スピッツ「SPITZ JAMBOREE TOUR 2021 “NEW MIKKE”」開幕、6/18ぴあアリーナMM公演ライブレポート
スピッツが6月18日、神奈川・ぴあアリーナMMにてワンマンツアー「SPITZ JAMBOREE TOUR 2021 “NEW MIKKE”」の初日公演を開催した。
2019年10月に発売された16枚目のフルアルバム「見っけ」のリリースツアーとして開催されていた「SPITZ JAMBOREE TOUR 2019-2020 “MIKKE”」だが、2020年3月~7月に予定されていたホール公演が新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止となってしまったことを受け、その中止の発表と同時に今年4月に開催が発表されたのが、今回のアリーナツアー。感染拡大防止ガイドラインに沿いながら、前ツアーで中止となってしまったエリアを中心に、この先も各地を回っていく予定だ。
開演時間の18:30、ステージ上に姿を現した、草野マサムネ(Vo / Gt)、三輪テツヤ(Gt)、田村明浩(Ba)、﨑山龍男(Dr)、そして、サポートメンバーのクジヒロコ(Key)の5人。去年の11月に東京ガーデンシアターで開催され、その後、配信上映もされたライブ「スピッツ コンサート2020 “猫ちぐらの夕べ”」以来、この日はスピッツにとっては約8カ月ぶりのライブとなる。オール着席だった「猫ちぐらの夕べ」と違い、今回もオーディエンスの声出しは禁止ながら、客席は間隔を空けたうえでスタンディングOK。決してコロナ禍以前と同じようにはいかないが、しかし、バンドの生命活動のひとつといえるツアーが再び動き出し、ロックバンドとしてのスピッツが再び走り出すことに、客席も、そしてステージ上のバンド自身も、じんわりとした興奮に包まれているようだ。
演奏は、今年でデビュー30周年を迎えるバンドとしての重みを感じさせながら、しかし同時に、まるで産声のように瑞々しく響きわたる新鮮さも兼ね備えたとてもエネルギッシュなものだった。再び自分たちの曲が「ライブ」という空間に鳴り響くことの喜びと驚きを確かめるように、各楽器がそれぞれの醍醐味を全身全霊で体現しながら重なり合うダイナミズム。豊潤で多様なリズムの楽しさ、心の輪郭をなぞるようなメロディの典雅さ、孤独も勇気も「そこにあること」を分ち合う歌の深さと柔らかさ――スピッツがスピッツたる由縁が生の音の躍動になって響きわたる。軽快なビートと穏やかなメロディの繊細な絡み合いが美しい、「見っけ」収録のシングル曲“優しいあの子”や、「NEWS23」のエンディングテーマとして書き下ろされた、時代の暗闇の先へ光を求めて疾走するような力強い新曲“紫の夜を越えて”など、最新曲も過去曲も、有名曲もレア曲も、存分に演奏され、会場をスピッツにしか生み出せない時間、スピッツにしか生み出せない世界に浸していく。
客席を見渡せば、リズムに合わせて手拍子をする人、ステージに向か合って手を振る人、じっくりと音に身を預ける人、などなど……いろんな人がいた。声は出せないながらも、オーディエンス一人ひとりがそれぞれの形で、今、この瞬間にスピッツが生み出す音楽世界に反応していたのだろう。その光景は、「ライブ」という空間だからこそ生まれえる熱の伝導がたしかにここに生まれていることを感じさせた。
何故、ロックバンドにライブは必要なのか。その理由のようなものを体で感じることができたツアー初日。まだ全てが解決されたわけではないが、しかしそれでも、スピッツは再び旅を始めた。きっと、このツアーを通して再びスピッツは世界を見つけ、世界は再び、スピッツを見つけるのだろう。
テキスト:天野史彬