アンドロイドが人間のオーケストラを指揮して歌う、渋谷慶一郎のアンドロイド・オペラ「Scary Beauty」日本初演が決定
2018年7月22日、「アンドロイド・オペラ『Scary Beauty』」を世界の人工生命研究者が集うALIFE 2018(人工生命国際学会)のパブリックプログラムとして日本科学未来館(東京・お台場)で発表する。
作品は昨年2017年にオーストラリアでプロトタイプ・バージョンが発表されているが、今回が日本初演であると共に完全に新しいバージョンでの世界初演となる。
AI(人工知能)を搭載したアンドロイド オルタ2(Alter2)が30名に及ぶ人間のオーケストラを指揮し、それを伴奏に自ら歌う。演奏に際した音楽全体のテンポや強弱はアンドロイドが自律的に決定し、人間はそれについていくことしかできない。
これは宿命的に加速する「自らが生み出したテクノロジーに従属することでしか生きていけない人間」の縮図を端的にみせるオペラであり、人間とテクノロジーの関係性の過渡的状況のメタファーでもある。
作曲とピアノを渋谷慶一郎が担当、実際の演奏の際に起こるであろう人間の想像を超えた急激なテンポや強弱の変化、それに伴う歌唱表現の極度な振れ幅は全てアンドロイドが自ら決定し、作曲された音楽作品の新たな可能性を引き出す場合もあれば、破壊する可能性もはらみつつ音楽は進む。
世界的なロボット学者である石黒浩氏(大阪大学教授)のアンドロイド「オルタ2」に同じく世界的な人工生命の研究者である池上高志氏(東京大学教授)によるAIの自律的運動プログラムが搭載されたとき、このプロジェクトは始動した。
世界のロボット、ALife(人工生命)を代表する石黒、池上という二人の際立った知性と渋谷の音楽が拮抗することで音楽と我々=人間、アンドロイドの関係は激しく振幅し揺れ動き、更新されるだろう。
歌われるテクストは現代フランスを代表する小説家であるミッシェル・ウエルベックによる奇妙なラブソング、三島由紀夫の自決直前に書かれた遺作、ウィリアム・バロウズのカットアップをディープラーニングでさらに切り刻んだテクスト・リーディングといった極めて危うく鋭い知性、言説の抜粋から成っている。
また、今回の公演に発表される新作として、20世紀を代表する哲学者であるルートヴィッヒ・ヴィトゲンシュタインの遺作である「確実性の問題」の抜粋をWord2Vec(文章内における各単語の意味をベクトル表現化するプログラム)を用いて解析、各単語を3次元ベクトルに変換し、得られたベクトルの各成分を音高、音価、音の強弱に対応させることで、テクストから音楽への自動作曲を用いた作品も発表される。
そして、これらの言わば「人類最後の7つの歌」をアンドロイドが歌うことで恐怖と感動が入り混じった「新たな感情」が生成されるだろう。ここでは単一の物語を時間軸に沿って展開していくという構成をとっていない。
そして、近い未来にはリズムやテンポだけではなく、演奏箇所の選択やカットアップもアンドロイド自身がリアルタイムで行い、別々の音楽と物語が偶発的に断片化されては接合されていく、新しいアレンジ/リミックスによるオペラが可能になるだろう。
本公演はその来るべき未来に対するアンドロイドとオーケストラによる壮大なリハーサルを暗転の中で目撃する最初の機会になる。
プロジェクトネームは「Scary Beauty(=奇妙な、不気味な美しさ)」と名付けられた。
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