浅井健一 SHERBETSのツアーファイナル大盛況、来年2月に浅井健一&THE INTERCHANGE KILLSでの新曲リリース&3月から全国ツアーも
11月14日、東京・渋谷TSUTAYA O-EASTにて、SHERBETSの結成20周年を記念した全国ツアー「8色目の虹」が熱気の中、幕を下ろした。それは4人の世界がすみずみにまで表現された時間であり、また、バンドの歴史と世界観の深みが感じらせる、濃密なライヴだった。
SEであるジュディ・ガーランドの「虹の彼方に」が流れると、メンバーが登場。「トカゲの赤ちゃん」「カミソリソング」という初期の楽曲を冒頭に並べるスタートだ。とくに後者は過去にはセットリストの後半に置かれることが多かっただけに、ベンジーこと浅井健一の「ハロー、東京ロッカーズ! レッツ・パーティー!」の煽りとともにいきなりフロアが加熱していくさまは新鮮である。
さらにシックな「Crashed Sedan Drive」では仲田憲市がベースを弾く両手を弦から離し、体の前でくるくる回すポーズを2回とるなど、早々にSHERBETSワールドが全開となる。
ベンジーは「OK、今日は朝まで騒ごうぜ!」とオーディエンスに告げるも、そのあとに「(ほんとにやったら)明日はブッ倒れてるだろうな」と笑顔。いい雰囲気だ。
ライヴの序盤は、ベンジーのナイーヴな歌と転がるようなビート感でバンドの独創性を示した「グレープジュース」など、初期のナンバーが中心。そこに、やはり彼の繊細な声とキーボードの福士久美子のハイトーン・ヴォイスのブレンドが印象的な「Michelle」など、近年の楽曲が徐々に混ざっていく。
セット半ばの「フクロウ」は、静寂の中に仲田のベースのシンプルな音が響いていく曲で、そのフクロウの瞳をあしらったアルバム「Natural」のジャケットが連想される。2005年のリリースだが、実はそれまでの3年にわたる活動休止前に仕上げられていたアルバムで、このバンド独特の活動ペースが知らしめられた時期でもあった。時間軸が20年もあると、バンドにはいろいろなことが起こるものだ。
このツアーは数曲ごとに各メンバーがベンジーに紹介され、そのままMCをする構成となっており、最初のブロックでは仲田、続いてはドラムスの外村公敏が、それぞれ20年間応援してくれているファンに感謝の意を表明。
10月24日に発売されたベストアルバム「8色目の虹」の3枚組の初回限定盤のDVDにはバンドの歩みを振り返るドキュメンタリー映像が収録されているが、その映像を観たベンジーが取材の席で「外村くん、昔はやせてたよね」と回想したことがあった。そんな線の細いイメージのあった外村も、10年ほど前からは腕っぷしがたくましくなり、ドラミングの力量が向上。その成果は現在も生きており、この夜も強さや複雑さを持つビートの曲ではとくに映えていた。
中盤には、前身であるSHERBETの名曲「水」で、このバンドの最も重要な部分である純粋性が鮮やかに唄われる。曲の後半、鍵盤とスキャットでその場の空気を自らの色に染めた福士久美子は、続く「GREEN」ではリードヴォーカルを担当。そのまま番が回ってきたMCでは「笑ったり、ケンカしたり、泣いたり、いたずらしたりして、ここまで来れました。大好きだなと思える音楽が作れてハッピーです」とコメントした。彼女もまたSHERBETSにはなくてはならない個性である。
後半はアップテンポの曲の割合がグッと増え、フロアにはいよいよ熱気が充満。これも初期からの「HIGH SCHOOL」「ジョーンジェットの犬」の連射を終えると、最後のMCはベンジーの番。そこではこの20年について「ほんとにありがとう」とお礼を告げる姿が心に残った。本編ラストは「8色目の虹」の通常盤に収録された新曲「Yesterday」。歌詞の<OK! Big Heart>を大きな声で叫んだベンジーだった。
アンコールに応えて再登場したベンジーが「みんな、踊ろうか」と言ったあとにその場に轟いたのは、なんと四つ打ちのビート。それは「8色目の虹」の3枚組のほうに収録の新曲「愛が起きてる」で、その波動によってフロアが一斉に揺れはじめる。演奏中には外村、そして福士も定位置を離れて楽しくダンスを踊り、会場はかつてのSHERBETSにはなかった類の開放感でいっぱいに。20周年を迎え、一貫した世界観を表現しながらも、新しいアプローチも追求し続けるバンドの姿が現れた、最高の瞬間だった。
ダブルアンコールではベンジーが「SHERBETSの中で一番異色な曲って何だと思う? ……え、『38(Special)』? 『Baby Revolution』だよね(笑)」と言ったあとに、イラストレーターの奈良美智氏がこの曲をモチーフに描いた絵本『ベイビーレボリューション』を刊行することを発表した(来年1月下旬に発売予定とのこと)。
そしてもちろんこの曲がプレイされると、次には少年性が流れる「わらのバッグ」。そして最後には「星空の方があったかい」が演奏され、歌の後半には舞台後方に星が灯る演出がなされた。
全部で26曲を演奏し終えた4人は会心の表情とともに、横並びで一礼。SHERBETSの20周年を祝うツアーは、興奮の中、無事に終演を迎えた。このバンドの次の予定は白紙となっているが、文中で触れたふたつの新曲を録音したベンジーは「アルバムが作りたくなったな」と語っていたので、将来のアクションを楽しみにしながらこのツアーの余韻に浸りたいところだ。
また、その一方で、ベンジーの現在のもうひとつの表現の場である<浅井健一&THE INTERCHANGE KILLS>での活動が決定している。年末にアコースティック編成を含むイベント出演のあと、3月からは全国8ヵ所を廻る「METALLIC MERCEDES TOUR 2019」を敢行。さらに本ツアーの直前の2月には、このバンドの2ndアルバム「Sugar」以来、1年ぶりとなる新曲が配信でリリースされるとのことだ。
精力的な活動を続けるベンジーは、来たる2019年にはどんな姿を見せてくれるのか? 新曲ともども、期待して待とう。
撮影:岩佐篤樹