スカパラ、音楽ジャーナリスト・鹿野淳氏によるスカパラ愛あふれるライナーノーツ公開
東京スカパラダイスオーケストラが、11月20日にデビュー30周年記念オリジナルアルバム「ツギハギカラフル」をリリースするにあたり、音楽ジャーナリスト・鹿野 淳氏によるスカパラ愛あふれるライナーノーツが公開された。
デビュー前年の1988年にスカパラと出逢ったときのことを振り返りながら、デビュー30周年のこのタイミングで世に放たれた「ツギハギカラフル」というアルバムを、スカパラのドラマー茂木欣一の言葉を交えながら鹿野氏独自の視点で綴られている。
音源とともにライナーノーツも要チェックだ。
「ツギハギカラフル」ライナーノーツ
最初にスカパラを知ったのは、30年よりもっと前の1988年。同じ職場に派遣されていた元メンバーの方が、急に毎日持ってくる楽器がベースからサックスに変わり、「今はもうライヴハウスとかホールじゃないんだよ。今はストリートやクラブなんだ」と言いながら夜に渋谷の裏通りに来いというので伺ってみたら、なんか強そうで怖そうで変そうな人達がみんな楽器を持って来て、豪快にその楽器を振り回しながら演奏をしていた。あの最初に観た衝動というか異常さは、今でもはっきり覚えている。あの時から、30年以上前から、スカパラはとにかく破格だったーー。
当時は物珍しかったストリートやインクスティックというクラブで威嚇するように、でもやたら楽しそうに楽器をぶん回してライヴをやっていた猛者達が、30年以上後にお茶の間や世界を股にかけ、彼らがいる間だけはその時間と空間がピースフルに包まれる最高の音楽集団として君臨するとはまったく思わなかったが、本当にどんなバンドよりも色々なことがあった分だけ、いや、その倍返しと言わんばかりに2019年の東京スカパラダイスオーケストラは、その名前以上の風格と誇りを従えた魔法のような幸福の坩堝そのものになった。
そんな彼らの30年間の様々な想い、経験値、覚悟、そして哀しみと、哀しみがあったからこその無上の喜び、そのすべてを詰め込んだ22枚目のアルバムが、「ツギハギカラフル」である。
「”ツギハギカラフル”って言葉が、まさにスカパラそのものだと思ったんです。途中で辞めていったメンバーや亡くなったメンバー、途中から参加したメンバー(僕もそう)、30年間で出会ってきた実にさまざまな人たち。みんな一緒にスカパラを作ってきた人たちなのだから、このアルバムは「ツギハギ」で「カラフル」な30年間のスカパラの集大成だと思うんです。……何のために奏でているか? もちろん売れるためのポップミュージックを作るというのは命題だけど、それ以上に、みんなで心を一つにして夢中になれる作品を生み出そうということを、ただただ考えていたような気がします。もっと人の心の深いところに届ける音を、みんなで目指してるサウンドな気がします。実際、スカパラの音がこんなに気持ち良く響いてるアルバムは、この数年でダントツこれだと言い切れます」(茂木欣一)
このアルバムはスカパラの伝家の宝刀の2本をそれぞれはっきりと示すべく、敢えて「歌モノ盤」と「インスト盤」の2枚組となった。
彼らの「柔」であり「筋肉」である数々の歌モノは、2001年以降のバンドのストーリーを抜本的に変えた。そんな進化と深化を遂げつつバンドの真価を更新してきた歌モノの力や歴史に寄り添うより、その「歌」と言う奥義に今まで以上に真摯に向き合うことにより、このアルバムの9曲もの歌モノは東京スカパラダイスオーケストラが何であるのかを、あまりにも雄弁に「鳴らしている」。例えば最終曲である“風のプロフィール”を聴いて鳥肌を立てない方はよほどお肌が荒れているか神経が図太いと推測するが、この曲がもたらすもの、それは「継承」であり「生き様」であり「丸裸な愛」である。それを生み出せるのも、言霊を紡ぎ出せるのも、覚悟を鳴らせるのも、技術を踏まえた上で技術を超越した存在感とスカパラという屋号に対する誇りがもたらしたものとしか思えない。僕らは心の中に情報というホコリばかりをしまい込んでしまい、ついつい生きているという誇りを見失いがちだが、このアルバムの「歌」は、それを示してくれる。
そして彼らの「剛」であり「骨」である数多くのインスト曲は、幾度となく世界に進出するための「言葉なき無限のメッセージ」となった。オーセンティックなスカのマナーをガツっと持ち得ながら、同時にダブ、ラテン、ロックというボーダレスなリズム解釈を自由に駆使する音とリズムのランデブーは、アメリカやヨーロッパのみならず、メキシコや南米において絶大なる人気を誇るようになった現在のスカパラの(小泉進次郎風に言うと)セクシーな魅力そのものとなった。そんなバンドの芯であり本質であるインストが、近年の経験の中でどれだけファンタジックなものになっているのかを、彼らのホームである日本で改めて真価を問うべく、とにかく気合が入りまくったトラックが8曲、並んでいる。スカパラにしか鳴らせないインスト、それは「音が歌っていること」。もう本当にこのインスト盤、世界の中心で愛のガッツポーズだぜ。
30周年だから生まれたアルバム、30年間何があっても止まらなかったから生まれたアルバム。確かにその通り。だけど、このアルバムが素晴らしいのは、30年間も止まらず続けて来たのに、今なお、1秒1秒、すべてと新鮮な気持ちで向かい合っていることがそのまま音やリズムや音楽になっていることだ。
「今回は遂に次元が違うところまで来れたなっていう感慨です。もちろんこれからも活動は続きますが、これが最後のアルバムだったら有終の美だね!!」(茂木欣一)
生きていることは、それ自体が素晴らしい唯一のチャンスなんだと。やるかやらないかと考えた場合は、まずやろうと。それを教えてくれる東京スカパラダイスオーケストラ、今は富士山の何合目でスカ?
鹿野 淳(MUSICA)