秦 基博、WOWOW「秦 基博 CONCERT TOUR 2020 ―コペルニクス―」オンエアに先がけてインタビューが到着
11月、シンガーソングライターの秦 基博が初の無観客配信ライブ「秦 基博 CONCERT TOUR 2020 ―コペルニクス―」を開催。昨年12月に4年ぶりのオリジナルアルバム「コペルニクス」をリリースし、今年3月から新作をひっさげての全国ツアーを展開する予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大状況を踏まえて延期、そして中止という判断を下した。
“アルバム制作とツアーはひとつのセット”と考えている秦 基博。アルバムの世界をライブでファンの人たちと共有したいという思いから、ツアーの初日を飾る予定だった埼玉・大宮ソニックシティで自身初の配信ライブに挑んだ。このライブの模様が12月27日20:00からWOWOWで放送されるが、オンエアに先がけて、このライブについて秦 基博自身が振り返ったインタビューが到着した。
――アルバム「コペルニクス」が昨年12月にリリースされて、3月からツアーが予定されていました。ツアーの準備をされていたと思いますが、延期・中止が決まった時はどんなことを考えていましたか?
秦 基博:2月の時点では「できるんじゃないか」という感覚もあったので、リハーサルを行なって、会場で本番と同じ内容でリハをするゲネプロもしていました。でも、結局延期になってしまって…。どうなっていくのか全く分からない状況が続いていきましたので、2回ぐらい延期にしましたけど、その都度、来てくださる方に予定をやりくりしてもらわないといけないので、いつまで“延期”という対応を取っていくべきなのかを考えているなかで、8月のタイミングで中止を決断しました。
――配信ライブを考えたのもその頃ですか?
秦 基博:延期という状況が続いていたので、もし中止になった場合は配信に切り替えて届けられたらいいなとは、それ以前から考えていました。アルバム「コペルニクス」の世界をライブで届けることは必ずやりたいと思っていましたから。アルバムを作って完成させて、でもそこが終わりじゃないんです。ライブで聴いてくださる方と共有して初めてアルバムとして形を成すような気持ちでいるので、ツアーはできなくても、何らかの形でライブはしたいなと。
――5月頃から配信ライブを行なうアーティストも増えてきていましたね。
秦 基博:そうですね。最初はどんな形で配信ライブを届ければいいのか分からなかったんですけど、いろんな方が配信ライブを行なう中で、配信でしか出来ないこともあるんじゃないかと思いましたし、ツアーの代わりではなくて、新しい形、新しいコンテンツとして届けるのがいいんじゃないかと思うようになりました。ポジティブな方向に捉えて。
――会場はツアー初日にライブを行なう予定だった大宮ソニックシティでしたが。
秦 基博:これも縁があったんだと思います。配信ライブを行なうために会場を押さえる必要があって、機材の搬入などを考えて、関東近郊で一番近かった大宮がいいんじゃないかと。ゲネプロを行なったのも大宮ソニックシティだったので。本来ツアーが始まる場所だったところで配信ライブができたのは、僕にとっても良かったことかなと思っています。
――初めての配信ライブ。多くの方が視聴していましたが、目の前にはお客さんがいない状態でした。どんな気持ちで臨みましたか?
秦 基博:会場にはお客さんはいないんですけど、画面の向こうというか、その先にいますので、“いないところに向かって歌っている”とか“話しかけている”という感覚ではなくて、やっぱりそこにいるんだと思ってやっていました。
――実際に配信ライブを行なってみて感じたことは?
秦 基博:目の前でお客さんがいるわけではないので、反応とか呼吸とか、いつもとは違っていましたけど、バンドメンバーがいるので、メンバーと息を合わせて、アンサンブルとしてのライブを作っていく感じがありました。配信ということで、普段のライブではあり得ない位置にカメラの方がいたり、演奏中にもステージ上にいるとか、客席の中を縦横無尽にカメラが動いたりとか、そこが配信ライブに特化した部分かなって思いますし、無観客というのをプラスに捉えて作っていけたところだと思います。
――本来のツアー初日から時間が経っての開催でしたが、ステージセットやセットリストは敢えて変えずに。
秦 基博:はい、基本的にはそのままですね。ゲネプロで得たものをそのまま配信ライブで届ける形になりました。ただ、セッション的な部分があったりしたので、演奏の尺とかは再検討しましたけど、基本的にな構成だったり、ライブ演出については同じです。
――アルバム「コペルニクス」をひっさげてのライブでしたが、リリースから1年経った今、改めてどんな作品だったと思いますか?
秦 基博:自分の転換点にしたいと思って作ったアルバムで、“新しい始まり”になるといいなという思いがありました。今、このアルバムのことを考えると、“本当にやりたいこと”とか“こんなふうに音楽を作ってみたい”という“今”を閉じ込めている作品になっているなって思いました。
――配信ライブで全曲演奏したことで、収録曲とも改めて向き合う機会に。
秦 基博:そうですね。アルバムのリリースツアーでアルバム曲を全部演奏するというのは自分にとってはとても自然で。CDの曲順は、その曲たちの中で一番いい流れを構築しているので、ライブではどんなふうに散りばめていくのか、再構築していくのかというのは結構考えました。アルバムの中に「天動説」「地動説」というインスト曲が入っていて、アルバム全体の流れを作っているんですけど、ライブでは「天動説」の後に来る曲と「地動説」の後に来る曲を逆にしました。それは意図的に最初から描いていたわけではないのですが、ライブのセットリストを考えていて、おのずとそうなっていきました。「天動説」の後に「9inch Space Ship」が来て、「地動説」の後に「LOVE LETTER」が来て。CDと逆になったのは自分でも不思議な気持ちです。でも、ライブをするんだったらこの流れしかないというセットリストになったので、自分の中では納得しているというか、「あ、このアルバムはこんなふうに結ばれていくんだな」って腑に落ちた感じがしました。
――中盤にアコースティックコーナーや弾き語りがありましたが、それもライブならではの緩急というか、場面転換的な効果が感じられました。
秦 基博:僕にとって、バンドセットはもちろんですけど、弾き語りやアコースティックな表現もずっとやってきていることなので、久しぶりのツアーでもあったので、アコースティックコーナーや弾き語りでも届けられたらいいなというセットリストでした。レコーディングに参加してもらったミュージシャンと一緒にライブもできるということで、「Joan」はレコーディングと同じように僕とトオミ(ヨウ)さんと朝倉(真司)さんの3人で演奏しました。
――今回のライブは、トオミヨウさん(キーボード)、鈴木正人さん(ベース)、朝倉真司さん(ドラム)、シンリズムさん(ギター)、そしてストリングスのカルテットというメンバーでしたが、この編成、メンバーも当初の予定どおりに?
秦 基博:そうですね。まず、トオミさんは今回のアルバムの共同プロデューサーでもあるので、ツアーにもキーマンとしていてほしいというところから始まりました。トオミさんとは「仰げば青空」という曲が最初でしたが、出会ってすぐに自然にコミュニケーションが取れていましたね。同い年で、トオミさんも横浜出身ということで、環境も似ていて感覚も近いものがあったのかもしれません。普段はひとりでプロデュースされていて、今回、共同でやるのは僕とが初だとおっしゃっていたので、ふたりであーだこーだ言いながらやってました。
――リズム隊の鈴木さんと朝倉さんは安定感、安心感のあるミュージシャンですよね。
秦 基博:ドラムとベースは楽曲の基盤になるので、歌うということに対してものすごく重要なポイントなんです。正人さんと朝倉さんは僕にとって安心感のある二人です。朝倉さんのドッシリとしたリズムは歌心があるんです。ドラムは音程のない楽器ですけど、歌っているかのような感じが好きです。正人さんはめちゃくちゃ上手いんですけど、それだけじゃなくて、その場のものを受け取ってプレイに反映してくれます。ミュージシャンシップに溢れた、一番ミュージシャンらしい人じゃないかと思います。
――ギターのシンリズムさんは他のバンドメンバーとは違う世代の方ですが。
秦 基博:はい、ここも大きなポイントですね。今回のアルバムは“エレキギターレス”なんです。新作の曲にはエレキギターが一切入ってないんですけど、既存の曲にはエレキギターが入っていますし、曲によってはシンセやガットギターも入ってきたりするので、オールマイティなプレイヤーが必要だなと思いました。コーラスも必要ですし。レコーディングだったら1曲ずつ、その曲に合ったミュージシャンの方にオファーして、演奏に参加してもらうことが可能ですけど、ライブだと全曲通して、いろんなジャンルだったりアプローチの楽曲に対応してもらわないといけなくて。特に僕はいろんなタイプの楽曲をひとつのライブの中でやっていくので、ミュージシャンの方は大変だと思うんですけど(笑)。コーラスができて、ギターが弾けて、シンセも弾けて、という人が必要ということで、「そんな人、いるのかな?」っていうところからスタートしたんですけど、朝倉さんがシンリズムくんを紹介してくれたんです。彼自身、ソロアーティストとして活躍されていますけど、バックバンドとして参加してほしいとオファーしたところ、喜んで受けてくれたので、今回いろんなことをやってもらいました(笑)。23歳とすごく若くて、自分が23歳の時にこんな仕事が来たら出来ないなっていうくらいの仕事量だったんですけど、想像以上の活躍だったので、本当にすごいと思いました。
――バンドの雰囲気にも馴染んでいるように感じました。
秦 基博:百戦錬磨のミュージシャンの方たちの中にひとり入って、当然のように、普通な感じで演奏していたので、ここでも改めてすごいなと思いました。本来なら、ツアーでライブの回数も重ねて行けたと思うので、それが出来なかったのは残念でした。
――そしてストリングスのカルテットも参加。
秦 基博:アルバム「コペルニクス」の中で、ストリングスが重要な役割を果たしているので、やっぱりツアーもストリングス隊と一緒に回りたいと思って参加してもらいました。「LOVE LETTER」は音源にはストリングスが入っていませんが、カルテットがいるので、トウミさんに弦のアレンジを改めて書き下ろしてもらったんです。アンコールの最初のオーバーチュアから「地動説」に繋がって「LOVE LETTER」へという流れは、ストリングスで繋いでいったので、ライブならではの流れになっています。
――配信ライブを実際に行なってみて、手応えを感じたんじゃないですか?
秦 基博:そうですね。この配信ライブ自体すごく評判がよくて、そういう意味でも手応えを強く感じています。監督を務めてもらった番場秀一さんとか、映像で林響太朗さんにも入ってもらったので、映像的なアプローチも含めて、自分としてもすごくいいライブだったと思いました。
――映像で観た感想はどんな感じでしょうか。
秦 基博:すごく臨場感がありました。普段のライブだと客席から見えないディテールが、例えば、ミュージシャンの指さばきとか細かいところが映像だとしっかり見ることができますし、今回、なんでもできるミュージシャンの方が揃ったので、細かく楽器を替えていたり、同時にいろんなことをやっていたり、そういうところも見て楽しめますね。
――“配信ライブ”によって発信の仕方の選択肢が増えたとも言えますね。
秦 基博:この先、どうなるのか分からないですけど、以前のようにライブをすることができたり、直接皆さんと会う機会が増えていったとしても、この期間で芽生えたことは生かされていけばいいなと思います。配信ライブも、例えば、ライブに行きづらい場所にいる方とか、行きづらい環境にいる方も配信によってライブに触れる機会が増えたりすると思いますし、このタイミングで配信を見る環境を整えた方もいると思うんです。そう考えると、今後、配信ライブや普通のライブとのハイブリットなどが選択肢の一つになってより多くの方がライブや音楽に触れる機会が得られたらいいなと思います。
――配信ライブを開催するキッカケとなったのが新型コロナウイルスですが、今回のライブまでの期間、どんなふうに過ごしていましたか?
秦 基博:後々、皆さんの話を聞くと、いろんなことを始めていたりするんですよね。でも、「何か始めておけば良かったな」と思ったぐらい何もしてなかったです(笑)。ぼんやり過ごしちゃいましたね。今思えば、もうちょっと有意義に時間を使えば良かったなって。
――例えば、ある一日の行動をもう少し具体的に話すと?
秦 基博:歩くとちょっと遠い場所に作業場があるんですけど、時間があるので歩いて行って、すぐに音楽を作るということでもなく、映画を観たり、漫画を読んだり、なんでもない時間を過ごして、気が向いたら歌詞を書いたりしましたけど、それもほとんどやってないようなもので、本当にボーッとしてるという感覚でした(笑)。作業場に行く日でもそんな感じでしたね。具体的に行動に結びついてはいないんですけど、すごくモヤモヤしていたような気がします。煮え切らない感覚があって、何かを見たり、読んだり、聴いたりすることで発散していたんだと思います。
――そういう時期での“音楽”の存在は?
秦 基博:こういう状況になるたびに「音楽にできることは?」と考えますけど、今回に関しては“癒やし”だったのかなって。僕自身そうでしたけど、自分でも気づかないうちに少しづつ心が塞いでいく時期だったと思うんです。そういう時に音楽に触れると癒やされたり、心が落ち着いたりする感覚があるなと思ったので、僕の音楽もそういう存在だといいなと思いました。
――配信ライブを終えて、11月末から秦さんが主題歌「泣き笑いのエピソード」を歌うNHK連続テレビ小説「おちょやん」も始まりました。次に向けて動き出した感じがありますが。
秦 基博:「おちょやん」も当初の開始時期から遅れていましたが始まりました。「泣き笑いのエピソード」は朝ドラの主題歌ということで、いろんな世代の方が聞くものですから、メロディや歌詞に対してシンプルさなどをより考えたりしました。普段から意識はしていますけど、改めて向き合った感じですね。この曲もトオミさんと一緒に作っていますが、「コペルニクス」の世界とは違うテイストになっています。この先どうなっていくのかは分からないですけど、ずっとそこに止まっているわけにはいかないので、新しい形を打ち出せたのは良かったかなって。
――2021年はどんなことをやっていきたいですか?
秦 基博:環境が許せば、ライブやツアーをやりたいと思いますし、「泣き笑いのエピソード」という新曲が皆さんのもとに届き始めていますが、「コペルニクス」の次、新しい音楽をどう届けようかというのも考えています。あとは、弾き語りアルバム「evergreen2」の予定もありますし、15周年でもあるので頑張りたいです。
――最後に、27日に放送される配信ライブ「秦 基博 CONCERT TOUR 2020 ―コペルニクス―」の見どころとメッセージをお願いします。
秦 基博:ツアーを通して自分もいっぱい刺激を貰えるので、それでいつもは次の作品に対しての意欲とか、「こういうことをやろうかな」というのが生まれてくるんですけど、延期・中止になってそれが先延ばしになった状態で、少し宙ぶらりんな気持ちでした。いろんな状況の中で結果的に配信ライブという形になりましたが、その分、ある意味2020年にしかできないことだったり、今しかないライブの形がパッケージされていると思います。こんなふうにライブを収録できることもなかったですし、その熱量は感じ取ってもらえると思いますので、11月に配信ライブを見た方も、今回初めて見る方も、アルバム「コペルニクス」、そして秦 基博の音楽の世界を楽しんでもらえたらいいなと思います。