photo by 山本哲也
2019.10.20(SUN)Zepp Tokyo ReoNa ONE-MAN Live “Birth2019”
「絶望系アニソンシンガー」ReoNaを初めて見たのは2018年のまだ暑い7月だった。あれから一年半近くが経ち、二回目のバースデーワンマンライブ『Birth 2019』がZepp Tokyoにて開催された。
今回は今まで見た彼女のワンマンライブとしては最大規模となる。あっという間に、確実に階段を駆け上がる彼女の速度に目眩を覚えるようだが、21歳最初になるその歌はどんな響きを聞かせてくれるのか、勿論今回のZepp Tokyoのフロアも満員でその時を待ち構えている。
それにしてもステージが広い、今までのReoNaのライブと比べても高さ、広さともに段違いだ。ステージ後方には今までなかった高台、そして上空にはシャンデリア、ライブ空間というよりコンサートの雰囲気だ。
クラシックが流れる中、静かに暗くなっていく、そして静かに現れるバンドメンバーたち、登場したReoNaが一曲目に選んだのは「怪物の詩」。ReoNaの根本を歌ったこの一曲、ワンフレーズ聞いただけでわかる声量と高音の伸び、確実に成長を感じられる。
photo by 山本哲也
「愛をもっと」と叫ぶその歌声は広いフロアに響き渡る。観客はともに歌うもの、拳を突き上げるもの、静かに曲を噛みしめるものそれぞれだ、ReoNaが常々言っている「それぞれにお歌を受け取って欲しい」という思いは間違いなく届いている。
「生まれ落ちた日、Birth、最後まで心を込めてお歌を届けます、最後まで楽しんでいってね」万雷の拍手につつまれた開幕の挨拶の後に歌われたのは「forget-me-not」。生きた意味を忘れないで、そう語る思いを込めた一曲。広く高いZepp Tokyoで歌うReoNaを見て、ふとステージ上は孤独ではないのかな?と思ってしまった。
高く淡い光を放つシャンデリアは彼女の頭上でそっと輝き、どこかがらんどうの晩餐会のように音楽が反響していく。絶望系を名乗る彼女が加速しながら紡いできたこの一年は彼女にとってどんな日々だったのだろうか?「ヒカリ」「step, step」と歌われる中で彼女のこれまでを思う。
「色のないColorlessから、今日はBirth。出会えて、たどり着いて、色づいて……どんな色になるだろう?」そんな言葉がMCで語られる。ReoNaのMCは独特だ、言葉の中身も勿論だが、彼女は必ず喋る前に深く息を吸う。その呼吸音はマイクを通じフロアの全員に伝えられる。
彼女が息を吸う瞬間、観客の集中は一気に高まる、ReoNaが何を語るのだろう?その思いが収束する。彼女にとってはMCも表現の一つ、そう思っていたが、今回のライブではReoNaは今まで以上にMCに時間を割き、多くを語ってくれた。思考の断片ではなく、伝えたい言葉。21歳を迎えたReoNaはこのライブで何かを共有しようとしている。
「それでは皆さん、おやすみなさい」この言葉にフロアの期待が高まる。「おやすみの詩」、そして「Independence」「Let it die」、そしてギターをかき鳴らしながらノイジーに展開した「Dancer in the Discord」とパワフルに、叙情的に歌い続ける。一曲一曲に反応し、フロアで思い思いの感情を爆発させていく満員のオーディエンス。いつしか始まった瞬間に感じたがらんどうの雰囲気は感じられなくなっていた。
photo by 山本哲也
音楽が、歌が、ReoNaとファンの思いが高いステージの天井まで満たしていく。感覚でしかないが、確実に何かが会場の空気を変えていく。それは独りだった少女が「お歌」と出会い、人と出会い、聴いてくれる人達と出会った道程そのままのようだ。誰もおいていかない、ずっと側にありつづける、全員の願いを他人事ではなく”自分事”として捉えようとするReoNaだからこその世界がそこにはあった。彼女がもし孤独を感じることがあっても、もう独りではないと強く思える。
「みんなに届く私のお歌の原点、神崎エルザ」。MCでも言ったようにReoNaは自分を始めてくれた存在、神崎エルザに対して常にリスペクトを持ち続けている。
『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』のキャラクターである神崎エルザ、しかしReoNaの中ではそれはキャラクターを超えたものになっているのかもしれない。エルザの思いはReoNaとリンクしている気がする。
「日々生きていて、さよならってたくさんそこら中に転がっていて、悲しくても、苦しくても、さよならをそれだけにしないために」
この言葉を発したときのReoNaはとても優しく、まっすぐ客席を見ていた。当たり前にこの言葉をチョイスすること、そしてそこに圧倒的な説得力をもたせられることこそがReoNaが「絶望系」である所以なのではないか。過去の記憶を捨てるわけでもない、傷が癒えたわけでもない、でも、それだけにしないために歌う、それがReoNaの“お歌”なんだろう。
さよならと、はじまりの歌である「葬送の儀(うた)」、そして「カナリア」と続けて情感たっぷりに歌い上げる。今回のステージの特色の一つとして、とても照明が美しいのも印象的だ。ステージ上で大きく動いたり、パフォーマンスを激しく行うタイプではないReoNaの曲の世界観を浮かび上がらせる素晴らしい出来だったことも書き記しておきたい。
photo by 山本哲也
「すごくいろんな事があった二十歳だったんですけど、その沢山の思い出の中でも、一生忘れられない思い出をくれたお歌があります」と語って歌い出したのはダニエル・パウダーの名曲「Bad Day」。YouTube にカバー動画をReoNaがアップ。それが本人の目に留まり、「一緒にデュエットをするのはどうだろう?」とダニエルがリアクションを起こしたというある意味奇跡のコラボを生んだ一曲は、やはりこの大事なステージで披露された。
その後のMCで「アニソンシンガーになりたいなんて言っちゃいけないと思ってたんです」と思いを吐露したのも驚いた。インタビューなど以外でこういう思いをステージ上で語ったことはあまり無いのではないか。ReoNaは歌の歌詞、意味を自分の言葉に置き換えてMCをするのに長けているが、今日はそれだけではない。音楽だけじゃなくて、自分の持てる全てをさらけ出して、そしてあなたの隣へいく、そういう強い思いを感じる言葉の一つ一つはそれすらも彼女の“お歌”の一環なのかもしれない。
神崎エルザへの感謝を述べて歌われるのは「ピルグリム」「Rea(s)oN」。「Rea(s)oN」で歌われる「生きる意味をくれたあなた」という歌詞が胸に響く。それはReoNaからファンへの、スタッフへの、何より音楽への愛のように響く。その言葉を受けたフロアから感じるReoNaへの感謝。思いの螺旋が会場に巻き上がっていく。
「あなたの日常の隣に、ReoNaのお歌は寄り添えていますか?あなたの深い悲しみに、ReoNaのお歌は寄り添えていますか?あなたの物語の登場人物に、ReoNaはなれていますか?」どこまでも背中を押さず、隣にいようとするその姿にはもう孤独感はない。
初めてその歌を聴いた時、触れたら壊れるガラスの槍のようだと表現させてもらった。今その繊細さと鋭さは保ちつつも、確実に温度を感じる。それはシンガーとしての成長であると同時に、人とのふれあいの中で培われたものなのかもしれない。孤独だった少女が、シンガーとして立っている。その過程を僕たちは音楽と言葉を通して追体験している。
「虹の彼方に」「トウシンダイ」「Lotus」「決意の朝に」と聴いていく中で、同じ音楽、同じ曲でもその時の思いやコンディションで受け取れる感情が変わることを体感する。まさにライブはナマモノであり、ReoNaの意気込みも感じられるものだ、言葉では表せないその瞬間にしか味わえないものがそこにはある。それを知っているからこそファンは足を運ぶ。一期一会の濃密な空間。
2020年2月から各地Zeppも含む全国コンサートツアー『ReoNa ONE-MAN Concert Tour 2020”A Thousand Miles”』を発表した時の大拍手が「まだ見たい、もっと体験したい」を何よりも表現していたと思う。みんなもっとReoNaの側に居たいのだ。アニメの話をしたときには客席からは笑いも起こるなど、こういう掛け合いは今までなかったもの。そしてアニメの話をするのであれば、初めてアニメに関わった楽曲「SWEET HURT」を歌わないわけには行かない。やはり楽曲への動線が抜群にうまい。
photo by 山本哲也
特別な編成としてストリングスチームを呼んで壮大に奏でられた「ALONE」。ステージ後方のスペースはそのためだったのかとやっとここで合点がいく。激しく、熱いバンドサウンドに荘厳さが増されて音楽は豊かに広がっていく。
ReoNaのライブにアンコールはない。「ALONE」の荘厳な旅立ちの音楽で、誕生日の日の祝祭は完結……と思ったが、本当の特別として、ソードアート・オンライン刊行10周年のテーマソング「Till the End」を披露すると言った時、今日一番の歓声と拍手が起こる。初披露となるこの楽曲ではまさかのクワイヤーを率いての大編成。
圧倒的な音の渦の中でブレずに歌うReoNaはこのがらんどうだった晩餐会の真ん中で、音楽家や来客の人たちに祝福されながら、愛を叫ぶ歌姫のようだ。栄光はなくても、正常じゃなくても。成功はなくても、正解でなくても、きっと命は続いていく。ReoNaという存在を凝縮したような言葉を持つ“お歌”はZepp Tokyoの屋根を突き抜けて天へと舞い上がる。
photo by 山本哲也
何度も「一対一」という言葉を繰り返し、「あなたのためにお歌を紡いでいます」と言い切ったReoNa。「いつか、また回る星の上で」と語るReoNaはこの大地のどこかで立って、その日が来るのを待っている。
だからこそ、願わくばReoNaを愛して、“お歌”に救われたあの会場に居たすべての僕たちが、彼女の一番星になれますように。ReoNaがもし迷うことがあれば、その星を頼りに歌ってくれることを、切に願う。
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レポート・文:加東岳史 photo by 山本哲也
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