたお母さん。そう想うと、『HEY!HEY!HEY!に出たかった』はメンバーだけでなく家族の長年の夢でもあったわけだ。そして、これからは『HEY!HEY!HEY!に出続けている』という新しい夢を願うばかりである。それにしても、本当に長い長い1日であった。
テキスト:鈴木淳史