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アヴィーチー追悼コンサートのライヴ・レポート到着、全編アーカイヴの公開は12/15まで

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Avicii Tribute Concert Photo by Lena Larsson
Avicii Tribute Concert Photo by Lena Larsson

2018年4月20日。ダンス・ミュージック界のスーパー・スター、アヴィーチーことティム・バークリング死去のニュースは世界中に大きな衝撃を与えた。その訃報を知り、彼といくつもの共演を果たしてきたアーティストや仲間達は敬意を込めて彼の名曲の数々をプレイし、亡くなった友人を追悼した。彼の死の直後、出身地であるストックホルムでは人々が街に集まり、彼のヒット曲を演奏した。

EDMというジャンルを世界の一大ムーブメントにのし上げた中心人物であり、エレクトロミュージック界の宝ともいうべきアーティストを失った深い悲しみから1年。アヴィーチーの実父であるクラス・バークリングは精神疾患や自殺防止の分野に取り組む慈善団体「ティム・バークリング財団」を設立。また、アヴィーチーが残したリリースされていない作品を世界中のファンに届けるというメッセージを発信した。アヴィーチーが生前手がけていた未完成の楽曲は、家族の強い意思を受け継いだ様々なプロデューサーやアーティスト達の協力を元に音源化されアルバム「TIM」として2019年6月6日にリリースされた。

それから更に半年、アヴィーチーの死去からおよそ1年半を経た、2019年12月5日ストックホルム Friends Arenaにてティム・バークリング財団主催のトリビュート・コンサートが開催された。死後初となる公式なトリビュート・コンサートであり、出演ラインナップにはこれまでアヴィーチーの楽曲に携わってきたほぼ全てのアーティストが勢揃いした。チケットは発売開始から30分でソールドアウトし、死後も衰えることのないアヴィーチーの高い人気が話題を呼んだ。

世界中から集まった58,000人の観客、19名のアーティスト、30名のフル・オーケストラ・バンドが、人々の心を掴んで離さないアヴィーチーの名曲の数々を演奏し追悼した。今回はその一部をライヴ・レポートとしてお届けする。

21:00から始まるコンサートの3時間前には、DJタイムとして豪華なDJ達が集結。アヴィーチーの盟友Laidback Luke、名曲「I Could Be The One」を共作したNicky Romero、アヴィーチーの音楽に深く影響を受けながら自身の音楽を進化させ続けてきたKYGO、DJ MAG TOP100 DJsで1位を獲得したDimitri Vegas & Like Mike、EDM界の帝王David GuettaなどフェスティバルのヘッドライナークラスのDJ達が30分毎にパフォーマンスを繰り広げ会場を大いに盛り上げた。

本編開始時間の直前には実父であるクラス・バークリングが登場。会場に集まった全ての人達に地元の言葉であるスウェーデン語で感謝を述べた。実の息子を突然亡くし、世界で誰よりも悲しみにくれているはずの彼が息子の名前の財団を立ち上げ、2度と息子のような死を迎える人を出してはいけないと前を向いている。それがアヴィーチーファンにとっての大きな救いとなり、主旨に賛同したアーティスト達が集い、今日このイベントが実現したことを肌で感じた瞬間だった。

そしてクラス・バークリングのスピーチが終わり、全世界でもライヴ・ストリーミングが始まる21時を回った頃、夜空に輝く星空のような美しい演出の中、巨大スクリーンにアヴィーチーの写真が現れると共に「Without You」のイントロが流れ、コンサートが開始した。

フルバンドとフルオーケストラ陣をバックに歌い上げる、この曲のオリジナル・シンガーであるSandro Cavazza。満面の笑みで合唱するファン。時に涙を浮かべながら曲に聞き入るファン。EDMというジャンルを超えたポップ・ミュージックを作り続けてきたアヴィーチーの楽曲を愛し今日ここに集まったファン達の様々な感情が交錯し、既に会場は一体化していた。

その後「Tweet It」や、David Guettaとのコラボ曲でありアヴィーチーも必ず生前DJセットのセットリストに入れていた「Sunshine」、Tim Bergの名義でリリースしていた「Bromance」等初期の名曲が立て続けにプレイされ、ゲスト・ヴォーカリスト達が会場を盛り上げた。

序盤最大の盛り上がりを見せたのはAloe Blaccの登場時。自分の世界を変えてくれたアヴィーチーへの感謝の思いを語り「SOS」を情熱的に歌い上げた。この「SOS」はアヴィーチーが生前Aloe Blaccに歌ってほしいと願っていた楽曲でもあり、思いを汲み取ったAloeが歌唱し音源化され、死後初めてのシングルとして今年4月にリリースされた。言わずと知れたアヴィーチー最大のヒット曲の一つでもある「Wake Me Up」のシンガーでもあるAloe Blaccはアヴィーチーのためなら と、この「SOS」のリリース時には日本を含む世界各地でのプロモーション協力を快く引き受け、アヴィーチーとの思い出を様々なメディアで語ってくれた。改めて彼の生き様とアヴィーチーへのリスペクトに感謝したいと思う。

その後も「Fade Into Darkness」「Silhouettes」「I Could Be The One」と立て続けに往年のヒット・シングルが続く。アヴィーチーが数年に渡ってヒット曲をリリースし続けていたことを改めて実感し、素晴らしい才能が失われてしまった悲しみと悔しさを感じずにはいられなかった。

「Fade Into Darkness」ではこの曲のオリジナル・シンガーであるAndreas Moeがアコースティック・ギターを持って登場。原曲では爽やかなEDMチューンとなっているが、今回はフルオーケストラを従えたスロー・テンポでオリジナルとは異なった印象のサウンドを披露し、歌詞を噛み締めるようなパフォーマンスが心に響いた。アヴィーチーの楽曲はその美しいメロディばかりが注目されがちだが、実は歌詞のメッセージ性が強いのも特徴の一つだ。“僕たちは暗闇に消え失せたりはしない”。これは現在のアヴィーチー自身のことを歌っているのではないかとさえ感じる。例えこの世からいなくなったとしても彼の曲をこうして仲間達が奏で続けている。改めてアヴィーチーの死が音楽界に与えた影響の大きさを痛感した。

コンサートは中盤に差し掛かり、1stアルバム「TRUE」収録の名曲「Dear Boy」「Addicted To You」「You Make Me」「Lay Me Down」「Heart Upon My Sleeve」、2ndアルバム「Stories」からは「Ten More Days」「Sunset Jesus」、さらに遺作アルバム「TIM」から「Bad Reputation」「Tough Love」、そして生前最後の作品となってしまったEP、AVĪCI(01)から「Friend Of Mine」がプレイされ会場のボルテージは更にヒートアップしていった。

終盤に差し掛かった頃登場したのはシンガーソングライターのMishCatt。このコンサートが始まる数時間前、アルバム「TIM」収録の「Fades Away」が「Fades Away- Tribute Concert Version feat. MishCatt」として急遽リリースされるという嬉しいサプライズがあったのだ。原曲のNoonie Baoのバージョンも素晴らしいが、新しいフルバンドで奏でられたトラックにMishCattの声は非常にマッチしていて、この曲の新しい魅力を感じることができた。

続いて「Lonely Together」のイントロが流れると同時に、本日出演したシンガーの中でもトップ・クラスの知名度を誇るRita Oraが登場。彼女はこの1曲を歌うためだけにストックホルムに駆けつけた。Rita Oraはアヴィーチーが亡くなった直後にオランダのフェスティバルに出演しており、他アーティスト達と同様ステージ上でアヴィーチーへの感謝の言葉を語り1分間黙祷した後、涙を堪え、時折声を詰まらせながら「Lonely Together」を熱唱していた。このパフォーマンスは今でもアヴィーチーファンの間では忘れられない1シーンとして知られている。

その後も「The Nights」「Hey Brother」「Heaven」「Waiting For Love」とヒットソングが続きコンサートはクライマックスに近づいていく。ここで再びAloe Blaccが登場し、待ちに待った「Wake Me Up」を披露。会場を埋め尽くした58.000人のファンからこの日一番のシンガロングが沸き起こった。曲のラスト・パートでは大量の紙吹雪が舞い、コンサ-トの終焉が近づいていることを感じさせ、Coldplayとの「A Sky Full Of Stars」でこの歴史的なコンサートはフィナーレへと向かった。

そして、この日出演したアーティスト全員がステージ上に集まり、大声援を送る観客と共演者達と抱き合った。なんという美しい光景なのだろうか。そこにこのイベントの当事者であるアヴィーチーはいない。しかし彼の意思を引き継ぎ、彼のために集まったアーティスト達が圧倒的なスケールでアヴィーチーの楽曲を再現してみせた。ハッピーでポジティヴな雰囲気に包まれた会場はそこにアヴィーチーがいない喪失感を微塵も感じさせなかった。

そして全員がコンサート終了だと思ったその瞬間、アヴィーチー最大のヒット曲「Levels」のアカペラが会場に響き渡った。大歓声が上がると同時に再び会場は大合唱モードに。屋内にもかかわらず大きな花火が何発も打ち上がり、ライヴ・コンサートはダンス・ミュージック・フェスティバルのフロアと化した。最後はアヴィーチーの生前の姿が映像で流され合計6時間半にも及ぶAvicii Tribute Concertは幕を閉じた。

アヴィーチーが死去した時、世界中のファンが悲しみに暮れた。彼の曲を(改めて)聞く度に想いを重ね、アヴィーチーのもうこの世にいないこと、そして彼の新曲がもう聞けなくなってしまったことに打ちひしがれたファンも多いはずだ。しかしこのイベントは前述の通り、アヴィーチーがいない喪失感を微塵も感じさせなかった。それはアヴィーチーを愛し、アヴィーチーの音楽を愛した人達が集結し、彼の音楽を心から共に楽しむことができたからであろう。

アヴィーチーの実父、クラス・バークリングはインタビューの中でこう言っている。「多くの若者にとって大事なことは話のできる人がいるかということです。もし不安に駆られたとしても、それは世界の終わりでは無いことを認識することです」。アヴィーチーは我々に素晴らしい音楽と繋がりを残してくれた。そしてこれからも彼の曲と今日のコンサートの思い出は永遠に私達の中で生き続けるはずだ。

改めてこのイベントの主催者であるティム・バークリング財団スタッフ、参加した全てのアーティスト、ミュージシャンを始めとした全ての関係者に感謝を述べたい。

なお、トリビュート・コンサートのライヴ・ストリーミングは12月15日まで閲覧可能となっている。死後も絶えることなく人々の心を震わせ続けるアヴィーチーの音楽を完全再現した、大反響の追悼コンサート、この感動を体験してみては。

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