MUCC
MUCCが9月20日(日)に開催した自身2回目となる無観有料配信ライブのオフィシャルレポートが到着した。
MUCCが9月20日(日)、5G時代に向け開発された商業施設「東京ポートシティ竹芝」内の多目的ホール「竹芝ポートホール」のこけら落とし公演として、無観客有料配信ライブ『~Fight against COVID-19 #3~『惡-THE BROKEN RESUSCITATION-』』を行った。
#3とあるが、MUCCが配信ライブをやるのはこれが2回目だ。#1は配信ライブという形ではなく、メンバー各々が各自で撮影、録音をした動画を編集・配信したもので、ステイホーム期間中の5月4日に公開された。これは、まだヤマハがタイムラグがほぼないリモートセッションを可能にしたシンクルームを発表する前に行われた、実験的かつ挑戦的なものだった。#2は、本来ならアルバム『惡』の披露ライブ『蘇生』が行われるはずだった6月21日に実施された、MUCC初の無観客有料配信ライブ。こちらは、まだ多くがライブをそのまま配信していただけの模索期に、オンラインに特化した音響や演出を取り入れ行われた画期的なものだった。具体的には、たとえばレコーディング用のコンデンサーマイクを使用したり、弦楽器はアンプを使わず出力をラインのみにしたり(つまり現場ではドラムの生音とボーカルしか聞こえない)。ステージ上のみではなくフロアも活用したり、Zoomを使ってファンを画面上に登場させたり。そんなふうにMUCCはこれまで、一歩先を行く試みに挑んできた。
それからVR、AR、MRなどもどんどん進化し、まるでMVを見ているような演出が施されてきたり、音響的にも3Dシステムが開発されたりと、急激に配信ライブが発展しているなか、MUCCは今回どんなものを見せてくれるのか――。結論からいうと、前回の#2をさらに発展させ、そしてそれをモノにした、新しい時代の音楽様式を提示したものだったと、決して大袈裟ではなく思う。
MUCC/逹瑯
ライブは、コロナ禍真っ只中の6月にリリースされたアルバム『惡』のオープニングを飾る「惡-JUSTICE-」からスタート。暗いステージに、ドラムセットこそアクリル板で仕切られているが、3人はディスタンスを保ちながら仕切りなしでいつもの位置に立ちプレイし、サポート(いや、今も第5のメンバーと言っていいはず)の吉田トオルは、サブステージでなんとカワイのクリスタルピアノ(!)を弾いている。そして、各楽器のディテールまで聴こえてくる分離の良い音と、リアルタイムのスイッチングで頻繁に切り替わる様々な角度からの臨場感あふれる映像に驚く。それがライブ中ずっと続き、見る者を飽きさせないのだ。
MUCC/ミヤ
ヘヴィな「CRACK」では逹瑯の股下をドローンカメラが通過したり、生ピアノとディストーションギターのコントラストが印象的な「海月」ではミヤと吉田の分割映像が流れたりと、攻めたアングルや画面で迫ってくるし、ダブナンバー「アイリス」ではエフェクターを駆使したエゲツないサウンドが耳に飛び込んでくるし、楽器陣がサブステージに移動し逹瑯のみがメインステージに残り歌った「TIMER」ではエレポップ的なサウンドが高解像度で心地よく響く。
「MUCCの皆さん、楽しんでますか? メンバーも楽しんでいれば見てる人も楽しんでくれると思うので、楽しんでいこうね」と逹瑯もサブステージに移動しMCをした後、逹瑯は骸骨マイク、YUKKEはアップライトベースを手にし、「Friday the 13th」「カナリア」とロックンロール曲を続ける。
MUCC/YUKKE
このサブステージでは、ピアノをセンターに、4人がそれをぐるりと囲むようなポジショニングになっていたり、背景に「死」「罅」「壊」「虫」「海」「神」「終」「空」「偽」「愛」「夢」「依」「病」「光」「独」「生」といったアルバム『惡』の収録曲に割り当てられた漢字1文字が光って配置されているのも技ありだ。
ミヤがフェンダーのエレキとアコギのハイブリッドギター「アコースタソニック」に持ち替え、ジャズの4ビートで始まったのは「月の夜」。全員が椅子に座ってプレイするというナイトクラブ的なムードのまま、フォークとジャズプログレとオルタナをミックスしたようなレア曲「月の砂丘」では逹瑯が熱唱し、ジャジーかつドラマチックに大胆アレンジされた「流星」へと続く。その後、メンバーはメインステージに戻り、「いつかこの霧は晴れるから」と歌う「アルファ」へ。このセクションでは、歌詞とリンクするように月、流星、星空の画像や映像がミックスされ、曲の幻想感をさらに引き立てる。
MUCC/SATOち
ライブは後半戦に突入し、「一緒に盛り上げてくれるゲストボーカルを紹介しようと思います」と、アルバム『惡』収録の「目眩feat.葉月」を再現すべく、lynch.の葉月がステージにフルメイクで登場。ゲストとはいえ爪痕を残そうとグイグイ前に出る葉月、それを楽しげに迎え撃つ逹瑯。葉月の超低音域のガテラルまでクリアに聞こえ、2人の声の分離もいい。
葉月
ひと暴れした葉月が去った後は、「World’s End」で「この船はどんなに激しい嵐が来たとしても 絶対に沈む事はありません」と希望を歌ったかと思えば、「世界は終わっちまったのか? 終わってねーよな! 行こう、My WORLD!」と始まった「My WORLD」では、ステージ後方の8Kの400インチワイドスクリーンにZoomで参加した大勢のファンたちの姿が映るという感動的な演出も。
葉月、ミヤ
本編ラストでは「やっぱりみんないると楽しいな。葉月も呼んじゃおうか。いる? まだメイク落としてない?」と、葉月を急きょ呼び込み、MUCCの暴れ定番曲「蘭鋳」を披露し、葉月に「犬○生!」とシャウトさせるという一幕も。そして恒例のブレイクゾーンでは、再び登場したZoom越しのファンに向かって「全員で座ろうか。パソコンの前で座れ、スマホの前で座れ、テレビの前で座れ、日本中座れ、世界中で座れ」と呼びかけ、「3、2、1」の掛け声と共に世界中のファンに向けてジャンプを促すという、配信ライブならではの展開も見せる。
MUCC/逹瑯
MUCC/ミヤ
声ではなく文字によるアンコールに応え、メンバーが再びステージに登場すると、「今日楽しかったね。ライブが普通にできるような世の中になったとしてもこれはこれでやりたい」と、このライブの手応えを口にする。
吉田トオル
アンコールでは、「明日世界は笑顔で輝くでしょうか」と牧歌的に歌った「ハイデ」と、オルガンをフィーチュアしたハードロック曲「TONIGHT」を披露。「TONIGHT」の終盤では、背後のスクリーンに朝焼けが映る。朝空ではない、朝焼けだ。明けない夜はない、止まない雨はないとはよく言うが、明けない暗闇もないはず。まだまだ明るい空までは見えないかもしれないが、朝焼けの見える明日を信じて前を向こう。これは、そんなメッセージだったのだろうか。
MUCC/YUKKE
MUCC/SATOち
このライブはシリーズということもあってか「against COVID-19」の言葉をタイトルに使っているが、初回が行われた5月の頃とは状況も変わり、今はコロナとの共生へと世の中の意識が向かい、「with」という言葉が使われることが多くなった。しかしMUCCはもうとっくにその先を行っているのではないかと思う。彼らの今のマインド的にはきっと「beyond」という言葉のほうが近いだろう。コロナを超えて――。コロナ禍のなか、それに抵抗するわけでも共生するわけでもなく、次のフェーズに進む道を彼らは選んだ。音響的にも、映像的にも、演出的にも、コロナ禍が必ずいつか収束した後にも繋がる新しいライブの在り方を、スタッフと共にチーム一丸となって作り上げた。暗いステージから始まり、月や流星や星空が見え、最後は朝焼けを見せてくれたストーリー性の高いライブ。言ってみれば、このライブこそが朝焼けだったのかもしれない。
文=吉田幸司(『ROCK AND READ』編集長)
撮影=Susie、渡邊玲奈(田中聖太郎写真事務所)