(C)WSS製作委員会 撮影:田中亜紀
2019年11月6日(水)より東京・IHIステージアラウンド東京にて上演中のブロードウェイ・ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』日本キャスト版 Season1。この公演について、トニー役は蒼井翔太、マリア役を笹本玲奈が演じ、アニータ役は三森すずこ、リフ役は上山竜治、ベルナルド役は中河内雅貴が務めた11月18日(月)13:30公演の模様をレポートしよう。
1957年に初演を迎えて以来、世界中で何度となく再演を重ねている“ミュージカルの金字塔”。1950年代の米・ニューヨークを舞台に、人種問題や移民同士の対立など、今なお続く社会問題を盛り込んだ現代版『ロミオとジュリエット』。
実は先日上演された海外招聘版を観た後で、今回この日本キャスト版を観たが、何と言っても“日本語で”台詞や歌を届けてくれる事が非常に嬉しい限りだ。北欧系移民のジェット団とプエルトリコ系移民のシャーク団が何故お互い反目し合っているか、どうして相容れないのか、自然と頭に入ってくる。もちろん映画版も拝見しているのでストーリーはすべて頭の中に入っているが、そうであってもダイレクトに喜怒哀楽を伝えてくれる“母国語”上演に改めて拍手を送りたい。
(C)WSS製作委員会 撮影:田中亜紀
改めて本作の見どころ、そしてキャストについて語ろう。360°回転するステージ上には、細部にまでこだわり抜いて作られた様々な場面のセットにまずは注目いただきたい。例えば2階にあるマリアの部屋は建物の正面玄関から階段で上がって入る構造となっているが、単なる舞台セットとしての階段ではなく、しっかりとした踊り場もあり、階段を挟んで部屋と反対側にはシャワールームも存在。いつでもここに住む事が出来そうな設えとなっている。それはトニーが務めるドクの店にもいえる事。手に取れる場所に置いてある酒瓶の数々や仲間たちが飲みながらワイワイ語るソファも適度に使用感を感じさせるヨゴシが施され、生活感満載。一方、体育館でのダンスパーティーの場面や2幕に入ってからの「Somewhere」ではセットを最小限、もしくは全く置かずに群舞の力だけで『ウエスト・サイド・ストーリー』の世界を作り上げている。ダウンタウンの人も物も密集した世界から、一気に視界が広がる様は格別この上なし。
蒼井翔太 (C)WSS製作委員会 撮影:田中亜紀
笹本玲奈 (C)WSS製作委員会 撮影:田中亜紀
(C)WSS製作委員会 撮影:田中亜紀
(C)WSS製作委員会 撮影:田中亜紀
そんな世界の中で物語を紡ぐ蒼井と笹本。蒼井について言うならば、こんなに美しい声で歌を歌える俳優がここにいたのか、とただただ感心。特に高音の伸びが非常に心に響き、もっと音量を上げて聴き入りたい声だった。
対して笹本は、これまで多くの作品に出演し、その美声を披露してきただけあって、安定の歌声。笹本が歌い上げるナンバーはどれも聴きごたえ抜群。笹本の張りのある強い声を蒼井の柔らかな声が包み込むという、耳福なデュエット。何度も拍手を送らざるを得なかった。
蒼井翔太 (C)WSS製作委員会 撮影:田中亜紀
笹本玲奈 (C)WSS製作委員会 撮影:田中亜紀
(C)WSS製作委員会 撮影:田中亜紀
笹本玲奈 (C)WSS製作委員会 撮影:田中亜紀
リフ役の上山、そしてベルナルド役の中河内はいずれもハマリ役。どちらも同じ移民ではあるが、ヨーロッパ系として先にアメリカに根付いているプライドのようなものを感じさせる上山のボス感、対する中河内は隙あらば勢力図を塗り替えようと虎視眈々とそのタイミングを見計らっているプエルトリコ系のボス感満載。映画版でベルナルド役を演じたジョージ・チャキリスのセクシーフェロモンにヤラれた往年のファンも少なくないだろうが、中河内も負けず劣らず色気あるベルナルドを演じていたのが魅力的だった。
上山竜治 (C)WSS製作委員会 撮影:田中亜紀
中河内雅貴 (C)WSS製作委員会 撮影:田中亜紀
(C)WSS製作委員会 撮影:田中亜紀
(C)WSS製作委員会 撮影:田中亜紀
そしてもう一人、アニータ役の三森の存在が非常に際立っていた。彼女は声優として名を上げた存在ではあるが元々は舞台、それもミュージカル畑の出身。マリアの兄・ベルナルドの恋人として、シャーク団の女性たちを引っ張る姉貴キャラとして、またマリアにとっては本当の姉のように心配し、力になる頼もしい存在を全身で演じていた。アニータが歌う「America」そしてマリアと二人で歌い上げる「A Boy Like That/I Have Love」は心に残る力強さを感じさせられた。
三森すずこ (C)WSS製作委員会 撮影:田中亜紀
(C)WSS製作委員会 撮影:田中亜紀
その他のキャストが輝く場面もある。2幕後半、ジェット団の若者たちが歌う「Gee, Officer Krupke (クラプキ巡査どの)」はこのシリアスな物語の中で数少ないコミカルな場面だ。
(C)WSS製作委員会 撮影:田中亜紀
会場には毎日このような香盤表が掲示されているので、一人ひとりの俳優をチェックしたい方はぜひこの場面をお見逃しなく!
オープニングからフィナーレまですべてが心震わせる名曲の数々。そこで生きる若者たちの行き場のない葛藤を描いた世界。一度体験してみてはいかがだろう。
取材・文・香盤表写真=こむらさき
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