愛希れいか
アイリーン・キャラが歌う主題歌「フラッシュダンス…ホワット・ア・フィーリング」と共に、80年代に大ヒットした映画『フラッシュダンス』がミュージカルに! ダンスの世界を夢見る少女アレックスと、彼女を取り巻く人々の生き様を描く青春物語で、80年代ヒットソングに乗せて迫力のダンスが展開される。宝塚歌劇団在籍中、名ダンサーとして鳴らした愛希れいかが、主人公アレックスに扮して熱いダンスを披露するのも大きな見どころのひとつ。作品への思い、踊りへの思い、そして舞台への思いを聞いた。
ーー作品とはどう出会われましたか。
最初にふれたのは舞台版なんです。世界ツアー版が韓国で上演されているときに観劇して。映画版を見たのは、今回の出演が決まってからです。実は、舞台版を韓国で観たとき、衝撃的なことが多くて。主人公が水をジャーッとかぶるシーンも、映画版で有名ですけど、私はそのとき知らなかったので……。ダンス・シーンがすごく多いなとも感じました。映画版とは違って、舞台版はいろいろなところをダンスでつないで描いているんです。カーテンコールでもみんなで一緒にダンスするんですが、そこも非常に印象的で。客席も盛り上がって踊っていて、わあーっと圧倒されました。自分が出演すると決まって、あの作品に出るんだ! と、すごく楽しみな気持ちと、すごく踊るな、踊れるかなという気持ちで、わくわくとドキドキが入り混じっている感じです。80年代ファッションの衣裳もそのままなので、あのレオタードで踊れるかなとか(笑)。現代でも幅広い年代の方に広く受け入れて楽しんでいただける作品だと思います。当時を懐かしむこともできれば、今、夢に向かって頑張っている子たちにも大きなメッセージがある作品になると思います。
ーー子供のとき、カナダに住んでいて、習っていたジャズダンスの発表会で、「フラッシュダンス…ホワット・ア・フィーリング」で踊ったことが懐かしいです(笑)。
『フラッシュダンス』世代のジャズダンスの先生方だとエクササイズに取り入れていらっしゃったりするので、私も習ったことがあるんです。今やっと、あのときのあのエクササイズはここから来ているんだとわかったりして。そういう意味でも非常に大きな影響を与えた作品なんだなと感じます。
愛希れいか
ーー舞台版は映画版とはまた違う設定、切り口だったりしますね。
舞台版だと、アレックスが夢に向かって進んでいくところがよりクローズアップされている感じです。リアルな18歳の女の子がとてもうまく描かれているなと思います。恋愛の部分ももちろんそうだし、夢に向かったり、挫折したりといったシンデレラ・ストーリーもきちんと描かれていて、非常に身近に感じられる作品だなと。映画版だと人間関係が濃く描かれているというか、アレックスの人柄というか、若さゆえの、人に当たりが強いところが(笑)。そこがかわいくて魅力的なんですけれど、物言いがはっきりしていて、意見もはっきり言うところがあって、あまり考えず、見たものだけでぱっと言っちゃったり、行動に移しちゃったり。そこが私は好きだし、人間らしいし、おもしろいなとも思いました。
ーー作中、愛希さんが踊りまくるであろうことも非常に楽しみです。
宝塚ではショーがあるので割と頻繁に踊っていましたが、退団してからは、レッスンに行った時くらいしか踊っていなかったんです。昨年出演した『ファントム』ではコンテンポラリー的な振付で踊りましたが、これだけ舞台で踊るのは久しぶりになるので、体力や筋力をしっかり鍛えなきゃなと思っています。自分でも踊るのは好きなのですが、お客様にお見せするとなるともっと頑張らなきゃなと思うので。
ーー主題歌の英語の歌詞に、「I am music now / I am rhythm now(今、私は音楽そのもの/今、私はリズムそのもの)」とありますが、愛希さんご自身、踊っていてそんな境地に至ることは?
そうですね、歌と芝居と踊りとある中で、私は、踊ることが一番自分を表現しやすいです。自分が思っているようになりやすいというか。踊ることは自分にとって、発散であったり、ちょっと違った自分になれる、素直に表現できるものであって。何だかわくわくするんですよね、音楽がかかって、踊るとなったとき。もちろん、やればやるほど、しんどかったり、うまくできないと悩むこともありますが……。でも、身体にその振りがなじんでいく感覚、自分のものにしていく感覚が、自分は好きです。そして、それを舞台からお届けする、その瞬間の感覚は、すごく気持ちがいいですね。
愛希れいか
ーー宝塚時代、エネルギッシュなアフリカン・ダンスを含め、さまざまなジャンルのダンスを踊っていらっしゃいましたが、今回の舞台ではいかがですか。
今回、SHUN先生も振付に入ってくださるんですが、私も今まで舞台で踊ったことのないようなジャンル、テイストにも挑戦することになるのかなと思っています。
ーーさまざまなジャンルのダンス、音楽がある中で、愛希さん自身にとってしっくりくるのは?
バレエもそうですし、ジャズダンス、シアタージャズのジャンルは、宝塚音楽学校時代からずっとやってきたことなので、好きです。ただ、すごく興味があるのはヒップホップなんです。クラスで習ったことがある程度で、ちゃんとやったことはないんですが。今回踊らせていただくようなエクササイズ、あれがかっこよく見えるというのは、技術に加え、パッションが非常に必要だなと思っていて。表現していく難しさを感じます。服装もちょっと戦闘服に見えるというか、今だとちょっとダサい感じというか……。
ーー80年代ですから(笑)。
(笑)。それがかっこよく見えるというのが、不思議だしすごいなと、舞台版を観たときに思って。演じる人によりますよね……。
ーーちらしビジュアルを見て、あの『フラッシュダンス』のビジュアル再来~とわくわくしました。
やはりイメージがあるので、再現を強く意識して撮影に臨みました。でも、ちょっと恥ずかしいところもあります(苦笑)。
ーー「フラッシュダンス…ホワット・ア・フィーリング」に「マニアック」と、ヒット曲も満載の作品です。
どこかで聞いたことのあった有名な楽曲が多いですね。ミュージカル版では新曲が加わっていますが、デュエットの曲もとてもよかったなという印象が残っていて、歌うのが楽しみです。舞台では割と、ミュージカルの大曲といった感じのナンバーを歌うことが多かったので、ポップスなど異なるジャンルにチャレンジする上では自分も勉強が必要だなと思っています。
愛希れいか
ーーこのコロナ禍で、主演作『エリザベート』が公演中止になったりといったことがありましたが、改めて、舞台に立つことについて何か考えられたことは?
今、リモートでとか、無観客でとか、いろいろなことが試みられていますけれど、やはり、お客様が観に来てくださって、劇場に入ってくださって、それで自分たちの仕事が成り立っているんだなということを改めて思いました。舞台に立てなくなったとき、自分の行き場がなくなってしまった……みたいな、虚しさみたいなものを非常に感じて、どうしたらいいんだろう……ということはすごく考えました。もちろん、今は新しい形でのやり方もやっていくべきだと思います。でも、改めて、自分は舞台に立つことが好きなんだなと。一日も早くいつも通りの日々が戻ることを今は祈るばかりです。
ただ、自分を見つめ直すいい機会になったなとも思います。映像のお仕事にも、もちろん興味はあります。でも、自分は舞台が一番好き。宝塚を退団して2年くらい経ちますが、自分の方向性について迷ったこともあったんです。やってみなければわからないというところもあったんですけれど、退団で、一つやり終えたという気持ちがあったから、これからどうしていこう、ここからどうしていけばいいんだろうというところで、すごく悩んでしまった時期もあったり。今回のこの期間にも、そういうことをすごくいろいろ考えましたが、今は一周して、ま、いいか、みたいな(笑)。この期間は休めばいいや、インプットの時間にしたらいいやと思えるようになりました。今後についても、あんまり深く考え込まずに、とにかくやれるだけやってみよう、楽しもうという風に気持ちを切り替えられました。そういった意味ではよかったかなと。これからもこういうことが起きてしまったりするから、とにかく、わくわくする方に進んでいくしかないなと思うんです。
『エリザベート』に関しても、去年の公演で、明日舞台に立てなくなってもいい……と思って、命をかけてやろうと決めて取り組んでいたんです。今年、公演がなくなってしまったことについては、すごく悲しかったし、さみしかったし、お客様にお届けできないということを思ったら、すごくつらかったんですけれど。でも、去年、悔いなくやり遂げたから、また次のチャンスが来ることを祈って、それでいい、そう思えた部分もありました。悔いなく生きるということはやっぱりすごく大事なんだなと思いましたし、これからもそうしようって。わくわくする方に必ず進むようにして、悔いなくやる、そう心に決めました。
ーー舞台に立つことは、愛希さんの心を何故そんなにも魅了し続けるのでしょうか。
うーん、何故だかわからないんですけれど、もう、わくわくするんですよね、とにかく。ドキドキもしますし、かなり緊張もしますし、それで胃が痛くなってああ……ともなるんですが、でも、舞台に立ったときのあの感覚が忘れられなくて、また絶対に立ちたくなってしまう。今、こうやって話している自分とは、全然違う自分になっているんだと思います。そんな感覚があります。違う自分になれる感覚が。
愛希れいか
ーー今回のアレックス役で、また違う愛希さんを観られることが本当に楽しみです。
幅広い年代の方に楽しんでいただける作品だと思うんです。懐かしんでもらったり、青春時代を思い出してもらったり、夢に向かって頑張っている子たちにも観てほしい。私自身、すごく勇気をもらえた作品なので。アレックスって、強気なのに、自信がないんです(笑)。私自身も、すごくわかるところがあって。アレックスは恩師に背中を押してもらうんですが。結果はどうであれ、一歩踏み出す勇気をもってほしいなって、そんなメッセージがたくさん含まれている作品だと思うんです。もちろん、若い子だけではなく、自分と同じ年代の方で、これから頑張ろうと思っている人たちにも観てほしいです。シンプルにすごくパワー、エネルギーをもらえる作品だと思うので、世界全体ちょっとパワーが弱まっているように感じる中で、元気をもらいに、気楽に楽しみに来ていただければいいなと。
ーー宝塚時代、娘役としては17年ぶりに宝塚バウホールで主演を務めるなど大活躍されて、娘役陣が、愛希さんの存在に勇気と希望をもらっているんだな……と感じることもありました。愛希さんがそこまで宝塚の娘役としてやり遂げることができた理由とは?
やっぱり、宝塚が好きという気持ちですね。そして、破天荒な娘役を応援してくださった方がいたということに尽きます。受け入れてくださった方がいたから続けることができましたが、少しだけ娘役、娘役することに、私はこうじゃないみたいに反抗しちゃっているように見えた時期もあったりしたんじゃないかなと。それでも、自分らしさというものを貫いていいんだよと言ってくださる方、そこを応援してくださる方がいたことがやっぱり大きかったです。娘役っぽくないと言われたこともありましたが、娘役をやるということが、自分はすごく好きだったんです。「好き」という気持ちがやっぱり一番大きいんじゃないかなと思います。好きなことをやっているときが、人間、一番輝くな……と思うので。
ーーあれだけ成し遂げた後ですから、退団後、進路についていろいろ悩まれたというのも何だかわかる気がします。
小さいころからの夢だったので、それをやり遂げたということは、自分の中で、一つ終わった~という気持ちになりました。もちろん、表現することを続けたい気持ちはあったんです。でも、これからどうしていこうかなという思いもあって、悩みました。作る側の仕事に回ろうかなと思ったりもしましたし。振付の先生に影響を受けたということも多かったので、そちら側に憧れた時期もあって。でも、自分にその才能があるかわからないし、それにしてもやってみないとわからないというところもあるし。ミュージカルじゃない分野でやってみようかなと悩んだ時期もありました。いろいろ悩んで考えて、今は、来るもの拒まずやってみよう、そういう気持ちになれました。
愛希れいか
ミュージカル『フラッシュダンス』は、東京公演を2020年9月12日(土)~ 9月26日(土)日本青年館ホールにて、名古屋公演を10月3日(土)~10月4日(日) 日本特殊陶業市民会館ビレッジホールにて、大阪公演を10月8日(木)~ 10月11日(日)梅田芸術劇場 シアタードラマシティにて上演する。
取材・文=藤本真由(舞台評論家) 撮影=山本 れお
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