YOSHI 撮影=渡邉一生
2016年の秋、黄色いベルトを首に巻いた13歳の少年に世界中のファッショニスタたちが衝撃を受けた。その名はYOSHI。あれから3年、彼はファッションを中心としたインディペンデントな活動を精力的に行いながら、ミュージシャンとしてもアルバム『SEX IS LIFE』で鮮烈なデビューを飾り、ついには俳優として映画『タロウのバカ』で主演を務めるなど、16歳にしてエンターテイメントシーン全体を巻き込む唯一無二のトータル・アイコンとなった。今やテレビをつければニュース番組でも、バラエティ番組でも「YOSHI」の文字を見ない日はない。そんな彼はどのようにファッションやアートに目覚め、何を原動力に動き、世間からのさまざまな反応をどう受けとめ、未来に何を見ているのだろうか? 人生で初めて訪れたという大阪で貴重なインタビューを敢行した。
YOSHI
—— お会いできる日を楽しみにしていました。改めて、3年前にSNSで一躍有名になられた出来事について教えてください。
13歳のとき、腰に巻くベルトを首に巻いて南青山のとあるお店に行ったら、たまたま日本に来ていたデザイナーのヴァージル・アブローに出会ったんです。「そのベルトの使いかたは面白いね!」と言って彼のインスタグラムに僕の写真を投稿してくれたんですけど、一夜明けたらフォロワーが1万5千人くらいに増えていて「人生変わったのかな?」と思いました。
—— 小学生の頃にファッションに目覚めたそうですが、明確なきっかけを覚えていらっしゃいますか?
昔から自分よりうんと歳上の大人たちと遊んでいたんですけど、Rick OwensやYOHJI YAMAMOTOを着ている方を見て「ファッションってかっこいいな」と思って池袋のRight-onに行き始めたのがきっかけです。そこから素材やアートにも興味が沸いて「服がどのように作られるのか」「ファッションや音楽は時代とともにどう移り変わったのか」といったことも知りたいと思うようになりました。
YOSHI
—— YOSHIさんは現代のファッションやアートのシーンをどのように見ていますか?
例えば矢沢永吉さんが一世を風靡した時代はメインストリームにもサブカルチャーが溢れていたと思うんですけど、現代だと有名な人が発信しているエンターテイメントはどうしても想定の範囲を超えない気がして。音楽を聴いていても「この曲超やばい!新しい!」という驚きがあまりないですよね。「ファッションが好きだ」と言うティーンや芸能人にも、歴史を含めて本当の意味で愛している人はなかなか居ないんじゃないかなと思います。そこで僕がもっと深いアンダーグラウンドな良さを引き出せればいいなと思います。
—— 海外で生活されたことがないと伺いましたが、Instagramで公開されているIGTVを観させていただくと、海外の方たちと英語で会話をされているのが印象に残りました。しかも現地の若者のが使うような流行語をナチュラルに話していらっしゃいますね。
幼い頃から発音だけは良くて、小学校の英語の授業で流暢に自己紹介をしたら「テストの点数は悪いのに喋れるのかよ」とびっくりされていました。海外に長く住んだことはないんですけど、外国人の友達がたくさんいます。撮影でニューヨークに行ったときも、黒人の人たちが「What are you doin’ my boy!?」というノリで来るわけですよ。彼らから英語を教えてもらった結果、スラングしか話せなくなりました(笑)。父親が香港人なので家でも英語を話す機会はあるんですけど、汚い言葉を覚えて帰ると親が「今なんて言った!?」と怒るんですよね(笑)。
—— ははは(笑)。音楽のお話になりますが、アルバム『SEX IS LIFE』では表現力の豊かな歌声を披露されていて、これがデビュー作だとはとても思えませんでした。プロデューサーのマット・キャブさんと曲作りを始められたキッカケも気になります。
母親もなぜか歌が上手かったんですが、僕は小学3年生の頃石川さゆりさんの「津軽海峡・冬景色」が大好きでした。カラオケで歌って98点を出してましたし、どうにか石川さゆりさんと結婚できないかと本気で思ってたんです(笑)。マット・キャブと曲作りを始めたきっかけは、ある日友達がミュージックビデオを撮影している現場に遊びに行ったら、DJブースがあったので僕はその隣で歌っていたんですよ。そしたらマットから「おまえ歌えるじゃん!」と言われたので、レコーディングスタジオに入って歌ってみたら自分でも「センスがあるかも」と思えて。それが1年くらい前で『SEX IS LIFE』でデビューしたのはまだ5か月前の話。すべてタイミングが良いんですよね。
—— 10代でリリースするデビュー作を『SEX IS LIFE』と名付けるのは挑戦だったと思います。YOSHIさんは今「性」をどう捉えていますか?
あるとき僕は女性に対してじゃなく、服を見たりミーティングしたり仕事をしているときのほうが興奮していることに気づいて、自分とって「性」って何だろう?と思ったんですよね。でもセックスという行為がないと新しい命は生まれないから、それはすべての始まりであるという深い意味も込めた『SEX IS LIFE』です。だから僕が女性とお付き合いをするなら、人としてすべてを魅力的に思えたら嬉しいです。将来は「親友でもあり奥さんでもある」みたいなかたと出会いたいですね。また男としてのかっこよさはナチュラルで飾らないことだと思います。まだこの歳なので女性から異性として見られることは少ないですけど、そう意識していると、人として信頼してもらえることは多い気がします。
YOSHI
—— 確かにSNSなどを拝見すると、年齢、性別、国籍、職業に捉われずYOSHIさんの周りにはいろんな人が集まってくるように見受けられますね。
僕は人間関係をすべてフラットに捉えています。だから相手がどんな立場の方であろうと、大学生であろうと偉い人であろうと、全員に同じ対応をしたい。もちろん大人に上下関係を教えられることはありますけど、僕がタメ語で接したいのには理由があって。敬語は日本特有の素晴らしいものですけど、それを使えば本心でリスペクトしていなくても相手を尊重しているように聞こえてしまうじゃないですか。海外の影響もありますが、僕が心と心で繋がった相手から言葉じゃなく行動で示すリスペクトを受けたときに、このリスペクトは格が違うなと感じて「僕に敬語はいらない」と思ったんです。いくらお金や権力を持っていたり年齢を重ねていても同じ人間なんだから、関わる相手にも「YOSHIは立場に関係なくその人自身を見ているんだな」と思ってもらいたいんですよ。
—— ご自身よりもうんと年を重ねた相手にも、臆することなく自己表現ができるようになったのはなぜですか?
事務所に入るまでに3年ほどフリーランスで活動していて、企画書を作って色んなところにメールを送ってプレゼンをしに行く毎日を送っていたんですが、その経験が大きいですね。事務所に入れば周りをがっちり固められて全力でプッシュされますけど、一人で色んなことをやってみたほうが人として成長できると思ったので。僕の名前と顔が出なくてもいいから世の中のために何かしたいという思いが強くてので、モデルのマネージャーをしたり友達のファッションショーを手伝ったり裏方の仕事もやってきました。その感覚を持って表に立てる人間は日本には僕しかいないんじゃないかと思います。
YOSHI
—— 今や映画の主演俳優、ミュージシャン、モデル、デザイナーとYOSHIさんの肩書きは増えるばかりです。ここまでマルチな動きができる著名人はなかなかいないと思います。
逆に僕は、アートをやっていたら俳優はできないとか、音楽をやっていればファッションはできないとか、法律があるわけでもないのにどうして縛ってしまうんだろう?と疑問に思います。これまでに色んな事務所から契約の打診があって、「お芝居ならお芝居、音楽なら音楽に専念しませんか?」と言われたんですけど、それじゃ意味がなくて。今の事務所STARBASEは「出来ることはすべて100%で進めましょう」と言ってくれたので、俳優、ミュージシャン、ファッションデザイナー、モデル、アーティストという5つを同時進行で、楽しくやらせてもらっています。
YOSHI
—— 前例のない唯一無二の存在だからこそ、周りからはさまざまな反応を受けるのではないでしょうか。
テレビに出演したあとにインターネットで僕に対するディスコメントを見ると、僕が辛いというよりも世の中に対して「悲しいな」と思ってしまいます。例えば僕がパテック・フィリップのノーチラスという800万円くらいの腕時計をつけていたら、「なんでその歳でそんな高いものを持っているんだ、生意気だ!」と言われると思う。でも年齢に関係なくそれだけ頑張っているということだから、いつか僕を見た40歳のサラリーマンが「俺も頑張ろう」と言ってくれる世の中になってほしい。稼いだ人を叩くんじゃなく、稼いだ人を見た世間全体が持ち上がるようにしたい。僕がエンターテイメント界で表に立つ理由は、ここにある小さな希望を信じたいからです。
—— 批判さえもプラスに変えて精力的に活動されるYOSHIさんですが、どうしてこんなにも強くいられるのか、そのパワーの根源が気になります。
「どうしてそんなことできるんですか?」「なぜこうしようと思ったんですか?」と聞かれることがあるんですけど、そんなことを考えたこともないですね。僕が主演した映画『タロウのバカ』も理屈ではまったく片付けられないし、もっと単純で一度観れば満足できるような作品もありますけど、極端な話、僕は死ぬ1秒前まで満足したくないから、今すべてを理解できなくてもいいと思っていて。決してネガティブな意味ではなく、いつ死んでも悔いがないように何事も頑張らないといけないと思うんです。『タロウのバカ』で僕が演じたタロウにように言葉では表せない人間の野心みたいなものは忘れたくないです。
YOSHI
—— 『タロウのバカ』や『SEX IS LIFE』をきっかけにYOSHIさんがまた一段と飛躍した2019年が、まもなく終わろうとしています。来年以降に向けた意気込みをお聞かせください。
まずは音楽でヒットを生み出したいと思っています。僕が作る音楽は決して今の日本で百発百中ヒットするものではないかもしれないけど、日本でどうこうよりもグローバルに物事を考えたいです。海外でジャスティン・ビーバーくらい有名な日本人が今いないと思うんですけど、僕はその0を1にしたいんです。アジアやヨーロッパから始めて、最終的にアメリカまで広げたいと思っています。そうすれば僕が発信している音楽以外のすべてもビジネスとして連鎖して、素敵なことが起こると信じています。
YOSHI
取材・文=Natsumi. K 撮影=渡邉一生
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