LOVE PSYCHEDELICO 撮影=田中聖太郎
LOVE PSYCHEDELICO Premium Acoustic Live “TWO OF US” Tour 2019
2019.9.25 EX THEATER ROPPONGI
14年から東京を中心に不定期に開催してきたKUMI(Vo/Gt)とNAOKI(Gt/Vo)、2人だけのアコースティックライブを、初めて全国展開した今回の『LOVE PSYCHEDELICO Premium Acoustic Live “TWO OF US” Tour 2019』。そもそもは飾らないトークもたっぷり交えながら、バンドセットとはまた一味違うアットホームなライブにしようと考えていたのかもしれない。確かにアットホームという意味では、思惑通りだった。
LOVE PSYCHEDELICO 撮影=田中聖太郎
1曲目の「123」を、KUMIとNAOKIがアコースティックギターを奏でながら、トラッドフォーキーなアレンジで披露した後、「5月、6月、7月、8月、9月と回ってきて、残すところは静岡のみとなりました。とても素敵な時間を過ごさせてもらっています」と、まず観客に語りかけたのはKUMIだった。
LOVE PSYCHEDELICO 撮影=田中聖太郎
「NAOKIさんと私、2人だけで全国を回るのは今回が初めて。せっかくだから音にもこだわりたいと思って、ツアーのためにスピーカーを設計してもらって、作って持ってきました」と続けてKUMIが今回のツアーの見どころ、いや、聴きどころを説明すると、NAOKIがすかさず「スピーカーのスペックに合わせ、PA卓のスペックも上げたんですよ。いわゆるハイレゾのPA卓を使っているんです」と嬉々とした口調で付け加える。なんでも、開演前、BGMとして流れていた70年代のブリティッシュロック・ナンバーの数々は、そのスピーカーで鳴らすためにNAOKI自らアナログ盤からPCに取り込んで、手作業でノイズを消したものなんだそうだ。
LOVE PSYCHEDELICO 撮影=田中聖太郎
そんなところからも今回のツアーのタイトルに掲げた通り“Premium”なものにしたという熱意が窺えるが、「演奏とともに(そんな)素敵な音も楽しんでもらいたいと思います」(KUMI)と早速、2曲目の「Birdie」に繋げると、そこから2時間たっぷりと2人は新旧のレパートリーを、アコースティックアレンジで披露。それが単にアコギをジャカジャカとか、ポロポロとかという単純なものにならないというのは、5月26日の横浜公演のレポートでも書いた通り。
LOVE PSYCHEDELICO 撮影=田中聖太郎
曲ごとにアコギに加え、エレクトリックギター、マンドリン、ブズーキー、ラップスティール、エレクトリックベースを持ち替えながら、「Favorite Moment」では今回のツアー中、“アレジ君”と命名された年代物のリズムボックスも使って、お馴染みの曲を、フォーキーに、ブルージーに、ロッキンに、そしてサイケデリックにと聴かせていったのだが、曲や、その曲で使う楽器にまつわるよもやま話もまた、この日の聞きどころだった。
たとえば、KUMIがマンドリンを弾いた「I saw you in the rainbow」では、「複弦楽器のマンドリンは(2本の弦がいっぺんに鳴る)音の揺らぎが気持ちいい」と指が太すぎて、マンドリンの弦を押さえられない先輩ギタリストのエピソードを交えながら、マンドリンの魅力を語ったり、「Hit the road」では同じダッドガッド・チューニングを使ったレッド・ツェッペリンの「カシミール」のリフを、NAOKIが奏でながら曲作りの裏話を明かしたり、「It’s Ok, I’m Alright」ではNAOKIが思いっきり泣かせたラップスティールがハワイアン・ミュージックでよく使われることから、「(この音)聴いたことあるでしょ? 知ってるでしょ?」と「南の島のハメハメハ大王」のさわりをNAOKIが歌ったり――。
LOVE PSYCHEDELICO 撮影=田中聖太郎
2人が曲間で繰り広げたそんなトークからは、音楽愛のみならず、音楽や楽器に対するマニアぶりが思わずニヤニヤしちゃうぐらい伝わってきた。たぶんLOVE PSYCHEDELICOファンには、そういう人が多いんじゃないかと思うが、マニアックな音楽ファンほど、2人のことが身近に感じられたはずだ。
LOVE PSYCHEDELICO 撮影=田中聖太郎
しかし、「ライバルは、さだまさしさんです(笑)」とNAOKIが思わず口走ってしまったくらいたっぷりとトークも交えていたにもかかわらず、東京2デイズ公演の2日目となるこの日は単にアットホームの一言だけでは終わらなかった。
ツアーの終盤も終盤ということも大きかったと思うが、ツアーのスタートとなった5月26日の横浜から全国各地を回りながら、演奏そのものも磨き上げてきたに違いない。この日、軽妙なトークも楽しませながら、2人が観客の脳裏にライブパフォーマンスの凄みも焼き付けたことを考えると、この日一番の見どころは、やはり後半のセクションだったんじゃないか。
LOVE PSYCHEDELICO 撮影=田中聖太郎
「残すところ静岡公演だけですね」というKUMIの振りに応え、「静岡の話していい?」と静岡県出身のNAOKIが約15年におよぶ武田真治似の先輩の思い出話を披露。客席をドカンと笑わせたあと、「1曲歌っていいですか? さらに時間をもらっていいですか?」とリードボーカルを取ったイーグルスの「Take It Easy」でぐっと盛り上げ、そこから一転、曲間を空けずに繋げたメランコリーが胸を打つ「Last Smile」「neverland」「waltz」の3曲は、劇的な場面転換の落差もあいまって、気迫に満ちた歌と演奏が身じろぎできないほど、観客を圧倒したのだった。
LOVE PSYCHEDELICO 撮影=田中聖太郎
そして、そこからつなげた「裸の王様」。NAOKIがエレキギターで長尺のソロをキメると、それまで固唾を呑んでステージを凝視していた観客が金縛りから解かれたように声を上げ、拍手を贈る。さあ、ともにクライマックスに昇りつめる準備は、すっかり出来上がっている。あとはきっかけさえあればいい。
LOVE PSYCHEDELICO 撮影=田中聖太郎
「来年はデビュー20周年。デビューしたとき、20年も一緒に素敵な時間を過ごせるなんて想像もしてなかった。どこかで出会って、こうして来てくれたみんなと繋がるきっかけをくれた曲を、みんなと一緒に歌えたらうれしい。歌ってくれるよね?」とKUMIが呼びかけ、パキッと目の前の景色が開けるような感覚が心地いい伸びやかな歌声で♪Oh sing it to meと歌い始めると、観客がシンガロングで応える――「Your Song」。1階席の観客が立ち上がって、手拍子しながら声を上げる。その盛り上がりは、NAOKIが鳴らしたブルージーなリフに応え、観客が声を上げた本編ラストの「LADY MADONNA 〜憂鬱なるスパイダー〜」でさらに大きなものに!
LOVE PSYCHEDELICO 撮影=田中聖太郎
そして、「この次はこのスピーカーでバンドのライブをやりたい。来年はデビュー20周年。たくさんライブをやろうと思ってます!」とさらに盛り上げたアンコールを締めくくったのは、NAOKIが爪弾くアコギに合わせ、KUMIが声のトーンを抑え、語りかけるように歌った「Sally」。KUMI曰く「私のおなかの中に赤ちゃんがいるとき、NAOKIさんがプレゼントしてくれた大切な曲」を、観客の興奮を冷ますように聴かせると、そこに残ったのは、KUMIの言葉を借りれば、ともに素敵な時間を過ごしたという大きな充実感だった。
取材・文=山口智男 撮影=田中聖太郎
LOVE PSYCHEDELICO 撮影=田中聖太郎
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