井上陽水 コンサート2017秋「Good Luck!」開幕、“何かと大変な世の中”に突き刺さる圧巻の「最後のニュース」
今年の春に開催され、好評を博した井上陽水コンサートツアー「Good Luck!」が、秋バージョンとして10月3日に埼玉・大宮ソニックシティ 大ホールにて初日を迎えた。
凄腕ミュージシャンを従え、名曲の数々を歌う圧倒的なパフォーマンスと、聞いている側は思わず笑わずには入られない、独特の言い回しのMCが魅力の井上陽水のコンサート。
ダンサブルなラテンアレンジとなった「この頃、妙だ」から始まったステージ。妖艶なサウンドに身を任せて踊りながら、時に耳元で囁くように、時に心の深淵に響くような甘い声で歌う陽水。ヒット曲「Make-up Shadow」まで5曲を続けて演奏すると冒頭から会場全体が呼吸をすることを忘れるほどの緊張感に包まれる。
オーディエンスは誰もが固唾を飲んだ。その張り詰めた空気を一気に緩ませるのは、「大宮の皆さん、こんにちは」という陽水本人の挨拶。「何かと大変な世の中になっておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。」絶妙な言葉のチョイスと、陽水のあの声によって語られる婉曲な時候の挨拶に会場からは笑いが漏れる。
緩んだ空気の後にはロマンチックなラブソング「移動電話」で会場をしっとりとした空気が包む。一方、安全地帯へ作詞提供した「ワインレッドの心」を歌うと、今度はセクシーなラブソングに、またムードは一変する。
観客もお待ちかねのNHKブラタモリのテーマソング「女神」「瞬き」や、今年、薬師丸ひろ子に書き下ろした「めぐり逢い」のセルフカヴァーなどの最新曲や、1970年代の名曲「帰れない二人」「神無月にかこまれて」。大ヒット曲「リバーサイド ホテル」など、幅広い時代から惜しみなく楽曲を披露した陽水だが、この日の真骨頂は「最後のニュース」。
この楽曲は知己の仲であったジャーナリスト・筑紫哲也の依頼によって、TBS「筑紫哲也NEWS23」のテーマソングとして1989年に書き下ろされた楽曲だが、当時、冷戦は終結に向かいながらも、湾岸戦争の開戦直前。その当時の地域紛争、エネルギー問題、地球温暖化、食糧問題などについて、循環ループの中で淡々と歌われるこの曲は、当時の社会情勢と相まって、強烈なインパクトとメッセージを残した。
ミュージシャン陣の鬼気迫る演奏の上に、歌でもあり、朗読でもあるような井上陽水の紡ぎだす言葉が載ると、深く胸を抉られるほどにメッセージが突き刺さる。
この楽曲について何の説明もなく圧巻のパフォーマンスを見せた陽水だが、コンサート冒頭で語った「何かと大変な世の中になっておりますが」の何気ない挨拶の伏線をこの楽曲で回収していたのではないか、という気にさせられる。
飄々と「私のトークはたいしたことは言わないので、気楽に聞いてください。」と語る陽水だが、その”たいしたこと”はメッセージとして音楽の中に詰め込んでいるから、語るまでもない、と言わんばかりの「最後のニュース」だった。
会場はシリアスな空気に包まれるが、ここからまた一転、サルサアレンジで情熱的になった「氷の世界」から、「結詞」とヒット曲が続き、アンコールではオーディエンス総立ちの中「アジアの純真」「夢の中へ」で、エンターテイナーとして観客の期待に応える。
最後は玉置浩二との共作曲「夏の終りのハーモニー」で締めくくり、鳴り止まない万雷の拍手の中、コンサートツアー初日は幕を閉じた。
また、本日10月4日に井上陽水の長いキャリアの中でのライブ、テレビ出演時のパフォーマンス映像から名曲の数々のベストテイクを収録した映像ベスト盤「GOLDEN BEST VIEW 〜SUPER LIVE SELECTION 〜」がブルーレイ、DVDでリリース。こちらの作品の収録曲の一部をダイジェストで紹介した告知動画も、YouTubeにアップされている。
セットリスト
1 この頃、妙だ
2 Pi Po Pa
3 フィクション
4 青空、ひとりきり
5 Make-up Shadow
6 移動電話
7 カナリア
8 限りない欲望
9 ワインレッドの心
10 女神
11 瞬き
12 帰れない二人
13 神無月にかこまれて
14 Just Fit
15 リバーサイド ホテル
16 夜のバス
17 めぐり逢い
18 最後のニュース
19 氷の世界
20 結詞
アンコール
21 アジアの純真
22 夢の中へ
23 夏の終りのハーモニー