誰もやらない“実況芸”の道を突き進む実況男の清野茂樹のセッションシリーズ第8弾の相手は、ドラムの可能性を果てしなく追い求めるピエール中野(凛として時雨)に決定!前代未聞のドラムと実況のセッションとはどんなものなのか?両者のソロパフォーマンスもあり、ここで見るしかない「ドラム」と「実況」による異種表現は、アート・ブレイキーや古舘伊知郎でさえもやったことのない“史上初のスーパーセッション”ではないだろうか。2019年の締めくくりに実現する一夜限りの異種即興芸について、二人を直撃した。
◾️そもそもこの対決とは何なのか?
──今回の対決は「実況とドラム」です。
ピエール中野(以下中野):最初にオファーいただいたときは、意味がわからなかったですね(笑)
清野茂樹(以下清野):そりゃそうですよね。毎回お願いするみなさんにはそう言われますけど。
中野:とはいえ、スペースシャワーTVの番組『モンスターロック』で清野さんとは一緒だったり、存在はもちろん知っていたんです。クラムボンのミトさんとも〈作曲と実況〉でイベント(『音楽が生まれる瞬間を実況したらどうなるのか?』2019年3月22日、青山月見ル君想フ)されましたよね? その告知を見たときに、「え? ミトさんと清野さん、何面白そうなやつやってるんだ?」って思ったんですよ。そのときはミトさんと清野さんであらたに立ち上げたイベントだと思ったんですよ。
──あのときは、ミトさんがコンピューターや楽器を使って制限時間内に作曲やアレンジをしていく様子を清野さんが実況していくという回でしたね。
中野:本番は結局行けなかったんですけど、配信でその様子を見たらあまりにも面白くて。でも、あのとき限りなのかなと思ってたら僕にオファーが来て、それで初めてシリーズもので清野さん主導だということを気がついたんです。それで、スタッフからこのオファーの連絡が来たときは、すぐに「やる!」と返事しました。絶対面白いからやってみようと。
清野:本当にご返事が早かったんですよ。
中野:やると決めてから、内容はあとでなんとかしようと。
──先にミトさんとのイベントを把握されてたのが大きかったんでしょうね。
中野:そうですね。どういう空気感でやってるのかもわかったし、清野さんの実況のスキルが高いことも知ってるので、「これはまあ何とかしてくれるんじゃないかな」と。僕もひとりだけでドラムのパフォーマンスもできるので、これが掛け合わさったらどんなふうになるのかなと。あんまりこういうオファーはないので。「あんまりない」じゃないか、こんな特殊なオファーは初めてです(笑)。それは積極的にやっていったほうがミュージシャンとしてもかっこいいし、挑戦していくことをやり続けたいんですよ。
「クラムボンミトと清野茂樹」の模様(2019年3月22日)
──今も話題には出てましたが、実はこの清野さんのイベントはシリーズでずっと続いてるんですよね。落語(春風亭一之輔)、活弁(坂本頼光)、ラップ(SKI-HI)、作曲(ミト)、浪曲(玉川太福)、紙切り(林家正楽)、謎かけ(ねづっち)と続いて、今回がドラムという流れなんです。こうして対談の構成をしていても清野さんの情熱には頭が下がりますが、同時に「なぜここまでやる?」ともみなさん思ってるでしょうね。
清野:いやー、ぜんぜん伝わってないし、評価もされてないんですけどね(苦笑)。でも、やっぱり何とか実況の地位をよくしたいという気持ちがあるんでしょうね。
中野:執念でしょう、それは。先日打ち合わせでお会いしたときもそれは感じました。「この人は執念がある人だ。ヤバイ!」って(笑)
清野:そうなんですか!
中野:そういうヤバイ人には積極的に関わっていきたいんですよ。
ピエール中野 Photo by西槇太一
◾️実況のすごさをドラムで掘り下げて伝えたい
清野:やっぱり実況という技能は元々が裏方のものですし、まったく注目されないわけですよ。いくらラグビーのW杯や野球のプレミア12が世間で注目されても、実況が誰だったかは話題にならない。その場を支えている実況というスキルをもっと知ってもらいたいというのが、僕の想いなんですよ。
中野:実況って、テレビやラジオをつけたら生活のなかで当たり前に行われていることなので、僕もそのスキルに注目することはなかったんです。実況アナウンサーの方って、平然とやってるじゃないですか。でも、これは「やる側」になるとわかるんですが、めちゃめちゃスキルも必要だし、準備も必要。それってあんまり知られてないですよね。僕もインタビュアーの仕事や番組のMCもしたことありますけど、まあとんでもなく難しい! これは「やってみないとわからない」だし、「伝わりにくい世界」だなとも思ってます。だから、清野さんのことはあらためてすごいなと感じてます。
清野:いやいやいや。
中野:でも、今は「裏方に注目する」っていうのは、音楽の世界ではわりとドキュメンタリーとかテレビ番組とかでクローズアップされてますけど、あれをもっと幅広いジャンルでやったら面白い教育番組が作れるんじゃないですか。そのひとつに「実況を掘り下げる」というのがあったらいいだろうし。僕も今回、清野さんとの実況とドラムで、実況のすごさを掘り下げて伝えることができたらいいなと思うんです。
──とはいえ、舞台の上にあるのは、実況とドラムです。どういうふうになるのかというのは、みなさん想像できたりできなかったりなのでは?
清野:うーん、そうですよね。今回は音楽の人とやろうというのは決めてたんですよ。やっぱり、話芸でねづっちまで行ったんで、その真逆にして音楽に振りたくなったんです。そのなかでもドラムだなというのは、自分ではすぐに決めてました。ラップ、作曲ときて、次はドラムだろうと。そのなかでもピエール中野さんがいいと思ったのは、ドラムだけでなく、イヤホンやリュックを作ったり、自分から何かを発信しているタイプの活動をされているドラマーだという認識があったからなんです。演奏よりもむしろそういう発信活動のほうに興味があって。
中野:よく言われます、「ドラム叩けるんだ、忘れてたよ」とか(笑)
清野:たぶん、それはすべてドラムに向かってつながる表現だと思ってるんです。ぜんぜん違うことをやってるわけじゃない。それが僕が実況に対してやろうとしてることに非常に近いと感じたので、中野さんにオファーをしたんです。それで、受けていただけることになって打ち合わせをしたんですよ。いくつか案は出てきたんですが、手っ取り早いのは「ドラムを叩いてるところを実況する」とかだと思うんですが、意外とそれよりもドラムのチューニングを実況する、とかのほうが面白いんではないか、とかね。
──ああ、あのネジを使ってスネアの音を調整していくところを!
清野:そこを見る機会ってほとんどないと思うんですよ。中野さんもお客さんに見せることはなかなかないというし、それを実況するのは面白いかもしれませんね、という話も出ました。他にも映像を使ったり、いろいろなアイデアが出ましたのでお楽しみにというところですね。
清野茂樹
◾️「ドラムの日」があるなら「実況の日」も?
──実況とドラムって似てる部分もあると思うんです。実況もドラムも常にハイテンションなわけではないですよね。バンドだったらリズムを支える時間も長いし、実況も試合の淡々とした時間を伝えながら盛り上がったときにはドラムソロ的なテクニックを要求されるし。
中野:確かに。
清野:そうかもしれないですね。ドラムの人ってだいたいバンドの後ろにいるでしょ。非常に重要な役目なのに、お客さんの目はどうしてもフロントの人たちに行くというのはありますよね。でも、ドラマーの主張というのも絶対に持ってるはずなんです。それが僕が抱えてる実況アナウンサーとしてのモヤモヤ感にも通じるような。まあ、凛として時雨がそうなのかはわからないですけど(笑)
中野:僕の場合は、自分でもクリニックをやったり、教則ビデオを出したり、いろいろ積極的にやってるほうなんです。凛として時雨でも、バンドの音楽性自らにドラムのかっこよさをちゃんと出していくという姿勢があるので、そういう欲求はわりと満たされてるんですよ。毎年、某所で行われるおおぜいドラマーが集まる「ドラム飲み会」も盛り上がってますし。「ドラムの日」というのも、僕の発案で制定されたので。
清野:10月10日でしたっけ? あれは中野さんが作ったんですか?
中野:制定したのは『リズム&ドラム・マガジン』で、内容とかをいろいろ決めたのは僕も含めた3、4人くらいでした。
──清野さんも「実況の日」を作って、世間にマイクアピールしたらいいのでは?
清野:そうですね!
中野:「実況の日」! ジッキョウだから10と9で、10月9日とか? 「ドラムの日」の前日ですね(笑)
清野:おー、これは狙っていこう。いいなあ。
──「実況飲み会」とかもやってみたらどうですか?
中野:「実況飲み会」! ヤバイですね! それ、めっちゃ見たいです。
清野:いやー、それはめんどくさいなー(笑)
ピエール中野 Photo by西槇太一
◾️僕(中野)のドラムって光るんですよ
中野:そもそも実況ってふたり以上で同時にやることあるんですか?
清野:ないですね。それだと副音声になります。普通は、実況と解説がコンビなので。同時実況なんて聞いたことない。
中野:やっぱり「実況飲み会」やるべきですよ。
清野:あっはっはっは! でも、実況って共演する機会ないから横のつながりもないんですよ。
──このシリーズの最終回がいつになるのかはわからないですけど、それはもしかしたら「実況と実況」なのかもしれない。
清野:あー、そうですね。
中野:同じ映像を題材にして、片方が目隠しして片方が実況というので対決して、拍手が大きかったほうが勝つ、みたいな。
──でも、このシリーズっていつも面白いのは、異ジャンルで対決するんですけど「勝負」じゃないんですよね。清野さんは勝ち負けは求めてない。
清野:そうなんですよ。これはセッションなんです。どっちも引き立つ感じでというのは心がけてます。
中野:僕もこのイベントを通じて、新しいアイデアが浮かぶかもしれないですしね。
清野:でも、お客さんにはこのイベントで何が行われるのかわかってもらえてないような。もうちょっと伝わって欲しいですよね。
中野:だって、そもそもわれわれが何やるのかわかってないですから(笑)
──だからこそ面白くなるだろうとしか思えないんですけどね。出演者もスタッフもみんな本気だし。中野さんも当日はフルセット持ち込まれる予定ですか?
中野:はい。光らせるつもりです。僕のドラムって、光るんですよ。自分で手元でも調整できるし、会場の照明とも連動できるたりするんです。
清野:えー、すごいですね! 実は僕もヘッドセットマイクが普通は黒いのしかないところを白く塗ったものにしてるんですよ。実況アナで白いのを使ってるのは、たぶん、僕だけだと思います! ということは、次の段階としては僕もヘッドセットをしゃべりと同期して光らせるようにしなくちゃ!
中野:光ってるのが気になって言葉が入ってこなくなっちゃいますよ(笑)
司会・構成:松永良平
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