DedachiKenta 撮影=河上良
「人生は難しい、時にそれはロケット科学みたいだ。でもそんな時でも、自分は然るべき場所にちゃんと立っていて、自分を信じていれば不可能はない」そんなメッセージが込められたDedachiKentaの1stアルバム『Rocket Sience』がリリースされた。日本とLAを往復しながら1年という短い期間で、たくさんの音楽家に出会い、様々な制作プロセスを経験したDedachiKenta。初期衝動が詰め込まれたデビューアルバムであり、これからの自身の音楽活動に一生影響を与え続ける音楽体験にもなったという。
DedachiKenta
――今はアメリカから一時帰国中ということですが、大学はもう始まっていますよね?
はい。そうですね(笑)。
――大学が始まっているのに日本に帰ってきて大丈夫なんですか?
今回はちょっと特別です。先生に土下座する勢いでお願いして、なんとか許してもらいました(笑)。 今までは夏休みや冬休みなど長期休みの期間にしか帰っていなかったのですが、今回初めてそういう時期以外に帰ってきました。大学で専攻しているのが音楽なので、先生に「アルバムが出るから日本に帰っていい?」と聞いたら、音楽に関連することなのでOKがでました。
――クラスにそういう人は結構いるのでしょうか?
いや僕だけですね。周りの人たちも「えっ、今帰るの?」と驚いている感じです(笑)。 ちょうど今、中間テスト期間なんです。
――今年は夏季休暇以外にもライブやフェスで帰ってくることがあったようですし、今回のようにリリースのタイミングで日本に帰ってくることになったり。大学生活の中で日本とアメリカを行ったり来たりすることが、ここまで増えるというのは想像できていましたか?
時々日本に帰って音楽活動をするくらいのことは考えていたんですが、今くらい多くなるというのは想像していませんでした。思ったよりも色んなことが出来ている実感はあります。
――自分の予想以上に色んなことが起こっている感覚もあると。
そうですね。ありますね。
DedachiKenta
――そんな中で1stアルバム『Rocket Sience』が10月30日にリリースになりました。改めて、出来上がってみての感想を教えてください。
1年という短い期間ですけれど、この間に沢山のことをやって、それが実際にCDになって。最初にCDを手にした時はすごく感動しました。今まで頑張ってきたのがこういう形になったんだと思いました。
――収録されている曲は全てこの1年で作られたのですか?
そうですね。曲づくりはもう少し前からKOSEN(Colorful Mannings)さんというサウンドプロデューサーにお会いしてスタートさせていたんですが「I can’t seem to let you go」「Alright」「Ambiguous」などは、KOSENさんとのプリプロを始めてすぐにできた曲たちです。レコーディングは去年の夏に半分ほど終わらせていたのですが、今年の夏にそれをもう少しブラッシュアップしてレコーディングしなおしたりしました。そのほか、今年になってLAで書いた曲や、アルバムを見据えて日本で書いた曲が数曲あります。
DedachiKenta / This is how I feel
――KOSENさんは今のDedachiKentaさんの活動にはなくてはならない存在になっていますよね。KOSENさんと最初に会ったのはいつですか?
去年の5月くらいですね。
――アメリカに渡る前に会ってるんですね。KOSENさんはアルバムのほとんどの曲に参加されています。今回のアルバムはまず1曲目が「Rocket Sience」。アルバムタイトルと同じ名前の曲を1曲目にいれています。英語でポエトリーリーディングをされていますね?
はい。「Life is not easy」というフレーズから始まります。「Life is hard」というよりは 「Life is not easy」 と言ったほうがよいかなと。「人生は難しい、ではなく、人生は簡単ではない」という言い方をしたかったんです。その方が自分にとってしっくりきたんです。そして「Sometimes it feels like Rocket Sience」と続きます。Rocket Sienceというのは英語だと「ロケット工学」そして「難しい」と意味になるんです。なので、この表現は「Life Is not easy」を「Rocket Sience」という言葉を使ってもう一度表現しました。
――なるほど。
そしてそこから<人生が難しいと感じた時。そんな時でもどうか忘れないで、あなたは今自分がいるべき場所に立っているんだよ>と続きます。僕の父がずっと言い聞かせてくれた言葉なんです。「なぜ僕は今こんなことをしているんだろう、こんなはずじゃないのに」というような状況って誰にでもあると思うんですけど、「今、起こっている出来事は自分にとって大事なことなんだよ」というような意味を込めています。そしてそこから<信じて行動すれば全ては可能だよ>と続きます。
――このポエトリーリーディングが1曲目ということは、これがアルバムを通して一貫するメッセージということでしょうか。
そうですね。アルバムの大きいメッセージテーマです。
DedachiKenta
――そしてこの1曲目の「Rocket Sience」はプライベートで録り貯めた音源を自ら編集したんですよね?
はい。全部iPhoneで録った音なんですけど。例えば、去年イスラエルに行った時に海に浸して録った海中の音だったり、昔、撮影した家族との思い出のビデオからオーディオを抽出して使ったものもあります。そんな音もあれば、特に思い入れのない蛇口の音もいれました(笑)。 ある音は自分にとって凄く意味があるけれど、ある音はそうでもない、みたいな感じですね(笑)。
――赤ちゃんの声も入ってますよね?
赤ちゃんの声は実は二つ入っていて、一つは僕の弟の声で、もう一つは僕のルームメイトの家族の会話の中の声です。今までの自分のストーリーを表現したいなと思っていて、電車の音は乗ればどこにでも行ける日本をイメージしたり、実家の周りで録音した風の音なども入れています。
――面白いですね。そしてアルバムは「This is how I feel」「Fly Away feat.Kan Sano」「I can’t seem to let you go」と続いていきます。「I can’t seem to let you go」は、このアルバムの中では早い段階に出来た曲だと先ほどおっしゃっていましたね。
そうですね。昨年の5月頃に出来た曲で、「Fly Away」も同じくらいです。「This is how I feel」だけ、KOSENさんと出会う前、僕が17歳のときに初めてつくった曲です。
DedachiKenta / Ambiguous
――そして、そこからアルバム先行連続配信3部作のひとつでもある「Ambiguous」、Music Videoもリリースされた「Life Line」へと続きます。この「Life Line」という言葉にはどういう意味が込められているのでしょうか。
歌詞の中で二つの意味を持たせています。ひとつは命綱。ボルダリングなどをする時につけたりするやつです。そしてもう一つは綱渡りの綱。人生は綱渡りのようで、風が吹く時もあるし進むのは難しいという。自分が繋がっている命綱と、綱渡りしている綱。この二つの意味を持たせていて、メッセージ性の強い曲だと思います。
DedachiKenta / Life Line
――「20」という曲はアダム・キャピットとクリスタ・ヤングスが参加しています。今回アルバムのクレジットを見ると、海外アーティストがソングライトに参加しているのはこの曲だけですよね?どういう経緯でこの1曲が生まれたんでしょうか?
今回、KOSENさんとの共作が何曲かあるんですが、アメリカに住んでいるのだから、現地のクリエイターとも一緒に作ってみようというのがキッカケです。今年の夏休みに日本へ帰ってくる直前の2日間、コライト(co-write)と言われる制作日を設けて、アダムやクリスタ以外にも加わってもらい、合計3曲つくりました。その中の1曲が「20」なんです。
――今までの制作と違いはありましたか?
そうですね。「5時間で1曲作ろう」というのは今までになかった経験でした。時間に縛られて曲を制作するということがなかったので、どういう作品が出来あがるのか凄く興味深かったです。5時間の中でゼロからメロディーも歌詞も作るのですが、彼らのスピードには本当に圧倒されました。僕はいつもインスピレーションが湧き出てくるのを待つというような曲作りをしているのですが、こういうソングライティングの仕方もあるんだなと勉強になりました。あと外国のクリエイターと一緒に曲を作ること自体が初めてだったので、歌詞の作り方を見て学べたのは凄くいい経験になりました。
――アメリカでレコーディングしたといえば「More than enough」はLAのEastWest Studiosで録音されています。このスタジオはフランク・シナトラ、ザ・ビーチ・ボーイズ、マドンナ、U2、最近ではフランク・オーシャンの「Blonde」が録音された名門スタジオです。どんな感じでした?
とにかくすごく大きかったですね(笑)。 歴史を感じましたし、オーラがありましたね。説明しにくいのですが、伝統を感じる雰囲気というか。場所自体が持つ力みたいなものがありました。
――凄そうです。
実は、さかいゆうさんも同じ時期にロサンゼルスでレコーディングしていたので、同じスタジオで、同じ現地のミュージシャンに参加してもらうことができたんです。EastWest Studiosはゆうさんのセッションが先にあって、その後の時間を使わせてもらって。
――インスタでLAで一緒にいる投稿を見てましたが謎が解けました(笑)。
そうなんですよ(笑)。ゆう先輩のレコーディングを間近で見せてもらえたことも貴重な体験でした。
DedachiKenta
――あとアルバムのマスタリングエンジニアもアメリカの方ですね。チャーリー・プース、アリシア・キーズ、ポルトガル・ザ・マンなどもてがけたミシェル・マンシーニです。
凄かったですね。このアルバムに入っている曲はひとつひとつ全く違うサウンドで、ミックス・エンジニアの方も違うんですが、ミシェルにマスタリングしてもらっている時に、初めてアルバムを作っているんだなという実感が湧きました。全てが一つの作品に向かっている感覚がありました。
――アルバムを通して聴くと音の感触の統一感は凄く感じますよね。そしてボーナストラックには「Fly Away feat.Kan Sano」、「Ambiguous」、「Life Line」のEnglish Versionが収録されています。English Versionを入れた理由を教えてください。
僕は英語で歌詞を書くんですね。それに後から日本語にトライした曲たちなので、もともと英詞のものが存在するんです。配信版は3曲が入れ替わっていて、逆に日本語バージョンがボーナストラックになっています。
――English Versionは「Fly Away feat.Kan Sano」が「Catch Me If You Can」、「Ambiguous」が「Chromatic Melancholy」、「Life Line」が「AYUMI」とタイトルが変わっています。
曲を配信用に登録する時に、中身が違うのに同じタイトルで登録することは出来ないと聞いて。普通だったらどちらかに“English ver.”とか“Japanese ver.”をつけることになると思うんですけど、チームで話した時に、それはかっこよくないなという話になって。そして色々アイディアを出し合う中で、別のタイトルを付けたらいいんじゃないかという結論になったんです。
――なるほど。
例えば「Fly Away」 のタイトルを決める時に「Catch Me If You Can」というタイトル案を出したんですが、日本語バージョンにはわかりにくいんじゃないかという意見があって。なのでEnglishバージョンでそれを使いました。
DedachiKenta / Fly Away feat.Kan Sano
――デビューしたのが昨年の末でした。改めてそこからファーストアルバムまでどうでした?
(指をパチンとならして)こんな感じでしたね(笑)。凄く楽しかったし、あっという間でした。早かったです。
――激動で、色んなことが起こってますよね。1stアルバムをリリースしたここからはどんな感じで活動していくかイメージはできていますか?
やはりまずはこの作品を大事に活動したいです。そして、今回この作品を通して色んな人とコラボして、制作過程で刺激になることが凄く多かったんです。なので今後も色んな人と一緒に音楽をつくることで更なる引き出しがどんどん増えていくんじゃないかと強く思ったので、積極的にコラボはしていきたいですね。
――自分の制作プロセスという面で、大きな経験、転換点になった1枚ともいえそうですね。
そうですね。このアルバムに入っている曲は僕が一番最初に作った曲たちでもありますし、僕に一生影響すると思います。ここが「スタート」という感じがします。
――スタートでありながら、今後の自分に影響を与える1枚になったと。今後の活動がますます楽しみです。今日はありがとうございました。
ありがとうございました。
DedachiKenta
取材・文=竹内琢也 撮影=河上良
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