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なきごと 周囲の囁きに揺れた心を歌った3曲入りシングル 「sasayaki」から紐解くバンドの在り方

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なきごと 撮影=森好弘

なきごと 撮影=森好弘

なきごとが奏でる音楽を言葉で捉えようとするのは難しい。なぜなら、彼女たちが鳴らす音楽は、心がうずくモヤモヤとしたもの、そこにある名前すらない感情を拾い集めて歌にしているからだ。そんな、なきごとが3月25日(水)にリリースするニューシングル「sasayaki」もまた、人と人との日々の関わりのなかで、その「ささやき」の先に生まれた名前のない感情をユーモラスに綴った3曲が収録されている。2018年7月の結成から約1年半。昨年まわったツアーの東京公演は全公演ソールドアウトするなど、バンドを取り巻く状況は好転していくなか、水上えみり(Vo.Gt)と岡田安未(Gt.cho)のふたりは、どんなふうに今作に向き合ったのか。以下のテキストから、バンドに寄せられる大きな期待感を一身に受けながら、あくまでも自分たちの在り方を大切にするふたりのリアルな姿が伝わればと思う。

――バンド結成からは1年半が経ちました。バンドを組んでいたときに想像していたような場所に立っているという感覚はありますか?

水上:あんまり先のことは想像してなかったですね(笑)。

岡田:うん、そもそも想像できなかった。

水上:まさか1年でエッグマンを埋められるようになるとは思ってなかったから、思ってたより先に来られたような気はするんですけど。でも、あまり自分たちは変わってないと思います。

 

なきごと

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――1年前はソールドアウトできなかった新代田FEVERが埋まったときは、「今度こそ見たかった景色だった」と言ってましたが、少しずつ会場のキャパが大きくなっていることはどう感じてますか?

水上:いつもそわそわしてます(笑)。埋められてうれしい反面、次にまた大きなステージに立つことに対して、不安を感じちゃうんですよ。ちゃんとみんな見に来てくれるかな? とか、そのキャパシティに似合うバンドになれてるかな? と。

岡田:私はあんまり緊張してないかも(笑)。ステージに立つたびに「怖いな」とは思うんですよ。それぞれのキャパには、それに似合うバンドの力量があると思うんですけど、常にバンドはそれを一歩越えていなきゃいけないじゃないですか。ギリギリじゃなくて、ちょっと余裕を持った状態で臨まなきゃいけない。そういうライブができてるかな? というのは考えてますね。

――今までやってきたライブは、ちゃんと余裕をもって臨めてますか?

岡田:ギリギリかなあ……。

水上:そうだね(笑)。

――そう言えば『バズリズム』の「2020年これがバズるぞ!ランキング」で、なきごとは12位でしたよね。ああいうのって、ランキングされる側はどういう気持ちなんですか? 純粋に「うれしい!」なのか、「あのバンドより下か……」と思っちゃうのか。

水上:うーん、私はあんまり深く考えないようにしてて。順位をつけるということは、そこに必ず誰かの主観が入ってきてると思うんですよ。完全じゃないというか。だから、それを見て、「バズってるんだ、聴こう」と思ってもらえることもあると思うんですけど、それよりも、自分で聴いたときの感覚を大事にしてほしいですよね。もちろん選んでいただいたことは嬉しいです。でも、私は誰かの1位であれば、それでいいかなと。

岡田:うまいこと言うねえ(笑)。

水上:あの番組の投票には、CDショップのスタッフさんも投票してくれて、「なきごとに入れました」みたいな連絡をくれたりもしたんです。そういう話を聞くと、「あ、こういうふうに投票してくれる人がいるなら、もっとがんばらなきゃ」となるし、期待を背負ってるなと思いますよね。

なきごと

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――なるほど。えみりさんらしい発言だと思います。そんな着実に成長を遂げているなきごとの2020年第一弾シングルが「sasayaki」です。3曲入りですが「癖」以外は、最近できた曲?

水上:そうです。今回のレコーディングのために書きました。

岡田:「アノデーズ」は出来上がったのが、レコーディングの2日前だったんです。

水上:曲会議の日を過ぎても、全然曲が出てこなくて。「すみません、もうちょっとだけ」と引き延ばしてもらって……。

岡田:絞り出した曲だよね。

――ということは、えみりさん、最近曲作りのペースがあまり上がらない感じですか?

水上:この曲を作ったときは、心の余裕がなくなってましたね(笑)。

――そうなんですか。聴かせてもらった印象としては、岡田さんのギターにしても、えみりさんの摩訶不思議な歌詞にしても、なきごとっぽいエッセンスが散りばめられた曲だなと思いましたが。

岡田:この曲は時間がなかったのもあって、いつもとは違う作り方をしたんです。いつもはえみりの弾き語りをもとに、ドラム、ベース、ギター、ボーカルでスタジオに入って、「いっせいのせ!」で合わせて作っていく感じなんですけど、これはえみりの弾き語りを元に私がDTMでバンドサウンドにした唯一の曲なんです。

水上:岡田が「こんな感じ?」と作ってきたんですよね。

なきごと

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――なきごととしては初めての作り方ですよね?

水上:そうなんですよ。

岡田:だから、それをなきごとっぽいと言ってもらえるのは嬉しいですね。

――ライブのMCでは「自分のなかで邪険にしてしまっているものがあって、それと同じ扱いを自分が受けたときの気持ち」というような説明をしてましたけど。よく聴くと、この曲って……。

水上:マヨネーズの歌なんですよ(笑)。マヨネーズと、「あの日々」という意味の「あのdays」をかけてるんです。私、食べ物の好き嫌いが結構多くて、ランチに添えられてるマヨネーズを食べなかったり、ハンバーガーに挟んであるマヨネーズを抜いて食べたりしてたんです。でも、その追いやられたマヨネーズの気持ちを考えたときに、恋愛で捨てられた惨めな自分と似てるなあと思ったんですよね。

――なかなか曲が浮かばないときに、それがポンと出てきたんですか?

水上:そうです。そのとき、ちょうどハムスターが亡くなった直後で、めちゃくちゃ病んでて。<最後は笑顔で終わらせてよ>というサビの部分を書いてたら、さらに悲しくなって。これを自分で歌うのがキツくなっちゃったんです。で、気を紛らわせるために、ここからどう膨らませようと考えてたら、いつの間にか、マヨネーズをかけた失恋の曲になってました(笑)。

岡田:これ、私が作ってるときは「マヨネーズの曲を作る」っていうのは聞いてなかったんですよ。それを聞いてたら、だいぶ違った印象の曲を作ってたと思います。

水上:コミックバンド寄りなね。

岡田:この曲に関しては、前の情報を聞かなくてよかったですね(笑)。

水上:でも、歌詞に「カロリー」とか「低脂肪」とか出てくるから、おやおや?と思ってたでしょ?

岡田:うん、不穏な感じはしてたけど。まさかマヨネーズかい!?という感じですよね。

なきごと

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――独特のワードから突拍子もない連想に飛んでいく感じは、「メトロポリタン」にも通じるなきごとワールドだなと思いますけど、自分たちではどうですか?

水上:自分たちでは、今回の3曲だったら、「癖」が1番なきごとっぽいなと思います。最初のライブからやってる曲というのもあって。なきごとって、岡田のギターが鍵になるバンドだと思うんですよ。ディレイとかリバーブとか、空間系(のエフェクト)を駆使した音がなきごとっぽいのかなと思ってて、それが炸裂してるのが「癖」なんですよね。

岡田:ずっと「音源化しないの?」と言われてきた曲なので、お待たせしましたという感じです。

――どうして、このタイミングで「癖」を音源化しようと思ったんですか?

水上:言っていいのかわからないんですけど、「癖」は、本当は前作の『夜のつくり方』に入れたかったんですよ。でも、あのミニアルバムに入れたい曲が多かったから、「癖」は、もうちょっと後に出そうとなって。次回、絶対に「癖」を出す約束で、あの6曲になったんですよ。

――じゃあ、ふたりの気持ちとしては早く出したかった。

水上:そうなんです。すごく思い入れが強い曲なのでリードにしようか迷ったぐらいで。

――その「思い入れ」は、歌い続けてきて抱くようになったのか、もともと曲の成り立ちとして、最初から思い入れがあったのか。

水上:両方ですね。この曲は、前作(『夜のつくり方』)で言うと、「合鍵」とか「深夜2時とハイボール」に近い曲だと思うんです。ふわっとした感じというよりも、生活感のある歌詞を意識してて。自分のなかで映像として強く残ってる出来事を、そのまま歌詞にしてるんです。ライブで演奏しながら、ずっとアレンジも悩んでたから、なおさら思い入れが強くなっていったんです。

――バラードだけど、ライブ映えするエモーショナルなアレンジですよね。

岡田:レコーディングが終わって、この曲を聴いたときは、ライブの情景が浮かんできましたね。そういう意味では、ライブの完全再現にもなっていると思います。

なきごと

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――この曲の歌詞で、<あなたの匂いがするうちは 好きでいさせて>という表現が、すごく生々しいなと思いました。言葉とか景色よりも、匂いの記憶って本能的な感じがするんですよね。

水上:たしかに匂いっていちばん記憶と結びつくところだと思うんです。同じ銘柄のタバコの匂いとか、同じ柔軟剤の匂いに、いまだに反応してしまうことってあるじゃないですか。そういうところを、ちゃんと表現したかったという。曲ができた順番としては、この曲から派生して、前作の「合鍵」ができたので、私たちの神髄的なところをちゃんと込められたのかなと思います。

――なるほど。

水上:あと、私のなかで、この曲の歌詞で尖ってると思うのが、<あなたとの記憶に縋る こんなのダサいよな>というところなんですよ。「ダサい」という言葉って、すごくダサいと思ってて。あんまり歌詞では使いたくなかったけど、チャレンジしたんです。それをあえて使うことで、自分のダサさを強調するような表現として使ってるので。ここだけ異質な感じがするんですよね。

――わかります。順番が前後しちゃいましたけど、最後にリード曲「セラミックナイト」について聞かせてください。この曲は新鮮でした。語弊を恐れずに言うなら、なきごとなのに、ちょっと明るい。

水上:そうなんですよ。

岡田:でも、これも、実はサビのメロディ自体は暗めなんですよ。

水上:たぶん楽曲の裏打ちのリズムで明るめに聞こえるんですよね。ドラムの河村(吉宏)さんが、ハーフと四つ打ちのあいだを狙ってくれて。そこは、明るくなりすぎないように慎重に作りました。明るいけど、明るくなりきれないというのが、自分の性格にリンクしてくる部分があるんです。前作で言うと、「ユーモラル討論会」と「メトロポリタン」の間っぽい感じだけど、ポップなんですよね。

――これ、歌詞のテーマは抜歯?

水上:そうです(笑)。去年、抜歯をしたんですけど、めっちゃ怖かったんですよ。それを大袈裟に書きました。

岡田:痛かった?

水上:うん。というか、衝撃がすごかった。歯を抜くときに、頭を押さえつけられて、なかなか取れなくて、「まだ取れないんですか?」みたいな。

――抜歯って、治療というより工事みたいな感じですよね。

水上:そうそう。だから、歌詞も、アスファルトにセラミックを建てるイメージで書いたんです。

――でも、ただの抜歯ソングには終わらないのがこの曲の深いところで。<こんなんじゃまるで26本の永久歯>とか絶妙な表現だなと思うんですよ。もがいてる感じがするというか。

水上:自分が大人になれないことに対して、乗り越えていきたいという気持ちですよね。未熟な自分を乳歯、大人になった自分を永久歯にたとえて、まだまだ自分はダメだなって。

岡田:ねえ、なんで永久歯が26本?

水上:ふつうの人は28本のはずなんですけど、私はもともと1本親知らずが生えてなくて、さらに1本抜けて、全部26本という、私のいまの口の状況。

岡田:ふつう永久歯は32本じゃない?

水上:え? うそ!? じゃあ親知らずが4本生えてない上に、奥歯も1本生えてなくて、さらに1本抜けてるから26本ってこと!?

スタッフ:(スマホで調べて)親知らずを入れて、32本がふつうみたいです。

水上:ちょっと待って、歌詞を変えなきゃいけない。まあ、でも26本は私のいまの歯の数です!

なきごと

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――ハハハ(笑)。今回のシングルのタイトルを「sasayaki」にしたのは、「セラミックナイト」に出てくる、<囁いてみえる 甘い誘惑で>というフレーズからですか?

水上:そうです。今回のシングルは3曲とも、周りで色々なことが囁かれているなかで、自分がどう思うか?というのを歌ってると思ったんです。たとえば、「セラミックナイト」だったら、このまま落ちるところまで落ちちゃえば、大人にならなくていいんだよという悪魔のささやきに抗おうとしてるし、「アノデーズ」だったら、恋人に「なんだか物足りない」って言われて、私はどうしたらいいんだろう?と病んでるし。

――「ささやき」をキッカケにして、ざわついた気分を歌った曲たちであると。となると、「癖」は?

水上:「癖」は、歌詞のなかには出てこないですけど、大切だった人のささやきの記憶があって、それに対して、いちばん最後に「待ってる」という決意を歌ってるイメージですね。

岡田:タイトルに関しては、いつも完全に(えみりに)任せてはいるんですけど、こういう説明を聞くと、「ほほー」と思いますね。

水上:ほほーって(笑)。

なきごと

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――ハハハ(笑)。このシングルを引っさげた全国ツアー『なきごと「sasayaki 」Release Tour 2020』が4月から開催されます。全9公演はなきごと史上最長ですね。

水上:また規模が大きくなりました。札幌と高松が初めて行く土地ですね。今回は結構自分たちで対バンも決めたんです。今まで何回も対バンしたことあるバンドも、初めてのバンドもいるんですけど、かっこいいバンドばっかりだと思います。

――ツアーファイナルはバンド最大キャパとなるTSUTAYA O-WESTです。

水上:そこにあるすべてのものを注ぎ込めるような感じにしたいですね。落ち着いて、ライブができるようにがんばります。

岡田:うん、がんばろう。緊張しすぎないように、いつもどおりやろうかなという感じですね。

なきごと

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取材・文=秦理絵 撮影=森好弘

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