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シド、全国ホールツアーが松戸・森のホールからスタート

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シドの全国ホールツアー<SID TOUR 2019 -承認欲求->が9月13日 千葉 松戸・森のホール21(ID-S限定)公演からスタートした。

このツアーは最新アルバム「承認欲求」を携えて行なうもので、シドがホールツアーを開催するのは<SID TOUR 2017「NOMAD」>以来、約2年ぶりとなる。

その期待感からか、東京近郊の公演チケットは発売後すぐにソールドアウト。そのため、全国12カ所16公演を行なう本ツアーに加え、新たに追加公演として11月21日 東京・国際フォーラム ホールAにて<SID TOUR 2019 -承認欲求- FINAL>を開催することを発表したシド。ここでは、このツアーの幕開けとなった初日公演と同会場でその翌日、9月14日に行われたツアー2日目のレポートをお届けする。

結成15周年のアニバーサリーイヤーを横浜アリーナという大舞台できらびやかに締めくくったシド。だが、俺らはこんなもんじゃ終わらないし、だからこそまだまだ新しいシドの可能性を追い求めていく。そんなバンドの野心と未来を見据えた覚悟を感じたライブだった。

<SID TOUR 2019 -承認欲求->、その2日目のライブを観た。そのステージ上で、シドは予想外のライブを行なっていた。楽しいだけじゃない、暴れるだけじゃない、聴き入るだけでもない。観終わった後にこんなにも考えさせられるツアーは、おそらくシド史上初の試み。ファンならきっと、メンバーから「こんなシドのライブ、アナタは“あり”ですか?」と承認を求められているような気分になるだろう。それほどまでに、シドに対して抱いていたこれまでのライブ感をぶち壊す、とてつもなく挑戦的で衝撃に満ち溢れたライブがそこでは展開されていたのだ。

まず<SID TOUR 2019 -承認欲求->において、もっとも特筆すべき点は演出、セットリストの選曲を含め、ライブ全体が徹底してアルバム「承認欲求」の世界観、テーマを貫いたものになっているというところだ。ライブを観ている間は頭のなかに何度も様々なクエスチョンマークが浮かび上がり、疑問を抱き、答えを探し求め、ライブを鑑賞し終わった後も、その深い余韻におそわれる。このライブをどう観たのか、さらにアルバム「承認欲求」を聴きかえしたとき、あらためて今作をどう自分は捉えたのか。そこに、ライブを鑑賞したことでしか生まれ得ない“メッセージ”が介在していくというのが今回のツアーのあり方であり、これがシドが新しく提示してきた“考えさせるライブ”最大の特徴のように思う。

そして、このようなライブを表現するために、本ツアーはホールならではの見せ方として、紗幕や立体的なセットを使ってライブ冒頭、曲中、さらには次の曲へと転換する瞬間に至るまで、いたるところに“文字”をメインにした映像を映し出すプロジェクションマッピングの演出がほどこされている。なので、いつものように大歓声をうけながら、ゆうや(Dr)、明希(Ba)、Shinji(Gt)に続けて、マオ(Vo)が現れるというにぎやかな登場シーンもなく、ライブはオープニング映像からいきなりオーディエンスを「承認欲求」の世界へと淡々と引き込んでいく。そうして演奏が始まるやいなや、観客たちはステージにいるメンバーと次々と目に飛び込んでくる文字、その2つを同時進行で追いながらライブを鑑賞していくことになるのだ。マオは最初のMCで、その新しいアクトを目を凝らしてじっと見つめるファンに「いつもとはひと味もふた味も違ったシド。最後までよろしくね」と笑顔で声をかけ、張り詰めた緊張感を解いていった。その後も、彼らは次々とアルバム「承認欲求」収録曲をプレイしていき、最終的にはアンコールも含め、このライブを通じてアルバム収録曲すべてを披露した。

「承認欲求」は、いろんな音を重ねるよりも、引き算でよりシンプルなサウンドへと向かうシドが浮き彫りになったアルバムだった。そのサウンド感を反映した「淡い足跡」。こちらは、ライブでは淡々としたバンドアンサンブルに脈打つ3人の熟練した音のスケッチに、マオの心地よい歌声が重なり、17年目のシドだからこそできる奥行きのある伸びやかな音空間を描いてみせた。それとは対照的だったのがエモーショナルなバラード「涙雨」のアクトだ。地を揺らすようなリズムで、バンドサウンドがダイナミックな音像で解き放たれていく瞬間は迫力満点。その上で、マオがエモーショナルな歌で切々と観客の心を鷲掴みにしていくと、会場は息を飲むようにその展開に没頭していった。また、文字の演出が加わったことで、アルバムで聴くのとライブでは楽曲の意味合い、印象が変わった曲もあった。例えば、不思議な旋律が印象的なバラード「手」などは、演奏前に観客に語りかけるような口調で綴られたメッセージを文字で見せることで、この楽曲の温かみがより際立ち、激し目のロックチューン「Trick」は、ゆうやがクラップを求め、その後マオが「カモーン」と叫ぶと歌詞の文字がステージ上で激しく飛び交い、それに合わせて客席にはどんどん拳が広がり、音源以上にスリリングな盛り上がりを作っていった。

さらに、CDでは打ち込みを使っていた「ポジティブの魔法」、「デアイ=キセキ」もライブでは生演奏にアレンジされていて、どちらの曲も、演奏が始まったとたんに場内にピースフルな空気が広がっていったのが印象的だった。また、これらのアルバム曲のなかにフィーチャーしていく過去曲のチョイスも秀逸で、なかでも「妄想日記」は、今回のアルバムの世界観に見事にハマっていて、曲の脅威が倍増して聴こえてきた。こうして、ライブはアルバムの世界観をとことん貫きながらも、もちろん「Dear Tokyo」をはじめとしたおなじみのライブ定番曲で盛り上げていくパートもちゃんとある。そこでは、観客たちはいつものようにコール&レスポンスやシンガロングを繰り広げ、ボルテージをあげながら一丸となってスパークしていく。また、シドならではの気取らないメンバートークも健在だ。この日は、とくにShinjiが絶好調で「承認欲求は僕にもあります」といって、それなのに自分のスマホやiPadは顔をかざしても自分だと承認してくれず開かないことがよくあるのだと伝えると、横からマオが即座に「Shinji、それ承認じゃなくて“認証”だから。顔認証!」と突っ込む。だが、この日のShinjiはそれに「でも、業界人は(言葉を)逆にいったりするでしょ?」と奇跡の切り返しをしてみせ、みんなを大いに笑わせていた。

その後、アンコールの最後まで新しいシドで観客を魅了していった4人。マオは「最高に気持ちいいライブをありがとう」と集まってくれたファンに感謝の気持ちを伝えた後「「涙雨」を歌ってる最中、俺は歌の世界に入ってるんだけど、今日は歌い終わった後、すすり泣く声が聴こえてきて。“俺はまだ人の心を動かせる歌が歌えるんだ”“まだやれるんだ”と思ったとき、俺の承認欲求が満たされました」と心の内を打ち明けた。ファンだからこそ理解できるその想いの深さに、そっと涙を流す観客たち。だが、その涙をさえぎるように「でも、まだまだ俺は満足してません。ヴォーカリストとして、シドとしてもっと上を目指すんで、よかったらこれからもついてきてください」と力強い言葉を残して、この日のステージを終えた。

結成16年を迎え、「承認欲求」というアルバムと本ツアーで新たなスタートをきったシド。この後行なう全国ツアーで、ぜひともこの新しいシドのライブを体感してみて欲しい。このツアーをどう判断するのか、さらにアルバム「承認欲求」が問いかける本質とはいったいなんなのか。ライブを観覧した後その答えを考え、11月21日のツアーファイナルとなる追加公演で、その答え合わせをしてみてほしい。

Text by 東條祥惠
Photo by 今元秀明

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