LE VELVETSの佐賀龍彦、宮原浩暢、日野真一郎、佐藤隆紀(左から) 撮影=五月女菜穂
2008年に結成された男性ヴォーカルグループ・LE VELVETS(ル・ヴェルヴェッツ)が、新アルバム『WORLD MUSICAL』をリリースする。昨年までのクラシック3部作に続き、今作は、メンバーそれぞれのミュージカル出演経験をいかし、世界のミュージカルソングを全10曲収録。LE VETVETSファンはもちろん、ミュージカルファンにとってもうれしい1枚となりそうだ。どのように選曲をして、どんな思いを込めたのか。メンバーの宮原浩暢、佐賀龍彦、日野真一郎、佐藤隆紀に話を聞いた。
ミュージカルファンもLE VELVETSファンも楽しめる1枚
−−ミュージカルファンにとっては待望の一枚となるのではないかと思うのですが、なぜ今、ミュージカルをテーマにしたアルバムをつくられたのでしょうか?
宮原:テレビで特集されたりと、今、ミュージカルは昇り調子。そんな時に、僕らも何もやらないわけにはいかないだろう、ということで作りました。僕たちは今まで、クラシックをベースにしつつもいろいろなものを歌ってきましたし、メンバー全員がミュージカルに出演したことがある。まさに今、このタイミングでしょう!
佐藤:そうですね。ファンから、ミュージカルのCDを聞いてみたいという声を前からいただいていたこともあって、このタイミングでやろうと決まりました。
スタクラフェス2019でもミュージカルステージに出演したLE VELVETS 撮影=大杉隼平
−−全体的にミュージカルの王道を選ばれた印象ですが、選曲はどのようにしたのですか?また、皆さんがそれぞれお気に入りの曲を教えてください。
1. My Favorite Things『サウンド・オブ・ミュージック』より
佐藤:みんなで意見を出しあって、各々やりたい曲をたくさん挙げて、その中から厳選していきました。
佐賀:王道の曲もありますが、エッジを効いた曲が2,3曲入っています。その辺りが今回のアルバムで面白いものになってくるのかなと思いますね。
宮原:そうそう。王道で歌い上げる曲ばかりだと、同じ色になってしまうので、例えば、『ジャージー・ボーイズ』の「Sherry」や「シェルブールの雨傘」などで変化を出しました。……僕は「時が来た」がシンプルに好きな曲ですね。いつか、やってみたい作品でもあります。
佐賀:僕は「My Favorite Things」。今回のアルバムならではのアレンジになっていて、面白いのではないかな。最初はボレロのリズムから始まるけれど、途中から最後まではジャジー。僕らは歌い上げていくスタイルが多いなかで、変わり種だと思います。
佐藤:今回はかなりこだわったんですよ。佐賀さんの中で、ひとつ、この曲のイメージを持っていて、それをみんなでディスカッションしながらつくっていきました。僕たちが今まで聞いてきたことのあるもので歌うと、佐賀さんが「違う。もっとこうやって欲しい」と。「なるほどこうやってみよう!」と。そうやって積み上げてきて、新しい世界観ができたと思います。格好いいですよ。
佐藤隆紀(スタクラフェス2019より) 撮影=上溝恭香
宮原:うん。クラシックで歌い上げて、重ねていくスタイルが僕たちの魅力だったと思うのですが、この曲は新たな魅力を発見できた楽曲の一つだと思います。
日野:僕は全部好きなんですけど…特に「オペラ座の怪人」がみなさんが知っているアレンジではなく、ロック調でやっているんですね。本当はクリスティーヌと怪人が歌うのですが、僕ら4人で歌っているので、この世の中に一つしかない「オペラ座の怪人」ができたなぁと思います。ミュージックビデオもこの曲で撮影したので、ぜひ聴いていただきたい曲の一つですね。
佐藤:僕はやはり出演させていただいた『レ・ミゼラブル』の「民衆の歌」、『エリザベート』の「闇が広がる」にはすごく思い入れがありますが、「時が来た」も好き。それから、「Sherry」もいい。昔、ミュージカルをやる前から歌ってみたいとメンバーには提案していたんですが、その当時はみんな、なかなか乗り気ではなかったんですよ(笑)。…でも1曲挙げるとしたら、「民衆の歌」でしょうか。レミゼも終わったばかりなので…(※佐藤は『レ・ミゼラブル』2019で、ジャン・バルジャン役を演じていた)
佐賀:ミュージカルファンで、楽曲をよく知っている人が聞いても、僕らならではの魅力が出ればいいなと思っていて。10曲ともどこかに僕らのテイストが入るように工夫しています。
日野:「Seasons of Love」とか結構歌っているけど、CDに入るのは初めてだよね。もともとあるアレンジを、佐藤くんが歌い分けなどをまとめてくれて。
佐藤:4人で曲に厚みを出すのは難しいなと思ったけれど、ファルセットなんかを入れながら作りました。
−−英語と日本語、ときにフランス語で歌い分けられているのは、自然と決まったような感じですか?
佐賀:そうですね。あまり揉めずに、自然と決まりました。
佐賀龍彦(スタクラフェス2019より) 撮影=上溝恭香
佐藤:知っている人からすると、邪道だと思うような和音の使い方もあるかもしれません。普通なら1人でパーンと気持ちよく張るところを厚いハーモニーでやっていたりするので。でも、それが逆に僕らっぽくて面白いなと。4人ならではのコーラスの厚みを楽しんでもらえたら嬉しいなと思います。
−−ミュージカルファンの方も発見があるし、ファンの方も大満足というわけですね!
佐藤:そういうことです。うまくまとめていただきました(笑)。
非日常感・伝えるということ…メンバーが感じたミュージカルの魅力
−−メンバーの皆さんそれぞれがミュージカルの出演経験がありますが、改めて感じるミュージカルの魅力とは何だと思いますか?
宮原:僕はオペラから入っているのですが、オペラは本当に玄人好みなんですよね。原語でやることも多いですし、一見して分からないことが多い。でも日本語にするとまた、ベルカント(※“美しい歌”という意味)の良さが出なかったりもする。そう考えると、ミュージカルは誰が見ても分かるように日本語で演じられていますし、衣装もステージも豪華ですよね。オペラは声や発声にものすごく比重を置いている部分があるのですが、ミュージカルはお芝居や演技力も問われる。そういう意味では、オペラも総合芸術ですけど、一般の方にも理解していただきやすいのがミュージカルなのではないかなと思いますし、そこがとても魅力的だと思います。
佐賀:生の舞台で、違う人の考え方や生き方を疑似体験できるということがすごくいいと思います。例えば、ポップスなど、曲だけ3分間聞いていて、それを体験するというのもいいんですけど、正直、曲調も歌われる心情も飽和状態になってきていると思うんですよ。しかし、新しいエンターテインメントとしてのミュージカルは、人それぞれいろいろなドラマがいっぱいある。劇場に行けば、それらを丸ごと体験できる。大好きな役者さんたちが演じていたり、Wキャストなら違う人のバージョンで見てみたりする楽しさがある。そういうところが魅力的なんだろうなと思います。
−−ご出演されたものでも、他でも構いません。一番好きなミュージカルは何ですか?
宮原:僕が今までやった作品では、一番最初に出演した『グランドホテル』はとても魅力的でしたね。役をいただいた初めての作品でした。お芝居もあり、歌もハードルが高かったこともあり、すごく印象に残っています。まだまだミュージカルについては詳しくないので、これからもいろいろ観たいですね。
宮原浩暢(スタクラフェス2019より) 撮影=上溝恭香
佐賀:僕はね、小さい頃からずっと聞いていたのが『オペラ座の怪人』でした。今回のアルバムにもたまたま入ったのですが、小さい頃からずっと聞いていて、一人でずっと歌っていました。大好きなミュージカルです。
−−日野さんと佐藤さんはいかがでしょうか。改めて感じるミュージカルの魅力を教えてください。
日野:舞台に出演する側も、非日常のことが体験できるというのは魅力ですよね。まぁ役によると思いますけど、家に帰った後も、入り込めば入り込むほど、役を引きずって鬱っぽくなる時もあるし(笑)。そういうことを積み重ねてこそ、お客様に伝わるものがあるし、そこが魅力ですよね。僕たちも、お客様に非日常の体験ができるようなコンサートを作り上げたいなと思っています。
佐藤:佐賀さんが言っていた通り、”生”ということだと思うんです。映像で見るのではなく、自分の足を運ぶという苦労をして、生で体験をする。それは、すごく得るものがあると思うんですよね。ミュージカルやコンサートといった“アナログ”なものが改めて人気になってきて、そこでいろいろな役者が出てきて、相乗効果で人気になっているんだろうなとは思います。
僕はミュージカルの世界に入って一番感じたのは、伝えるということなんですよね。クラシックをやっているとどうしても技術に走るし、分かっているつもりでも伝えるということは二の次。歌えて当然、そこから伝えるという感じなんですが、ミュージカルは“伝える”がないとお話にならない。そこは学びでした。LE VELVETSの活動に戻ってきたときも、より、”伝えよう”という気持ちが湧いてきて。今までは技術面ばかり考えていた面もあったけれど、4人とも少しずつ“伝えよう”という気持ちが湧いてくると、ステージからお客さんに飛んでいくエネルギーも変わっていく気がします。それはすごく肌で感じたし、ミュージカルの魅力、そしてミュージカルに教えてもらったことだと思いますね。
−−ミュージカル作品で一番好きな作品は何ですか?
日野:僕は『エリザベート』ですね。佐藤くんが出ていたので観にいったんですけど(※佐藤は『エリザベート』2015・16年にフランツ・ヨーゼフ役として出演していた)、それ以外でも3回は観ていますから。お話の流れも好きですし、曲も好き。黄泉の国から来た、非日常のトートが、現実と共存している場面を観ているのが面白いです。
日野真一郎(スタクラフェス2019より) 撮影=上溝恭香
佐藤:いや…これはちょっと決められないですね。好きだと思っていても、出演すると変わるんですよ。『レミゼ』も好きだったけれど、出演すると、まともに観られない感じがするし…。
−−そうですよね(笑)。では佐藤さんが一番最初に出会ったミュージカルは何だったんですか?
佐藤:一番最初に出会ったミュージカルは、えっとね…『ウェディング・シンガー』か『モーツァルト!』。
宮原:ほほう、なかなかマニアックだね(笑)。
佐藤:チケットをいただいて、観にいって、すごく感動したのを覚えています。うわぁ〜!話が進む!と思って(笑)。というのも、オペラって話が進まないんですよ。悪く言っているわけではないのですが、オペラは長時間のものもあって、歌をしっかり楽しむスタイルなんですね。「愛している〜」ということを伝えるだけで、5分歌う。その点、ミュージカルはどんどん話が進んでいくので、そういう面白さはすごく感じました(笑)。
−−最後に、この新アルバムをどんな方に聞いて欲しいか、これからの活動の意気込みも含め教えてください。
宮原:これだけミュージカルの世界が活気づいているので、僕たちを知らない人にも、僕たちのことを知ってもらえるきっかけになるのではないかなと思います。。バラエティのあるいいアルバムになったと思うので、ファンの方はもちろんですが、皆様に楽しんでもらえると思います。
佐賀:僕たち自身でしか作れないエンターテイメントをこれからも模索しながら、深く人の心に入っていけるような活動をこれからも続けていきたいです。このアルバムもそうした一つになればいいなと思います。
日野:ミュージカルファンの方にはもちろん聴いていただきたいんですが、ミュージカルについてあまり知らない方でも、僕たちのこのアルバムを聴いてもらって、僕たちの声を好きになってもらって、そのあとミュージカルに興味を持ってもらえたら最高ですね。あまり限定せず、なるべく多くの方に手にとっていただいて、ミュージカルの魅力、それから僕たちLE VELVETSの魅力を知るきっかけになるアルバムになればいいなと思います。
佐藤:ミュージカルファンの方にはもちろん聴いていただきたいです。今回はあえてミュージカルファン以外の方もどこかで聴いたことがあるような曲が入っているので、そういう曲を通じて、ミュージカルに興味を持ってもらえたら嬉しいですね。前々からちょっと興味があったけど…という方も、最初に手に取るCDとしてはうってつけなのではないでしょうか。僕たちがミュージカルとの架け橋になるといいな。音楽というものは本当にジャンルが関係なく、いい旋律はいいので。今回は僕たちのミュージカルの世界観、音楽を楽しんでもらえたらいいなと思います。
取材・文=五月女菜穂
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