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さかいゆう × クラウド・ルー 近い嗜好とルーツで共鳴する日台シンガー・ソングライター対談が実現

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クラウド・ルー / さかいゆう Photo by Santin Aki

クラウド・ルー / さかいゆう Photo by Santin Aki

ともにR&B、ソウル、ジャズといった音楽から多大な影響を受けながら、片やピアノ、片やギターをプレイしつつポップスへと昇華させているシンガーソングライター2名――日本のさかいゆうと台湾のクラウド・ルーによる対談が実現した。互いの音楽性やライブの印象から、ともに敬愛する名ギタリストについて、さらにはルーツである洋楽と自国の音楽への向き合いかたに至るまで、随所で共通項が見出されていく貴重なトークとなった。

――初めて会ったのは一青窈さんのライブでしたよね。

さかい:そのとき俺は、ルーはめちゃめちゃ良い声で歌うポップ・シンガーかなと思ったんだけど、ライブ(昨年のワンマン)を観に行って驚きましたね。声が良いっていうのは分かってたけど、ライブのテクニックがもうすごかった。スティーヴィー・ワンダーとハナレグミと秦 基博とエド・シーランがこう、ボンって合わさったくらいの衝撃(笑)。自分がやりたいことをやられてた。

クラウド:一青窈さんのライブで初めてさかいさんのライブを観て、それこそ「いま会えるレイ・チャールズ」の演奏を聴いたようでした。ピアノのテクニックが耳に残るし、心に響く言葉があって。

さかい:ありがとうございます。謝謝!  もう褒めることしかできないですけど、ミュージシャンシップというか、ライブを観てミュージシャンとしても凄いなと思った。すごくポップだし、キャッチーなメロディを作るんだけど、その裏にあるギターのテクニックとかボイスコントロールとかは本物だなと思いました。曲作りで気にしていることってありますか?

クラウド:いま自分で曲を作るときには、まず初めに曲が優先されるんですけど、このメロディはすごく感動を覚えるなっていうものが思い浮かんだときに、それを曲の一番最初にするのか、サビにするのかを最初に決めようと思ってます。

さかい:すごく洋楽にも聴こえるんですけど、曲を作っていて「自分はアジア人だな」って思う瞬間はありますか。僕は日本人ですけど、日本人であることが良くはたらくことってあると思うんですよね。それを(クラウドの音楽から)すごく感じるから。洋楽では聴けない洋楽というか、そこにシンパシーを感じて、感動したんですよね。これは絶対にスティヴィー・ワンダーにも作れない曲だなって。

クラウド:さかいさんの曲からも、自分はすごくそれを感じていて。洋楽をよく聴いて、バックグラウンドにはそれがあるかもしれないけど、自分たちの頭の中のどこかにチェンジャーみたいなものが付いていて、そのスイッチを切り替えると洋楽を自分たちのものに書き換えることができて、自分たちのアレンジができる。

さかい:そうそうそう!

クラウド:最初にさかいさんの曲を聴いたとき、きっと同じような音楽を好んで聴いてるんだろうなって感じたけど、使っているメロディだったり和音だったりは、自分が考え付かないような使い方をしているので。例えるなら、全く同じ景色を描いているんだけど、描かれるものがちょっと違っているような気がしていて。

さかい:ああ、わかる。あと、ルーの好きなとこの一つが、甘い声とギターをブレンドさせて生まれる、音楽にしかできないすごく幸せなハーモニー。あれは同じシンガーとして「すげえな」「悔しいな」と思いながら、幸せの方が勝っちゃうというか。だから、そういった意味で刺激は受けたけど、またあの声とギターを浴びに行きたいなって思うライブでしたね。

クラウド:いやいや、さかいさんはピアノなので、悔しいとかではなく違いがあると思いますよ(笑)。

さかいゆう Photo by Santin Aki

さかいゆう Photo by Santin Aki

――さかいさんの最新アルバムにギタリストのジョン・スコフィールドが参加されましたが、この間、クラウドにも聴いてもらったら「すごくいいね」と。

さかい:ジョンスコは好き?

クラウド:すごく。だから、さかいさんが羨ましくて。あの曲も素晴らしいし、それをジョンが弾くことでさらに良いものが出てくるような感じがして。一番羨ましいと僕が思うのは、頭の中に描いているものを実現させているところ。そこは敵わないなって思います。

さかい:そこは絶対にやってやるっていう気合ですね。世界で一番好きなギタリストなので。

クラウド:僕もです。

さかい:まず一緒にやってもらうことがスタートだったから、自分の過去曲を――ジョンスコのマネージャーは奥さんなんですけど、その奥さんに送ってジョンにも聴いてもらって、そうしたら気に入ってくれて。そこから曲を書き始めたんですよ。

クラウド:へえ!

さかい:それでジョンと、自分の好きなビル・スチュアートとスティーヴ・スワロー――90年代のジョン・スコフィールド・トリオなんですけど、彼らのスケジュールが6時間だけ取れたんですよ。だから4~5時間で終わらせなくちゃいけなくて、でも、2曲あったんですけど、結局2時間くらいで終わりました。
それは上手いからっていうことではなくて、音楽にしようとする気持ちが超一流だなって思いました。(「桜の闇のシナトラ」で)自分が「この曲は"ニューヨークに咲く日本の桜"のイメージなんだけど」って言ったら、「そのディレクション、すごく気に入った」って、そこから急に音楽になっていったり。もう一曲の「Magic Waltz」っていう曲は、ジョンに「甘く泣いてくれ」って言ったら、そのプレイがなかなか終わらなくて、ずーっと。弾き出すと、一つのフレーズが広がっていって、そのフレーズに影響されて次のフレーズが出てきて、そのまた次のフレーズが出てきて……どんどん感動するからなかなか終われなくて。結局、曲が8分くらいになっちゃったっていう。

クラウド:(笑)。

クラウド・ルー Photo by Santin Aki

クラウド・ルー Photo by Santin Aki

さかい:これは初めて言うエピソードだけど、ジョンが一か所だけ、「一音だけ直したい」(音源を聴かせながら)「この一音だけ俺のイメージと違う所に行っちゃったから直させてくれ」って言い始めたんだけど、ビルとスティーヴが「お前はジョンスコなんだから直しちゃダメだ」「その違う音もジョンだから」って、結局直さずに。で、ジョンスコもやっぱり人間だった、って思った。

クラウド:はははは!

さかい:プレイしてる間は、ジョンもアツくなりすぎて泣きそうだったし、普段のレコーディングとは違う緊張感の高いものだったかな、セッションとしては。なんか、一個上に音楽の神様みたいなのがいて、そこから「良いセッションになーれ」って魔法をかけられてるような。
それはルーのライブでも感じたりするんだよね。凄い瞬間が何回かもあって、わかりやすくゾワゾワって鳥肌が立ったの。今、神がかってるなって。歌詞は分からなかったけど、声とギターとかのケミストリーが起きて、多幸感っていうのかな。それを俺らが浴びて、その状態が何時間も続いてる感じでしたね、ジョンとのレコーディングは。

クラウド:その感覚はよく分かります。台北でジョンスコがライブをやって聴きに行ったときに、彼が何回かずっとソロをやることがあって、それを聴いているときに自分も鳥肌が立ったり、神様が本当にそこにいるんだなっていう風に感じる瞬間がありました。だから、自分やさかいさんが幸せだと思うのは、やっぱり音楽をやっているだけに耳がすごく良いので、そういう本当に細かいディテールの部分を聴きとることができて、それを何か自分たちの中で昇華できるような能力を、二人とも持っている。音楽での幸せを他の人よりも感じることができるのかも。

さかい:ああ、そうかもしれない。良いこと言うね!(笑)

クラウド・ルー / さかいゆう Photo by Santin Aki

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――二人ともそれぞれの国で活躍しつつ、海外にも行かれてます。別の国のシーンに入ってアーティストやオーディエンスと交流することは、自分の音楽にも跳ね返ってきますか?

クラウド:さかいさんは日本以外の国で印象に残ってるライブとかあります?

さかい:僕、ロンドンとニューヨークとLAと台湾、香港くらいしか行ってないから、世界っていう感じじゃないんですよね。でも、日本でライブをやっているのと近い部分はありましたけど、良いライブをやると分かりやすく盛り上がってくれるし、英語のMCを考えたりするのも楽しいし。片言のペラペラなんで、僕(笑)。むしろ日本でライブをする方が、オーディエンスがそんなにオープンじゃないぶん、大変なんじゃないかと思いますね。
でも、僕はどこでライブをやってもあんまり変わらないです。現地の人も、ロックを聴きたいんだったらイギリス人の音楽を聴くし、わざわざ日本から来たからにはJ-POPSを聴かせてあげたいなと思って。僕の一番“J-POPY”なデビュー曲の「ストーリー」が、ロンドンの有名なジャズカフェで一番盛り上がりましたね。R&Bシンガーのやつらからも「どういう風に作ったんだ?」みたいに言われました。
だから、世界中のどこの人であることとかを、胸をはって、肩に力を入れずに楽しくやればいいのかなって俺は思いますね。僕らハイブリッドですからね、洋楽も分かってて、アメリカ人やイギリス人は絶対にわからないアジアンテイストも持っているから。ウィー・アー・ハイブリッド・ポップシンガー(笑)。

クラウド:ああー!

さかい:グルーヴは西洋のファンクとかジャズとか好きなんだけど、メロディとか言葉は、中国語とか日本語って英語とは全く違う。中国語も日本語も母音が強いと思うんですね。そういう独特な肌触りのものができるのは、逆に強みなのかなって。

クラウド・ルー / さかいゆう Photo by Santin Aki

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クラウド:うんうん。やっぱり言葉の違いは大きいですよね。自分の場合は、最初の頃はHIP-HOPやジャズ、R&Bばっかり聴いてきたので、どうやったら自分の声とギターだけでその全ての楽器を奏でることができるのか、いつも考えていました。それをずっと悩み続けて今に至る感じなんです。

さかい:それは良いヒストリーですね。上手くならざるを得ないですからね。ギタリストとシンガーの二人いるっていうことだから。ルーの場合はギタリストでも難しそうなフレーズを弾きながら歌をうたうから、変人かな?この人はと(笑)。
ジャジーな演奏をしながら、歌はすごくポップって、一番難しいんじゃないかなって思ってたんだけど。それはその一人でやらざるを得なかったって言うのが秘密だったんだなって。

クラウド:申し訳ないくらい褒めていただいて(笑)。

――お互いのこれからの活動に期待すること、それぞれやっていきたいことなどありますか。

クラウド:僕はまださかいさんのライブを最初から最後まで観る機会がないので、必ず観たいなと思います。

さかい:ルーはもう、今日話してて分かったけど、そのまま行ってほしいですね。変わった面白いスタイルでそのまま行って、世界で人気になってほしい。みんないつの間にか君のことを好きになっていると思いますよ。日本で人気になることは目に見えてるけど、日本の素晴らしいミュージシャンとかで会わせたい人はたくさんいますね。ルーのことを知らない人、意外と多いから。多分、ビビると思うからね、みんな(笑)。

クラウド:(日本語で)どうもありがとう。僕は本当に口下手なので、もし今度チャンスがあったら僕のギターとさかいさんのピアノでセッションしながら一曲でも書き上げて、色んな人に聴いてもらいたい。もっと伝播させていきましょう。それで愛の爆弾を色んなところに落としていきましょう。

さかい:愛の肉団子を。誰が肉団子や! でも、そうね。一緒にやる日がいつか来れば良いと思うし、楽しみに待ちましょう。タイミングは絶対に来るから、それまであせらず、ルーの音楽を聴いて勉強します。

クラウド:さかいさんも、さかいゆうのままでいてくれたら、良いものが生まれると思います。たとえば僕がご飯だったら、さかいさんがトンカツ、合わさったらカツ丼になるように。

さかい:グレイトコンビネーション! 肉団子と……誰が肉団子シンガーソングライターや!(笑)

文=風間大洋 撮影=Santin Aki

クラウド・ルー / さかいゆう Photo by Santin Aki

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