ストレイテナー・ホリエアツシ 撮影=高田梓
魅力的な作品だ。近作で顕著なメロディの強度やクリアなサウンドも、かねてからこのバンドの持ち味であった4人のプレイヤーが衝突するカオスな爆発力も、フォークソングのように思い出や生活のシーンを綴る曲も、バンドの精神性をスケール感たっぷりに謳うアンセムも。『Blank Map』を構成する5曲の中には、懐かしさと新しさ、そして我々が愛してやまないこのバンドの多様性と一筋縄ではいかないっぷりが色んな形で詰まっている。聴き進めるうちにそれらはやがて、20周年イヤーを経て最初に世に出る作品に相応しい、この先へのワクワク感に収束していく。ロックバンドとしての矜持とあらゆる可能性、尽きない探究。そう、これがストレイテナーなんだ。
――20周年イヤーとその記念碑的ライブ(1月の幕張イベントホール)を終え、「スパイラル」の配信がありました。そこから今作へ向かうスタート地点はどこだったんでしょうか。
「スパイラル」は、幕張のお客さんのためにその場所で初めて演奏することを描いてきた、それに尽きる曲として完結していて。そこから2月、3月くらいは頭を休めさせてもらって、自然な形で新しい曲を作れるモードになったときに、「吉祥寺」っていう曲ができた――多分、the band apartとツアーを回った5月くらいかな。家でギターを弾いていたらできた曲なんですけど。頭の中を空っぽにして、無理のない形で曲に向き合えるようになったらいいなと、最近はずっとそういう感じで曲を作ってます。
――根を詰めた制作期間を設けるよりも、生活の中からできてくる曲というか。
作りたくなったときに作るし、なんか勝手に降りてくるみたいな曲もあるし。で、いくつか作った中から、当初はシングルでもいいっていう話もあったんですけど、せっかくだから、これはミニアルバムにできそうだなと思って。
――候補曲自体は他にもあったんですか。
そうですね。長期的に見ると、もうちょっと古い曲もあったりする中で、一番新しい4曲を選んだ感じです。最初のスタッフからの提案は、年内に「スパイラル」以外にもう一枚出せたらいいなっていう話だったんですけど、1曲をポツポツと出すより、本当は何曲かまとめて出せた方がいいなと思って、それが自然とできました。
――元々ストレイテナーの考え方としては、独立したシングルをいくつも切っていくよりも、数曲集まってからアルバムとして出していきたい意識の方が強いんですか。
そうですね。同時にいろいろなタイプの曲を作りがちで、今回でいったら「吉祥寺」もあれば「青写真」も「Jam and Milk」もあるっていう、それぞれを作るモードが違うというか。
――それはめちゃめちゃ感じます。
うん(笑)。それをこう、さらに違ったアプローチで曲として仕上げていくのが、従来通りのやり方でもあって。ただ、フルアルバムの場合はそれがあんまり散らかると収拾がつかなくなるので、ある程度一つの方向性を目指して作っていくんですけど、ミニアルバムだとそれがバラバラでもいいかなっていう気楽さ、カジュアルさみたいなものはあります。そういう意味で、新しくできた曲をそのまんま短期間で集中的にアレンジしてレコーディングしてっていうのは、一番良い循環の仕方ですね。そうやって今までもいくつかミニアルバムを作ってきて、そこには未完成感みたいなものもあったりしますけど、それが良い場合もあったりする。なんか……熟成されてない曲たちっていうか(笑)。
ストレイテナー・ホリエアツシ 撮影=高田梓
――タイトルを『Blank Map』とつけたことなども含め、作品にある程度のイメージみたいなものは定めていたんでしょうか。
前もって設定したテーマじゃないんですけど、(曲ごとに)ちょっとずつ関連性はありますね。徐々に作品の形が見えてくるにつれて出てきたというか。このジャケットは吉祥寺なんですけど――
――……ええと?
吉祥寺の地図をペイントしたんですけど、言われないとわからないですよね? これが駅で、下にあるのが井の頭公園で。
――あ、じゃあこれが線路。
そうです、そうです。で、タイトルの『Blank Map』っていうのは、「Jam and Milk」の<地図は白紙だ>っていうところから取っていて、そのタイトルからナカヤマ(シンペイ/Dr)くんがジャケットを考えたときに「吉祥寺の地図をポスターっぽくするのはどうかな」って。そこで「吉祥寺」と「Jam and Milk」がつながったりとか、そういう後から繋げていくことはあったんですけど、元々近い時期に作った曲たちとはいえ、自分の中ではスイッチを切り替えながらでした。
――最初に「吉祥寺」ができたということですが、この曲では完全に過去のご自分を歌っているな、という箇所がありますよね。
吉祥寺はインディーズの後期にメジャーデビューする時期まで過ごした街で。僕はいまだにその辺にいますけど、ナカヤマくんは当時吉祥寺に住んでいて、なんならバイトも吉祥寺でしていたし、2人でスタジオに入って練習したり曲を作ったりしていたのも吉祥寺。で、メジャーデビューする前後くらいは、ひなっち(日向秀和/Ba)とかOJ(大山純/Gt)とも吉祥寺で一緒に飲んだり、思い出深いというか。一番バンドが動いていた時期、環境が変わっていく時期を吉祥寺で過ごしていて、その時期に仲間もどんどん増えていった。その頃を思いながら、今の吉祥寺を歩きながら見て感じたことを曲にしていて。
――まさにそういう内容ですね。
曲自体もちょっとフォーキーというか、ちょっとオーガニックなノリがあったので、もう歌詞もフォーキーにしてしまえ、ということで。
――自伝的な要素もありますけど、しばらく充電する期間を置いてから、最初に出てきたのがこういう内容になったのはなぜなんでしょう。
前のアルバム(『Future Soundtrack』)の「Boy Friend」で人間にフォーカスした、それを街にスポットを当てたというか、「その舞台とは?」みたいな曲ですね。そこに前作との繋がりがあるかなって思います。この曲自体はメロディが先にできて、歌い出しの<日曜日>と<吉祥寺>で韻を踏んでいて、そこから「あ、吉祥寺の曲、書こう」と思ったっていう、最初から吉祥寺の曲を書こうと思ったとか、過去を回想する曲にしようとかじゃなくて、もうのんびりと「日曜日と吉祥寺、韻ふんでるなぁ」っていうところから書き始めていますけど(笑)。
ストレイテナー・ホリエアツシ 撮影=高田梓
――今回お題がほぼフリーだったからこそ、そういう着想が生まれたのかもしれないですね。
そうですね。シンペイが吉祥寺に住んでいたころにどんどん街が栄えてきて、“一番住みたい街”みたいになって、そうしたら本当に人が増えちゃったみたいで。曜日感覚がないからプラっとスーパーとかに買い物に行こうかなと思ったらもう、人がウジャウジャいて――みたいな話をよくしていて。
――10数年前ですよね。まさに僕も、埼玉に住んでましたけど、吉祥寺まで遊びに行ってましたもん。憧れて。
なんかのドラマに使われたりとかね。あの当時は今よりもうちょっとサブカルな匂いが強くて、僕がずっと通っていたレコード屋さんとか、アングラな映画をやりがちな映画館とか……もう無いんですけど、そういう場所にプラっと行って何か発見したり、街に出かけるというよりは、暮らしの中にある街だったから、「ああ、変わっちゃったよね」っていう。それを憂いてるんじゃなくて、「やっぱり変わるんだね、街も」みたいなことを歌っていて。
――原点に近い場所を、今も近くから見ているホリエさんならではの視点ではあるかもしれないですね。そのほかの曲についても聞きたいんですが、まず1曲目(「STNR Rock and Roll」)。これ、めちゃめちゃ好きなんです。
これはライブの出囃子にするために作った曲です。
――ああ、まさにそうなったら良いなと思いました!
はははは。意図して、今12年位使っているドッシュの曲(「MPLS Rock and Roll」)に代わるものを作ったから、タイトルもそこに寄せてるんですけど。ずっとドッシュの曲を使ってきて馴染んでいるので、それと全く別物っていうのも違うし、でもあの曲は変拍子だから。お客さんが手拍子してくれてるけど……
――ちょっと無理やりに(笑)。
そうそう。頑張って手拍子してくれてるな、みたいな感じなので、そこから影響を受けつつももっとシンプルな感じにして。で、自分たちの曲っていうことが前面に出ちゃうより、ライブはライブで生っていうところで切り替えたいから、ちょっとこう、架空のバンドが作った曲みたいなイメージで声を加工したり、リズムも結構打ち込んだりしてますね。
――その反面、歌っている内容はここ最近のストレイテナーの核心っていう感じじゃないですか?
そうですね。もう本当に、スローガンみたいな(笑)。
――アンセム感があるし、オープニングSEになるイメージもすごく沸いたんですけど、ということはライブ本編では聴けないのか……!?という残念な気も。
それは追い追いですね。だから絶対買えよ?っていうことですよね(笑)。ライブで毎回流れるから。
――たしかに(笑)。そして2曲目「吉祥寺」があって、3曲目の「Jam and Milk」。これはどういう風にできていったんですか?
「Jam and Milk」は、楽器隊的には得意分野というか。ファンクとかそういう要素ってこれまでも何曲か作ってきてますけど、着地点が結構難しくて。(今回は)生々しい音作りに結果として着地したんですけど、アレンジしながらどの方向が正解なのかを悩みながら、模索しながら作ってます。自分の中では、ひなっちのベースとOJのギターが感覚的に乗っかってきそうだなって、気楽に持っていった曲なんですけど、実際は結構悩みました。リズムも、変化をつけるのか、つけずにひたすらダンスっぽく四分でいくのかみたいなことが、作りながら徐々に見えてきたというか。
ストレイテナー・ホリエアツシ 撮影=高田梓
――これ、言い方はアレですけど、結構変態な展開の曲ですよね。
難易度は高いですね(笑)、Cメロ、Dメロとか。あそこはずっと4コードのループなので変化をつけたくなって、王道でいったらジャミロクワイとかの路線なんですけど、フォスター・ザ・ピープルとかトロ・イ・モワとかそういう変化球要素も入れたいなと思って転調を入れたんです。で、転調したときに全員コードがわからなくて(笑)。全員違うコードをイメージしながらアレンジしていて、レコーディングのときに急遽修正するっていう。「これ、マイナーだったの?」とか言いながら。
――ファンク調、ソウル調みたいなアプローチってここ数年、ロックバンドでも多いですけど、ストレイテナーがやるとこうなるのか、っていう。
ハイブリッドにするのか、生々しくするのかは結構悩むところがあったけど、そこはローファイな方が面白いかなって。
――「青写真」は、最初の出だしからは想像つかないというか、濃い展開が待っていて。
最初はこんなにアッパーな曲って思わないですよね、おそらく。
――アッパーといっても、内に炸裂していく感じが『CREATURES』あたりに近い感覚もありました。
ああ、そうですね。「Man-like Creatures」とか「MEMORIES」とか、あとはシングル(カップリング)ですけど「星の夢」とか。まぁ、これはこれでストレイテナーのメインの路線の曲でもあって、始まりは結構厳かですけど、曲の構成とかサビで爆発する感じとかはわりと素直に作ろうとしていました。構成とかでひねくれずにストレートに。コードもほぼループだし。
――マイナー調ですけど、歌詞を読むと印象が変わってきて。かつてはこういう曲調の曲だともうちょっと抽象的な言葉で、ダークだったり、ファンタジックな内容になっていたような曲でもあると思うんですね。
なんか壊れてたりとか、苔むしたり、崩れ落ちたり(笑)。
――だから、単に当時の曲っぽいものを再現した感じになっていないのかなとも思います。という、ここまでの4曲がわりと色々な方向を向いているにもかかわらず、最後の「スパイラル」で綺麗に締まっていく印象も受けました。
「スパイラル」と1曲目が繋がっている感じがあるのかな。今のライブの在り方が「スパイラル」と「STNR Rock and Roll」に出ているかなって。……どっちかな?と思ったんですよね。「STNR Rock and Roll」を最初にするのか最後にするのか。
――最後にしてたとしたら、最初が「吉祥寺」ですか。
うん。それだとシングルっぽくて。もしくは「スパイラル」の前に「STNR Rock and Roll」が来て「スパイラル」に繋がることも考えていたんですけど、想像した以上に1曲目っぽいというか、始まりを感じたので。曲ごとに個性があってテーマもバラバラな、オムニバスっぽさがあっても良いと思うんですけど、この1曲目と最後の「スパイラル」で一つまとまりが出る気もするなということで、この並びになりました。
――「スパイラル」はここ最近、フェスなんかでもほぼ毎回演奏されてますね。
やってますね。いま一押しっていう。
――ということは今作に入るのも自然な流れでしたか。
ファンも、僕ら世代の人って盤を持っていたい人が多いから、配信で「スパイラル」が出たとき「CDにならないんですか?」っていう声も多かったし、入れた方がいいよねということで。あとはもし「スパイラル」を入れなかったとしたら、もう1曲新しい曲を入れてると思うんですけど、一気に新しい曲をドバッと聴くのってもったいないなというか。1曲だとちょっと物足りないですけど、4曲くらいを集中的に聴いてもらうのが良いかもしれない、自分も1枚のアルバムの中でも4曲くらいを集中して聴き込むパターンが多いので、そうかもしれないなと思って。盤で欲しいっていう人のために(「スパイラル」を)入れて、どれが秀でているわけでもないベクトルの違う4曲が全部力を持っているっていうのは、美しいかなと。
ストレイテナー・ホリエアツシ 撮影=高田梓
――近年、わりと歌の強い、ポップスよりの感触のある曲がシングル等になってきた中で、今回は多様性のある尖り方をしつつ、でも音的にも歌詞としても、ここ最近の流れと全く違うことをしているわけでもないという作品ですよね。
歌詞が聴き取れる、イメージしやすいっていうことは考えていて、あとは音が沈んでない。そこは意識してますね。OJのギターを浮かび上がらせたいので、レコーディングでもあんまり黙らずにリクエストしたり。以前はそこをミックスで調整するやり方をしてたけど、もう録りの時点で色々と試して、ちゃんとその段階で完成が見えるように。特に音作りは一曲ごとに明確に話し合いながらやってるかな、最近は。
――かつては、帯域がかぶったり音同士がぶつかったりするのも含めて、自分たちのバンドの音だ、というテンションで。
あやふやな感じも含めて良しとしてました。まぁ、今もそうやる場合もあるんですけど、よりお互いの音を聴いて曲を作っている感じが今はあるかなと。
――そうやって整理整頓されてくると、いざライブで観たときの爆発力は増しそうですよね。
ああ、たしかに。
――となると俄然期待なんですが、リリース直後に野音ワンマンがあり、その後ツアーが控えています。
とりあえず次のワンマンから、出囃子は変わりますね。
――おお!
あとはやっぱり「青写真」とか「Jam and Milk」とかが過去の曲を誘発してくれる楽しみはあると思います。マニアック・セットリストまでは行かないですけど、「ああ、こんな曲あったなぁ」みたいな、ミニアルバムのツアーならではの曲もやっていけるかなと。
――フルアルバムのツアーに比べれば、やらなきゃいけない曲は少ないわけですし。
そうそう、自由ですね。
――これで20周年を終えてからの作品が初めて世に出ます。ここから先の展望や考えていることがあれば。
20周年の区切りをつけて、そこできっちり休んで次に進むこともできたけど、今年は同期のバンド達と結構つるめたなと思っていて。the band apartとのツアーがあり、ACIDMANとTHE BACK HORNとのツアーがあり、ELLEGARDEN、アジカンとのツアーがありっていう、ここで旧き仲間たちと今一度、隣にこいつらがいて俺たちはやってこれたっていう……なんだろうな。やっぱりバンドを20年続けていくのって、自分たちではあんまりしんどかったとか凄いことだとか思わないですけど、過去の先輩たち――聴いてきたバンドや憧れてきたバンドは、もっと短命で終わってることが多いので。これだけ隣に仲間のバンドたちが、今もいるこの世代って、すごい珍しいというか。
――初めてのことかもしれないと思います。
うん、すごい貴重な世代だと思うから。それをこの1年で感じられたし、しかもファンにも贈ることができた良い1年だなと思ってます。この先は、より自分たちのオリジナルな音を研ぎ澄ませて、かつ広く届けていきたいから、ここで良いものを貰って、モチベーションと糧にしていけたらと思います。
取材・文=風間大洋 撮影=高田梓
ストレイテナー・ホリエアツシ 撮影=高田梓
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