中川晃教
中川晃教がナビゲーターとなり、ゲストと共に音楽とエンターテインメントの力を全国に届ける新番組『中川晃教 Live Music Studio』。加藤和樹をゲストに迎えた初回収録が8月中旬、eplus LIVING ROOM CAFE&DININGにて行われ、リスペクトし合う二人ならではのプレシャスな歌唱とトークが繰り広げられた。SPICEでは、収録を終えたばかりの中川にインタビューを敢行。日テレプラスでの放映(9月27日(日))、およびStreaming+での先行配信(8月29日(土))がより一層楽しみになる、とっておきのウラ話の数々を、収録時の写真とともにどうぞ!
中川晃教
「加藤和樹さんの一挙手一投足が大好きなんです」
――まずは、初回収録を終えた今の率直なご感想をお願いします。
とっても楽しかったです! “アーティストの自宅に招かれたような気分を味わえる”という番組コンセプト通り、とてもリラックスした空間のなかで、自分のおうちで曲作りをしているような感覚で音楽に没頭することができたんです。番組のひとつの特徴として“一発撮り”というのも掲げていたので、その緊張感はあったんだけども、でもリラックスできていた。それはなぜかと考えると、すべてがピタッとハマったからなのかなと思います。
長い間閉鎖されていた劇場が再開して、お客様がそこにいる、っていうことの純粋な感動を僕は味わいました。それと同時に、僕たちとお客様とスタッフの方々、みんなの今の前向きな気持ちがこれからの新しいエンターテインメントを作っていくんだ、という気持ちも生まれていたりして、自分の中で色んな思いがあふれていたタイミング。そんな時に、あの素敵な空間で、加藤和樹さんと一緒だったことで、あふれていた思いを気負うことなく、ふわっと出せたような気がするんです。すごく贅沢な時間でしたね。
ここでしか聴けないトークもたっぷりと
――“ナビゲーター”という役割についてはいかがですか。
これも楽しかったです! ゲストの方の人となりや色んなものを引き出して、魅力としてお届けするにはどうしたらいいか、考えながらお話をするのは、難しいけれども嫌いじゃないなって(笑)。特に今回は相手が和樹さんということで、ミュージカルのステージに立っている姿はもちろん、直前のライブ配信でコンサートをする姿も見ることができていたから、聞いてみたいことが自然と湧いてきたんですよね。
――取材会でムチャブリを予告されていたので、「中川晃教コンサート2020 feat.『チェーザレ』」での“若手イジリ”みたいなトークが繰り広げられるのかと思いきや(笑)、加藤さんの思いを深いところまで丁寧に引き出す名MCぶりでした。
ああ~(笑)。僕は一人の人間として、和樹さんの一挙手一投足が大好きなんですよ。彼の持っている武骨さ、真面目さ、人間臭さも、端正なお顔、何ともいえない深いヴォイスも、頭の回転の速さ、人のことを慮れるクレバーな部分も。そういう気持ちとか僕たちの関係性っていうのは、これまで付き合ってきた時間のなかで生まれたもので、その時間があのトークにはすべて出ていたのかなと思いますね。若人たち(コンサートのゲストだった山崎大輝、井澤勇貴、近藤頌利)の場合は、まだその時間を積み上げていなくて、ツッコミどころが満載だけどそのすべてが愛おしい!みたいな段階(笑)。だから着けている“仮面”というか、心構えが全然違ったのだと思います。そういう意味では、これからこの番組ではゲストの方によって、僕の色々な“MCぶり”が見られるかもしれません(笑)。
中川晃教
加藤和樹
「作曲は、降りてくるものをつかむ感覚」
――冠番組ということで、今回はオープニング曲も中川さんが作詞作曲されました。ぜひ誕生秘話をお聞かせください。
「LOVE MUSIC~人生は素晴らしい~」というタイトルの楽曲です。音楽は僕の人生を照らしてくれるものだということと、自分は一人ではないっていうことをより感じている時にお話をいただいたので、そんな思いを込めました。この曲に辿り着く前に、実はもう1曲ポロポロって書いてるものがあったんですけど、なんか違うなと思っていて。そんな時、僕の大好きな和食屋さんに予約を入れた時間まであと30分あるな~って(笑)、パパパって弾いたら「あ、これかも?」ってなったんです。すぐに録って、1日寝かせて、次の日の朝にばーってまとめたのがこの曲。考えて考えて作った曲より、意外と「…あ!」って瞬間に作った曲のほうが良かったりするんですよね。
――いわゆる“降りてくる”という、天才特有のヤツですか?
いやいや、降りてくるっていうか…降りてくるし、つかむんだよね。「どっち?」「そっち?」「あっちかも?」「こっち!」みたいな(笑)。それはその日、その時にしか得られないもので、明日にはもうないんだよ。だからやっぱり、録っておくことが大事。次の日にそれを聞いて、「ああそうそう、あの時こっちに行ったんだ」とかって思いながら作っていくんです。
番組ピアノ・アレンジは園田涼が担当
――興味深い…! 番組収録中、加藤さんの歌声にごく自然にハモリを乗せていく姿などを拝見しながらも改めて不思議に思ったのですが、中川さんの音楽の素養というのはどこから来るのでしょうか。
ハモリは実は、すごい苦手なんですよ(笑)。ハモらせたらうまいのは藤岡正明。僕は難しい曲はすぐにはハモれなくて、よく知ってるシンプルな曲なら、という感じです。今回の場合は、和樹さんの歌声に寄り添いたいなって思ったから自然とハモれた部分も大きいですね。素養という質問に答えるならば、母がプロの歌手で父も趣味でギターを弾いていた音楽一家で育って、僕自身も小さな頃からピアノやソルフェージュをやっていたのは確か。でも、ソルフェージュが歌に役立っているかって言うと、それはちょっと分からない(笑)。感覚的にやっていることだから多分、持って生まれたものなんじゃないかな。
…なんてことを言うと、自分がすごいと思ってるみたいに聞こえるかもしれないですけど、そういうことでは全くなくて。自慢でも何でもなく、何て言うのかな…自粛期間中、舞台もコンサートも全部中止になったというのに、僕は「この仕事をやってて本当に良かった」って思ったんですよ。だって、ピアノとこの体さえあれば歌が歌えて音楽が作れて、自分のさみしい気持ちを吐き出すだけじゃなくて、いつかこの曲を誰かに届けようという夢を見ながら歌うこともできるから。そういう意味では、自分で言うのはすごくおこがましいですけれども、僕は“選ばれて”この仕事をしているのだと思います。目に見えないものからも、そしてファンの皆さんという目に見える人からも選んでいただいているからには、ステージでもこのような番組でも使命感を持って歌い、聴いてくださる方に届けていきたいって、本当に思っています。
トーク中にも、尾崎豊「I LOVE YOU」をハモリ始めるふたり!
相手によって別物に――“僕ミュ”デュエット秘話
――すみません、あまりに興味深くて脱線させてしまいましたが、ここからはセットリストについて伺います。まず、選曲のポイントは?
ゲストの方の人となりを、音楽を通してひも解いていくというのがこの番組のコンセプト。だから今回で言ったら、和樹さんが好きだったり語り継いでいきたいと思っていたりする洋楽/邦楽の名曲、出演してきたミュージカルの曲、そしてオリジナル曲というところで選んでいきました。僕自身が歌い継いでいきたい名曲のソロも入っていますが、それも基本的には、和樹さんとの化学反応を意識して選んだ感じですね。和樹さんも僕も、その曲を選んだ理由やエピソードを語ってから歌うので、視聴者の方それぞれが話を受け取った上で聴くことで、楽曲のドラマを自分なりに咀嚼できるのがこの番組の醍醐味かなと思います。
加藤和樹は、「人生に影響を与えた大切な曲」をテーマに選んだ曲を熱唱
――おっしゃる通り、お二人の人となりが伝わってくるような楽曲ばかりでしたが、“化学反応”というところで、個人的には『モーツァルト!』の「僕こそ音楽(ミュージック)」のデュエットが特に印象的でした。
あれはね、和樹さんが僕と一緒に歌いたいと言ってくれたんですよ。その気持ちがすごく嬉しかったし、この曲は歌う相手によって、面白いくらい違うものになるからすごく楽しみでした。直近だと、『precious moment』という公演で(小池)徹平ちゃんと歌ったんですけど、彼も僕もミュージカルと並行して音楽活動をやっていて、そのことに対するお互いのリスペクトがあるからか、楽曲を介してお互いがデビューしてから今までの、それこそ“プレシャスモーメント”が自ずと寄り添っていくような感覚があって。そういう体験をしたのは、あとにも先にも徹平ちゃんとの「僕こそミュージック」だけ。
(山崎)育三郎君と歌った時は、ふたりともモーツァルト役の経験者ということで、また全然違っていましたね。育君は初演で演じた僕のモーツァルトを観て衝撃を受けてくれたらしく、その記憶が鮮明に残ってるんだけど、目の前には今の僕がいるという状況で。そんな一瞬のライブ感を分かち合うような「僕こそミュージック」になりました。そして、初演で一緒に役を作り上げたヨッシー(井上芳雄)と何年後かにデュエットした時は…これはもうね、荘厳というか、「お前ら“愛の結晶”か!」みたいな感じ(笑)。天から一本の光の柱がさして、その柱に導かれて二人の天使が渦を巻いて昇っていって、僕たち自身も光の柱となるような、音楽の天使となって舞っているような…何とも言えない体験でした。
「僕こそ音楽(ミュージック)」のデュエットを披露
で、和樹さんとはどうだったかと言うと、彼は「僕は一瞬だけでいいので、アッキーさんたくさん歌ってください」とかってすごく謙遜するんですよ、自分から一緒に歌いたいって言ったのに(笑)。それじゃデュエットの意味がないからって、ヨッシーの時と同じ割り振りを僕から提案してその通りに歌ったんですけど、隣で和樹さんの声が震えているのが分かったんですよ。それには、「ちゃんと歌うんだ」という武骨な情熱が表れているような気がして、僕もきれいに歌うだけじゃなく、今までにない「僕こそミュージック」を届けたいという気持ちで歌っていました。あのワンテイクには、僕たちのそういう思いが収められていると思うので、そこまで感じ取っていただけたら嬉しいですね!
――鳥肌が立つようなお話をありがとうございます。そしてミュージカル楽曲ではもう一つ、こちらは9月の日テレプラスだけの放送曲となりますが、お二人の初共演作となった『フランケンシュタイン』の楽曲を、役を入れ替えて歌っているのも大きな見どころかと思います。
はい、僕は(舞台では加藤の役である)アンリのソロ「君の夢の中で」を歌ってるんですけど、今まで出したことのないような低音が出ていると思うので、ぜひ皆さんに聴いていただきたいです! 和樹さんとコニタン(Wキャストだった小西遼生)が演じるアンリの気迫のようなものを、僕は全国各地の劇場で毎日目の当たりにしていたわけですが(笑)、二人の胸から鳴る音が届いて僕まで共鳴するような感覚がいつもあったんですね。それが体に残ってたみたいで、ピアニッシモなのに遠くまで鳴り響くような低音が出た。いつか機会があれば、舞台でもアンリ役を演じてみたくなりましたね…脱ぐことさえなければ(笑)。僕のボディではちょっと難しいと思いますけど(笑)、でもだからこそ、こういう場で歌うことができてすごく面白かった。これからも色々な方をゲストにお呼びして、その方のナンバーを歌わせていただくことができたら、すごく幸せなことだなあと思っています。
中川晃教
加藤和樹
「配信が、東京がすべてではないと教えてくれた」
――せっかくの機会ですので、最後に番組以外のお仕事についても少し。劇場再開以降、配信を含む公演に数多く出演されていますが、どんな可能性を感じていますか?
劇場というのは、音楽やエンターテインメントが宿る場所であり、人が集まる場所であり、人が求める場所。今はまだ再開できていない劇場もあるし、足を運べない方もいらっしゃいますが、配信があれば、誰でもどこにいても劇場に行った気持ちになれるんですよね。そう考えると、僕は今のところ東京の劇場からの配信公演にしか出ていないけれど、東京がすべてじゃないよなって。日本全国にある素晴らしい劇場で公演をして、それを東京のお客様にも観ていただくようなことも、今後はやっていけたらいいなと思います。9月から始まる僕のツアー(「中川晃教コンサート2020『Message from the Music』」)では、初めて訪れる劇場での公演もあるんですよ。配信が組めるかどうかはまだ分からないんですが、初めての場所で歌っている僕を、色んなところから感じていただけたら面白いですよね。
中川晃教
――その発想、私にはなかったです。でも確かに、東京にいながらにして色んな場所の公演が観られたら世界が広がりそう。
ね! たとえば博多座は、僕にとって『モーツァルト!』で1か月立たせていただいた思い出深い劇場で、今年『ジャージー・ボーイズ』で行く予定だったのに行けなかった劇場でもある。いつか博多座でコンサートをやるとしたら、今までに味わわせてもらった経験とか行けなかった思いとか色々なものがプラスされた、ほかの会場とはまた違う歌をお届けすることになると思うから、それをほかの都市の皆さんにも観ていただけたら…ってまだ、博多座でのコンサートは決まってませんけれども(笑)、もしやれるとしたらっていうね。
――その日を楽しみにしています。そしてコンサートツアーのあとには、中川さんにとって久々の“演じる”機会となる、ミュージカル『ビューティフル』再演が控えていますね。
そうですね、役として舞台に立つのは1~2月の『フランケンシュタイン』以来。コロナを経験した今、演じるというのが僕にとってどういう意味のあることなのか、お客様に作品や役を届けるとはどういうことなのか、きっと改めて考えることになると思います。その結果、自分が何を思うのかはまだ分からない。『ビューティフル』に限らず、演じたことがある役でも前までと全く違うことを感じるかもしれないし、求められる演じ方、あるいは求められる演目そのものが変わってくることもあると思います。それが楽しみだし、どんな変化があっても、僕は“今だから生まれてくるもの”を大切にしたいですね。いち俳優として、時代が求める作品のピースになれたらいいなと思っています。
中川晃教、加藤和樹
・「I WILL GET YOUR KISS」、「snowdrop」
・尾崎豊「I LOVE YOU」、 B'z「ZERO」
・「僕こそ音楽」(ミュージカル『モーツァルト!』より)
ほか、配信のみの楽曲を含め10曲演奏予定。
取材・文=町田麻子 写真=岩村美佳
中川晃教:ヘアメイク=井上京子/スタイリスト=KAZU (World Styling)
加藤和樹:スタイリスト=立山功