広告・取材掲載

スカパラが会場を大熱狂の渦へ「TOKYO CUTTING EDGE Vol.3」ライブレポート

アーティスト

「TOKYO CUTTING EDGE Vol.3」
「TOKYO CUTTING EDGE Vol.3」

1月16日、東京・新木場スタジオコーストで「TOKYO CUTTING EDGE Vol.3 ~Tokyo Ska Has No Border~」が開催された。このライブは、「時代のエッジ」を切り取ることをテーマに1993年に設立されたレーベル「cutting edge」の所属アーティストが集結したレーベル主催の音楽フェス。白地に黒文字で「TOKYO CUTTING EDGE」と書かれた巨大なロゴを掲げたステージに、現在のレーベルを代表する様々なアーティストが登場した。

1番手を務めたのは、昨年cutting edgeに加わり、メジャー・デビュー作「中学生」をリリースしたヤナセジロウによるプロジェクト、betcover!!。一度でも彼のライブを観たことがある人なら周知の通り、betcover!!の楽曲は、ライブでは音源とはまったく異なるものに変化する。ベースとドラムを加えた3人編成でステージに登場すると、「平和の大使」や「異星人」を筆頭に、音源以上に凶暴な爆音ギターと、感情を全身で吐き出すような歌を披露。ウェルメイドなメロディはそのままに、演奏や歌のダイナミズムやUSハードコアを思わせるギターノイズが増幅され、音圧なども含めた様々な要素が混然一体となって突っ込んでくるような稀有な体験が生まれる。最後は観客に「夢で会おうぜ!」と告げて「ゆめみちゃった」を披露。冒頭から観客の度肝を抜くようなステージだった。

2番手のNewspeakは、英リバプールへの留学から帰国したボーカルのReiを中心に結成された4人組ロック・バンド。欧米のインディロックなどに強く影響を受けたサウンドと、英語詞を生かした楽曲が最大の特徴だ。まずはUKインディロック直系のメロディに構成要素は異なるもののアーケイド・ファイアなどにも通じる壮大なスケール感を加えた「July」で観客にクラップをうながして、ドラムのStevenが「新木場、put your hands up!!」とシャウト。続いてザ・ストーン・ローゼズ「Begging You」にも通じるグルーヴが鳴りはじめ「Wide Bright Eyes」へ。以降も「Media」を経て、「24/7 What For」で「Tra, la-la-la, la-la-laLa-la-la la-la-la la-la-la」とコーラスを観客に促すなど、アンセミックな楽曲をフルに生かして盛り上げていく。終盤には、Reiが「この後もかっこいいバンドが続くと思うんで、俺たちのことも忘れないで!」と告げ、サビで観客が手を振った「Lake」や、「最後の曲です!」と告げてはじまった「See You Again」を披露。終盤に向けて熱量が増すステージを終えた。

ここまでの出演陣を振り返っても、cutting edgeの所属アーティストはひとつのジャンルにとらわれない音楽性の振り幅を持っている。この日会場を都会の洒脱なダンスフロアに変えたのは、マツザカタクミの脱退を経て4人編成になり、今年からcutting edgeに移籍したAwesome City Clubだ。まばゆく光る「A」「C」「C」の文字をバックに「青春の胸騒ぎ」をはじめると、atagiとPORINのツインボーカルならではの華やかな存在感と、ファンクやR&Bを取り込んだ横ノリのグルーヴが広がっていく。続く「アウトサイダー」を経て、3曲目「Don’t Think, Feel」では、atagiが「みんなで踊ってみませんか?」と観客にダンスを促し、会場はますますミラーボール輝くダンスフロアのような雰囲気に。そうしたサウンドに加えて、男女の駆け引きやロマンティックな雰囲気が浮かぶような歌詞も彼らならではだ。

その後はレーベルを移籍した今のフレッシュな気持ちを観客に伝えると、発表したばかりの新曲「アンビバレンス」を披露。この楽曲は、ブラック・ミュージックを通過したポップスとエレクトロニックな要素が融合したAwesome City Clubらしいキラー・チューン。ライブではカッティングギターがより強調され、洗練されたグルーヴが生まれていた。以降はヴィンテージソウル風の「SUNNY GIRL」を経て、バンドの代表曲のひとつ「今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる」でラスト。ステージの両端に広がったatagiとPORINが向き合って歌い合うステージングに歓声が上がった他、「回りつづける」という歌詞に合わせて2人ミラーボールが回るジェスチャーをして、ロマンティックな余韻が広がった。

続いて登場したのは、昨年cutting edge内にプライベートレーベル「8902 RECORDS」を設立したtricot。変拍子を駆使した予測不能のアンサンブルと中嶋イッキュウの歌がお互いの個性を消さない形で融合する独特な世界観で人気を集める彼女たちだが、この日は中嶋イッキュウの喉の調子が悪く、急遽1月29日発売の最新アルバム「真っ黒」から、8曲をインストで演奏。中嶋イッキュウが声を絞り出すように「今日はインストバンドとして、全曲新曲でやります」と観客に伝えると、ピンチをチャンスに変えようとする気概に大歓声が巻き起こる。「あふれる」や「真っ白」「真っ黒」といった公開済みの楽曲だけでなく、「まぜるな危険」「右脳左脳」「みてて」「秘蜜」「低速道路」といった楽曲も含む、この日だけの貴重な演奏となった。

中でも印象的だったのは、普段は歌と融合して楽曲の根幹をなす変拍子や、キダ モティフォの独創的なギターを筆頭にした各メンバーの演奏が、ボーカルレスの形式によって細部まで印象的に感じられたこと。ステージ中央のヒロミ・ヒロヒロを囲むように向き合ったメンバーが自在にテンポを変えながら、時に激しく、時にメランコリックに演奏を繰り広げると、普段よりも際立つキダ モティフォ&ヒロミ・ヒロヒロのコーラスも含めて、楽曲内に何曲分ものアイディアが詰め込まれているような構成によって、終始ダレル瞬間がない。終盤には「こんな状態でも出演させてくれたcutting edgeに感謝しています。これからもよろしくお願いします!」と告げてふたたび演奏が盛り上がり、メンバーが深く礼をした瞬間に拍手が起こった。国内はもとより、海外でも様々な経験を積んできたバンドの底力を伝えると同時に、最新アルバム「真っ黒」への期待をさらに高めてくれるようなライブだった。

そしてラストは、デビュー30周年を迎えた東京スカパラダイスオーケストラが登場。彼らはスカを基調にしながらも、ジャンルを問わず様々な垣根を壊す活動を続けてきた日本の音楽シーンきってのSKAバンドであり、同時に、長年cutting edgeのアティチュードを体現し続けてきたバンドでもある。この日はゲストボーカリストとして10-FEETのTAKUMAとSUPER BEAVERの渋谷龍太を迎えた。

まずは「DOWN BEAT STOMP」がはじまると、お馴染みの「Yeah yeah yeah yeah, yeah, yeah」というコーラスに早速会場一体となった合唱が生まれ、観客がジャンプをして早くも巨大な一体感が生まれていく。自身の単独公演はもちろんのこと、国内外の様々なフェスで会場を揺らしてきた彼ららしい、一瞬でボーダーを取り払うような雰囲気がとにかく楽しい。以降はMCで谷中敦が「cutting edgeは流行の先端を切り取るレーベルとしてはじまりました。まだ切り取れてるかな?」と伝えて、2曲目「Paradise Has No Border」へ。「この会場で、一番盛り上がっているのはどこだ!?」とGAMOが告げると、メンバーがステージの左、右、中央を大移動しながら、ますますパーティー感溢れる演奏で会場を揺らしていく。

続く昨年リリースのアルバム「ツギハギカラフル」の1曲目「Jamaica Ska」では、バンドがスカダンスの基本をレクチャーした後、10-FEETのTAKUMAがステージに登場。スカからはじまってヘヴィロックを主体にしたミクスチャーになる中盤にはメンバーがTAKUMAとともにヘッドバンギングを決め、またスカへと戻る構成に観客の熱気がますます増していく。そのままTAKUMAがボーカルを務めた「閃光 feat. 10-FEET」では、TAKUMAとメンバーが縦横無尽にステージ中を動き回ったり、メンバーが次々にソロを披露したりと、ユーモアを交えつつも、一瞬たりとも目が離せないパフォーマンスが続く。

続く「縦書きの雨」では、渋谷龍太(SUPER BEAVER)が登場して歌唱。直後のMCでは谷中敦が、渋谷龍太がSUPER BEAVERのライブで観客に言った「“あなたたち”じゃない。“あなた”に届けたいんだ」というMCを引用し、「自分たちもそういう気持ちでいる」「ひとりひとりの観客に届けたい」と伝えた。続いて渋谷龍太が「自分がスカパラを知ったきっかけの曲」と紹介した「めくれたオレンジ」では、彼のボーカルとバンドの演奏がふたたびひとつになり、照明もオレンジに変わっていく。その後はバンドがデビュー30周年を迎えたことに触れ、「未来へ向かって!」という掛け声とともに「Glorious」へ。会場一体となってタオルを回し、谷中敦がスカパラのタオルを掲げて大歓声が起こった。

最後はドラムの茂木欣一がベストアルバムのリリースを告知。「30年以上やってきた曲をやりましょう」と伝えて「ペドラーズ」がはじまり、思わず体が反応してしまうダイナミックなスカビートで踊る観客を前に、ステージ両サイドに用意された台からからフロントメンバーが次々にステージ中央に飛ぶ、多幸感溢れるパフォーマンスでフェスを締めくくった。

「時代のエッジ」を切り取るアーティストを世に送り出すため、1993年にはじまったcutting edgeは、これまでロックやヒップホップ、クラブ・ミュージック、レゲエを筆頭に、ジャンルを問わず様々なアーティストを送り出してきた。そんなレーベルを長きにわたって支えてきたベテランと、ここ数年で新たに加わった面々とが一堂に会した「TOKYO CUTTING EDGE Vol.3 ~Tokyo Ska Has No Border~」は、ジャンルの垣根を越えて音楽のエッジを体現し続けてきた同レーベルの“今”と“これから”を伝えるような雰囲気だった。

Text:杉山 仁
Photo:古溪一道・川澤知弘