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スピッツ、全国ツアー「SPITZ JAMBOREE TOUR 2019-2020“MIKKE”」開幕レポート

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「SPITZ JAMBOREE TOUR 2019-2020“MIKKE”」@静岡県・静岡エコパアリーナ
「SPITZ JAMBOREE TOUR 2019-2020“MIKKE”」@静岡県・静岡エコパアリーナ

スピッツの全国ツアー「SPITZ JAMBOREE TOUR 2019-2020“MIKKE”」が11月30日、静岡県・静岡エコパアリーナで開幕した。

思えば2017年に行われた<SPITZ 30th ANNIVERSARY TOUR “THIRTY30FIFTY50”>もここからのスタートだった。その時、草野マサムネは「これからもおもろい曲、不思議な曲をたくさん作るので期待してて」と語っていたが、それが形となったのが、10月9日に発売された約3年振りのオリジナルアルバム「見っけ」だ。30周年という節目を超え、さらにスピッツを、バンドを楽しもうという4人の想いがパッケージされている感が強い、最新アルバムを携えてのツアーだけに、ファンならずとも誰もが観たいと思うライヴ、ツアーのスタートを、会場を埋め尽くした8000人のファンが期待に胸を膨らませながら待っていた。

ツアー初日特有のドキドキ感とワクワク感。それはお客さんだけでなく、スタッフやそしてメンバーも同じで、この日のライヴに立ち会う全員の思いが、会場を包む。そんな空気を切り裂くように太いビートが奏でられ、ライヴはスタート。今回のツアーは2020年7月まで8か月間続くロングランツアーだけに、ライヴを楽しみに待っている多くのファンのためにも、セットリスト、ライヴの全貌を明かすのは控えたいが、もちろんアルバム「見っけ」からの楽曲中心に、名曲の数々、意外な楽曲が次々と披露された。「初めましての方は初めまして、いつも来て下さる方はご無沙汰してます。ツアー初日の1曲目は声が出るのだろうかといつも不安になるけど、出てました?」と草野が客席に語り掛けると、大きな拍手が起こり「こうなったら楽しい夜にするから、俺達について来いよ!!と、言いながら自分で自分を誰だこいつって思ってしまいます」と、いつも通りのゆるいMCに客席は笑顔で聴き入っていた。

「優しい感じのあの曲をやります」という草野の言葉の後、聴き慣れたイントロを三輪テツヤのギターが奏でると、老若男女、幅広い世代が駆け付けた客席の全ての人が、ステージにグッとひきつけられる様子が伝わってくる。NHK連続テレビ小説「なつぞら」の主題歌で3年2か月振りのシングルとなった「優しいあの子」だ。開放的なメロディと優しく降り注ぐ、温かな陽ざしのような歌、その歌に寄り添うようなバンドサウンドが、極上のポップネスを生み出す。全曲を通してとにかく4人が歌と演奏を心から楽しんでいる様子が伝わってきた。スクリーンに映しだされるその表情から、そして音から、バンド結成32年の“52歳の少年”たちが、バンドを楽しんでいる。そんなスピッツの核心、より純度の高い音楽、それが「見っけ」というアルバムでもあることを、このライヴでは教えてくれる。ロッカバラード「ありがとさん」は、田村明浩の太くうねるベースの音と、﨑山龍男の表情豊かなドラム、三輪のアグレッシヴなギターがひとつになって、オルタナティブで重厚なサウンドが構築され、長めのアウトロを4人が楽しみながら演奏し、極上のグルーヴが生まれる。

高らかに鳴り響く印象的なギターフレーズから始まる、ダイナミックな展開のアルバムタイトル曲「見っけ」は、歌っているようなベースと、ドラムが叩き出す跳ねたリズム、4人とサポートメンバーのクジヒロコが生むアンサンブルは豊潤で、圧倒的に瑞々しく、まさにスピッツの真骨頂というべき気持ちよさ。20曲以上ヘヴィで激しいロックサウンドと、せつないメロディが交錯し続け、草野の繊細で温もりある声に包まれ、聴き手はそれぞれの思い出と記憶とともに2時間以上ずっと胸を締め付けられる。それを求めてファンは会場に足を運ぶのではないだろうか。そして幸せすぎて、この瞬間はもう二度と戻ってこないと思うとさらにせつなくなり、悲しくなって、思わず涙がこぼれてしまう――客席のファンの表情を観ていると、そんな胸の内が伝わってくるようだった。

草野は最後に「今日はみなさんのおかげで素敵な夜になりました。一人欠けてもこの空気にはならなかった。一人ひとり全員にありがとう」と感謝の言葉を贈ると、客席からは拍手と共に「ありがとう」という言葉がステージに贈られていた。未来を眺め光を見つけ、過去を懐かしみながらも探り、心から沸き起こるバンドというものへの永遠の憧れを「見っけ」という作品に昇華させ、そしてそれを確かめる旅に出た4人。この48公演のアリーナ&ホールツアーの最終地、7月16日長良川国際会議場のステージ上の4人の目には、そんな光景が映し出されているのだろうか。

文:田中久勝
写真:内藤順司

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