平井堅のコンセプトライブ「Ken’s Bar」、“開店”20周年記念のNY公演をWOWOWで10/21独占放送
平井堅のコンセプトライブ「Ken’s Bar」が“開店”20周年記念を祝し、思い出の地・ニューヨークで開催したプレミアムライブをWOWOWで10月21日に独占放送する。
「歌バカ」を自認し、歌を届けることに心血を注ぎ続ける求道者、平井堅。お酒を嗜みながら大人が楽しめるライブをコンセプトに、1998年から行われてきた「Ken’s Bar」が20周年を迎えた。毎回チケット争奪必死の超人気ライブのスペシャルバージョンを、思い出の地であるアメリカ・ニューヨークで開催。シンガー・平井堅の魅力を濃密に堪能できるプレミアムな夜となった。
ドレスアップした紳士淑女がグラスを傾けながら、主役の登場を今か今かと待ちわびている。期待感で膨らむ空間にピアノの調べが柔らかく流れるのもまた、アコースティック編成でライブを行う「Ken’s Bar」らしい。
ステージに平井堅が姿を見せると、場内からは大きな拍手と歓声が沸き起こりソニーホールの熱がぐっと高まった。「Ken’s Barへようこそ」と挨拶してから、弾むようなピアノに導かれて歌い始めたのは米国を代表するシンガー、フランク・シナトラの名曲「Theme from New York, New York」。日本人で初めてエンタテインメントの殿堂・アポロシアターでのアマチュアナイトにゲスト出演し、レコーディングでも訪れているニューヨークは、平井にとって特別な場所だ。その大切な街への愛と敬意を、まずはこの歌で表したかったのだろう。
「こんばんは。こんなにたくさん来てくださってありがとうございます」と、謝意を伝えた平井。「今回のライブは、自分にとってご褒美だと思っています。今夜も命がけで歌います」と、溢れる胸の内を語った。
ギターの優しい音色とともに「魔法って言っていいかな?」を歌ったかと思えば、世界的に大ヒットしたジョージ・マイケル「FAITH」をファルセットを用いてセクシーに歌い上げた平井。パーカッシブなアコースティックギターのリズムに体を揺らしながら、「LADYNAPPER」を艶っぽく歌うなど、曲ごとに繰り広げられる大人な愛の世界に、オーディエンスは瞬く間に引き込まれてしまった。
と、ここでファン待望のリクエストコーナーへ。平井が投げたボールをキャッチした観客が指名した平井のオリジナル曲を即興で歌うという趣向だ。幸運にもボールを受け止めた観客は「ライブで聴いたことがないから」と、「wonderful world」を所望した。意外な選曲にやや驚いた様子で、ギタリストと即興の打ち合わせを開始。普段はリハーサルでしか見られないような素顔が覗けるのもプレミアムな「Ken’s Bar」ならではだろう。平井自身も「18年ぶりかもしれない」と言って歌い始めたレアな楽曲だったが、セクシーでテンダーな歌声は十分にオーディエンスを魅了していた。
飾らない笑顔で「あぁ、緊張した」と本音を吐露し、会場を和ませた後は、ミリオンヒットとなったバラード「瞳をとじて」を情感たっぷりに歌い上げた。会場のあちこちで、歌に聴き惚れたゲストたちのため息が漏れていた。
2部制になっている「Ken’s Bar」の、1stステージの最後を飾ったのは最新シングル「知らないんでしょ?」。平井は冗談っぽく「気味の悪い曲です」と笑ったが、人の内側に潜む醜さを浮き彫りにする歌詞は確かに聴くほどに恐ろしくなってくるよう。しかも伸びやかな美しい歌声で、人の性を白日のもとに晒せるシンガーは一体どれくらいいるだろうか。
1部が終了し和やかな歓談に包まれる中、ウッドベースの低音が轟いた。と同時に、カラフルなドレスシャツとロングジャケットを羽織った平井が、マリリン・モンローでおなじみの「I Wanna be loved by you」を歌いながら、客席を練り歩き始めたから観客は大興奮。
第2部が華麗にスタートしたのもつかの間。続く「哀歌(エレジー)」では、むせび泣くようなベースの音を道連れに、平井が初めて女性目線で書いた歌の中の主人公が生きる壮絶な愛は鬼気迫るほどで、圧倒されるばかりだった。
だが、「哀歌(エレジー)の余韻をぶっ壊す、リクエストタイム!」と節をつけて口ずさんだことで、会場の空気は再び和やかに。今度は、隣町のニュージャージーから来た観客がボールをキャッチ。平井は、アメリカで頑張る女性の生き方が気になるようで、あれこれと質問を投げかけていた。予定調和ではなく、即興の会話のキャッチーボールが楽しめるのもまた平井堅のライブの魅力だろう。
ここでリクエストされたのは、ライブの定番曲「POP STAR」。ポップでキャッチーなナンバーの要求に、1stステージのレア曲とはまた違う驚きがあったようだ。アレンジに悩みながらも、歌い始めてしまえばもうこっちのもの。そう言わんばかりに、平井はスツールから立ち上がってリズムを取り、観客全員が手拍子で参加。会場がひとつになった。
細やかに刻まれるギターのリズムとシンクロするように、英詞で畳み掛けるように歌う「One Love Wonderful World」は平井自らが作詞、作曲を手がけたものだ。性急な言葉を唇で転がしてあそばせるような歌い方はとてもスキルフルで、“歌バカ”の面目躍如といったところだろう。
大人っぽい恋や重厚な人生を、つかの間の歌で疑似体験できるのも「Ken’s Bar」の醍醐味。低く唸るベースが危険な恋のゲームを予感させる「ソレデモシタイ」。スウィングするおしゃれなサウンドと煌めくミラーボールの中で歌った「世界で一番君が好き?」は、毒とユーモアを織り交ぜた清濁混合の世界観を軽やかに表現。
光に溢れたソウルフルなナンバー「KISS OF LIFE」を歌い始めると、客席から立ち上がったオーディエンスが手拍子を取り、さらにはホールのスタッフが手を取り合ってダンスを始める…というミラクルな連鎖が。エンタテインメントの発信地、ニューヨークの魔法を目の当たりにした瞬間だった。
本編最後は「ノンフィクション」。アコースティックギターのシンプルで力強いストロークと呼吸を合わせるように、まっすぐに心を込め祈るような歌を会場いっぱいに響かせた。大きな拍手とともに、平井堅はステージを後にしたのだった。
観客はすぐさま、アンコールをねだる手拍子を打ち始めた。白いシャツでさわやかに再登壇した平井は、清らかなピアノの調べに乗せて「Ken’s Bar」のテーマ曲とも言える「even if」を語りかけるように歌った。
「23年歌ってきて本当に良かったと心から思います。愛ある人生を」とメッセージを送りながらも、「次は失恋の歌なんですけどね」と笑いを誘う。格好つけきれない、照れ屋な感じもまた、平井が愛される理由かもしれない。失ったものを淡々と数えるようにポツリポツリと歌う「half of me」。人を好きになったことがある大人なら、誰もが胸の奥が甘美な痛みで疼いたことだろう。
温かな拍手と歓声に包まれて、深々と頭を垂れた平井。最後の最後に、マイクを通さず「今日はありがとうございました」と感謝を直に伝えた。そんな実直な男の歌だからこそ、聴き手を惹きつけ涙させ、そして癒せるのだろう。
終演直後の楽屋では、この日の思いを語る映像も収録された。その表情は無事に終えた安堵感と終わってしまった寂しさが混在しつつも、充実感にあふれていた。