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ツユ「これからもツユは最高の作品を作って盛り上げていきます」 未来への期待にあふれたZepp Tokyo公演、配信ライブをレポート

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ツユ 3rdワンマンLIVE『貴⽅を不幸に誘いますね』ONLINE
2021.8.29

ツユが結成から2年で辿り着いたZepp Tokyo公演は、目の前にいる全てのお客さんが自分たちを見に来ているという、そんなメンバーの感動が強く伝わるライブだった。

ツユは、元ボカロPであるコンポーザーのぷす(Gt)を中心に、礼衣(Vo)、miro(Piano)、おむたつ(イラスト)、AzyuN(ムービー)という5人で活動するクリエイティブ・ユニット。レーベルや事務所には属さず、完全セルフプロデュースで活動しながらも、日本だけでなく、すでに海外のリスナーからも大きな支持を集めている。そんなツユの3度目となるワンマンライブ『貴方を不幸に誘いますね』は、今年7月14日に発売された2ndアルバム『貴方を不幸に誘いますね』と同じタイトルを冠したライブに。報われない気持ちを多く扱ったアルバム収録曲のダークな世界観を踏襲し、ひとつの大きな物語を描いていった。

以下のテキストは、ソールドアウトとなった7月30日の有観客公演のあと、全世界で配信されたオンラインライブのレポートになる。

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オープニングはアルバム『貴方を不幸に誘いますね』でも1曲目に収録されているピアノのインスト曲「強欲」から始まった。「華やかな幕開け」ではない。ほとんど光が灯らない仄暗いステージで、まるで心の葛藤を代弁するようなmiro(Piano)の陰鬱なソロ演奏が『貴方を不幸に誘いますね』の世界観へと聴き手を引きずり込んでゆく。<ちょうだいな ちょうだいな>という童謡のようなメロディを狂騒的なロックサウンドが彩る「デモーニッシュ」、<最低ないま>の刹那的な感情をポップに歌い上げる「過去に囚われている」から、音階を軽やかにのぼる言葉遊びにファンキーなグルーヴが寄り添った「奴隷じゃないなら何ですか?」へ。冒頭4曲は『貴方を不幸に誘いますね』の収録曲順そのままだ。

透明感がありながら、「この場所で歌わなければならない」という強い意志を歌声に滲ませたボーカル礼衣を中心に、ステージに立つのは、ぷす(Gt)、miro(Piano)、さらにサポートメンバーの樋口幸佑(Dr)、Kei Nakamura(Ba)を加えた5人。彼らが演奏する表情は、明確には画面に映らない。その代わり、楽曲とリンクしたスクリーン映像を駆使することによって、『貴方を不幸に誘いますね』という、これまでのツユの作品のなかでも、とりわけ深い心の闇を描いた楽曲への圧倒的な没入感を生み出していく。

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「ルーザーガール」では、大きなスクリーンをバックに並び立つ、礼衣、ぷす、miroの3人のシルエットが鮮烈に浮かび上がった。ジャジーなピアノに礼衣のボーカルが寂しげに転がった「雨を浴びる」。前作アルバムの「太陽になれるかな」といった楽曲も交えたセットリストには、数曲おきにmiroのピアノソロが挟まれ、大きな物語を描きながら進んでいくようだった。中盤のタームで浮き上がったのは、劣等感を抱き、自分ではない何かに憧れながら、それでも「生きたい」と渇望する想いだった。音源で聴く以上に、生のライブで届けられる礼衣の歌唱は切実で生々しい。ツユを始動させるにあたり、ぷすが礼衣をスカウトした理由は、もちろん歌唱力も一因だっただろうが、聴き手の心を強く揺さぶる、この訴求力も大きいのではないかと思う。

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ザーザーという雨音をバックに届けた「梅雨明けの」、太陽のような眩い光がステージから溢れた「ナツノカゼ御来光」から、セミの鳴き声と共に清涼感のあるバンドサウンドを聴かせた「アサガオの散る頃に」へ。後半は、ぷすがボカロP時代に発表した楽曲たちも交えながら、夏と雨をテーマにした楽曲が続いた。ユニット名のとおり、ツユには雨をモチーフにした楽曲が多い。その雨には悲しみや痛みといった感情が象徴されている。感傷的な気分を湛えながら、物語は初夏から晩夏へ。ぷすのギターが爽快に駆け抜けるインスト曲「秋雨前線」を挟み、めぐる季節のなかで誰かを待ち続ける気持ちを犬目線で綴った「忠犬ハチ」では、愛らしいアニメーションがその切なさを強く掻き立てた。

繊細なピアノソロをインタールードになだれ込んだ「あの世行きのバスに乗ってさらば。」からは、ステージ前面に降ろされた紗幕に歌詞やイラストが映し出され、クライマックスに向けてアップテンポな楽曲を畳みかけていった。人気曲「くらべられっ子」では、フロアのお客さんが思い切り腕を上げている光景が映し出される。両手でマイクを強く握りしめた礼衣がルシファーの痛々しいまでの純情を振り絞るように歌った「泥の分際で私だけの大切を奪おうだなんて」に続き、本編のラストは、情報量の多いロックサウンドにファルセットを交えたボーカルが激しく乱高下する「終点の先が在るとするならば。」で締めくくった。死にたい感情を抱き、“あの世行きのバス”を夢想したときに、終点の先にあるものは「生きたい」という想いであってほしい。この日、本編の20曲で描き続けた大きな物語の結末には、そんな晴れやかな雨上がりの希望を描きたかったのではないだろうか。

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アンコールでは、樋口のドラムスティックによるカウントを合図に、ツユのはじまりの曲「やっぱり雨は降るんだね」をいきなり披露して、メンバー紹介へ。ステージに立つメンバーだけではなく、裏方に控えるマニピュレーターのあすきーの名前を呼び、イラスト担当のおむたつが登壇し、残念ながらこの日会場に来ることのできなかったムービー担当のAzyuNを紹介するところに、あらゆるクリエイターの立場を尊重するツユのスタンスを感じる。本編では一切MCを挟まなかったが、ここからはたっぷり時間をかけてトークが繰り広げられた。miroは、「(1曲目の)「強欲」のピアノがプレッシャーで1週間ぐらい眠れなかった(笑)。なんとかなってよかった」とライブを振り返り、ぷすは、ボーカルの礼衣について、「いままでは「歌って」って言われて歌ってたけど、いまは自分で歌をチェックするようになった」と、その成長ぶりを言及。さらに、「ちょっと話してもいい?」と、自分自身の現在に至るまでの道のりを熱い言葉で振り返った。

高校をやめて、ボカロPになったものの劣等感にまみれていたこと。歌い手にも手を出し、なんとか生き残ろうとしたこと。2019年にボカロPの活動に休止符を打ち、仲間を集めて、背水の陣でツユを始動したこと。なかでも熱い口調で伝えたのは、2019年に「やっぱり雨は降るんだね」をリリースしたときのことだった。

「TwitterにDMが届いたんだよ。誰だろう?と思ったら、(ヨルシカの)n-bunaからで。ぶっちゃけね、ツユはヨルシカにめっちゃ影響を受けてるんだよ。2019年にヨルシカがバーンっていったとき、めっちゃ悔しかった。俺は何をやってるんだろう?って思ったんだよね。だから、ツユをこの形式でやろうと思った。で、そのn-bunaからのDMに書いてあったんだよ。「「やっぱり雨は降るんだね」よかったよ。お前はインターネットのそこらへんで転がっている人間じゃない、応援してる」って。その言葉をお守りのように持って、モチベーションを保って活動をしてる。ありがとう、n-buna、聴いてくれて」。

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堰を切ったように溢れる想いを語ったあと、最後は「これからもツユは最高の作品を作って盛り上げていきます」と言って、「ロックな君とはお別れだ」で、約2時間のライブを締めくくった。去り際に、ぷす、礼衣、miro、おむたつの4人はステージを左右に移動しながら、お客さんの拍手に応えた。「最高だな、この景色」と、ぷす。その声色には、ようやくその場所に辿り着いたという感慨が滲む。だが、ここはまだツユの頂点じゃない。きっとツユはこの先もっともっと大勢の人たちに囲まれて素敵な景色を描いていくだろう。

文=秦理絵 撮影=岡本麻衣(ODD JOB LTD.)

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