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wacciが模索する画面の向こうの“あなた”との楽しみ方、新しい試み満載の配信ライブツアーを見た

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wacci Streaming Live Tour 2020 ラブソング編
2020.7.18 川崎 CLUB CITTA’

2019年10月から2020年7月にかけて、2度目の47都道府県ツアー(全52公演)を行う予定だったものの、中断を余儀なくされたwacci。生でのライブをやるのは難しくなったが、その代わりに何かできないだろうか。そんな考えから実現したのが、現在開催されている『wacci Streaming Live Tour 2020』だ。

計6公演にわたって行われるこの配信ツアーは、日ごとに異なるコンセプトが設定されていたり、それに伴い選曲も違っていたり、セットリストが事前に公開されていたりと新しい試みが満載。画面の向こうにいる“あなた”とともに楽しむやり方をバンドは模索している。

この記事では、7月18日に開催された2公演目・ラブソング編の模様をレポート。会場は、47都道府県ツアーで3月に訪れる予定だった川崎 CLUB CITTA’だ。なお、筆者は配信ではなく、現地で直接ライブを観ていた。そういう目線のレポートになることをご了承いただきたい。

開演時刻を迎えたところで、通常のライブと同じように、影アナが注意事項をアナウンス。しかしよく聞くと、録音・録画はNGだがスクリーンショットは個人で楽しむ範囲ならばOKという話のなかで「非常に盛れた写真の場合、拡散していただけると世間におけるwacciのイメージ向上に繋がります」と言っていたり、サイリウム・ペンライトの使用もタオル回しもOKという話のなかで「それに伴う家具の破損に関してはこちらでは責任を取りかねます」と付け加えていたり、くすりと笑えるユーモアがある。

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橋口洋平(Vo / Gt)がアコースティックギターを爪弾くなか、ステージが夕焼け色に染まっていく。1曲目は「感情」。1番は橋口の弾き語り、2番からバンドが加わるアレンジで、丁寧に鳴らされる。音を伸ばして一旦締めてから深くお辞儀。深い赤色の舞台幕も相まって、どことなくクラシカルな雰囲気があったが、今ライブハウスで鳴らせている感慨をじっくり噛み締めているようにも見えた。

「恋の宛先」が始まり、バンドサウンドが一気に弾けるなか、「wacciでーす! ストリーミングライブツアー、ラブソング編へようこそー!」と橋口が明るく挨拶。ビートに乗って、思い思いに揺れながら5人はとても楽しそうだ。ここで橋口がギターを置き、コール&レスポンスを開始。「ドルチェ&ガッバーナ」という今をときめくワードを使用しているだけでなく、最終的にあの曲と同じリズムになっているため、他4人はニヤニヤしながら演奏している。そうして始まったのは「まっぴら!」。間奏では「ご自宅でやってみよう、世界一難易度の低いダンス!」(橋口)と、みんなでサイドステップ。

橋口のボーカルはよく伸びているし、各楽器の音色にも気持ちが乗っている。ここまで3曲を通じて、バンドが、観客が目の前にいるときと同じ熱量でライブに臨んでいることが伝わってきた。どのようにモチベーションを保っているのだろう。そう疑問に思っていると、MCに入る。曰く、チッタでwacciがライブをやるのは9年ぶりで、9年前といえば、お客さんが数人しかいなかったため、「(無観客でも)僕らからしたら何てことない」とのこと。また、「画面の向こうにあなたがいるので」とも言っていた。「こんにちわっち!」に返ってくる声がなくても、ライブを観てくれている人はちゃんといる。そう信じられていることが、彼らの力になっているのだ。

「君なんだよ」のあとの「幸せ」は、グルーヴ感もしっかりありつつ、それぞれの丁寧なプレイが光る好演だった。小野裕基(Bass)が低音を唸らせると、それに応じて横山祐介(Dr)が手数を増やす。アウトロにおける橋口のスキャット、村中慧慈(Gt)のカッティングはどんどん剥き出しになっていく。そんななか、因幡始(Key)がやわらかい音色で懐かしさを感じさせるメロディを紡ぎ、曲を閉じた。

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ここで「別の人の彼女になったよ」が登場。様々な角度からの光が橋口の元に集まったあと、光は右斜め上空に移動。そのままステージからちょっとずれたところが照らされた状態で曲が始まった。これ、スポットライトが当たらなくなった=私はあなたの人生における主要キャストではなくなったという意味を込めた演出かと思ったのだが、深読みしすぎだろうか。橋口の歌声はビリッとした気迫を纏い、バンドの音はサビが訪れる度に熱量を増す。

2度目のMCでは、スマホやタブレットで観客(視聴者)からリアルタイムで送られるコメントをチェックしながら話す。コメントの中から元カレとライブを観ている強者を発見したり、「ラブソングっていう言葉、もしかして今はあまり使わない?」という話題から発展して村中がメタルっぽいギターリフを弾くことになったり、因幡がカメラに映らないよう配慮して汗を拭いているのに他のメンバーがわざわざそれをいじったりと、リラックスした空気でのトークが続いた。

そのあとの「足りない」は、「別の人の彼女になったよ」のサイドストーリー的な要素がある曲で、物語性を汲んだうえでの選曲だろう。《今度こそちゃんと さよならしよう/私が好きになったあなたは/もうこの世界にいない》。苦みと希望が入り混じる、あまりにも秀逸なフレーズが登場するバラードだ。「結」は光の柱がステージに降り注ぐ中での演奏。誰もいないフロアがステージの光を反射させる鏡みたいになっていて綺麗だった。

3度目のMCでは、ラブソングのイメージが強いからか、恋愛相談をよくされるという橋口が「男性からの“他に誰か誘う?”は“本当は2人がいい”という意味だが、女性からの“他に誰か誘う?”は“2人きりは嫌だ”という意味だ」、「改札前でハグやキスをしているカップルは大抵付き合っていない」という持論を展開。それに対して観客がコメントで賛否を主張するなど、ひとしきり盛り上がったあと、「恋愛といっても一括りにできない」「いいことも悪いことも歌にしていきたい」とまとめてから演奏に臨んだ。

ミラーボールもまわったディスコナンバー「シンデレラ」は、2番で橋口がフロアに下り、カメラに向かってパフォーマンス。しかしステージに戻ってきてからの最後のサビで歌詞が飛んだようで「出てこない!」と言っている。後のMC曰く、「(フロアに)出ていったもののテンパってしまった」そうだが、こういうハプニングもライブならではだ。小野がフレットレスベースを弾く「最上級」は、ライブアレンジだとケルトに通ずる趣がある。バンドのサウンドが広い景色を描いていった。

最後の1曲を前にMC。ここでは橋口が、待ってくれている人の前でライブができることのありがたみ、メンバーやスタッフと試行錯誤しながらライブを積み重ねることの大切さをこの期間で再実感した、と語った。さらに「お互いの価値観をちゃんと理解しあって譲り合う思いやり、新しい愛の形みたいなものがしばらく続いていくと思います」とも。「いつか振り返ったときに“あのときは思いやりを持ち合って乗り越えたよね”と思えるように、今は頑張ってこうぜ、という想いです」という締めの言葉にこのバンドの強さとやさしさが滲み出ていた。

そうして「歌にするから」を鳴らしたあと、「せーの、ありがとうございましたー!」と5人揃ってお辞儀をして終了。スタッフからカットがかかったあと、メンバーはすぐさまスマホ&タブレットの画面を覗き込み、観客からのコメントをチェックしていた。無観客ライブという言い方はしたくない。このツアーが発表されたとき、橋口はそうコメントしていた。それはなぜか。たとえ見えなくても、“あなた”は確かにそこにいるからだ。

直接対面できないからといって、人と人との繋がりがなくなってしまったわけではない。途絶えさせるわけにはいかない。そう信じるバンドによる配信ライブツアーは、ここからまだまだ続いていく。ファンクラブ会員限定公演(8月8日)を挟み、19日・28日・9月18日と続いていく。

取材・文=蜂須賀ちなみ

 

 

 

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