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さユり インタビュー およそ2年ぶりのシングル「航海の唄」に至るストーリーと成し遂げた“表現”

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さユり 撮影=菊池貴裕

さユり 撮影=菊池貴裕

単独名義の作品としては2018年2月の「月と花束」以来となる、さユりのニューシングルが11月27日にリリース(表題曲「航海の唄」は先行配信中)される。“第一幕”の総括とも位置付けられるアルバム『ミカヅキの航海』とリンクするタイトルを冠した表題曲は、TVアニメ『僕のヒーローアカデミア』第4期EDテーマとなっており、力強いサウンドとともに気高い覚悟が歌われている。これまでよりもさらに多くの耳に届くポテンシャルを秘めた楽曲と言って間違いないと思うが、それでいて、これまでの彼女の音楽性や歩んできたストーリーから切り離されたものでは全くない。果たして前作以降の2年弱の間、彼女は何を想い、何と向き合っていたのか。そこから生まれた「航海の唄」は一体どのような意味を持った作品なのか。何をもたらしたのか。そして、彼女が見出しつつある“表現”の形とは――。さユりの現在地を示して余りあるインタビューとなった。

――今回は「月と花束」以来のインタビューで、あれから2年近く経つわけなんですが、さユりさんにとって、あそこから今作へと至るまではどういう期間だったんでしょうか。

すごく色々と探したり考えたりする期間でした。その考えていた中に一つあるのは、これまでずっとインタビューしていただく中でも話していたと思うんですけど、自分の気持ちが外に向かっていく変化をデビュー以降に感じていて。

――そうでしたね。

活動していくうちに、人に何かをもたらすものを作りたいという気持ちが大きくなったんです。自分の場合、曲自体は自然にできるもので、どちらかといえば利己的なものだったりもするから、そこのすり合わせ、二つ有るものを自分の中でどう仲良く重ねていけるんだろう?っていうテーマをずっと探していて。そこが一番試行錯誤していた部分ですね。
頭で考えているとそこは全然イコールにならなかったんですけど、最近は曲やメロディが先にできることが増えて、そうすると頭で考えることに縛られずに、ちょっと自由になれました。わりと今までは曲と詞が同時にあったりしたんです。自分の中で言いたいことが言葉としてある上じゃないと、曲全体を作っていけなかったりもして。メロディから先に書いてみることが見つけた答えというか。

――“何を書くか”有りきの制作スタイルでは折り合いがつかなくなった部分があったから、まずは音楽的な着想からスタートしてみたということですよね。

そうですね。アーティストとして、音楽で何ができるだろう?っていう。自分の中では大事な気持ちなんだけど、それが先立っちゃうと音楽から遠ざかってしまうようなときもあったりして。音楽として表現できることの中で、他者にできることは何だろうっていう、アーティストとしてのあり方みたいなこともすごく模索していましたね。

――今までもお話を聞くたびに変わってきていた部分があって。それは“他者と向き合う”という点がだんだんと“歌う意味”になっていった変化だったと思うんです。それがある一定のところまで行ったとき、“意味を探そう”ということになりかけたんですね。

うん、曲を作るときいつもそこで立ち止まりますね。うまくいくこともあるけど、「何ができるんだろう」「どういう気持ちで発信していこう」というのは、毎日向き合う課題でしたね。

さユり 撮影=菊池貴裕

さユり 撮影=菊池貴裕

――この「航海の唄」の歌詞、たとえば<理想に身を焦がす>っていう一節であったりにそれが出ているようにも思ったんです。でも、そう歌えたということは、向き合ってきた悩みをある程度は切り替えられたということでしょうか。

切り替えられた感覚はないけど、でもやっぱりそういうときに標べになってくれたのは結局、曲ができたっていうことでした。そういう気持ちを曲に昇華したいと思ったわけではなくて、今回のヒロアカのことがあってまずは書いてみたら、メロディや鳴らしているコードとかから曲の全体が見えてきて、そこに今の自分の気持ちが乗っかったっていう感じなんです。でも、向き合っている最中にできた曲だから、現在地を示す答えになった感覚はあって、答えみたいなものは、ここにこもっているなとは客観的に思いました。「ああ、こういうことを言いたかったんだ」みたいな。

――この曲からは、特にポジティヴなものとまでは言わないけど、悲壮感や焦燥感といったニュアンスではない力強さを感じたんですよ。そういう曲を書こうと思っていました?

今までやっていたことはどちらかというと“表明”で。そうじゃなく“表現”をしたいなっていう気持ちやテーマが、前作の「月と花束」のときから自分の中にあったので、そこが表れたのかなと思います。

――“表明”と“表現”は、さユりさんにとってどう違うものですか。

明確に分けられるものじゃないですけど、実感として思うのは曲を作る過程です。「歌いたいことや言葉がある」っていうところから、それにどんなメロディをつけよう?っていうことの方が多かったのが、今回は「航海の唄」もカップリングもまずは曲調とかリズムだったりの音楽的な部分があって、「これって何を言ってるのかな?」っていうふうに音から広げていくことを意識しながらやったので、主観的な考えですけど“表現”を少し研究できたなっていう感じがします。

――ああ。もしかしたら、今までは自分の中から出てきた吐き出したいものを形にするツールが音楽だった。今回は「音楽を作ろう」というところから言葉が紡がれていった。そういう違いなのかもしれないですね。

そうですね。どっちも好きなんだけれども、表明スタイルだったときは、まず言いたいことがなきゃいけないのかなって、見えない網みたいなものに自分を閉じ込めて、考えるあまりに曲ができなかったり、自分に制限をかけていた。そこから抜ける術として表現を捉えたら、自由になった上で言いたいこともちゃんとそこに乗せられるんだなっていう気づきはありました。

――「月と花束」と今作の間には、MY FIRST STORYとの「レイメイ」がありましたが、別のアーティストと一緒に曲を作る経験も、そのあたりに何か影響を及ぼしましたか。

そのコラボがアニメのタイアップ(『ゴールデンカムイ』)っていうこともあったんですけど、初めてメロディだけを先に作って、しかも他の人と作るスタイルだったんですよね。メロディのない状態で人と共有して膨らませていく中で、音とすごく向き合ったというか、今までやったことのないことをした感覚はありました。人と歌うことも、そもそもの作り方も、未知の体験でしたね。

――曲先の作り方に意識が向いたのは、もしかしてその影響も?

あると思います。

さユり 撮影=菊池貴裕

さユり 撮影=菊池貴裕

――曲先で書かれたという「航海の唄」は、エモと呼ばれるサウンド感に近いと思うんですよ。特にコーラスの部分では開放感みたいなものも感じさせますけど、そういうイメージが最初からあったんでしょうか。

まず『僕のヒーローアカデミア』のアニメの話があったので。あの作品自体、ヒーローになるために修行して、街の人を救いたいとか、仲間のためや人のために何かしたいとか、勇敢な精神を持ったキャラクターがたくさんいる中で、その精神を自分も持って、それを“表現”するような曲にしたいと思っていました。自問自答じゃないわけでもないんですけど、自問自答っていうわけでもなく“君”がいて、不思議な感覚でした。

――もしかしたらそこがある種の軽やかさ、開放感みたいな部分につながっている気もしますね。突っ走っていくような勢いとはちょっと違った、何かを掴もうとするような確固たる意志のようなものも感じましたし。

それはすごく合ってるかもしれないです。一番のパワーワードというか、サビの<強さは要らない 何も持って無くていい 信じるそれだけでいい>っていうところが、聴いた人にもバッと入ってくると思うんですけど……信じる強さっていう言葉があるじゃないですか。あるんだけど、実は信じることに力って要らないんじゃないかなっていうことを思っていて。自分にとっての大事なものは、何かから勝ちとったり、突き進んで探したりするものじゃなくて、実はきっと自分の心の中にじっとあるもので。だから、信じる強さっていうガムシャラさよりも、信じる静けさみたいなものが、自分がこの曲で表現したかった大きな部分です。そこは“掴む”っていう感覚に近いのかなって、いま聞いていて思いました。

――だからか、もともと曲にも歌にもあった、さユりさんの芯が強さを増した気もします。

変化っていう実感としてはまだなくて模索しているんですけど、その模索していることをダメだなって思う時期もあったんですよ。答えを「これだ」って見せなきゃいけないと思っていた時期もあるんですけど、いまは「模索してても正しいんだぜ」っていうことを自分の中で少し思えているのはありますね。芯が強くなったと言ってもらえたのは良かった、そういう作品になって良かったと……いま噛み締めております(笑)。
自分の中で大事なものは変わらないんだけど、でもそれを追い求めるために何かを変えなきゃいけないことだったりを決断していく上で、“今”が正解か間違っているかどうかはわからないけど、“変わる”っていうことに意味があって、進んでみるということに意味があって。そういう気持ちが出ているのかなって思います。

――サビでは<臆せず 歩き出せ>というのが強いメッセージになっている。『僕のヒーローアカデミア』にも通じるメッセージ、表現であると同時に、さユりさん自身の今を歌っている曲に感じられました。

たしかにそうですね、「ミカヅキ」では苦しいから進んでいくとか、葛藤的な苦しみがあっての感じだけど、そうじゃない何かっていうのが、ここまで来たゆえにあると感じてます。

さユり 撮影=菊池貴裕

さユり 撮影=菊池貴裕

――この曲が『僕のヒーローアカデミア』という間口の広い作品で流れることで、新たな出会いももたらす気がします。作り終えて、いま思うことはありますか。

たくさん曲を書いていきたいなって思いますね。“表現”っていうところで自分の中のしがらみから少しだけ自由になれたところがあるから、曲の種とかはできやすくなったので、完成させたい曲がいま結構あって。(これまでは)どう育てていけばいいのかに悩む時期があって、なかなか曲を完成できなかったんですよね。

ーーちなみにタイトルには、アルバムタイトルはじめ色んなタイミングで使われたりと、さユりさんの活動そのものを象徴するような“航海”という言葉が使われていますよね。

そうですね。『ミカヅキの航海』っていう作品がまずあって、それは「ここから航海していく」っていう気持ちでつけたタイトルですけど、(「航海の唄」の)できた歌詞をみて、それを曲単位で表している曲だなっていうことに気づいて。そこを示したくて名付けました。

――ライブはしばらく行なっていないですけど、何か意識の変わったこともありますか。

最近したライブが『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』に初めて弾き語りで出させてもらったのと、ドイツで歌ったときなんですけど、フェスで身一つで勝負をしたのも、異国の地でのライブも、伝え方のバリエーションとして勉強になった感じがあって、それは自分の中ですごく大きい経験になりました。インストアライブがあるので、久しぶりに近い距離感のライブで、どんな歌が歌えるだろう?っていうのは楽しみです。

――1年くらい空いてますからね。今のさユりさんがどんなライブをするのか、僕も楽しみです。そういう点も含めて、いまご自身の目指すアーティスト像みたいなものはどんな風に考えていますか。

気持ちとしては、やったことのないことは全部やってみたいと思うんです。その中で何が軸になっていくのかが楽しみな部分なんですけど、一番は場所にとらわれたくないなと思います。「ここでしかやれない」みたいなことじゃなくて……ずっと思うのは、森で歌ってみたいとか。夜空が見えるところでも歌ってみたいし、ずっと路上ライブをやってきたみたいに急に街のど真ん中で歌ってみたい気持ちもあるし。

――それって、具体的な意味の“場所”だけじゃなくて、フィールド、シーンとか、「なんとなく今さユりさんの音楽を聴く人ってこの辺」みたいに想定できる層じゃないところ、みたいな意味も含まれてきそうですよね。

あぁー、そうですね! まだ全く聴いたことのない人が確実にいっぱいいるので、そこに聴いてもらえるきっかけになる曲を作りたいと思います。衣装も今回初めてポンチョじゃなくなって。今は多分まず写真の印象がドンと来て、そこから知っていくことも多いと思うので、ビジュアルが変わったことでどう広がっていくのかな?というのもひとつ楽しみな、実験的な要素かなと思います。MVも今までと違った映像になっているので、それもどう届くかが楽しみです。

取材・文=風間大洋  撮影=菊池貴裕

さユり 撮影=菊池貴裕

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