ドラマチックアラスカ&菅原氏 photo by 菊池貴裕
最新ミニアルバム『愛と優』をリリースしたドラマチックアラスカ。2016年に2人の正式メンバーを迎えて約3年。クオリティの高い新曲が並び、歌や演奏もより強固になり、バンドの現状は順風満帆かと思いきや。ヒジカタナオト(Vo&Gt)が「アルバムが完成するまでにまじでもう歌詞が書けない状態になりました」と告白するなど、作品制作は決してスムーズではなかった様子。そこでドラマチックアラスカがさらなる飛躍を遂げるため、現在の問題点を全て吐き出そうという意図で行われた今回の取材。メンバー4人にチーフマネージャーである菅原氏(LD&K)を加えて行った座談会はどろどろした話になると思いきや、思いのほか良い話に展開していきました。
――ミニアルバム『愛や優』の周囲からの反応はいかがですか?
ヒジカタ 手に取ってくれた人の評価がめちゃめちゃ良くて、すごく嬉しいです。もともと好きだった人は、より濃度が濃くなった感じがあって。新しい人にも聴いてもらいたいなという気持ちはありつつ、応援してくれる人の気持ちがより強固になった気がします。
――アルバム出来上がっての感想はいかがですか?
ヒジカタ 20歳くらいからずっとアウトプットし続けてきて。インプットが間に合っていないことは感じつつ、自分の天才性を信じて駆け抜けて来たんですが。それだけではどうにもならない現実に26歳にして直面しまして……。具体的にはクリエイティブする人間として必要な教養というか。みんなが当たり前に知ってる音楽とか、映画とか本とか、自分が全然知らないことに絶望もしたりしたんです。そこで、足りない部分を数ヶ月で吸収したり、やっぱり自分の天才性を信じたりして。なんとか完成までこぎつけました。
――「アルバムが完成するまでにまじでもう歌詞が書けない状態になりました」と告白してますが、アイデアが枯渇してしまった?
ヒジカタ いや、書けるは書けるんですけど、自分で良いと思えなくて。自分が進化してないんじゃないか?と思ったり、そこからどう新しいものを作れば良いのかとすごく考えたり。この一年は自分自身とすごく戦った時期だったし、『愛と優』もそういう作品になったんじゃないかと思います。
――メンバーはどうだったんですか?
サワヤナギ 僕はですけど、アレンジとかも無理せず出来るようになって。そんなに苦労してって感じはなくて。
ニシバタ 2016年リリースの「ロックンロールドリーマーズ」から、この4人で作ってるんですけど。特にこの1年、曲作りを進めるほどにお互いに任せられる部分や、どう言えば伝わって形に出来るかというのが分かってきて。ヒジカタが歌詞で苦労してたこともあって、曲はある程度、僕らに任せてくれて。うまいこと役割分担が出来たし、スムーズに行くところはスムーズに出来るようになりましたね。
タケムラ 演奏面は僕らを信頼してもらって、そこの不安や苦悩は無かったし、自分が与えられた仕事は100%やり切ろうと思ってやれてたし。1曲1曲に各々がやれることを詰められたと思います。
――あれ? 楽器隊はずいぶん良い状態だったんですね。
ヒジカタ そう。僕も歌詞以外はあんまりストレスがなくって。
ニシバタ そりゃ、ええこっちゃな(笑)。
ヒジカタ 演奏技術も付いてきたし、曲の作り方も分かってきたし、「こんな穏やかでいいんかな?」と思うくらい、快適に作れたよね。……いや、「RT:RT:」の歌詞とか見ると、穏やかではなかったのかな?(笑)でも、かなり自由に作れた気はしてます。
――そんなレコーディングを、スガハラさんはどう見てた?
スガハラ ヒジカタが悩んでる姿も見てたんで、「頑張れ」と思ってました(笑)。ただ、ヒジカタと僕が出会ったのは2011年5月なんですが、2013年には1stミニアルバム『ドラマチックアラスカ』を出して。最初のリリースから6年で9枚出してるんですよ。だから、曲が出来ないってことじゃなくて、逆に3枚目くらいまでが驚異的だと思うんです。あと、俺は「出せ」って言ってないよね? 「出したかったら出しな」とは言ってて、自分たちの納得するものが作れればいいなと思っているんですが。「「書けない」とか言うわりに、めちゃくちゃ書いてるじゃん!」と思って、凄いなと思ってます。同年代に始めたバンドで、アルバム9枚出してるバンドって、そんなにいないと思うんです。楽曲や歌詞のクオリティも決して下がってないし、素晴らしいライブも出来てるし。だから、「大変だな」と思いながら、実は安心して見てる自分もいるんです。
ヒジカタ 20歳くらいから「アルバムは1年に1枚出すもの」と勝手に思ってやってたのと、締切が無いとやらないというところでコンスタントにアルバムを作り続けてるんです。スガハラさんが毎年、ざっくりした予定を出してくれて、マネージャーがスケジュールを組んでくれると、目に見えて締め切りが分かるので、すごく助かるんです。事務所とレコーディングスタジオが併設してるから、良い曲が出来たら録れるって体制が取れるのもすごく作りやすいし。
凄いよね。俺がどんなに折れても、みんな折れないよね?
ドラマチックアラスカ photo by 菊池貴裕
――そんな中でもっと良い曲を作りたいというのは、常に思ってたことだと思うんだけど。今回はなぜハマっちゃった?
ヒジカタ 20歳くらいでデビューした時、周りに年上が多くて。そういう人と文化偏差値を比べた時、知らないことが多いのは当たり前だと思ってたんですけど。Saucy Dogとかハンブレッダーズとか、ヤバイTシャツ屋さんとか、同い年のバンドがやっと出てきた時、俺が知らないことをたくさん知ってることに焦って、落ち込んで。
――でも、みんながアマチュアでやってる頃、ドラマチックアラスカはすでにアルバムをリリースして、ツアーをして。同い年のバンドが知らないことも経験してるって強みもあるわけじゃないですか?
ヒジカタ そう言われてみると、それもあるんかなと思うし、ここまでやって来たプライドもあるけど。引き出しも少ないし、良いものを作れる自信がなかったし……。いま、同い年のバンドが調子良く活動してるのを見て、焦ってしまったのかも知れないですね。
ドラマチックアラスカ photo by 菊池貴裕
――そういう時、メンバーは声をかけたりするんですか?
タケムラ 「大丈夫やで」って言っても、ヒジカタくんの性格的に「なにが大丈夫や!」って言うと思うんで(笑)。僕らも一緒に耐えるというか……。
――悩んでるフリする?
タケムラ そうですね……って、フリはしないですけど(笑)。「そうだね」って、黙って見守るしかないですね。
ヒジカタ 凄いよね。俺がどんなに折れても、みんな折れないよね?
ニシバタ 人が酔っ払ってるの見ると、酔えへんのと一緒や(笑)。
――サワヤナギくんとタケムラくんは、正式メンバーになって3年。やっとバンドも固まってきて、折れてる場合じゃないしね。
サワヤナギ そうですね。そもそも、そんなズバッと上手くいくと思ってないというか。結構、楽観的ですね。今ももう一段階くらい、変化がありそうだなと可能性も感じてるくらいで。
いまは何を頑張れば良いのか分かってきている感じがありますね
ドラマチックアラスカ photo by 菊池貴裕
――ここからの可能性を探るヒントになるかも知れないから聞きますが、ドラマチックアラスカに加入して分かったバンドの魅力は?
サワヤナギ 曲の印象やバンドのイメージが、外から見てた時とは違って見えて。「目指してるところって、こういうところなんだ」ってところに気付いた部分はありましたね。
タケムラ 僕は最初、サポートとしていくつかやってるバンドのひとつとしてやってて。ある日、スガハラさんに「これからどうすんの?」って聞かれた時、ぼちぼち決断しなきゃいけない時だと思ってたので。初めて、ヒジカタくんと二人で喋って、思ってるより優しい人やなと思って。音楽より先に人に惹かれたし、「このバンドに人生を預けてもいいかな」と思って加入したんですけど。今作を作ってるくらいにスイッチが入った気がして。ライブも良くなってるし、みんなメンタル的にも良くなってる印象だったんで、僕もいま凄く期待してるんです。バンドが仕上がってきてると思うし、このツアーで何かが生まれるんじゃないかと思ってます。
――ニシバタくんはいまのドラマチックアラスカをどう見てます?
ニシバタ 高校生からやってた前のメンバーと、いま思えばよく分からない状態でCDを出したり、活動をしていて。これまでを振り返ると、一度は2人になったり、別の経験をしてきた2人と合流したりして。いま思えば、今が一番良い状況なんじゃないか? と思うくらい、時間を重ねるごとに良くなってるのを感じてて。昔は「頑張りたい」ってざっくり思ってたけど、いまは何を頑張れば良いのか分かってきている感じがありますね。
――今までの経験や、ピンチも乗り越えたたくましさといった、ドラマチックアラスカだからこその強みもありますしね。
ヒジカタ 確かにもっと大変なバンドはいっぱいいるし、チケットノルマを払ってライブをやってるバンドもたくさんいて。決して最低ではないけど、怖いことは結構、経験していて。言ったら、みんな一度はバンドを失敗してる人たちが集まってて。もう失敗したくないし、バンドをやり直さなくて良いように努力してるし。このまま行きたいなという気持ちでやってるところはありますね。
――スガハラさんはそんなバンドの現状をどう見てます?
スガハラ もともと、何も知らなかった高校生だったのがすごく成長したし、バンド自体はすごく良くなってて。いまは「自分たちにしか無いものを生み出していくには、どうしたら良いのか?」ってところに来れている思うし、やっと戦いに行ける体制が整ったと思ってます。2015年9月にクアトロでワンマンをやって、2016年4月に『アラスカ・べリーズ』のリリースをして、そのセールスも良くて。バンドの状態が良くなったところで、メンバーが脱退しちゃって。ヒジカタも天真爛漫な人じゃないので、その後、2年くらいは色々悩んだりしていて。去年くらいからですよ、ようやく戦える体制が出来たのかな?と思ったのは。まだ、あの頃と比べて動員が戻らないとかネガティブなこともありながら、音もすごく良くなってるし、ワンマンも切れてるし。応援してくれてる人やヒジカタをリスペクトするバンドが、ちゃんといるんですよ。だからその人たちのためにも、もっと良いものを届ける必要があると思ってます。
――具体的には何か、アドバイスありますか?
スガハラ みんなの話を聞いて思ったのは、みんながまだ「バンドをちゃんとやっていこう」ってところに目がいっちゃってるってことで。「どうしたらお客さんを本当に楽しませられるか?」とか、「自分たちが本当に表現したいのは何か?」ってことを、もっと考えられればいいなと思いました。ちょっと時間かかっちゃったけど、一致団結して戦っていける土壌が整ったいま、本当にやりたいことや目指してるところに向かうべきだと思うし、それがすごく楽しみですね。変な話、ロックなんて好きにやるしか無いからね。
ヒジカタ うん、そうですね。
――俺、話を聞いてて思ったんだけど。バンドが固まってきて、演奏が良くなってきてってところで、ヒジカタくんがフロントマンとしてのプレッシャーを感じてたところがあったんじゃないか?って。
ヒジカタ あ~、それはあると思います。
――だから今、「負けてらんねぇ」って気持ちで歌詞や歌がもっと良くなって、それに対しての「負けてらんねぇ」って気持ちで演奏やアレンジがさらに良くなって。バンドが大きく成長するチャンスであり、タイミングな気がするんだよね。そこで『愛と優』の楽曲たちは開き直りの強さがあるし、「No Satisfaction=満足出来ない」ってところで戦ってる姿勢がすごくロックだと思うし。
ヒジカタ 正直、音楽も言葉も両方でメンバーに勝つのが無理やと思ってしまったので。今回のアルバムでは音楽はメンバーに委ねて、言葉を研ぎ澄ますことを選んで。そのおかげで安心して歌詞に専念することが出来たと思ってます。今、歌詞はもう割と本当のことしか言ってなくて。昔は自分を奮起させるために書いていた歌詞もあったけど、今はフィクションはありながら、基本的に本当に思ってることしか書いてないんです。
――「愛と優」で歌ってる、<言葉とうに出し尽くしても 僕は今も紡いでしまうんだ>だよね。ここを乗り越えて、次の段階にたどり着けたら、次回作ではグッと成長出来てるかも知れないですね。
ヒジカタ デビューした時は、メンバーに対して「なんで、みんな俺に追いついてくれへんのやろ?」と思ってしまうような力関係があったんですけど。いまは拮抗したり、ちょっと負けることがあったり、ちょっと勝つことがあったりして。ずっと僕が思い描いていた、バンドの関係になれてると思ってて。僕もここから何かが変わるような気はしているんです。
ドラマチックアラスカ photo by 菊池貴裕
――本当の意味でバンドになれてきたと。なんだ、良い話になっちゃいましたね(笑)。無理やり問題点を上げるとすると、いまのバンドに対して不満は無いですか?
ヒジカタ 不満がね、本当に無いんですよ。
ニシバタ なんやろ、機材車が汚いとか?(笑)
タケムラ あと、ヒジカタくんの酒癖が悪いとか(笑)。直接、迷惑はかけられていないんですけど、周りから「大丈夫なん?」って心配の声が聞こえてるから、ちょっと心配してます。
ニシバタ それはいま、ちょっとずつ直そうとしてるから(笑)。
サワヤナギ 迷惑じゃないけど、酔って色んなことに対して怒ってる時、俺らが全然同じ温度じゃない時はあるよね。
――あはは。本人はやっちゃった自覚があるの?
ヒジカタ 覚えてないことも多いんで、ちょっと……。
スガハラ 覚えてたら、反省して直せるから(笑)。
――あはは。では最後にファンにいま伝えたいことがあれば聞かせて下さい。
ヒジカタ ずっと応援してくれてる人がまたCDが出たことを喜んでくれているのが、僕らもなにより嬉しいです。初めて聴く人や離れてしまったファンにも聴いて欲しいけど、その前に「良い曲まだまだ作れるやん」ってところでずっと応援してくれてる人を安心させられたことが嬉しいし。ツアーでみんなと会って、「生きてるぜ!」って報告して、この一年を締めくくれるのが嬉しいので。いまのドラマチックアラスカを観に、ぜひツアーにも来て下さい。
ドラマチックアラスカ photo by 菊池貴裕
取材・文=フジジュン
広告・取材掲載