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オフィスオーガスタ新プロジェクト Canvas、主催イベント第1弾「CANVAS vol.1」ライブレポート

アーティスト

いつかのネモフィラ

なかなか思うようにライブに行けない日々が続く中、着実に日常を取り戻しつつあることを実感できる取り組みがスタートした。

「Canvas」と名付けられたこのプロジェクトは、山崎まさよしやスキマスイッチ、秦 基博などが所属する音楽プロダクション・オフィスオーガスタが立ち上げた新人の発掘・活動支援プロジェクトだ。音楽の、そしてライブの火を消さないために草の根から活動していくそのマインドが何より頼もしい。

5月14日新代田FEVERで行われた、第1回目となるショーケースライブ「CANVAS vol.1」には5組のアーティストが集結した。

最初に登場したのは、去年北海道から上京して東京で活動をしているという畠山拓郎。アコースティックギターの弾き語りで全4曲を歌い切った。何と言っても特徴的なのはその声だ。独特の丸みと鋭さを併せ持った声は、歌の中で描かれる微妙な心模様を表現していく。そして、飄々としていながらも、実はエモいというところも魅力的に映った。

ギターをストロークしながら語ったMCもまた独特だった。

「いつかまた必ず会いましょうといろんなアーティストが言っているのは本当だからであります。皆さんそれぞれ好きな音楽があると思うから、一人ひとりがそのアーティストのことを信じてあげてください」

最後に披露した「最後の夜は」では、1曲の中で大きな物語の起伏を感じさせるメロディラインや、途中に用いられる大胆な転調など、ソングライティング・センスを感じさせた。

次に登場したのは、レトロリロン。Vo +AG、B、Key、Drと編成は至ってオーソドックスながら、そのサウンドは変幻自在。70年代ソウル、シティポップ、ジャズ、ラテン、レゲエ、ヒップホップなどの要素をさりげなくまぶすセンスの良さは、タイトでグルーヴィーな演奏技術があるから成り立つもの。そして何より涼音(Vo&AG)の紡ぐ言葉が日常感や生活感の枠の中だけに収まらず、そこからメッセージとしてきちんと発しているところにバンドの骨太な魅力を感じた。

「前と同じにはならないかもだけど、今はこのままでいいんじゃないかな」という現状認識を歌に込めた「朝が来るまで」の、必要以上に前向きでも後ろ向きでもないちょうど良さに気持ちが軽くなったような気がした。

3番手は、北海道をベースに活動するアーティスト、Furui Riho。打ち込みとキーボードをバックに圧倒的な表現力の歌を響かせた。ゴスペルをルーツに持つというだけあって、歌唱力は抜群、加えてヒップホップ・ネイティブを感じさせるメロディラインも秀逸。何より、歌における細かな表現力が群を抜いていた。

3曲目に披露した「嫌い」では、自分の容姿や性格など嫌いなところをあげていき、他人と比較し、〈でもそう 君は私にはなれない同じものはいらない〉とアイデンティティーを自覚していく。希望でも慰めでもなく、自分自身の中に深く潜った記録として綴られる歌という点がリアリティーを感じさせる。

ラストの「Purpose」ではきっちり韻を踏みながらリズムを繰り出すヴァースと伸びやかに歌われるサビでフロアを揺らしていった。

4番手に登場したのは、京都在住のポップロックバンド・Set Free。90年代渋谷系〜ギターポップ直系かと思いきや、それだけではない〝ややこしさ〟を感じさせるのがいかにも京都のバンドといった感じ。パンクやハードコアの持つ攻撃性や毒性も秘めているのがSet Freeの一筋縄ではいかないところだ。

それは編成にも現れている。バンドの中で最もキャッチーな存在感を放つワイニーは、これといった担当があるわけではなく、曲によってコーラスしたり、フラフラしているだけの時もあったり、いかにも自由。MCでは、メンバーそれぞれの「尊敬する人」を事前にヒアリングして発表してくれたり。最後に披露した「くるくる」では2MCの一翼を担ったり。なんとも掴みどころがない。しかし、彼のパフォーマンスがあるからこそライブを実感できる。フロアを大いに盛り上げてくれた。

トリを務めたのは、いつかのネモフィラ。VoにGt2人の3人組。今回は、BとDrをサポートに迎え5人編成でライブに臨んだ。切ないフレーズを爪弾くギターが響き、前海の歌が入った瞬間、フロアの色や温度が変化するのがわかった。一瞬で歌の世界に持っていくヴォーカル力がとにかく圧倒的だった。そしてヴォーカルだけでなく、例えば1曲目「逆にね。」の2コーラス目からアレンジをシンプルに変化をつけるバンドアレンジにも、彼らの基礎体力の高さが伺えた。

もともとベースを弾きながら歌っていたという前海。約1年ぶりとなった今回のライブからベースはサポートに任せ、自らはヴォーカルに集中することで、その表現力はより彩度を上げたものになった。その新体制での一発目の曲となった「マジックアワー」は青春の終わりを感じた瞬間を歌にした曲。まるで刻一刻と色を変えていく空のように表現の深みを増していくヴォーカルと演奏が印象に残った。

ラストは自粛中に書いたという「リタ」。もどかしさを表現したミディアムバラードが会場を包み込んだ。

まったく個性もジャンルも異なる5つの才能が、真っ白いキャンバスに色をつけてくれたシリーズイベント「CANVAS」。今後の展開も大いに楽しみだ。

Text:谷岡正浩
写真:永田拓也

出演者

  • いつかのネモフィラ
  • Set Free
  • Furui Riho
  • レトロリロン
  • 畠山拓郎