たとえばボクが踊ったら、#003
『たとえばボクが踊ったら、#003』2019.9.15(SUN) 服部緑地野外音楽堂
『たとえばボクが踊ったら、 #003』
9月15日、大阪府豊中市にある服部緑地野外音楽堂にて『たとえばボクが踊ったら、#003』が開催された。2016、2018年に続き3回目となる同フェスは、初回は豪雨に、2回目は直前の台風に悩まされたが、今回は快晴に恵まれ9月半ばと思えない真夏のような天候に! 豪華全7アーティストを迎え、気温以上にアツい盛り上がりを見せた一日をレポートする。
『たとえばボクが踊ったら、 #003』
開場と同時に続々と人が流れ込み、香ばしい香りをさせる地元・大阪市の人気店「Kushiage010」が1日限定で出店する「Sumiyaki010」のブースには早くも行列ができて開演前から各々がフェスを満喫し始める。
加藤真樹子(FM802 DJ)
それもそのはず、今回のMCでFM802のDJ 加藤真樹子が客席に『たとえばボクが踊ったら、』に来た回数を問いかけると、連続参戦の人の多いこと。皆、このフェスの過ごし方を既に心得ているようだ。そんな朗らかな雰囲気のなか、いよいよ開始の時間に!
mabanua
トップバッターを務めるのはプロデューサー、トラックメイカー、ドラマー、シンガーと、オールラウンドで活躍するmabanua。まずは期待に満ちた観客を「Blurred 」などのキラキラとしてさわやかなサウンド&ボーカルで心地いい世界へいっきに引き込むと、「アジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)のGotch(後藤正文)さんが歌詞を書いてくれた曲を……」と「Heartbreak at Dawn」を披露。やさしいメロディとウィスパーは子どもの泣き声など会場のさまざまな音を一つにして極上の音楽に仕立てあげる。だが続くディスコベースの「Tangled Up」などではグッとダンサブルに!
mabanua
ステージ前の人はもちろん、舞台そでの関係者までも存分に躍らせて開放感もたっぷりだ。そしてクラップに楽器を順に重ねて熱を上げる「talkin’ to you」から、気だるいボーカルと曲の浮遊感が暑い晩夏の午後によく似合う「Scent」でフィニッシュ。80年代のシティポップ、AOR、フュージョン、ファンクetc.……ジャンルレスかつスタイリッシュで、なおかつ抵抗なく体に浸透する全6曲は、このフェスを象徴するようなリラックスした時間を生み出した。
BASI
歓声に包まれ登場すると軽やかでトロピカルな「あなたには」などから早々にシンガロングを起こして人々を波にのせる。ファンは舞台の先端に立って一人ひとりに歌いかける彼にロックオン。「It’s all good」では《すべてよし》のコールが脳内でリピートし、ラップのみのパートからの急上昇には緊迫感も伴って会場がヒートアップする。また「キムチ」の感情と日常の情景を描くリリックでも魅せて「BASI色」を濃くするが、今日はここでスペシャルゲスト、弱冠18歳のラッパー・空音を迎えて2人で「月ひとつ」と「planet tree」を!
BASI
掛け合いだけでなく、 空音を主役にすえDJの所に腰掛けて空音の音楽を愛でるようなBASIの様子もこの瞬間だけの景色。オーディエンスも沸いて、空音を送り出すと「すごい。みんなグッドヴァイブスですよ。それをどんどん回していってほしいんですよ。それはまさにメリーゴーラウンド!」(BASI)と、「Merry Go Round」から終盤の追い込みへ。甘美な低音のフロウは「果てない」でも響いて会場にはリップシンクの人多数。夢中といった眼差しで釘付けになり「愛のままに」では再び大シンガロングへ。
BASI
さらに「これだけで十分なのに」では、心を解きほぐす関西弁まじりの言葉に思わず太陽直撃の後方エリアの人までもハンズアップ! 彼と観客がしっかりとつながったことを証明するシーンとなった。
Kan Sano×七尾旅人
2人のステージはKanのソロから。クラップで観客を巻き込みつつ「Baby On The Moon」で自由度高く聴きごたえ大!のプレイを見せつけ、あっと言う間に彼のペース。ポップな「My Girl」ではベースに持ち替えてのひと煽りもあり、「DT pt.2」でもドラムを演奏してマルチプレーヤーっぷりを発揮するから一瞬たりとも目も耳も離せない。またその間にも名曲「What’s Going On」を彼流のカバーで鳴らし、純度高く多角的に音楽の楽しさを伝えてくれる。
Kan Sano×七尾旅人
そして、ここで七尾がインすると、ますますめくるめくひと時へ。最前列の小さな女の子を舞台へ上げて七尾がプロポーズの姿勢で歌うスイートな「サーカスナイト」、エフェクターを駆使してじわじわと加熱し踊らせる「Magic!」、さらにKanのピアノが流麗にもドラマチックにも響く「Sit At The Piano」とあの手この手。しかも途中には七尾が先程の女の子の名で見事なアドリブ! しかし当の女の子はお目当てを「Kan Sanoさん」の回答で、Kanはガッツポーズ、七尾は「ジェラシー(笑)」とこぼす爆笑付きの展開だ。すると七尾は「Rollin’ Rollin’」で荒々しいボーカルで高揚させ、クラウドサーフィンで歌詞よろしく観客の頭上で回り続け会場をどよめかせる。だが、そこからのギャップでラストは2人きりのスローな「C’est la vie」。
Kan Sano×七尾旅人
七尾の熱を帯びた歌声、Kanの寄りそうピアノと味あるボーカルが最後にギュッと胸を締めつけた。ハイセンスでありつつも、人間味と臨場感があふれるライブは圧巻のひと言!
韻シスト
司会の加藤に「(前日のライブで)結成21年目にして初めて打ち上げなしで帰ってきた」と紹介され姿を現すと、2MCはビール片手にご機嫌。そしてそんな気分を「On&On」と「PARTY SIX」に映し出して観客たちもご機嫌に! パーティチューンは心と体を刺激し、コールにシンガロングにクラップにダンス。サッコンもステップ踏み、最前のファンのかき氷を「あ~ん」で食べるひと幕まで! 舞台と客席の距離が0㎝の『たとえばボクが踊ったら、』だからこその親密さだ。またそこから続くのは8月発表のEP「SHINE」からの3曲。
韻シスト
柔らかでせつないラブソング「Just like this」からMC2人が一旦さがりTAKU(G)がボーカルをとる、どこかノスタルジックな「歌もの」の「よあけの歌」まで、彼ららしい多彩さで魅了する。するとMC陣が戻り達者な「客イジリ」もしながらコール&レスポンスで再着火し、「HOT COFFEE」のメロディでグッドムードに……。気持ちのいい風が吹き込んでリリック同様ホッとする時が流れるとともに、大合唱も起こって気分は上々。最終は「Don’t worry」の耳なじみいいサウンドと軽快なラップでダメ押しし、より大きな声を会場から引き出してライブを締めくくった。ちなみに終わったと見せかけておいてからの、おまけのワンコーラスも! 5人のサービス精神には誰もがスマイルになったはず。
RHYMESTER
今年結成30周年の日本ヒップホップ界のリビングレジェンドは夕暮れ、マジックアワーにオンステージ。30周年記念の最新シングル「予定は未定で。」で口火を切ると、そのレゲエの解放感は圧倒的で《アソビだらけでいいんじゃない?》のフックが耳に焼きつく。そして今日にぴったりのサマーアンセム「フラッシュバック、夏。」へとなだれ込み、今度は美しく甘酸っぱいサーフロック的なトラックでリスナーの体を揺らす。
RHYMESTER
もちろんベテランはトークも絶品で、会場の音量レベルを示すライトが赤になったことから「結成30周年。常に警告を受け続けてきまして……醍醐味ですね(笑)」(宇多丸)と笑わせながら観客を勢いづけ「SWING-O(サポートKey)と今までライブで1回しかやってない曲を!」と「Still Changing (SWING-O remix)」へ……。3人の生き様を体現するこの曲には「レッドライト警告中!」のアドリブものせつつ、おしゃれでパワフルでキャッチーでテクニカルと、彼らの魅力が凝縮。ボルテージは上昇を続けるが、瞬く間に残り1曲に……。セレクトするのは未来へと思いを託す「Future Is Born」だ。ワクワクが止まらなくなるパーティチューンのダイナミズムはインパクトも絶大。キャリアと反比例するようなみずみずしさで会場を満たしてくれた。
SOIL&“PIMP”SESSIONS
ものものしいSEでメンバーが舞台に駆け込むと、空気感はそのままに「閃く刃」でリズム隊もホーン隊も切り込んで会場は即沸騰! 「Hollow」で観客をもっと挑発し、不敵な鍵盤、まくし立てるドラム&ベース、競うようにエッジーになるトランペット&サックスが轟く。加えて日が暮れて薄暗くなった会場にはライトが鋭く光り、実に壮観な音像と景色だ。すると次はスタンダードナンバー「Moanin’」でグッとムーディに……。クラップも歓声も起きてオーディエンスは豊かな音世界に身を委ねる。
SOIL&“PIMP”SESSIONS
さらに「しっかり聴けよ!」(社長)と、12月リリースのアルバム『MAN STEALS THE STARS』から新曲もドロップ。官能的なトランペットやなでるようにも叩くようにもプレイされるピアノの音色は、曲の中にどっぷり浸らせて誰もが熱に浮かされたよう。これには社長からも思わず「いや~気持ちいいね!」のコメントが飛び出し、「まだいけるね。好きに声出して!」とキラーチューン「SUMMER GODDESS」を投下! ライブならではの迫力と疾走感にあふれる楽曲に頭の中は真っ白になって、気がつけば会場に夜が訪れていた!といったところだ。そして、「すべては大阪から始まった物語(共演)!」(社長)と、ついにお楽しみのセッションタイムへ!
RHYMESTER × SOIL & “PIMP” SESSIONS
今日のトリ、2組の共演はRHYMESTERが再登場し、SOIL&“PIMP”SESSIONSライブから続けざまに幕開け。「Technologystolemyvinyle」×「Back & Forth」など、ジャズとヒップホップが出合い化学反応を起こすマッシュアップを立て続ける。それぞれが、かわるがわる曲をリードし、宇多丸の祭ばやし的な煽りや「大阪No.1」の咆哮も響き渡らせて繰り広げられる渾身のパフォーマンスは、スリリングかつハイカロリー。これには、「リハの度、(SOIL&“PIMP”SESSIONSは)前回(過去の共演音源)を聴かないんだよ。でもそれがこの人たちなんだよね(笑)」(Mummy-D)、「これがジャムですね(笑)」(社長)、「だからこそのドライブ感!」(宇多丸)という理由があるようだ。
RHYMESTER × SOIL & “PIMP” SESSIONS
そして変幻自在に音を操って「The choice is yours」の「選ぶのはキミだ」のパンチラインを刻みつければ、辛抱たまらん!と、これまで座っていたスタンドや後方エリアの人も立ち上がって全力で謳歌。Mummy-Dが「どうなるかわかんない(笑)」という今日だけのアクトは、その後もラテンのテイスト、DJ JINの超絶プレイ、遊び心あるホーンの絡みに観客の大歓声とクラップが重なって全員で音楽を作り上げる奇跡とも言える光景の連続。
RHYMESTER × SOIL & “PIMP” SESSIONS
そして今年度のフィナーレを飾るのは2組のオリジナル曲「ジャズィ・カンヴァセイション」! SWING-Oも呼ばれ、大所帯で作り出すダンサブルでグルーヴィーなサウンドが人々を大いにスイング&バウンドさせ、大きな興奮が渦巻くなかついに『たとえばボクが踊ったら、#003』は大団円を迎えた。終演後も立ち去り難くなる今日だけの感動のセッションは、来年へ確かなバトンをつないだに違いない。
『たとえばボクが踊ったら、#003』
ちなみに、観客を送り出すゲートの頭上には「来年9月、2会場同時開催か!?」と書かれた垂れ幕が! パワーアップを予感させる文字には当然ざわめきが起った。果たして次回の『たとえばボクが踊ったら、』ではどんな音体験が待っているのか? 乞うご期待!
取材・文=服田昌子 撮影=渡邊一生、ハヤシマコ