古川本舗、プライベート・フィルムのようなオンラインライブ「SINGALONG’ vol.1」開催
4月4日、古川亮(from 古川本舗)によるオンラインアコースティックライブ「SINGALONG’ vol.1」が開催された。
会場は都内のアート/イベントスペース「元映画館」。開演時間の20:00を過ぎると、画面には砂浜に置かれたピアノの写真が映し出されたスクリーンを前にした古川の後ろ姿が映し出される。暗がりの張り詰めた空気の中、アコースティックギターを爪弾く柔らかな音色が響く。そうして静かに歌い始めた1曲目は「ピアノ・レッスン」。吐息混じりの情感のこもった声で歌う古川の表情をカメラが追う。
今年2月3日に6年ぶりのシングル「知らない feat.若林希望」を発表し、活動再開した古川本舗。本格的なライブ自体も2015年12月に開催された「.RESPONSE.」以来だ。3月10日には佐藤千亜妃をヴォーカルに迎えた新曲「yol feat.佐藤千亜妃」をリリースしたばかり。音源では様々なヴォーカリストを迎えたプロジェクトの形で楽曲を発表しているが、この日のライブは「古川亮(from 古川本舗)」名義での、ゲストを迎えず1人での弾き語りのスタイル。アコースティック・ギターと歌だけの研ぎ澄まされたアレンジで、シンガーソングライターとしての彼の真骨頂を示すようなパフォーマンスだ。
序盤は「スカート」「東京日和」「あいのけもの」などアルバム「SOUP」収録曲を中心に歌い、中盤以降はこれまでに発表した4枚のアルバムから満遍なく選んだセットリストを展開。革張りのソファに腰掛けた古川は、MCを挟まず淡々と楽曲を披露していく。あたりはランプや観葉植物やレコードに囲まれた洒脱な空間。机の上には空き瓶やポップコーンが散らばっている。プライベートな場所に招かれたかのような、とても親密な空気が画面越しにも伝わってくる。「クロエ」では揺れるロウソクの光、「グリグリメガネと月光蟲」では大きな満月、「CRAWL」では線路を歩く幼い少女の後ろ姿がスクリーンに映し出され、楽曲の描く情景がおぼろげに立ち上がってくるような演出がなされている。一つ一つの曲名と共に画面に表示された英語のサブタイトルも、この日のために特別に用意されたものだ。
終盤、リリースされたばかりの新曲「知らない」を初めて自身の声で披露すると、「emma brown」「ムーンサイドへようこそ」と、子守唄のような包容力あるメロディの楽曲を続ける。青い光に包まれた古川の姿を、にじり寄るようなカメラワークが捉える。古川本舗の“個”の世界に没入するような映像演出だ。
切ないメロディを力強く歌い上げた「スーパーノヴァ」を終えると、この日、初めてのMC。古川は「感じたことのない気持ちになっております」と感慨深げに語る。ライブについても「最初はやるつもりなかったんですよ」とのこと。活動再開をしてから、新しく彼のことを知ったことも含めて、聴いてくれる人とのコミュニケーションを通じて新たな思いが芽生えてきたという。
「リリースは決まってないんだけど、そう遠くないうちに」と告げて、新曲の「ordinaries」を歌う。活動再開後に発表した2つの曲と同じく「夜」をモチーフにしつつ、シンプルなコード進行に言葉を連ね、日常にそっと寄り添うようなタイプの曲だ。
そして、最後に歌ったのは「サーカス」。6年前のラストライブでもアンコールで披露した楽曲だ。歌い終えると、古川は大きく手を振る。エンドロールが流れる中、安堵の表情で煙草をくわえ、解き放たれたかのように両手を大きく挙げ、スタッフと笑顔で談笑する古川の姿が映る。
まるで一本のプライベート・フィルムのような1時間強。幻想的で優美な古川本舗の世界に耽溺するかのようなオンラインライブだった。
アーカイブは、4月11日まで公開中。
文:柴那典
SETLIST
- ピアノ・レッスン
- スカート
- 東京日和
- あいのけもの
- クロエ
- KAMAKURA
- グリグリメガネと月光蟲
- CRAWL
- 知らない
- emma brown
- ムーンサイドへようこそ
- スーパーノヴァ
- ordinaries
- サーカス
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