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LUNA SEAはなぜ結成30周年を迎えても進化できるのか? SUGIZOとJに訊く、最新で最高のアルバム誕生物語

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LUNA SEA/SUGIZO、J 撮影=森好弘

LUNA SEA/SUGIZO、J 撮影=森好弘

結成30周年を迎えたLUNA SEAが、10作目のオリジナルアルバム『CROSS』を12月18日にリリースした。バンドとして進化していながら紛れもないLUNA SEA“らしさ”が漲る本作は、LUNA SEAにとって初の共同プロデューサーとして、U2やザ・ローリング・ストーンズのプロデュースを手がけ、グラミー受賞者でもある世界的プロデューサー、スティーヴ・リリーホワイトを迎えて制作された。SUGIZO(Gt,Violin)曰く「30年を経たロックバンドの年輪とか重みよりも、若々しいパッションとか瑞々しさが満ちているような気がしている」という、最新作にして最高のアルバムはいかにして完成したのか? そして30周年を迎えていま思うこととは? SUGIZOとJ(Ba)に訊いた。

――LUNA SEAも結成から30周年を迎えましたが、その中で、ご自身で変わったこと、あるいは逆に変わらなかったこと挙げるとすれば、どのようなものがありますか?

J:気がつけば30年経っていたというほうが近い感覚なんですけれども、始めたときに今をイメージできていたかというと、まったくそれはなかったし、もっと言うと、その瞬間その瞬間に全力で向かっていった結果、今に辿り着いている感じがすごくするんですよね。そういう意味でいうと、感覚的にはつながっているので、変わってはいないのかなぁと思います。ただ、30年という月日の中で、いろんなものを見て、いろんなものを経験してきてはいるので、そこで得たものたちによって、今の自分が作り上げられていると思うから、その意味では、30年前の自分とは比べものにならないものになっているのかなとは思うんですけどね。

SUGIZO:僕的に最も変わったことは、親になったことですね。娘が生まれる前と後では、多分、違った人間だと思います。

――それはどういった違いがあるんですか?

SUGIZO:娘が生まれる前までは、僕はものすごく自己中心的だったと思うし、世の中がどうなろうと関係なかった、むしろ壊れてしまえと思ってた。人が嫌い、世の中が嫌い……まぁ、鬱屈した若者だったと思うんですね。でも、26歳のときに娘が生まれて、今までの自分をすごく反省し、五体満足で生まれてきてくれるのかという心配もあったりしたから、まずあらゆることに感謝しました。その娘と顔を合わせたときに、初めて自分が孤独じゃない感じがした……。逆に変わってないところと言えば、単純ですけど、音楽に対する情熱。これが天命であるという確信というか。我々がラッキーだったのは、本当に10代で自分たちの道を見つけられた。ほとんどのティーンエイジャーっていうのは、まだ自分の生き方や道に迷っている人が多いはず。そんな中、僕らは自分のやるべきことを見つけて、この一生涯の仲間たちと出会った。そのときの情熱やインパクトやアティテュードは、30年経った今でも一切変わっていない……むしろ増しているかもしれない。

――Jさんの話にもありましたが、LUNA SEAが始まったときには、バンドを長く続けようとか、30年後の自分たちなど、まったく考えてはいなかったと思うんですね。

SUGIZO:うん、10年後すらも考えられなかったね。

――ただ、バンド活動をする中で、お二人はどういう存在でありたいと思っていたんですか?

J:まぁ、今思うと、ですよ。バンドで一番になりたいという純粋な欲求。当然、それはどこかの誰かになりたいわけではなくて、自分たちなりのやり方で、ということなんだけれど。自分たちもいろんなアーティストに影響を受けて、いつの日かああなってみたいなぁなんて思いの中から生まれた純粋なものなんだけれど……とにかく、一番になりたいという気持ちではいました。

SUGIZO:うーん、おぼろげなんだけど、圧倒的な存在になりたかったかな。当時はみんな競争心がすごく強くて、何にせよ、人より上に行きたかった。人とは違うことをしたかった。だから、音楽は当然ながら、演奏、ファッションやメイク、すべてが他と自分たちを分ける、他を圧倒する武器でありたかった。今は逆に全くそんなことはなく、流れるままにやっています。ただ20代前半というのは、そういう勝負心、人より勝りたいという気持ちが、自分たちを引き上げるブースターになってくれていた気がするので、それはそれでよかったのかなって。まぁ、常に修羅界にいるような気持ちというのは(笑)、すごく強くあった気がします。

――実際、あの当時、LUNA SEAは圧倒的な存在感で勝ち上がっていきましたよね。

SUGIZO:周りにもいたんですよね、圧倒的な方々が。だから、その人たちより上にというアティテュードがないと、あの当時は溺れてしまうというか、淘汰されてしまう。しのぎを削る……今だと考えにくいけど、戦国時代だったよね。

J:そうだね。ライブハウス・シーンというのは今もあると思うんですよ。ただ、YouTubeとかがある世の中になったら、家にいながらにして、いろんなバンドを何となく覗くことができる。だけど僕らにとっては、ライブハウスが勝負の場所というか。そういうステージがあって、そこを目がけて、日本全国からその土地土地のとんでもないバンドたちが東京にやってくる。その中で揉まれてきたんですよね。それはものすごく楽しかったし、そこで強い自分たちを持っていなければ、聴いてくれたファンの子たちがどうのこうの言う前に、僕らが流されていってしまうような荒波だった。そういう意味では、毎日が自分たちの音楽に対しての自信と誇り、そういうものを確認しているような日々だったような気がします。そういうものがなければ、やはり存在できなかった時代だったから。

SUGIZO:その当時のライブハウスは、お客として行くのも、出るのも怖かったんですよ。

――ええ。確かにそういう空気感がありました。

SUGIZO:気合がないと行けないし、やられるかもしれない。ホントにそういう戦闘態勢で行かないといけない場所だったので。そこで揉まれてのし上がってきたバンドですよね。

LUNA SEA/SUGIZO(Gt) 撮影=森好弘

LUNA SEA/SUGIZO(Gt) 撮影=森好弘

宿命を自分たちで受け止めながら、なお進化していく。そのせめぎ合いの美しさが、カッコよく輝けるロックバンドの秘密なんじゃないかなと思う。

――今となっては、この5人が集まって音を鳴らせば、自然にLUNA SEAの音楽になるという確信があるのだと思うんです。だからこそ、『CROSS』という新たなアルバムを作るに当たって、お二人はどんなことを考えていたんだろうなとも思ったんですね。今回は共同プロデューサーとして、スティーヴ・リリーホワイトが参加していることに、まず何よりも驚かされましたし。

J:個人的には、バンドというものは、いつも一歩前に進んでいくことを、宿命とされている生き物のような気がしているんですね。その場所にずっと佇むことができない。当然、それは欲求としてもあるし。でも、僕たち自身の中で、やってきたことに対する責任みたいなものもある。だから、曲を書きながら、前に進むこと、みんなが思い描く俺たちらしさみたいなもの、その中でのバランス感覚みたいなものを感じながらだったかなぁ。

――みんなが思い描くLUNA SEAらしさは、意識せざるを得ないものなんですか?

J:いや、それは簡単な話なんですよ。ローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)のファンだったとしたら、やっぱり「Jumping Jack Flash」をやって欲しいんですよ。イーグルス(EAGLES)のファンだったら、「Hotel California」をやって欲しい。でも、彼らは何百回、何千回とその曲をプレイしている。じゃあ、それってどこに真実があるのかなといったときに、その曲を作ったのは彼らだし、その曲に打たれた、その曲に思いを載せた瞬間が聴いた人たちそれぞれの中にある。そんな美しいことってないでしょ? そこに疑問を感じる必要もないのかなって、何となく途中で思い始めたんですよね。何か愚かだなというか。

――周囲が思う“らしさ”を否定する必要などないはずだと。

J:うん。じゃあ、やめちゃえばいいじゃんって。それとは全然違う次元での話で、自分たちのバンドとしての世界を前に押し進める、みたいなところはあるべきかなぁと思ってるんだけどね。服を着替えるように、まったく違う人になってしまうことは、誰も望んでないと思うしね。

SUGIZO:Jの話を引き継ぐと、それが、長く成功を続けているバンドの宿命だと思うんですよね。だから、その宿命をしっかりと自分たちで受け止めながら、なお進化していく。そのギリギリのせめぎ合いの美しさが、カッコよく輝けるロックバンドの秘密なんじゃないかなと思う。だから今回、いいタイミングで、初めて外部のプロデューサーを迎えることができた。しかも、スティーヴ・リリーホワイトですから。僕らがものすごく影響を受けてきた音楽の生み手ですよね。その彼といま組めたということは、最高な出来事だと思ってる。ともすれば、30年もやってきているともうベテランの域なので、本来、マスターのクラスですよね。自分たちがすべての決定権を持って、新しい世代に僕らが教えていくような立場だけど、スティーヴの前だと、今でも30年前に始めたときと同じような、ただのロック小僧になれる。まだまだ学ぶことが多くて、いまだにずっと青春が続いているような感覚。なので、このスティーヴとのコラボで生まれた音というのは、自分で言うのもおこがましいですけど、30年を経たロックバンドの年輪とか重みよりも、若々しいパッションとか瑞々しさが満ちているような気がしている。そこに我々の経験や懐の深さが、間違いなく融合されているはずなので、実は凄いものができたんじゃないかなっていう気がしています。

LUNA SEA/J(Ba) 撮影=森好弘

LUNA SEA/J(Ba) 撮影=森好弘

何が起きようと揺れ動かないような、すべての曲が腰が据わっている。やはり欲しかったのは、その世界基準というものだったと思う。

――プロデューサーを迎えるという、今までになかった決断はすごく大きかったと思うんですよ。ただ、LUNA SEAというバンドにとっては、これぐらいの大物プロデューサーじゃないと務まらないだろうなとも思いました。

SUGIZO:まぁ、そういうことだよね。話は3年ぐらい前まで遡るんだけど、一緒にやってみたいという人が現れてくれたんですよ、LUNA SEAの歴史の中で。別に今まで、外部の方と、プロデュースやらコラボを否定していたわけじゃないんですけど、巡り合わなかった。少なくとも日本の中にはいなかったということでしょうね。

――スティーヴ自身がLUNA SEAのプロデュースをやってみたいという意向だったそうですが、実際に彼とはどのように作業を進めたんですか?

J:彼が日本に来たときに、レコーディングのスタイルやら何やらをいろいろ話し合ったんですけど、今はこういう時代なので、いろんな形がとれてしまうわけですよね。実際に彼と同じ場所にいて、一緒に過ごしてレコーディングするやり方もあれば、ハイファイという意味では、レコーディング機材なんて日本が一番ですから、こちらで素材を録って、彼のいるスタジオに音を送ったりというやり方もある。その一番ベストな方法を、今回はみんなでとった感じかな。デモの段階から彼に立ち合ってもらって、ある意味、曲のアウトラインみたいなものを一緒に作っていったりもしていたので、作業的にはお互いにストレスなく、すごく今な感じをとれたなと。

――アレンジという面では、スティーヴはどのような関わり方をしたんですか?

SUGIZO:想像以上に、実は細かく触るのが好きな人です。「この部分はこっちに動かしてみたら?」とか、「ここにこういうメロディを入れてみたら?」とか、具体的なアイディアをいろいろと出してくれる。ただ、基本的に僕らが作ってきた原曲に関して、まず否定は絶対にしない。ここをもっとこうしようよという、さらにプラスのアイディアをくれる感じでした。しかも、実際にレコーディングしていても、たとえば、フレーズが3つ浮かんじゃったとしますよね。どれがいいかなと思って、さっとデータを送ると、数分後には「これがいい!」ってすぐに返事をくれたり。日本と彼が住んでいる国で、距離は離れていたんですけど、WhatsAppとかスカイプとかを使いながら、リアルタイムで作業を進めていきました。

――具体的にこの曲はこのように変わったという例を挙げるとしたら?

SUGIZO:一番顕著なのは「anagram」だな。あれは一度こっちがアレンジしたものを、スティーヴがリミックスしたぐらい、いい意味でグッシャグシャにリビルドしてきた。真矢のドラムのパーツなんかもう全然違うところに配置されたり。もともとスティーヴはこの曲は遊べるなぁと思ったんでしょうね。上がってきたら、昔、彼が手掛けたピーター・ガブリエルか?っていうような音像で来て、さすがだなぁと思いましたね。

J:ベース録りするときも、彼が直前に連絡をしてきて、スタジオで話したりするんだけど、とにかく「J、わかってるよな」と。それだけ(笑)。多分、彼は僕の性格も、やっている音楽、好きな音楽、やってきたこと、ベースのスタイルもわかっていて、曲自体をロックさせることを求められているんだろうなというのはすごく感じてました。もともと彼はベーシストだし、いろんなバンドをやってきている中で、一聴するだけで、そのプレイヤーの一番いいところをピックアップするのは簡単な人だと思うんです。僕が聴いてきた、彼が作ったアルバムとかは、ものすごくシンプルにできているものが多かったんですよ。だから、特にリズムというものに関しては、僕自身の好みみたいなものと……まぁ、その意味では僕は彼に作られたようなものだから、ズレみたいなものもまったくなかったですね。

SUGIZO:スティーヴはもともとベーシストだけど、彼は手数の多いジャズ・ベーシストやファンクのスラップ的な人ではなくて、やっぱりニューウェーブ/パンクの人なんですね。僕から見ると、音楽をロック方向に導くという意味でのベースというスタイルが、スティーヴのものとJのものはすごく近かったと思っている。そこがバチッと一致したなって思うんですよ。もし彼が、スラップ・メインの人だったら、こうはならなかったんじゃないかな。やっぱり、彼のUKロックが持っていた、ニューウェーブ/パンクが持っていた危なさやエッジ感がすごくエグく出てて。あとは陰鬱な方向とかね。ベースという意味では、ルーツがそこにつながった感じがすごくしましたね。

――ことさらミックスのときに、ベースの音量を上げるような作業はしていないと思いますが、ベースのフレーズがすごく飛び込んでくる、聞こえてくるんですよね。

J:それに関しては、僕がすごく思っているのは、彼自身がベーシストだからという話ではないと思うんですよ。ベースを聴かせようとしているアルバムって、この世の中にはたくさんある。でも、僕はベーシストだからわかるんだけど、そういうものって聴いていられない。なぜかというと、奥ゆかしさや深みが感じられないから。でも、彼が作ってきたバンド・サウンドを聴いてみると、やはりベースというだけじゃなくて、リズムなんですよ。ロックって、リズムって、ボトムってこうでしょ、みたいな。あの絵の描き方がスティーヴのサウンドなんですよ。だから、正解なんかない世界なんだけど、バンドってこうだよねっていう、彼なりの僕たちに対しての回答みたいなものがすごく詰まっているアルバムだと思ったんです。だから、骨太でしょ。何が起きようと、という言い方は変だけど、揺れ動かないような、すべての曲が腰が据わっている。だから聴いていて安心もするし、ワクワクもするし。僕自身もバンドもそうだけど、やはり欲しかったのは、その世界基準というものだったと思うから。

SUGIZO:それを日本でやろうとすると、飽和しちゃうんですよ。

――すべての音が出過ぎちゃう。

SUGIZO:うん。ドラム、ベースがバチーンってくると、みんなワッシャワッシャになっちゃうんですよ。それがいい悪いじゃなくて、おそらくそれが日本人の好みかもしれないけど、スティーヴがやると、それでいてちゃんと音の肌触り、演奏している人間の息遣いが感じられるようなタッチのリアルさがある。それっていうのは、少なくともLUNA SEAではまだできてなかったことだなって。Jが言ってる、これが世界基準になったというのを、全身で感じたプロセスでしたね。

J:僕から見ると、スティーヴが作ったボトムがあるから、よりSUGIZOのフレーズも際立ってるんですよね。彼が聴かせたい、こう見せたいというものが、今までのどのアルバムより一番見えてる。だから、安心しても聴けるし、呼吸感があるんですよね。ゆらぎがある。でも、ゆらぎってロックなんだよって、多分、彼は僕らに伝えようとしてたんじゃないかなって。有機的なんですよね。実際に聴いていただいたら、みんなも気持ちよく感じてもらえることかなと思うんです。だから、聴こえてない音も聴こえてくる。間というか空気感というか……そういうアルバムのような気もするんですよ。

SUGIZO:スティーヴは特にそうかもしれないけど、聴かせたいものとそうじゃないものがはっきりしてる。日本人の場合、自然にやると、どれも上手く聴かせようとしたり、上手く配置しようとしたりするんですよ。でも、スティーヴはその辺は極端で、出るものは出て、出ないものは一切聴こえない、みたいな。そのダイナミクスさが、ロック的ヴァイブレーションをより強くしてくれている。だから今までで一番、実はミックスの注文もみんな少なかったんですよね。今までの約30年間は、土台を作るところからエンジニアとミックスをしながらああだこうだやりあっていたので、こんなにスムーズなミックスは初めてだったかもしれない。スティーヴだから安心できるし、彼がいいと言ったらそれが悪いわけがないという信用もあったので。

LUNA SEA/SUGIZO、J 撮影=森好弘

LUNA SEA/SUGIZO、J 撮影=森好弘

――こういったサウンドのアルバムが完成したとなれば、作り手としては、スピーカーを鳴らして聴いて欲しいという願望もあるのではないですか?

J:あぁ、それはありますね。

SUGIZO:昼間はいいスピーカーで爆音、夜はいいヘッドフォンで爆音がおすすめですね(笑)。

J:ホントにそういう楽しみ方ができる。こういうデジタルな時代になってきていますけど、そのよさとアナログの時代をずっと歩んできたよさがすごくあって。音楽を聴くことを楽しむ……音の中を旅をしていく感覚? 今はそういうことを許さないぐらい忙しい時代ですよね。パッと聴いて、パッと気持ちよくなれて、パッと熱くなれて、みたいな。もちろん、それも重要ですけど。でも、そうじゃなくて、それから先にある物語が一つひとつの音の奥にあることも楽しめるようなアルバムにはなっていると思うから、ぜひ一人で悦に浸って聴いてもらったらいいなと思うんですよね。

――物語という意味では、歌の世界もすごく重要になってくると思うんです。

SUGIZO:実は今回の最も重要なことの一つなんですけど、ご承知のように、RYUICHIが命を脅かされるような病気から生還してきたうえでのレコーディングだったんですよね。さらにレコーディングの後半で、今度はポリープにすごく苦しんで。本来は今すぐに手術しなきゃいけない状態だったんですけど、切ってしまうと作業が中断してしまう。それを彼はよしとせず、ギリギリの状態でやってるんです。明日はもうダメかもしれない……その状態でずっと歌い続けた。そのこと自体が、彼にとっておそらく初めてだし、切羽詰まった、余裕がない、そのアティテュードによって、彼の声がパンクしてるんですよね。実はそれがめちゃくちゃロックに聴こえる。しかもそれをスティーヴがミックスすると、10歳若くなって聴こえる。だから今回は、すべてを克服して、今までになかった逆境から生まれたRYUICHIのボーカルを、僕はすごく讃えたい。メンバーだから贔屓目もあるかもしれないですけど、あの境遇でよくこれを録ったなって。凄いボーカリストだなぁというのが、アルバムの中に強烈に刻まれてるんじゃないかなと思いますね。ギリギリで戦いながら録った声ですので、おそらくピッチとかリズムとか、クオリティの高いものを作るという意味でいうと、RYUICHIの中では完璧じゃなかったはずなんですよ。

――自分ではコントロールが効かない部分が、どうしても出てきますからね。

SUGIZO:でも、それを超えた強さ、魅力って、やっぱりあるし、それがロックだなと思うんですよね。別にクラシックをやっているわけではないので。その彼の熱量のようなものは、すごく重要なポイントなんじゃないかなと思います。

J:スティーヴは僕たちのいいところ、そして、当然ウィークなところも含めて、今回のレコーディングを通してすごく教えてくれたと思うんですよね。RYUICHIの歌とかを聴いていると、彼の一番いいところを、ものすごくいい響きで表現しようとしているんだなぁっていうのは、すごく感じました。そういった意味でも、やはり、一緒に作業できて、作れてよかった。このタイミングで、こういう刺激を受けることができたというのは、俺たちはすごく恵まれていると思う。

――“CROSS”というアルバム・タイトルになった背景はどのようなものだったんですか?

J:みんなでアイディアを出しているときに、真矢くんが“CROSS”なんてどうかなって。ホントにいいタイトルだなって、一瞬で決まったような感じですね。真矢くんが言ってたけど、いろんなものが交わっているアルバムだし、メンバーもそうだし、スティーヴもそうかもしれないし、これからもライブに来てくれるみんなと、いろいろ混ざり合うようなイメージもあるからって。こんなに早くアルバム・タイトルが決まったことはないんじゃないかな、このバンドで(笑)。

――このアルバムが生まれたからこそ、またライブも新たな見え方になりそうですが、『CROSS』に耳を傾ければ、自ずと2020年2月から始まる国内ツアーに期待感が高まりますね。

SUGIZO:さいたまスーパーアリーナ(12月21日&22日)では、新しい楽曲を交えつつ、LUNA SEAの30周年の集大成を、清い姿勢でしっかり見せたいと思っています。そして来年はこの『CROSS』の楽曲たちにより磨きをかけるために、全国に向かいたいと思います。

J:LUNA SEAとしても、久々の全国ツアーですからね。凄いことをいろいろ考えているので、ぜひ楽しみにしていて欲しいですね。

取材・文=土屋京輔 撮影=森好弘

 

 

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