LUNA SEAのSUGIZOとINORANによる対バン・イベント「BEST BOUT 2021~L2/5~」ライブレポート到着
6月9日“ロックの日”、LUNA SEAのSUGIZO(Gt/Vn)とINORAN(Gt)がソロ・プロジェクト同士で対バンするライヴイベント企画「SUGIZO vs INORAN PRESENTS BEST BOUT 2021~L2/5~」が開催された。
2016年6月9日にスタートし今回が第3弾となる人気シリーズで、過去2回はZeppクラスで熱狂の渦を巻き起こしてきたが、コロナ禍を鑑み今回は初の配信ライヴとして無観客で実施。ゲストに気鋭の画家・荻野綱久氏を迎え、SUGIZO、INORANのパフォーマンス中にライヴペインティングを行う、という実験的な試みに挑んだ。3者がステージを分け合い、エネルギーに満ちた音楽と絵画が一体となって一つのアート空間を立ち上げる、“名勝負”の進化形を見せた。
フロアの両端にSUGIZOとINORANのステージが向き合う形で設定され、荻野氏の巨大キャンバスはその中央にセッティング。先攻のSUGIZO Part.1はCOSMIC DANCE QUARTET編成で、最新アルバム「愛と調和」(2020年)から「Nova Terra」を1曲目に放ち、静けさの中で幕開け。屋久島の神秘的な映像を背に、水音と重なり合うアンビエントなギターを爪弾いた。瞑想するように佇んでいた荻野氏は、しばし音の世界に身を委ね、やがて筆をとってペイントを開始していく。
2曲目の「IRA」以降はSUGIZOの内なる怒りをぶちまけるような激しい曲想に変わり、映像、照明、レーザー光線を駆使した光の演出の下、「NO MORE NUKES PLAY THE GUITAR」までノンストップでパフォーマンス。パーカッションのよしうらけんじが神楽鈴からジャンベまで駆使するのは、SUGIZOの音楽性の多国籍ぶりの証である。
VJ ZAKROCKが手掛ける美しくも意味深長なイメージ映像と共に、SUGIZOは反核・反戦など社会へ向けたメッセージを発信。荻野氏の動きは音楽と連動してダイナミックになっていき、筆のみならず手で直にペイントする場面も。配信の画面上ではSUGIZOと荻野氏の姿をオーバーラップさせたり、会場背後のスクリーンの映像を更に強調して上乗せしたりと、会場で生まれていた魂と魂のぶつかり合い、熱の上昇を視覚化して届けていく。
ステージ転換用のインターバル無く、カメラをそのまま振る形で、対面でスタンバイしていた後攻INORANのPart.1へなだらかに突入。有観客ライヴハウスでは実現不可能な転換方法であり、配信の利点を生かした魅せ方である。SUGIZOとは対照的にINORANは映像を用いることなく、シンプルなスポットライトのみという仄暗い空間で、ヘッドフォンを装着して1曲目の「Hard Right」を歌唱。ギターの他、INORANの歌唱以外のすべての音をこの日繰っていたのはINORANソロ・プロジェクトに欠かせない盟友Yukio Murata(MY WAY MY LOVE)。2人で向き合って時には叫び、踊りながら生き生きと自由にライヴは展開。セットリストの全曲が最新アルバム「Between The World And Me」(2021年)と前作「Libertine Dreams」(2020年)の2作から選ばれていたのも印象的だ。
アタックの強いビートが唸る「Don’t Bring Me Down」では、ペイントしながら荻野氏も身を揺らし、勢いよく手で絵の具を投げつけるようなアクションを見せる。音楽と絵画、手法は異なれど、アーティスト同士の波動はしっかりとリンクしていた。“BEST BOUT”のモチーフであるフェニックスとドラゴンが、荻野氏の手によってリアルタイムで少しずつ姿を現していく。ついにドラゴンの目が描かれた瞬間、空気が変わった。そのすべてがドキュメンタリーを目の当たりにするようなスリルに満ちていた。
INORANが「Shaking Trees」でしっとりとPart.1を締め括ると、再びカメラは反対方向、SUGIZOサイドへと切り替わった。SUGIZO Part.2の1曲目「絶彩」は、京(DIR EN GREY、sukekiyo)をフィーチャリング・ヴォーカルに迎えたドープなダブ・ナンバーだが、この日はSUGIZOがヴァイオリンで主旋律を演奏。ギターはマニピュレーターのMaZDAが荒々しく掻き鳴らす。多彩なレーザー光線が交錯し、幻想的な美しさを醸し出すステージ。荻野が漆黒のキャンバスに描く極彩色の絵画は、まさにこの曲のイメージが視覚化されたようでもある。
ヒジャブをまとった女性が祈る映像からスタートした「ENOLA GAY RELOADED」では、仁王立ちでフラッグを振り回すSUGIZO。全曲インストゥルメンタルで歌詞による説明は無いものの、SAVE SYRIA、SAVE MYANMAH、SAVE PALESTINEの文字が映し出され、圧政に苦しむ世界中の人々に寄り添うSUGIZOの姿勢を明示した。
INORAN Part.2は「Purpose」で幕開け。コロナ禍のステイホーム期間中にINORANが全曲一人で生み出した「Libertine Dreams」収録の名バラードで、生きる意味を静かに問い掛けるような、根源的な深さを湛えた1曲。手を虚空に彷徨わせるようなアクションを交えて表情豊かにINORANは歌唱し、Murataのブルージーなギターソロは哀愁を帯び、胸をえぐった。
「Soul Aint For Sale」からはハンドマイクに持ち替えて、アッパーなテンションへ。INORANは大きく身体を動かしながらアグレッシヴにパフォーマンス。フェニックスとドラゴンは完成に近付いており、荻野氏はリズムに乗って心地良さそうにペイント。時にはINORANとアイコンタクトして笑顔を見せながら筆を走らせた。ラストの「Leap of Faith」では、そこには居ない女性ヴォーカルと掛け合いをするように“デュエット”。物憂い曲調の中にも、覚悟を決めて飛び立とうとする未来への意思が感じられる、余韻を残すエンディングだった。
ラストの1曲は、この日のエンディングテーマとしてINORANが書き下ろし、SUGIZOがアレンジを加えた「2050」をセッション。SUGIZOは「INORANとSUGIZOと荻野さんの“愛のバトルロイヤル”、楽しんでもらえましたか?」と挨拶し、この曲がパンデミックから脱した先の未来への希望と祈りを込めて生み出されたことを明かした。「この星が真の平穏と安堵を手に入れられますように……」(SUGIZO)との言葉から、SUGIZOはヴァイオリン、INORANはこの日初めてギターを構え、互いに向き合ってプレイ。荻野氏は背中で2人のバイブレーションを受けながらキャンバスに手を滑らせた。
最後、会場では離れた距離に立っていたSUGIZOとINORANだが、あたかも間近で向き合っているような形で、そして2人の奥には荻野が佇み、配信画面上に3人が収まった。たとえ離れた距離にいても、音楽や絵画といったアートには、人と人とを繋ぐ力がある。「BEST BOUT 2021」はそんなことを実感させるライヴイベントであり、音楽ライヴの枠を超えた新たなハイブリッド・アートしても画期的。アーカイブ配信は6月12日23:59まで視聴可能で、チケットは同日21:00まで入手できる(プラットフォームはLive Pertner/Streaming+/ZAIKO)ので、是非、ご自身の目で目撃してほしい。
Text by Tae OMAE