SUGIZO率いるサイケデリック・ジャムバンドSHAG、初配信ライヴ「THE SHAG STRIKES BACK」ライブレポート
SUGIZOが5人の偉才と共に即興演奏を繰り広げるサイケデリック・ジャムバンドSHAGが、5月20日、初配信ライヴ「LIVE STREAMING FROM TOKYO EPISODE Ⅲ ~THE SHAG STRIKES BACK~」を開催した。SUGIZOがSHAGを立ち上げたのは2000年代初頭に遡り、当初は主にクラブ&レイヴシーンで活動していたが、2020年12月に再編成のうえ再始動。新生SHAGはよりドープで過激なジャズロックのインタープレイに注力している。アンコールを除いてMCもなく本編はノンストップで約1時間。コロナ禍により無観客という制約下だったが、会場で繰り広げたスリリングでアグレッシヴなパフォーマンスが生んだ熱量は、画面越しでもしっかりと感じ取ることができた。
定刻を15分ほど過ぎて配信画面が会場映像に切り替わると、円を描く形で位置に就いているメンバーたち。SUGIZOの右隣は、元Yasei Collectiveの才人でパジャマ姿が異彩を放つ別所和洋(Key)、その隣は4月開催の「SUGIZO LIVE STREAMING FROM TOKYO EPISODE II~VOICE OF LEMURIA~」に続く参加となった類家心平(Tp)、SUGIZOの対面に位置するのは超絶技巧を誇る若き才能・松浦千昇(Dr)、そして初期からのSHAGメンバーである屈指のベースヒーローKenKen(Ba)、SUGIZOソロライヴでもお馴染みのパーカッショニストよしうらけんじ(Per)という、SUGIZOが全幅の信頼を寄せる布陣である。首領に指された松浦がドラムを強打し始めると、思い思いにテンション最高潮のフリージャズ的アドリブをぶちまけるメンバー達。SUGIZOはギターのフィードバック・ノイズを轟かせたかと思えば、剣状のリボンコントローラーに指を滑らせてモジュラーシンセサイザーを操作。メラメラと炎を立ち昇らせるようなジェスチャーを両手でしてみせて、メンバーのテンションに着火の合図を送る。のっけから狂気全開、異界の扉が開いたようなインパクトだった。SUGIZOソロの最初期曲群「SPERMA」「THE CAGE」は原曲が宿す狂気を増幅させたような、パワフルなセッションを展開し、一気にその世界へと引き込んだ。
3曲目の「FATIMA」で青い光の幻想空間へと切り替わると、冒頭で別所のRhodesとSUGIZOのヴァイオリンで物憂げな旋律を奏でる。インタープレイが積み重なっていくうちにファンクやソウルの匂いが立ち昇り始め、曲が思わぬ表情を見せていく。終盤はギターに持ち替えて思いの丈を歌い上げるようにソロ演奏で魅了。その後KenKenによる圧倒的ベースソロ、オーラスは神秘的なピアノとクリアトーンのギターで曲を締め括った。そしてミニマルな現代音楽的アプローチで生まれた電子音楽「Raummusik」へ。原曲では抑制的なグリッチ的ビートが高揚を生んでいくのだが、この日のパフォーマンスでは別所のピアノの躍動的なフレーズや類家のトランペットのノスタルジックな通奏音、よしうらと松浦による打楽器バトル、それに絡まるKenKenのベースラインが加わって全く異なるニュアンスを付与。それに呼応するようにSUGIZOも情緒的なアドリブを決め、総体として新曲であるかのような変貌を遂げていた。
セロニアス・モンクによる永遠のスタンダード「Round Midnight」のカヴァーは月の満ち欠けを表現する映像と併せて類家、別所、SUGIZOによるムーディーに哀切を帯びて幕開け、そのまま「Initiation of Rebellion」へ。KenKenと松浦が牽引する圧倒的ドープなダブ世界。この時点で既に、曲ごとの切れ目に対する意識や時間の認識がいつしか失われてきており、そこで鳴っている音にただただ陶酔していたのだが、「D Jam」でそのトリップ感覚は更に深化。SUGIZOの手振り身振りや合図となるフレーズだけを事前に共有し、メンバーはその瞬間の自身のフィーリング、そして相手の音から触発されて生まれた音を次々に、生き生きと畳み掛けていく。本編最後は、SHAG再始動にあたり大きなインスピレーション源となったマイルス・デイヴィスの「Bitches Brew」のカヴァー。同曲が収録された同名アルバムはジャズとロックを融合させより高みに昇華した金字塔であり、音楽が社会に対する反骨精神と密接に結びついていた約50年前のアティチュードを今こそ取り戻すべき、というSUGIZOの思考を象徴する作品でもある。メンバーは幾度も顔を見合わせ互いの呼吸を感じ取りながらタイミングを掴み、音を一斉に鳴らしたり時にはあえてズラしたりして、スリリングな即興演奏を展開。その瞬間にしか生まれない合奏の形は予測不能で、だからこそ尊く、その熱量は画面越しにも有り余るほど伝わってきた。
一旦ステージを去った後再登場すると、SUGIZOは「師匠・近藤等則氏、去年惜しくも亡くなりました。巨匠に向けてこの曲をお届けしたいと思います」と紹介し、アンコールとして「PRAY FOR MOTHER EARTH」を披露。氏と共に生み出した深遠で壮大なバラードである。即興演奏の真髄を学んだ偉大な師に捧げるレクイエムは物悲しくもドープなグルーヴが心地よく、映像と照明による相乗効果も素晴らしく、魂が光に包まれ、宇宙の涯に還っていく旅路を幻視するかのようだった。高揚と静けさの共存する空気感の中で、SHAG初の配信ライヴは幕を閉じた。
結成30周年を迎えたLUNA SEAのメンバーとして、X JAPANの一員として、加えてソロアーティストとしても途切れなく活動を続けており多忙を極めるSUGIZOが、2020年代に再始動させたこのSHAGというプロジェクト。ロック、ジャズ、ファンク、ソウル、ニューウェーブ、あらゆるジャンルを分け隔てなく混ぜ合わせ、より自由なインプロヴィゼーション表現を繰り出すジャムバンドは他に類を見ない存在だ。また、この日ヴィジュアル面を一手に担ったVJは初期SHAGを長く手掛けてきた鬼才高岡真也、そしてミキシングはSUGIZO達が全面的信頼を寄せる日本ダブ界の巨匠Dub Master X。彼ら英俊豪傑を擁しSHAGは即興音楽プロジェクトの域を越え、刺激に満ちた前衛クリエイター集団になりつつある。愉楽の坩堝のような音のサイケデリアに身を委ねるのが心地良いだけでなく、再始動の背景には、上述のようにSUGIZOが社会に投げ掛ける真摯な問題提起もある。コロナ禍で一層分断が進み差別が蔓延するこの時代に、真の自由と人権を求めるうえで音楽は欠かせない存在である、というSUGIZOのメッセージに耳を澄まし、今後一層活動を加速していくSHAGの次なる動きを注視したい。
本配信は2形態のチケットが発売中で、いずれもアーカイヴ視聴が可能である[※日本時間 5/27 23:59まで。チケット購入は同日21:00まで]。形態1. は、LIVE配信視聴のみの通常チケット(¥4,500)、形態2. はLIVE+アフタートーク配信を視聴でき、全メンバー直筆サイン入り生LIVE写真セット(集合+各ソロの計7枚)が特典として付くチケット(¥10,000)となっている。アフタートークでは終演直後にSHAG全員で初座談会を実施。視聴者からリアルタイムで寄せられたコメントを紹介しながら、ライヴの感想やSHAGの魅力、メンバー同士への想いを語った貴重なトークが繰り広げられていたので、是非ご覧いただきたい。
Text by Tae OMAE