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DEAN FUJIOKA「“Musical Transmute” Tour 2021」初日レポート、千変万化する世界の中で示された新たなライブ表現の可能性

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Photo by Kayo Sekiguchi

DEAN FUJIOKAが9月4日に、全国ツアー「“Musical Transmute” Tour 2021」初日公演を埼玉・川口総合文化センターリリア メインホールにて開催した。

「“Musical Transmute” Tour 2021」は、DEANにとって、2019年に行われた「Born To Make History」以来のライブツアーとなるだけでなく、18都市20公演が行われる自身最大の規模の日本ツアーだ。また、昨年予定されていたアジアツアーの開催断念も経て行われるため、ファンにとっても待望の全国ツアーとなる。

DEANは、昨年、コロナ禍の影響を受け、開催を断念したアジアツアーのもうひとつの選択肢として、配信ライブ「Plan B」を行っている。同ライブは、”リアルライブとミュージックビデオの中間”を体現したものになったが、そこで印象的だったのは、そのコンセプトに沿った配信ライブならではの作り込まれたライブ表現だった。また、“Plan B”というもうひとつの選択肢は、今年への希望をつなぐという意味で機能していたことも記憶に新しい。

そんなもうひとつの選択肢を経て、開催された今回のツアーの初日公演では、ツアータイトルにもある“Transmute”という言葉どおり、千変万化する世界の中で新たなライブパフォーマンスの可能性が示された。

今回の公演では感染対策の一環として、会場に集まったファンが、音楽ライブでありながらこれまでのように声を上げることができないという制約があった。そのようなある種、異様とも言える状況でも同じ空間をみんなで共有する方法としてDEANが打ち出したのは、これまでの自身の音楽ライブにはなかった、ミュージカルの要素を取り入れたライブパフォーマンスだ。

それによりこれまで以上にストーリー性が増したこのライブパフォーマンスは、「Plan B」にも通じる作り込まれた表現感があった。しかし、それと異なるのは、リアルライブの演出のひとつとしてその要素を取り入れながらも、生の演劇のようにその場でフィジカルに動くことで、生まれたライブ感だ。これはミュージシャンと俳優という2つの顔を持つ彼だからこそ、その場で高次元で成立させることができるハイブリッドな表現だと言えるだろう。

そんな新たな表現が試みられた今回の公演では、「Shelly」「Searching For The Ghost」など過去曲や最新曲「Runaway」に加えて、「Sayonara」「Sukima」「Missing Piece」「Spin The Planet」の4曲の未発表新曲など、約1時間45分に渡って披露された。しかし、その方向性を示す上で最も重要な役割を果たしたのは「Neo Dimension」だ。

同曲は、かつて「自身の自己紹介、意思表明的な楽曲」として発表された「My Dimension」を生まれ変わらせた曲だが、その際には新たに常に進化し続け、新しいステージを歩み続けるDEANのこれまでの時間と想いを凝縮した未来に導く「コンパス」という意味が加えられている。

ライブ中にDEANがステージで見せた舞台表現には彼のキャリアにおける初期衝動を感じさせるものもあれば、葛藤や飛躍を感じさせるものまで様々な表現が見られたが、これらの表現はDEANのこれまでのキャリアと深く結びついたものであることが予想できる。そのことからライブ構成にあわせて、過去の彼の姿をステージ上でトレースすることで、可視化したものであるように感じた。

また、そのような演技の中には挫折とそこから再び立ち上がるような表現も見られた。それはコロナ禍により、計画していたものが幾度となく、変更を余儀なくされ、多くのことを諦めざるをえなかった状況でも、そこから立ち上がり、今回のツアーを迎えたDEAN自身の姿とも重なって見えた。そこには、千変万化していく自身のストーリーをこれまでにない環境が生まれた会場に集まったファンと目の前でより明確に共有していくという意図が込められていたように思えた。

昨年、これまでの日常がコロナ禍によって失われことにより、我々は新たに非日常の世界を迎えることを余儀なくされた。しかし、現在はその非日常さえも日常化しており、ライブエンタメ業界においては、以前のような形で行われるライブこそが非日常化している。

そのことを考えると、今回のライブパフォーマンスには、このように世界が日常と非日常の間で変異し、その立場が循環していくことを受けて、これまでの方法だけに固執せず、別のプランを用意しておくのか、そして、その先で変異していくのかという問いに対するDEANの答えが反映されていたように感じる。

DEANは、これまでも常に新しい要素を自身の音楽表現に取り入れながら、時代の先を一歩先をいく音楽性を示してきたアーティストだ。そして、今、その先鋭性は新たな変異のタイミングを経て、ライブ体験のあり方の変化を示すまでに至っている。そのような変異から生まれる未体験の表現は、もしかしたら観るものにとっては、戸惑いを生じさせるものなのかもしれない。でも、そのことを恐れる必要はないだろう。なぜなら千変万化する世界の中で生まれた「“Musical Transmute” Tour 2021」には、変異=トランスミュートしていくことこそが今を生き抜く方法であり、それによって、新たな表現を切り開くというDEANの決意が込められているからだ。ツアー初日公演はそんなことを感じさせてくれる素晴らしいライブだった。これからも“Transmute”し続けていくツアーでは何度見ても新たな気付きが得られるかもしれない。

​​また、DEANはツアー開始に先駆け、今年12月に「History In The Making」以来、約3年ぶりのアルバムとなる3rdアルバム「Transmute」をリリースすることを発表している。今回のライブで披露された新曲4曲も収録される同作の“Transmute”というタイトルには、「現代の混沌とした世の中で、予測不能な将来を生き抜くために“変異”していくことが大切である」というメッセージが込められている。それだけに今回のツアーは、ファンがその意味を紐解き、理解する上でも重要な役割を果たすことになりそうだ。

Text by Jun Fukunaga

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