moon drop
平均年齢23歳、愛だの恋だのラブソングを歌い続けるバンド・moon dropが、2021年1月6日(水)にミニアルバム『拝啓 悲劇のヒロイン』をリリースする。
結成当初からラブソングにこだわって歌い続けるmoon drop。ミニアルバムにはシーンや世代を超えて心に響くラブソングを多数収録、そして初の友情について歌った楽曲も今作には収められている。
本記事では、バンドの成り立ちからラブソングを歌う理由、そしてミニアルバム『拝啓 悲劇のヒロイン』が完成するまでを語ってもらったインタビューをお届けする。
──moon dropはどういうところから始まったんですか?
浜口飛雄也:僕と琢聖がそれぞれカバーバンドをやってたんですけど、対バンしたときに琢聖が僕の声をいいと思ってくれたみたいで。その後、同時期に両方のバンドが解散することになって、そこから僕はひとりで弾き語りをしてたんですけど、琢聖がそれを観に来てくれて。で、やっぱりいいなと思って、琢聖のほうから誘ってくれたんですけど……僕はその連絡を数ヶ月無視してました(笑)。
──(笑)。なぜまた無視しちゃったんですか?
浜口:なんか、バンドを始めるタイミングがちょっと掴めなくて、まあ、まだ返事しなくてもいいかなぐらいの感じでいたんですけど。
清水琢聖:僕は早くバンドやりかったんですけどね(笑)。
浜口:でも、先輩のライブを観に行かせもらって、やっぱりバンドってかっこいいなと思って連絡しました。
──moon dropを始めるにあたって、こういう音楽をやろうっていうお話はされたんですか? 資料には「愛だの恋だのラブソングだけを歌い続けるバンド」とありますけど、その当時からラブソングを歌っていこうっていうお話をされたとか。
浜口:そういう話ってしたっけ?
清水:いや、してなかった。
浜口:元々、僕としてはラブソングばかり歌うつもりでいて、そこは言わずともわかっているかなと思ってました。
──なぜラブソングばかりを歌おうと?
浜口:僕、普段ボーっとしていて、あまり心が揺れたりすることがなくて。でも、恋愛に関しては全然違っていて、すごく左右されていたなと(笑)。あとは、自分が聴いてきたバンドにラブソングが多いっていうのもあるんですけど、一番の理由はそこですかね。自分の心が一番揺れるものが恋愛だったっていう。
──ちなみに、どんなバンドが好きでした?
浜口:中学生ぐらいの頃にback numberを聴いて衝撃を受けたのが始まりでした。バンドに興味を持ち始めたのもその頃で。
清水:(浜口が)昔やってたコピーバンドでもback numberをやってましたね。
──なるほど。そこからバンドが始まり、2018年5月に坂さんが加入されて。元々知り合いだったとか?
坂知哉:そうです。僕が前にやってたバンドで対バンしたときに知り合って。バンドとしても、普通に友達としても仲が良かったんですけど、moon dropのベースが抜けるっていう話が出て、「入ってくれ」と声をかけてもらえて、僕自身も「入りたい」って答えたという感じでした。
──当時moon dropに対してどういう印象を持っていました?
坂:初めて観たときのことは覚えてないんですけど、いろいろ連絡を取り合うようになってから、デモ音源ができると送ってくれたりしてたんですよ。それを聴いたときに、いい曲だし、好きだなって。でも、確かに当時から全部ラブソングでしたね。あんまりそこを意識して聴いていたわけではないけど。
──そして、昨年の2月に原さんが加入されて、現在の体制になったと。
原一樹:僕は知り合いとかではなくて、バンドがドラムを公開募集していたんです。声も曲もいいし、このバンドで叩きたいなと思ったので連絡しました。
浜口:ずっと募集をかけてたんですけど、応募が全然来なくてやっときた!っていう感じだったから、とりあえずメンバーで超盛り上がりましたね(笑)。で、僕らが東京でライブをしたときに初めて会いました。今は全員名古屋にいるんですけど、そのとき一樹はまだ東京に住んでいて。それで、打ち上げのときにしゃべっている雰囲気もよかったし、スタジオに入ったときもよかったので、すぐに入ってもらいました。
──浜口さんとしては、結成して曲を書き始めた当時と今とで、ラブソングに対しての認識とか考え方みたいなものに変化はあったりしましたか?
浜口:特には変わりはないですかね。恋愛に対する自分の感じ方が変わってきているのかなっていうのはありますけど。当時は視野が狭すぎるというか、一直線すぎたんですけど、最近は違う方向からも見れるようになったというか。今は第三者目線でも歌詞を書けるようになってきたし、自分のこと以外でも書ける恋愛ってあるんやなって感じてます。
──元々は実体験が多かったけど、徐々にいろんな想像を膨らませられるようになっていって。
浜口:そうですね。今もほぼほぼ実体験ではあるんですけど、これまではそれ以外は一切なかったので。それがやれるのとやれないのとではすごく差があるし、できるようになったのは成長かなと思ってます。
──曲はいつもどう作っていくんですか? 作曲は浜口さんと坂さんの共作という形になっていますが。
浜口:僕がまず弾き語りで持っていくんですけど、それ自体は作ろうと思って作っていないというか。普段、生活していてハっとしたことがあって、そういう断片的なものが貯まっていって、ある日曲になった……みたいな。そうやって出てきたワンコーラスを歌って、そこからの流れを知哉が考えていくんですけど。
坂:コードはこっちのほうがいいかなとか、ここの歌詞を聞かせたいから構成はこういうふうにしようとか。
浜口:その土台に一樹と琢聖が自分なりの色付けをしていって出来上がる感じです。
──曲を「作ろうと思って作っていない」ということは、今回リリースされる『拝啓 悲劇のヒロイン』を制作するにあたって、全体的なイメージを持ってこういう曲を作ろうと考えることは少なかった?
浜口:そうですね。曲ができて、入れたいなと思ったら入れちゃうので。
──ちなみに、本作のラストナンバーである「誰でもいいのだ」に、<拝啓 悲劇のヒロイン>というワードが入っていますけども。
浜口:この曲は、他と比べてちょっと色が違うところはあるかなと思いますね。新しい一面というか、moon dropはここからどんどん進化していくぞ、みたいな感じというか。やっぱりいろんな顔を見せていきたいところはあるので。
──歌詞の<愛だ恋だなんだ歌ってそれなりに生きてこう>って、ある意味ひとつの宣言みたいに取れるところもありますよね。
浜口:この曲はそんなに考えずにパラっと歌ってみたらできたんですけど、そのときに最初に出たワードが<愛だ恋だなんだ歌って〜>のところで。これからも恋愛はしていくし、変わらずにラブソングは歌っていくしっていう。そういう僕なりの気持ちの表し方みたいな感じですね。
──曲自体は結構前にできていたんですか?
浜口:この曲はどうやったっけ……?
清水:結構最近じゃない?
坂:テンポももっと遅かったんですよ。シンコペ(ーション)でめっちゃ遅くて。
浜口:元々考えていた曲調とガラっと変わることって結構多いんですよ。
坂:明るい雰囲気はあるんだけど、歌っていることはちょっと暗いというか(笑)。これはどっちなんだろうと思ったんですけど、曲調は明るいほうがいいかなって。で、今まであんまりやってなかったけど、4つ打ちとかちょっとやってみようって。
浜口:このテンポで明るい感じにしたほうが暗い歌詞って意外と刺さるのかなと思って、最終的にこういう曲調になりましたね。
──ギャップがいい感じになるという。「僕といた方がいいんじゃない」は、男心といいますか(笑)、そういう気持ちがよく出ている曲だなと思いました。
浜口:昔付き合っていた人に新しい恋人ができたりしても、縁を切りきれていないときってあるじゃないですか。たとえばSNS上で繋がっていて、新しい恋人との写真がつい目に入ってしまったりとか。これは僕の感じ方なんですけど、その写真に映っている昔の恋人の顔って、絶対に自分といたときのほうがカワイイって思っちゃうんですよ。そういう感情からこの曲を書いていきました。
──曲の最後にタイトルのフレーズが来るのがまたいいですね。
浜口:いつもは曲ができあがってから曲名を考えるんですけど、この曲だけは最初に決めてましたね。書きたいことが最初から決まっていて、最後にこのワンフレーズを入れようって。
「僕といた方がいいんじゃない」MV
──あと、収録曲の中で「麦崎灯台」だけ少し色が違いますよね。
浜口:この曲だけラブソングじゃないですね。今までラブソングしか書けないわけではなく、書いてこなかっただけで。書いてこなかった理由は、それこそ感情の浮き沈みがあるのが恋愛だからで、恋愛以外のことを書くよりも俺はラブソングを書きたいから、いつも通り全曲ラブソングにしようと思っていたんです。ただ、今回はちょっと状況が違うというか。コロナで人と会えない期間があったじゃないですか。そういうときに、普段はあまり思わないんですけど、地元の友達がすごく恋しくなってきて。“あれ? ちょっと今、ラブソング以外のことを書きたいぞ……”と思って、そこから書いた曲なんです。
──そうだったんですね。ちなみに、麦崎灯台って地元にあるんですか?
浜口:そうです。僕の地元が田舎すぎて、泳ぐか釣りするか楽器するかぐらいしかやることがなかったんですけど、小さい頃から地元の友達と泳いでいた海があって、そこにある灯台です。
──小さい頃や青春時代のシンボルというか。
浜口:そうですね。その頃のことを思い出しながら書いてました。たぶん、この状況じゃなかったらこういう曲は書いてないし、それが今回のCDに入ることによって、また新しい一面も出せたのはすごくよかったなと思います。
坂:弾き語りの時点で、4拍子じゃなくて8分の6拍子だったのも初めてだったから、(こういう曲も)作れるんだ?って、まずそれを思いました。最後にシンガロングになるところとかも入れたりして、めっちゃいい曲にできたなと思ってるんですけど、言われるまでラブソングだと思ってました、この曲(笑)。
一同:(笑)。
坂:歌詞見なさすぎやな(笑)。
浜口:僕も歌詞について全然言わないんですよ。恥ずかしいんで(笑)。
原:僕もラブソングじゃないって言われるまでわからなかったです。<友達でいよう>っていうのも、別れても友達でいようみたいな感じなのかなと思ってたんで。
坂:そうそう、わかる!
原:あと、ハチロクは初めてだったから、どういうフレーズがいいのか全然わからなくて、結構苦労した曲でもありますね。でも、いい曲にできたんじゃないかなと思います。
──清水さんはいかがです? バンドにとって初のラブソング以外の曲。
清水:ラブソング以外も書けるんだとは思ったんですけど、僕としては飛雄也の曲が好きなので、ラブソング以外の曲を持ってきても全然違和感がなかったし、アルバムに入れても全然不自然じゃないなと思いました。ギターに関してはどの曲もそうなんですけど、飛雄也の歌を考えてギターをつけていくのは意識していて。飛雄也の歌と歌詞を聴いてほしいので、ギターはそこを邪魔したらダメだなっていうのは大前提としてあるんですけど。
──声を活かすために、どういうフレーズにしようか悩んだ曲はあります?
清水:どれやろう……一番考えたのは「ヒーロー」ですかね。今回の中では、わりと変化球みたいな曲だと僕は思っていて。雰囲気もまったりしているし、ギターフレーズもこの曲が一番挑戦しているのかなって。飛雄也の裏で邪魔しないようにギターのメロディを弾くっていうのはあまりしてこなかったので、そこは苦労したし、一番考えました。
原:僕も「ヒーロー」はめちゃくちゃ悩みました。Aメロにスネアだけになるところがあって、1周目はこれでいこうと思ったけど、2周目をマジでどうするか全然決まらなかったんですよ。そこから自分なりにいろいろ考えたり、シャッフル系の曲をいろいろ聴いたりして、納得のいくフレーズにはなったかなと思います。
坂:僕は「ヒーロー」を作っていたときが一番楽しかったし、今回の中で一番好きな曲ですね。自分のやりたいと思っていたことをやれたので、作っていて楽しかったけど、レコーディングにめっちゃ苦労しました。シャッフルは得意だと思ってたんですけど、全然得意じゃなかったです(苦笑)。
──勘違いでしたか(笑)。歌詞に関してですが……ラブソングって、ラブソングのように見せかけて、別のメッセージを含ませることもできるじゃないですか。たとえば、「ヒーロー」の<君の心のヒーローに ど真ん中になりたいな>も、拡大解釈すると、バンドがリスナーに向けて歌っているとも取れますけど、そういうところもあったりするんですか?
浜口:そういうのはないですね。僕、基本的には聴いている人に向けて書くという感覚があんまりなくて。「これで何かを伝えたい」っていう感じじゃなくて、「こういうことがあって、こういうことを思った」ということだけを書いているだけなんで。だからこの歌詞も、自分の好きな人のヒーローに、一番になりたいなって純粋に思ったから、それを歌詞にしただけですね。でも、聴いている人にとってのそういう存在になれているのであれば、それはめちゃくちゃ嬉しいことだし、そこは聴く人が好きに解釈してくれればいいかなって思ってます。
──先日、ライブを拝見していたんですが「俺は俺の好きな歌を歌っていく」とステージで叫んでいて、かっこいいなと思いましたよ。
浜口:ありがとうございます。
──今お話しされていたことに通じてますし。あと、ライブを観ていて、思っていたよりも音がパワフルだなと思いました。
浜口:自分たちが、もうすごくパワフルな先輩たちにずっと教わってきたんで、その名残だと思います。なんか、勝手に出ちゃうというか。そんなに出そうとは思ってないんですけど(笑)。
坂:全員、綺麗な音の出し方を知らないんで(笑)。
一同:(笑)。
浜口:ライブ前に円陣を組むんですけど、「じゃあ今日はシュッとした感じでやろう」みたいな話をして、「わかった、ちゃんとしよう。よし!」って、ライブ始まった瞬間にバーーーン!ってやっちゃうっていう(笑)。
──完全にネタフリじゃないですか(笑)。来年にはリリースツアーも決まっていますが、歌いたい歌を歌っていくのは大前提として、ここからどんな活動をしていきたいですか?
浜口:一番は曲をしっかり聴いてもらいたいので、あんまりごちゃごちゃしすぎずに、聴きやすいように聴いてもらいたいなっていうのはありますね。
──ごちゃごちゃというのは?
浜口:なんか、ライブとかでも無理に盛り上がらなくてもいいかなって。
──たとえば、ライブ=スポーツっていう空間になることもあるけど、自分たちはそういう感じではないと。
浜口:それはそれでかっこいいし、そういうバンドはそういうバンドでもちろんいいんですけど、僕らは曲を大事にしたくて。落ち着いて聴くというか、そういう感じの聴き方をしてくれてもいいですよっていう感じですね。
取材・文=山口哲生 撮影=大橋祐希
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