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「リトル・リチャードで私は育った。私より前にそこにいた。」ボブ・ディラン、NYタイムス紙でのインタビューから「リトル・リチャードを語る」翻訳公開

アーティスト

「ラフ&ロウディ・ウェイズ」

オリジナル楽曲では、8年振りとなるアルバム「ラフ&ロウディ・ウェイズ」(輸入盤)が発売になったボブ・ディラン。その新作や近況を語る大変貴重なインタビューの中から、今年故人となってしまったリトル・リチャードの話を中心に翻訳が公開された。

なお、このインタビューは2020年6月12日にNYタイムス紙web版で公開されたものである(翻訳:丸山京子)。

リトル・リチャードで私は育った。私より前にそこにいた。

「偽預言者」の歌詞から、ジョン・プラインとリトル・リチャードのことを思い浮かべたが、彼らの死後、トリビュートの意味で彼らの音楽を聴きいたかの問いに

「どちらも、それぞれの仕事において勝利を勝ち取った人間だ。誰からのトリビュートも必要としてないよ。彼らが何をしたか、何者なのか、みんなわかっている。彼らに寄せられる敬意、称賛の数々に彼らは値する。それだけは疑いようがない。ただリトル・リチャードで私は育った。私より前にそこにいた。私の下でマッチに火を灯し、明るくしてくれた。自分一人じゃ、知ることなかったことに私の耳を傾けさせてくれた。その意味で、彼への感じ方は違う。ジョンは私のあとに来た。だから一緒ではありえない。私の中で二人は違う捉え方をしている」

リトル・リチャードは偉大なるゴスペル・シンガー

何故もっと多くの人がリトル・リチャードのゴスペル・ミュージックに耳を傾けないのか?に対して、こう答える。

「それは本来ゴスペル・ミュージックが良いニュースを届ける福音の音楽であるはずなのに、今、世の中に福音と呼べるものが何もないからだろう。今の世界で福音はまるで逃亡者だ。チンピラのように扱われ、非難を浴びながら、逃げ回わるっきゃない。我々が目にするのは、何の役にも立たないニュースのみ。メディア業界のおかげでね。そういうニュースは人々を焚きつける。ゴシップ、人の恥部。暗いニュースは気分を滅入らせ、怯えさせる」

人の関心を集めたきゃ、セックス、政治、殺人に限る。人は興奮するからね。それが問題だ

「それとは逆に、良いニュースは人の模範になり、それを知った者は勇気を与えられる。自分に合った自分らしい生き方をしようと、少なくとも思わせられる。誇りと道義に基づき、それを実行しようとする。ゴスペルには真理があるが、大抵の人間は真理を必要としていない。彼らはそんなことに構ってられないほど、生き急ぐ。悪い影響が多すぎるんだよ。人の関心を集めたきゃ、セックス、政治、殺人に限る。人は興奮するからね。それが問題だ」

リトル・リチャードとロバート・ジョンソン

「リトル・リチャードは偉大なるゴスペル・シンガーだった。だがゴスペルの世界ではアウトサイダー、もしくは不法侵入者と見なされ、受け入れられなかった。一方、ロックンロールの世界は彼が「グッド・ゴリー・ミス・モリー」を永遠に歌うことを望んだ。彼のゴスペルはどちらの世界からも受け入れられなかったのさ。シスター・ロゼッタ・サープも同じだったと思う。どちらもそんなことに構うことなく、やってたように見える。かつてなら、高潔な品性の人と呼ばれていたような人間さ、二人とも。誠実で、才能に溢れ、自分を知っていた。外からのどんなことにも揺らがない。そんな人間だったよ、リトル・リチャードは」

「それはロバート・ジョンソンもだ。もっとかもしれない。ロバートはこれまでで最も独創的な天才の一人だ。当時、彼にはおそらく聴衆はいなかったと思う。あまりに時代の先を行っていて、いまだに誰も追いつけていない。今日では最も高い地位に祭り上げられているが、あの時代、彼の曲は聴く者を混乱させたに違いない。偉大な人間は、自分の足跡だけを追う。そのことの良い例だ」

フォークのトラディションに閉じ込められているのか?

ジョン・レノンへ捧げ「ロール・オン・ジョン」を歌ったが、他にバラードを書いてみたい人物はいるか?の問いに対し、

「ああいう曲は、突然、どこからともなく生まれるんだ。書こうと思って書いたことは一度もない。とは言うものの、なんらかの理由で、自分の無意識の中に常に存在する人物は何人かはいるものだがね。曲の中で特定の名前を挙げていたとしても、それは意図的に書いたものではない。どこかから落ちてくる。なぜ、彼らのことを書いたんだ、と周りが驚くのと同じくらい、私自身も驚かされる。フォークのトラディションには、そういった”人”のことを歌った曲の長い歴史がある。ジョン・ヘンリー、ミスター・ガーフィールド、ルーズベルト。私もそのトラディションに閉じ込められているだけかもしれない」

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