「オーガスタキャンプ2019」開催、20周年を超えて“個”をテーマに原点回帰のステージ
音楽事務所オフィスオーガスタが主催する恒例イベント「オーガスタキャンプ」が今年も行われた。
昨年はイベント自体が開催20周年という節目を迎え祝祭感に満ちていたが、今年のテーマは“個”。ハウスバンドとの演奏をベースに、出演者それぞれが自身のステージをプロデュースするというスタイルを採っている。
近年はミュージシャン同士のセッションや、メンバー総出のスペシャルユニット・福耳をフィーチャーする内容が続いたが、今回は改めて原点に回帰。個性派ぞろいのメンバーたちの持ち味に素直にスポットライトを当てようという趣向である。
ただ、そうは言ってもそこはオーガスタキャンプ。ここでしか見られないコラボレーションや演出は随所に盛り込まれ、今年はさらにさかいゆうのデビュー10周年というアニバーサリーもあって、これまでと違うどんなオーガスタキャンプになるか期待が高まった。
「Augusta Camp 2019 supported by Gulliver」は9月15日、山梨県富士吉田市にある富士急ハイランドコニファーフォレストで12,000人の観客を集めて行われた。同会場での開催は今年で4年目。
例年同様ステージ周辺にはアーティスト本人がプロデュースしたフードが並ぶ「オーガスタ食堂」、コラボメニューが楽しめる「喫茶福耳」「Hata Cafe」が店を広げ、開演前から多くの人を楽しませている。
さらに今年はキッズサービス強化宣言がなされ、数々のワークショップやふわふわ遊具を設置。当日は朝から青空がのぞく絶好のフェス日和となり、会場中で笑顔があふれた。
コンサートはオーガスタの新レーベルnewborder recordings より10月30日にデビューアルバム「Rocket Science」を発表する19歳のシンガーソングライター・DedachiKenta(デダチケンタ)のオープニングアクトからはじまった。
そしてスペースオペラ風SEとともに本日のオールキャストがビジョンで紹介され、そのままの流れで全員が登場。
1曲目に演奏されたのはさかいゆうプロデュースで2012年にリリースされた福耳の「LOVE & LIVE LETTER」――まずはさかいの10周年を提示する形で今年のオーキャンの幕は開く。
そこからは今回のテーマである“個”にフォーカスしたパフォーマンスが展開されていった。トップバッターは杏子。4人のダンサーに山崎まさよし、スキマスイッチ・大橋卓弥まで招き入れ、ド派手に「幕末Wasshoi」を打ち上げる。色とりどりの浴衣で揃えたビジュアルの華やかさはもちろん、山崎と大橋をダンサーとして起用する大胆さは“オーガスタの長女”にしかできない芸当だろう。
続く松室政哉は洒脱なシティポップを鳴らし、ピアノの弾き語りでボーカリストとしての成長を見せつける。元ちとせは野外にぴったりの「いつか風になる日」と、REMIX配信も話題の奄美シマ唄集「元唄(はじめうた)」から「豊年節」を自ら三線を弾きながらパフォーマンス。
昨年のオーガスタキャンプのステージでメジャーデビューを発表した浜端ヨウヘイは、メジャーデビュー以降、プロデューサー・寺岡呼人とのタッグで制作したシングル「カーテンコール」「もうすぐ夏が終わる」で新たなスタイルをアピール――と、ここまで聴いてきて、“個”がテーマになったことで各自がいま自分のやりたいこと・見せたいことを出し切り、結果鮮烈なステージングが続いていることに気付かされる。
12月に4年ぶりとなるオリジナルアルバムの発売が発表された秦 基博は「キミ、メグル、ボク」、福耳に提供した「Swing Swing Sing」のセルフカバーとアッパー曲を連打。熱く畳みかけてくる演奏に客席は手拍子で応戦する。
「鱗(うろこ)」を情熱的に聴かせた後、再びのアッパーチューン「スミレ」ではビジョンに謎のピンクのうさぎが登場。おなじみのスミレダンスをレクチャーする。曲が終わり、着ぐるみの中から出て来たのはなんと秦本人だった!という意表を突いた演出でオーディエンスを楽しませた。
村上紗由里はベースとドラムスの2人だけを従えた3ピースで最新配信シングル「朝焼け」を演奏。可憐でまっすぐなボーカルとピアノを響かせた。そして1部のトリを飾ったのは竹原ピストル。今月4日に発売になったばかりの最新アルバム「It’s My Life」から「おーい!おーい!!」を歌い、人気曲「よー、そこの若いの」では剃り上げたばかりの丸坊主の下の顔がみるみる紅潮するほどの熱唱を見せる。と、ここで「メインボーカルをタッチしたいと思います」とMC。
竹原のバックではあらきゆうこがドラムを叩いていたが(杏子・秦・岡本のステージでもあらきがドラムを担当)、彼女がMI-GU名義で発表した「Train run」をイノセントに歌い、竹原がバッキングギターとコーラスに回ることでガラリと空気を入れ替える。再びマイクの前に立った竹原は弾き語りで「Amazing Grace」。ハープの響きと殺気すら感じさせる歌の迫力で会場全体を沈黙の中に叩き込んだ(その後に大きな拍手)。
1部と2部の合間に置かれたのは、今年の主役であるさかいの「10th Anniversary Special Stage」だった。「さかいゆう10周年です。ありがとうございます!」と挨拶し、まずは「薔薇とローズ」をソウルフルに歌い上げる。
さかいの音楽性の高さは誰もが認めるところだが、それを引き立てるべく今回のハウスバンドは種子田 健(B)、福田真一朗(G)、吉田佳史(TRICERATOPS:Dr)、浦 清英(Key)、高橋結子(Per)と凄腕ばかり。
「次の曲は大好きな先輩と一緒にお届けします」と大橋を呼び込むと、2人が共作した「ピアノとギターと愛の詩(うた)」では弾けたような笑顔を見せた。最新曲「Journey」は大橋、杏子、Dedachiをコーラスに迎え、エッジの効いたグルーヴで客席をダンスフロアに変えてみせる。ラストは渾身のピアノバラード「君と僕の挽歌」。それはデビュー10周年を経て、さらにその先へ向かおうとする自身の“音楽の旅”に対する誓いのように耳に届いた。
2部に入る頃にはだいぶ陽が陰り、山の空気も少しずつ冷えてくる。長澤知之は4日前に配信されたばかりの問題作「ムー」を披露。リリックを表示し、ホーンを加えた攻撃的な編成で爪痕を残す。ポップマエストロ・岡本定義(COIL)は福耳提供曲をメロウにリアレンジし、大人のほろ苦さをドリップする。
スキマスイッチの1曲目は最新シングル「青春」。ノスタルジックな曲調が走馬灯のように輝くステージによく似合う。フォルクローレ風のワルツ「雫」で心を揺さぶる一方、オーガスタの盛り上げ隊長の座は譲らぬとばかりに、秦を呼び込んだ「Ah Yeah!!」はボーカルバトルでヒートアップ。2人はバズーカでタオル弾を客席に打ち込むなど熱狂の渦を作りあげる。
コール&レスポンスでオーディエンスをあたためた後の「全力少年」ではこの日一番の一体感が出現。そこから一転、最後は暗闇の中、ピンスポットで照らし出された2人きりの演奏で「奏(かなで)」を送り届け、硬軟織り交ぜたスキマの“個”は完成したのだった。
2部のトリを務めたのは今月25日からデビュー25周年記念イヤーに突入する山崎まさよし。QUEENの「We Will Rock You」のリズムに乗って登場すると、ワンフレーズほど歌唱。それをイントロ替わりに「Let’s form a R&R band」に雪崩れ込むという粋な演出で今宵のメニューに入っていく。
山崎は記念イヤーに向け、3年ぶりのオリジナルアルバム「Quarter Note」発売(11月13日)、14年ぶりとなる主演映画『影踏み』公開(11月15日全国ロードショー)と大きなニュースが目白押しだが、なんとここで同作に出演する若手俳優・北村匠海がシークレットゲストとして登場。思いもしなかった展開にザワつく客席に「驚いたか!」と嬉しそうな山崎の声が飛ぶ。
2人は映画主題歌の『影踏み』を披露。激しくぶつかり合うユニゾンは聴き応え十分の貴重な音楽的“共演”と言えた。そしてラスト「Plastic Soul」は浴衣姿で涼やかな杏子、元、村上をコーラスに従え、貫禄たっぷりのラテングルーヴで締めくくったのだった。
実質アンコール的な扱いとなる3部では本日の出演者全員がステージに姿を現した。改めて杏子からの「さかいゆう10周年おめでとう。この曲いっちゃいますね」という言葉をきっかけに鳴らされたのはさかいのデビュー曲である「ストーリー」のイントロ。
このファンキーチューンを全員のマイクリレーで演奏――と思いきや、ここでまたしてもサプライズが。歌の途中で曲が止まり、花束を持ってやって来たのはなんとさかいの格好をした秦。オーガスタの恒例(!?)となったコスプレ&モノマネでの祝福に会場中があたたかい空気に包まれる。
そこからはサイケデリックでハッピーな福耳「Summer of Love」、グランドフィナーレはもちろん「星のかけらを探しに行こうAgain」。何度も何度も繰り返される名残惜しそうなコール&レスポンスも終わり、とうとうフィニッシュ――と同時に、これも恒例となった花火が夜空に打ち上げられ、あたりを鮮やかな色に染め上げる。
「また来年会いましょう!」――最後そう言って今年の主役・さかいは去っていったが、来年はオーガスタキャンプの生みの親であり“オーガスタの長男”でもある山崎の25周年イヤー。かつてなくスペシャルなステージになることはまず間違いない、が、今は今年の充実を今一度噛みしめながら、来年のこの時期をまた待つとしよう。
Text by 清水浩司
Photo by 岩佐篤樹、古賀恒雄