PassCode、約7ヶ月振りとなった8/29のKT Zepp Yokohama公演のライブ・レポートが到着
PassCodeが8月29日に「PassCode STARRY TOUR 2020 FINAL」を神奈川・KT Zepp Yokohamaにて開催した。このツアーは本来、5月30日からスタートして全国を回る大規模なものだったが、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、ほぼ全公演が中止。唯一、中止・延期されることなく行われる本公演は大変貴重なものとなった。もちろん、場内は徹底した感染対策がなされ、観客もいくつものチェックをクリアしたのちに入場することに。
さらに、PassCodeのライブでは激しいモッシュやクラウドサーフが当たり前だったが、この日は座席ありで、ソーシャルディスタンスもしっかり保たれている。暴れることはもちろん、声を上げることも許されない。観客にも演者にも多くの制限が課されるなか、いったいどんな一夜になるのか、期待と不安が入り混じった。
いつも以上に爆音に感じられるSEをバックにメンバーがステージ上に現れると、激しいモッシュや歓声の代わりに、等間隔でフロアに立つ観客による盛大な拍手が彼女たちを出迎えた。そんな異様な光景のなかで鳴らされたオープニングナンバーは、ツアータイトルにもなっている最新曲「STARRY SKY」だった。予想通りの幕開けと言えるが、実はこの選曲はかなりチャレンジングでもあった。難易度の高い楽曲を、単独公演としては約7ヶ月ぶりのステージの1曲目でいきなり初披露したからである。実は、この前日に行われたゲネプロでも、この曲は念入りに調整が重ねられていて、おそらくメンバーとしてもかなり緊張していたはずだ。
そう、オープニングの数曲は動きが固かった。しかし、続く「Maze of mind」の演奏前に南菜生が「正直、不安だったけど、みんなの顔見たらどうでもよくなっちゃった!」と叫んだことに象徴されるように、徐々に動きがよくなっていく。これは体の慣れというよりも、心理的に解放されたことが大きかったはず。「Insanity」や「bite the bullet」といった久しぶりの楽曲で観客を喜ばせながら、4人は久しぶりとなるステージの感触を確かめていく。
MCでは当然場内は静まり返る。観客がペットボトルのフタを開ける音が場内に響く。しかし不思議なもので、ぎこちない雰囲気はなかった。ステージとフロアの間で言葉にならない想いが交換されていたからだ。「久しぶり!」という南の挨拶に対し、温かい拍手が長い時間にわたって送られた。
続いてのブロックは、「Taking you out」~「Seize Approaching BRAND NEW ERA」~「GOLDEN FIRE」という、本来ならばフロアがグッチャグチャになるほど盛り上がる怒涛の展開。「STARRY SKY」に続いて初披露となる「Seize Approaching~」は、曲と同様に複雑で細かいダンスが印象的で、一瞬たりとも目が離せない。同じく激烈な進行をしていく「GOLDEN FIRE」では、大上陽奈子のボーカルが高らかに鳴り響いた。これが心地よかった。彼女のボーカルが安定しているとグループ全体の歌がグッと引き締まる。ステージに出ていく直前、大上は感極まって涙をこぼしそうになっていた。この日にかける意気込みや不安がないまぜになっていたのだろうか。そんな大上の姿に気づいた今田夢菜が彼女を後ろからポンポンと優しく叩く姿が印象的だった。
この日一番よかったのは、どちらかというと歌を聴かせる時間帯だった中盤のブロックかもしれない。勢いだけでなく、歌でも人を惹きつけるようになったのは4人の成長と言える。初披露となった新曲「Tramonto」は特によかった。今後、PassCodeの新たな武器となるだろう。「オレンジ」は今回のセットリストに唯一入ったインディーズ時代の曲。本当に久しぶりとなるこの曲の披露に涙したファンは多いはず。
それにしても、荒くれ者揃いのPassCodeファンが、しっかりとルールを守ってライブを楽しんでいたことには感動した。ライブハウスは何をやってもいい場所ではない。演者や他の観客との信頼関係があってこそ無茶が成立するのである。今回のような形でもアイドル/ラウド系のライブが成立するということを証明できたのは、他のバンドにとっても大いに参考になるはずだ。もちろん、暴れたくてウズウズしていた人もいただろうが、最前列で誰にも邪魔されずにステージ上を見つめたり、フロアでゆったりと椅子に座って観ている人もいる。制限はあるけれど、いいところだってある。
メンバー全員が緊張感を持って臨んだライブだったが、高嶋楓はちょっと違っていた。この日はグループにとって初めてとなるライブ生配信が行われていたのだが、彼女は遠く離れた場所からライブを楽しんでいるファンに向けて、中継カメラを通じて何度も愛想を振りまいていた。いつもステージ上ではどっしり構えている高嶋だが、こんなところでも彼女のハートの強さを感じることができたのは発見だった。
PassCodeの「激」の部分を担う今田夢菜は好調なパフォーマンスを見せた。最近は必死な形相でステージに臨む場面が多かったが、この日はMCで大上をイジって笑いを誘うなど余裕があったし、ライブ後は笑顔で楽屋に戻ってきていた。彼女のなかで何かが変わりつつあるのかもしれない。もちろん、PassCodeのトレードマークとも言えるシャウトも素晴らしかったし、繊細なクリーンボーカルはいつも以上に印象に残った
ライブ全体のムードをコントロールする南はいつものような扇動的な言葉ではなく落ち着いた口調で、ステージに立つ喜びを、目の前にファンがいることの喜びを噛み締める場面が目立った。最初は、観客を興奮させすぎないようにしているのかと思ったが、すぐにそうではないことがわかった。彼女は本当にうれしかったのだ。そして、それはほかの3人も同じだったのである。終盤の「MISS UNLIMITED」の間奏で叫んだ「これからも、ずっと! ずっと! よろしくね!」という言葉に全てが集約されていた。
最後に再び披露した「STARRY SKY」は、ほんの90分前のパフォーマンスに比べて数倍もイキイキしていたし、希望に溢れていた。このライブは開催すること自体に意味があった。最後まで完走することに意味があった。そうすれば、また次のライブへとつなぐことができるから。そして、このバトンは他のアーティストにも手渡されることになるのだ。
PassCodeの4人にとっては不安の多い公演だったはずだ。単独公演としては7ヶ月ぶりとなるパフォーマンス、「STARRY SKY」をはじめとする3つの新曲の初披露、オープンしたばかりでまだ情報が少ないKT Zepp Yokohamaのステージ――はっきり言って、無茶な試みだったと思う。しかし、彼女たちは7ヶ月前に宣言した。日本武道館のステージに立つと。あのときから世の中の状況は大きく変わってしまったが、目標が変わることはない。PassCodeにとって、今日のような公演も乗り越えるべき壁だったのである。そして、数々の不安に打ち勝ち、なんとか大きな壁を登りきった4人の視線の先には、よりはっきりと浮かび上がる武道館の威容があるのだ。
文:阿刀 “DA” 大志