NEE
NEE(ニー)の1stツアー『鬼ぎりTOUR』東京公演〈青鬼篇〉が、4月24日に渋谷CLUB QUATTROにて行われた。本記事では、同公演のオフィシャルレポートをお届けする。
男女4人組の自称「エキゾチックロックバンド」NEE(ニー)、1stツアー『鬼ぎりTOUR』。その東京公演〈青鬼篇〉が4月24日、渋谷CLUB QUATTROにて開催された。全16曲のフルボリューム、重大発表もてんこ盛りとなったこの記念すべきワンマンライブの模様をレポートする。結成から4年、各所で噂が噂を呼び注目度を高め続けるこのバンドのおもしろさ、ユニークネス、そしてこれからの時代を切り開いていくだろう「新たなスタンダード」としての存在感……つまりNEEというバンドの「見逃せなさ」が詰まったライブだった。
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雷鳴とサイレン轟くSEと共に登場した4人。キャップに前掛け姿のドラマー大樹、長身で長髪のギタリスト夕日、Tシャツにジャージで登場したベーシストかほ、そしてTシャツ短パンで満面の笑みを浮かべつつ現れたギター・ヴォーカルくぅ。もう見た目からしてバッラバラでそれぞれに濃くて最高である。そして1曲目「ボキは最強」からNEEのすべてを見せつけるような勢いで演奏をスタートすれば、フロアからはいきなり手拍子が巻き起こる。「今日はここにいるみんな、全部思い通り」というくぅの言葉から突入した「万事思通」ではしなやかで自由自在なリズムの変化が一気に会場の熱を高め、「グラッチェ、グラッチェ」とピースサインを掲げつつイタリア語で感謝を伝えるくぅものっけから充実の表情だ。そしてこのツアーのシンボルともいえる2月に公開された新曲「九鬼」へ。大樹が叩き出すビートが疾走し、夕日の色彩感豊かなギターが鮮やかな風景を描き出し、かほのベースがそれを支える。そしてその上でくぅの孤独な心情を刻んだ歌詞が叫びのように歌われる。複雑に入り組んでいるし情報量も多いが、それが塊のようになってドカンと真っ直ぐに投げ込まれてくるような感覚。それはこのバンドを初めて聴いたときから変わっていないが、その真っ直ぐのスピードが一気に上がったような楽曲だ。
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「嫌喘」、「障害とパプリカ」とギターが刻む小気味よいリズムで踊らせる楽曲を立て続けに披露すると、キラーチューン「aLaLe」に続いて「夜中の風船」を投下。夕日の個性的なギターサウンドといくつものリズムパターンを切り替えながら展開するドラム、そして重心の低いファンキーなベース。まったく異なる個性がぶつかり合って、ひとつのグルーヴを生み出していく。そう、NEEの楽曲はすべてが異種格闘技戦というか、多様な価値観の衝突とでもいうような様相を呈しているのだ。高速4つ打ちビートと軽妙なリフでダンスを誘ったかといえばエモーショナルなメロディで拳を突き上げさせ、ぶっといファンクネスで見たこともない景色へと連れていく。次々と移り変わっていくリズムに合わせて、目まぐるしく色合いが変わっていく。観ているほうも大変だが、やっているほうも大変なはずだ。
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そういうところが「エキセントリック」とか「尖っている」とか「ひねくれている」とか言われるゆえんなのだろうが、最終的に伝わってくる思いやメッセージのピュアな輝きを見れば、そんな物言いが本質からは大きくズレていることがわかる。音楽を日常を取り込んで生成される排泄物(簡単にいえばウンコ)みたいなものだとしよう。いろんなものを食って、それが消化されて、排泄物(音楽)になって出てくる。その出てきたモノの形を見て人は「変わってる」とか「色がおもしろい」とか言うのだが、出している本人は「普通なんだけどなあ」っていう、それがNEEの音楽だと思うのだ。世の中には出てきたものを後からあれこれこねくり回して「どや!」という音楽も溢れ返っているが、NEEの場合はもっと素直。食っているものは僕らと同じ、だけど消化器官が違うというか、2021年なりの消化の仕方というか、これが新しいスタンダードなのだと、ライブを観て改めて思った。それを言いたいがためにこのたとえを引っ張り出してきたことを少し後悔しているが、いずれにしてもNEEの音楽はその見かけ上のエキセントリックさだけに目を奪われては決して見ることのできない純粋な衝動に溢れているのである。それをよく表していたのが、「You Are はっぴー」「スカートの中を覗く」、そして「こたる」と、未発表の曲を交えて披露された中盤のバラードパートだった。思いを増幅するようなくぅとかほのユニゾンヴォーカルが、心情を丁寧になぞるような夕日のギターフレーズが、ライブひとつ見るにも生きていることとか孤独とかと向き合わなければならないこのご時世に染み入るように響いて泣きそうになった。
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そんな感動的なパートを経て、いよいよやってきた重大発表の時間。ツアーのエピソード(くぅが帽子を顔にガムテで固定していた話とか、大阪でライブ前に1000円の激安ビュッフェに行って食い過ぎた話とか)でさんざんもったいをつけつつ、大樹のドラムロールとともに明らかにされたのは、①夏に1st Full Album(『NEE』というセルフタイトルであることが終演後に上映された映像で明らかになった)をリリースすること、②そのアルバムをもってビクターGetting Betterからメジャーデビューすること、③この日24時に新曲「アウトバーン」を配信開始すること、という3つのニュースだった。フロアから驚きと祝福の拍手が巻き起こったのは言うまでもないが、印象的だったのは、メンバー4人が率直すぎるほど率直に喜びをあわらにしていたことだ。「世界目指して頑張ります」(夕日)、「温かい目で見守ってください」(大樹)、「一緒についてきてほしいです」(かほ)とメンバーそれぞれの思いを口にして、最後にくぅが「正直、めちゃめちゃ不安です。でもめちゃめちゃ楽しみです」と素直な心情を吐露しつつ「僕には大きな夢があります。僕はさいたまスーパーアリーナでライブをしたいんです!」と冗談めかしつつもガチの目標を宣言する。「でもNEEは変わらないです。NEEは……膝だしね」。その言葉に、この日クアトロに集まった全員が頼もしさを感じたに違いない。
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そして披露された「アウトバーン」。ぐいぐいと曲を牽引するファンクネス、ぎゅっと密度を増したようなアンサンブル、そして一気に壁を突破して突き進んでいくようなサビ。どこまでもNEEらしい、しかし曲名(ドイツの高速道路の名前)が意味するとおり「その先」へ突っ走る意思を込めたパワフルな楽曲だった。そこから一気にライブは最終盤へ。くぅ(ボカロP・村上蔵馬としても活動している)が作ったボカロ曲をバンドアレンジにした「pappii」を経て、YouTubeで800万回以上も再生されているNEEの代表曲「不革命前夜」へ。さっきの「変わらない」というくぅの言葉を証明するように、彼らのポップサイドが全開となり、フロアから湧き起こる手拍子もいっそう力強くなる。サビではいくつもの腕が突き上げられ、美しい一体感が生まれた。さらにキャッチーに振り切る「膝小僧」で最高潮を描き出すと、くぅは「サイコー!」と雄叫びを上げた。そして「最後までぶちかましちゃっていいですかね?」と「歩く花」「下僕な僕チン」を繰り出すと、何度も何度も「ありがとう」と言いながら4人はステージから去っていった。「次はもう一回り大きいところでお会いしましょう」。くぅが最後に口にしたその約束が果たされる日は、きっと近い。
文=小川智宏 撮影=nakaiso yoshio
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