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ハンブレッダーズが最新作『ユースレスマシン』で描いたことと支持拡大のワケ

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ハンブレッダーズ

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 自分の脳味噌を解き放ってくれる、音楽や映画やアニメやマンガ等々への絶大なる愛と信頼、及び恋愛を含む“他者とのコミュニケーション”という永遠に厄介であり続ける問題、そのふたつが大きなテーマの歌詞。“瑞々しい”という概念をそのまま音像化したようなメロディとギター・サウンド。そのふたつを武器に、主に10代のファンの圧倒的支持を浴びながら全国区へ駆け上がってきたハンブレッダーズだが、メジャーデビューアルバムであり初めてのフルアルバムである『ユースレスマシン』で、その支持はさらに広く、そしてさらに深いものになるだろう。なぜ。武器がふたつではなくなっているので。さらに広く、さらに深いものになっているので。以下、主にそのことについて、メンバー3人=ムツムロアキラ(Vo/Gt)・でらし(Ba/Cho)・木島(Dr)に訊いたインタビューです。

■決意表明として作った「銀河高速」に、
 逆に自分が鼓舞されたような1年だった

──去年の5月に、ギターの吉野(エクスプロージョン)さんがサポートに降格になって、メンバーが3人になって以降で、気持ち的に大きく変わったことってありました?

ムツムロ:3人になって最初に発表した「銀河高速」という曲が、自分たちの2019年を象ってくれたみたいな……決意表明として作った曲に、逆に自分が鼓舞されたような1年だったなっていう印象を、僕は個人的に持っていまして。ライブしていても、曲を作っていても……それまでどおりやってるんですけど、でも何か、「銀河高速」に助けられたなっていう。

でらし:それまでのライブと、5月以降のライブで、3人の、言葉では交わせない一体感みたいなものは、より出た気がするんですね。ライブもそうだし、曲制作もそうですけど。各々がちゃんと責任を持ってやらないとっていう意識は、3人ともより強くなったというか。

木島:考える量が増えたなっていう感じですね。リードギターがいなくなったので、たとえばこの曲は3人の音にするのか、4人のサウンドにするのか、曲の中で誰を立てたらいいのか、歌詞を立てるのか、とか。そういうふうに、楽曲面で考えることが増えたなって思います。

ムツムロ:でも、曲を作るモチベーションっていうのは変わっていなくて。自分たちの中で良いなと思ったものを、作って、形にして、録音するっていうサイクルは、4人の頃も、3人になっても、変わってないんです。だからこのアルバムも、ちゃんとロック・バンドの1枚を作りたいなっていうモチベーションはすごくあって。僕ら3人の音がちゃんと聴こえる、ギター・ベース・ドラム・ボーカルの音がすごく際立つアルバムにしたいねっていう話をしていました。

ハンブレッダーズ 撮影=松本いづみ

ハンブレッダーズ 撮影=松本いづみ

■今はもともと教室の中心にいた人にも
 「いい音源だね」って言ってもらえる

──こんな曲を書こうとか、こんなことを歌いたいとか、そういうのは?

ムツムロ:そこは一番変わったかもしれないです。昔はそれこそ、自分たちは教室の隅っこにいて、教室の中心にいる人たちがすごくうらやましくて、その反骨精神でバンドをやっていた、それをアイデンティティにしていた、みたいな時期もあったんですけど。でも、それってすごいちっちゃい話だな、もっと広い視野で歌詞を書いていきたいなっていうふうに、ここ2年ぐらいは変わってきているような気がしますね。
たとえば、「何くそ」って気持ちで音源を作っていても、たとえばもともと教室の中心にいた人にも「いい音源だね」って言ってもらえる、というか。「俺は教室の隅にいたから、教室の隅にいた人間に届けるんだ」って曲を作ってたけど、別にそうじゃなくても音楽って届くんだな、っていうことを自覚し始めたというか。そういう意味で視野が広がりましたね。あとは、偶然、去年はよくインプットができた1年だったのかもしれないです。

──たとえばどんなインプットが?

ムツムロ:映画を観たりとか、音楽以外の娯楽、芸術から、刺激をもらって曲を作ることが多くて。去年観た映画だと、たとえば『ブラック・クランズマン』はよかったし、大晦日に観た『パラサイト(半地下の家族)』もよかったし。あとは『アス』も。

──観ている映画に傾向がありますね。

ムツムロ:はい(笑)。2019年は、けっこう社会的な……いろいろなことが目に見えてくるようになっちゃって。いろんなニュースだったりとか、イヤな事件だったりとか。それで自分の気持ちまですごい左右されちゃう、バッド・チューニングされたりする1年だったんですね。そういうことから、インプットを得ていたのかもしれないな、と思います。

──そうやって気持ちが揺さぶられると、それはどんなふうに消化されて、どんなふうに作品に出てくるんですかね。

ムツムロ:自分の中で、メッセージが直接的すぎるとイヤだ、みたいな思いがすごくあって、忍ばせる程度にって言ったら変なんですけど──ブルーハーツや忌野清志郎も僕にとってはそうなんですけど──大人になって「あ、これ、こういうことを歌ってたんだ?」って気づかせてくれるような、そういう音楽のほうが好きだったから。なんか今、いろんなことが良い、悪いの二項対立になってると思っていて。

──ああ、「ユースレスマシン」では、そのことについても歌っていますよね。

ムツムロ:そうなんです。それがすごくイヤで。そういう部分が、曲にも出てるのかもしれないです。

──そういうことを表現するときに、今、ロック・バンドというのは、いちばんやりやすいアウトプットの方法ではなくなっていますよね。

ムツムロ:今はそうですね。ヒップホップのほうが現実を歌ってる感じがしますよね。ロック・バンドはロマンを歌うもの、みたいな。

──そこで「じゃあ自分たちはどうしよう?」っていうことは──。

ムツムロ:すっごい考えますね。それは毎日考えてます。「しょせんロックって娯楽じゃないか」みたいなところだったり、「でもそれだけじゃないよな」みたいな思いの狭間で、毎日過ごしていますね。

──でもそれ、確かに曲に表れてますね。

ムツムロ:そうですね。「ユースレスマシン」がいちばんそうかな。

──“教室の隅”や“青春”という範囲では収まらない曲になっているし。

ムツムロ:そうですね。でも、“青春”って言われても全然よくて。それはもう、聴いた人のものだと思うので。

──でも、たとえば「DAY DREAM BEAT」の<ひとり 登下校中 ヘッドフォンの中は宇宙>の方が、わかりやすく感情移入できるかもしれないけど、逆に言うと、その光景しか浮かばないですもんね。それがもっと、聴く人によって光景が変わるような歌になってきているというか。

ムツムロ:そうですね。そういうモードに、今はなってるのかもしれないですね。

でらし:正確には前作からだよね。聴いて考えてもらうっていう意味では。

ムツムロ:そう、一作前の『イマジナリー・ノンフィクション』から、そういうことを考えだしたように思います。

でらし:でもこの「ユースレスマシン」も、表面だけ見たら、今までのハンブレッダーズっぽいという捉え方も、全然してもらえると思います。そういう意味で、バランスがいいというか、幅が広がったなと。

ムツムロ:うん。そういうのは意識して作りましたね。

ハンブレッダーズ 撮影=松本いづみ

ハンブレッダーズ 撮影=松本いづみ

■2020年は、もっと娯楽を娯楽として楽しみたい

──二項対立になっていくことへの危機感のほかに、わかりやすいものだけがすべてではない、ということも、曲に入ってますよね。

ムツムロ:そうですね。

──そういうことへの怖さを、普通に生活していて感じる?

ムツムロ:僕個人的には、すごくあります。すごく遠い問題のようだけど、ほんとは地続きなんじゃないかな、って思うことが、たくさんあるというか。2019年はそんなふうに不安になってた1年だったんで、2020年はもっと娯楽を娯楽として楽しみたいなっていう気持ちになってます。

でらし:(笑)。

ムツムロ:さっき話した映画のこともそうなんですけど──。

──さっき挙げた映画、どれもエンタメだけど、どれもテーマは重たいですもんね。

ムツムロ:そうですよね。社会的な映画ばっかりだから、それにしかアンテナを張れない自分がすごくイヤになったんです、去年末に。このアルバムを作り終えてからなんですけど。この間、『パラサイト』のポン・ジュノ監督も、社会のことを訴えたくて作ったんじゃなくて、とにかくおもしろいものを作ろうとしたら、それが結果的にそうなった、みたいなことを、インタビューで言っていて。それがいちばん良いんだろうな、というふうに今は思ってます。

でらし:いちばん美しい形ではあるかもしれないよね。娯楽であることを忘れちゃいけないという。でも、「ユースレスマシン」は、いいバランスで作れたよね。
僕はアジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)が、すごい好きで。中高生が聴いたらキラキラした部分しか見えないけど、大人になって聴いてみると「あ、そういう意味合いも込めてこの人は歌ってるんだ」っていう発見があって。そういうバンドって素敵だなって今でも思うんですよね。なので僕らの『ユースレスマシン』も、そういうアルバムになっていたらうれしいなと思いますね。

ハンブレッダーズ 撮影=松本いづみ

ハンブレッダーズ 撮影=松本いづみ

──自分たちの今のポジションって考えたりします? 「あ、今横並びになっているのはこういうバンドたちなのか」とか、「こんなシーンにいるのか」とか。今、あきらかに良い位置にいると思いますけど──。

ムツムロ:(笑)。だといいですけど。でも、たとえば今回メジャー・デビューして、トイズファクトリーに所属して安心、っていうことは1ミリも思っていなくて。いい曲を作って、いいライブをしてっていうルーティンは、変えちゃいけないなと。長く続けないと意味がないことだと思っているんで。そこはいちばん、まわりを見ていても……「彼らが売れてるから俺たちもがんばらなきゃ」じゃなくて、俺たちは俺たちのペースでやろうっていう気持ちで、俺はやってます。

でらし:僕は、まったくそんなことはなくて──。

ムツムロ・木島:はははは!

でらし:僕はまわりを見てすごいあせるタイプの人間なので。まわりのバンドがどんどんどんどん名前がでかくなっていくのを見て、すごい不安になりますし。

ムツムロ:再生回数とかね。

でらし:そう、気になるんですけど……やってることは違う、っていうのはわかってるんですよ。それは全然理解してますけど、やっぱり気にしてしまう。それはもう逃れられない運命なんだな、ずっと気にするんだろうな、と思って。

ムツムロ:(笑)。でも、「何枚売れた」みたいな話って、ほんと、いちばん音楽に関係ないんじゃないかな、って──。

でらし:そうなんだよ。だから、このバンドで僕だけでいいんですよ、こういう奴は(笑)。ムツムロさん、そういうこと気にしないタイプだし、木島さんも全然気にしないタイプで。 

木島:うん。やりたいことをやるだけ。

でらし:全員がどっちかだとダメだと思うんですよね、バンドって。だから、いいバランスなんじゃないかと思ってます(笑)。

ハンブレッダーズ 撮影=松本いづみ

ハンブレッダーズ 撮影=松本いづみ

■ちゃんとひとりぼっちになれる空間だったんですね、
 自分にとってライブハウスって

──リリース・ツアーはどんなものにしたいと考えています?(※取材は2月中旬)

でらし:来てくれる人が中高生、ティーンが多いと思うので、そういう子たちがちゃんと興奮してくれるようなツアーにできたらいいなとは思います。

木島:初のフル・アルバムで……今まで作ってきた3枚って、全部ミニ・アルバムのサイズだったので。それで、わりとシングルの感覚で曲を作ってきた部分が大きいんですけど、今回はアルバム曲として聴かれる曲もたくさんあると思うので。そういうアルバム曲もちゃんと届けられるライブになればいいな、という感じです。リード曲だけじゃなく、ほかのアルバム曲も魅力的に見せられるツアーになればいいな、と思っています。

ムツムロ:僕は……最近よく思うのが、さっきの話にも通ずるところがあるんですけど、ちゃんと孤独っていうものを大事にしたいなと思っていて。ライブでも、音源でも。たとえば、音源を聴くとき、今、YouTubeとかで、すぐコメントが見れて、感動を共有できたりすると思うんですけど、レコードとかCDで聴くときってそうじゃないじゃないですか。自分の部屋で、ひとりでCDを聴いてもらうその時間って、ちゃんと一対一になれてるような気がしていて。
それはライブでも変わらないと思っていて。全員で歌って、踊って、っていうのも、もちろんライブのよさなんですけど、それ以上に、ちゃんとメッセージを受け取れる、ちゃんと一対一に、ちゃんとひとりぼっちになれる空間だったんですね、自分にとってライブハウスって。それを忘れずにこのワンマン・ツアーもやりたいな、っていう気持ちはあります。

──自分も最近、映画を観ておもしろいと思ったら、すぐ他の人の感想を調べちゃうんですよね。「そんな大急ぎで調べなくてもいいじゃん」とか「これ、病んでるなあ」と、自分で思うことがよくあります。

ムツムロ:そう、自分の中の感想ってすっごい大事じゃないですか。それを噛み締めてから、そのあと人と共有するっていうのが大事だなと思って。僕、映画も、「今日観たいの3つあるなあ」と思って映画館に行くんですけど、ひとつ観たらその余韻にちゃんと浸りたいから、連続で観ることができなくて。「あのシーンすごくよかったな」とか「あれはああいう意味なのかな」とかいうのを、ひとりで持って帰って噛み締めたあと、誰かと共有したい、それから次の映画に目を向けたいっていう。そういう時間ってすごく大事だなと思います、今の時代だからこそ。

取材・文=兵庫慎司

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