THE BAWDIES
コロナ禍の中、THE BAWDIESが制作を進めてきたメジャー8thアルバム『BLAST OFF!』がついに解き放たれる! 今回、インタビューに応えてくれたROY(Vo/Ba)とTAXMAN(Gt/Vo)が「楽曲のバラエティは前作の『Section #11』以上!」と胸を張る一方で、ストレートなロックンロールに回帰した!?とうっかり思ってしまうほど、圧倒的な勢いが感じられるのは、なるほど、いつも以上に作品全体にポジティブなエネルギーが溢れかえっているからなのか。
インタビュー中、希望、光という言葉を、ROYは何度も口にしたが、そもそもTHE BAWDIESはロックンロールが持つオプティミズムを身上としてきた、今風に言うなら陽キャのバンドだ。その彼らが希望、光を求めていたんだから、ROY、TAXMAN、JIM(Gt/Cho)、MARCY(Dr/Cho)の4人がどんな思いで、アルバムの制作に取り組んでいたかは推して知るべし。「曲を作ることが楽しかったんですよ。裏返すと、それしかなかった」というROYの言葉には、ぐっと来た。
『Section #11』では意識的に求めた楽曲のバラエティが今回は気づいたら広がっていた。そこにバンドの成長を感じ取ることもできるだろう。作品全体に散りばめられた、さまざまなギミックも聴きどころだ。
――前作の『Section #11』は、その前にリリースしたベストアルバム『THIS IS THE BEST』を超えるアルバムを作るというテーマの下、あらゆる可能性を追求した作品でしたが、それを経て、約2年ぶりにリリースする今回の『BLAST OFF!』。ストレートなロックンロールに回帰したという第一印象があったのですが、聴いているうちにいろいろな発見があって、演奏の勢いはともかく、単純にストレートなロックンロールに回帰したとは言えないと思いました。お二人はどんな作品になったという手応えがあるでしょうか?
ROY:過去の作品と比べても一番バラエティ豊かと言うか、おもちゃ箱をひっくり返したような楽しさがあって、しかも光を感じられるようなすごくポジティブなエネルギーが充満していると思います。
TAXMAN:僕らが目指すロックンロールって、尖っていると言うよりは、人を楽しませるというところが根本にあるし、そういうロックンロールの力が今こそ必要なんだという気持ちもあったので、そういう意味では原点回帰的なところも確かに、そんなに意識はしてなかったですけど、あったのかなって、今、お話を聞きながら思いました。ただ、ライブがそんなになかった分、制作に時間もかけられたので、1曲1曲、ただシンプルにやるんじゃなくて、しっかりと時間をかけて、構成や使う楽器も含め吟味できたってことが曲のバラエティにも繋がったという意味では、自分たちの持っている引き出しを全部開けることができたと思います。
ROY:前作のツアーを最後までできなかったという悔しさがあったんですよ。でも、それは僕らだけじゃなかった。もう世界中、みんなが止まっちゃったじゃないですか、あの瞬間に。そこからどうなっていくのか、ほんとにわからない状況で、僕らの歴史の中にも交通事故があったりとか、東日本大震災があったりとか、いろいろなタイミングで立ち止まらなきゃいけないかもしれないって瞬間はあったんですけど、その度に自分らは転がり続ける姿勢を見てもらって、それが見てもらった人にとって光や希望になっていくってバンドだと思ったので、今回もやっぱり止まりたくないと思ったんです。ただ、だからと言って、ライブができるわけではなかったので、曲を作るしかなかった。『Section #11』ってアルバムは、まだ終わってないんだけど、そこは振り返らずに先に進もうと思いました。
――ツアーが中断したことを悔やんでいてもしかたない、と。
ROY:そうです。それで最初は、その時の、どうしよう?という気持ちを曲にしていこうと思って、作り始めたんです。それでできたのが1曲目の「YA! YA!」。この曲ができたところまではよかったんですけど、そこから全然曲ができなくなっちゃって。悔しさとか、どうしたらいいかわからない感情とかを曲にしていくっていうのは、最初の1曲目はできたんですけど、怒りみたいなもので曲を作っていくことは、自分たちの音楽としてどうなんだろうか?という気がしてきて。ポジティブじゃないと思ったんですよ。それでしばらく曲が書けなかったんですけど、そのうち、必ずまたみんなで音楽を楽しめる時が来ることを想像しはじめたら、なんだかワクワクしてきて、早くあの日に戻ってきてほしいって前向きな気持ちが自分の中で光や希望になっていって、それを元に曲を書いていったら、また書けるようになって。コロナ禍の中で書いたにもかかわらず、ポジティブなエネルギーに溢れているのは、そういう気持ちで作っていったからだと思います。アルバムを出すとかではなくて、曲を作ろう、できた曲を録っていこうっていう気持ちだったので、バランスも考えずに、どんどん作っていったのが、バラエティに繋がったんだと思います。1年ちょっとかけて作っているから、曲それぞれにできたタイミングが違うので、自分たちの中のモードもいろいろ変化していきながらだったんですよ。だから、楽曲が揃って、アルバムにしようってなった時に、おもちゃ箱をひっくり返したみたいな作品に勝手になったと言うか。
――ポジティブな曲作りを始めて、最初にできた曲というのは、「SUN AFTER THE RAIN」なんですか?
ROY:いえ、その曲ぐらいまではまだ“どうしよう?”って思ってました。光が見え始めたと言うか、光が見たいという気持ちで作ったんです。そのあと、「OH NO!」と「ROLLER COASTER」ができて、そこからどんどん出来始めたんです。
TAXMAN:時間がほんとにいっぱいあって、その時間を無駄にしたくないと言うか、さっきROYが言ってたように立ち止まりたくないと思っていたので。時間があることを逆にポジティブに捉えて、買ったまま聴いてなかったレコードを聴く時間も今までよりもあって、それがインスピレーションになったところもあります。今まではやっぱり制作とともにライブも常にやっていたので、なかなか時間をかけられないと言うか、どこかを犠牲にしないといけないところがあったんですけど、今回、こんなに曲作りに打ち込めて楽しいなという気持ちもあって。プラス、その頃って、ぶつけようのない怒りをみんなが持っていたじゃないですか。それがイヤだなと思って。せっかくなら、みんなが楽しんでくれるような曲を作りたかったし、また、みんなで歌えるってなった時のために、みんなで歌える曲をいっぱい作りたいなと思ったし。だから、今回、みんなで歌える曲がけっこうあるんですよ。
今は土砂降りの雨のような状況だけど、必ず晴れるし、そこから暖かい光がちゃんと差し込むからっていうことを伝えたかった。
――そんなふうにたくさん作った中から最初に「SUN AFTER THE RAIN」を配信リリースしたのは、気楽に行こうぜ、俺たちがいるぜ、ロックンロールがあるぜというメッセージの部分も大きかったと思うのですが、サウンド的にも新境地を打ち出しているところを、最初に聴いてほしかったのではないですか?
ROY:まぁ、でも、一番は曲のタイトルどおりと言うか、今は土砂降りの雨のような状況だけど、必ず晴れるし、そこから暖かい光がちゃんと差し込むからっていうことを伝えたかったんです。それを叫ぶことで、みんなの希望とか光とかに自分たちがなれたらいいなと思いました。新しいことにチャレンジしたという気持ちは、実はあんまりなくて、曲を作っていく中で、ほんとにコンセプトも決めなかったし、曲を作ること自体がポジティブになれる時間だったから、ただ楽しく……そう、曲を作ることが楽しかったんですよ。裏返すと、それしかなかったと言うか(苦笑)。だから、THE BAWDIESっぽくないかなみたいなことも今まで以上に気にしなかったです。出てきたものをそのままやろう、ぐらいの感じでした。みんなで集まることもなかなかできなかったので、ここっていう時だけ集まって、話し合って、それぞれに曲を持ち帰って、アイディアを出し合ったんですけど。TAXMANも言ってたように、時間がすごくあったから、それぞれのアイディアもいっぱい盛り込んでいくこともできたんです。それによって楽曲がすごく広がりを見せたし、曲を熟成させる時間もあったし、いろいろな変化もしていったし。だから、新しいことに挑戦しているという感覚もなかったんですよ。
――とは言え、「SUN AFTER THE RAIN」は結果的にかもしれませんが、ニューウェーブっぽいギターサウンドも聴きどころだと思うんですよ。
TAXMAN:『Section #11』を作ったとき、新たな一歩を踏み出せたと思えたので、ギターのサウンド面でも、アレンジ面でもチャレンジすることに恐れはなかったですね。もちろん、この流れでストレートなロックンロールをドーンと出してもよかったんですけど、みんなをちょっと驚かせてやりたいという気持ちもあって。そうなると、3コードのロックンロールではないなと思いました。だから、今回はアルバム通して、60年代だけじゃなくて、70年代以降のパンクやパワーポップも好きだから、そういうところや90年代のテイストも意外に入っているんですよ。
――確かに、それは感じました。
TAXMAN:そこって僕らのどんぴしゃのルーツではないんですけど、青春時代を共に過ごす中で90年代の海外のバンドはもちろん聴いていたので、自然と出てくる部分もあって、今までだったら、そういうところは封印とはまでは言わないですけど、THE BAWDIESの音楽的にはちょっと違うかなってなってたかもしれない。でも、そういうところもあんまり意識せずに、出てきたものは素直に出してあげようと言うか、結局、ROYが歌えばTHE BAWDIESになると言うか。
ROY:「SUN AFTER THE RAIN」のイントロを作った時はスタイル・カウンシルを聴いていたんですよ。スタイル・カウンシルの、あの感じをイントロに持ってこられないかなってずっと考えてたら、出てきたリフでしたね。
――スタイル・カウンシルは、どんなきっかけで?
TAXMAN:スタイル・カウンシルは、そんなにどんぴしゃじゃないんですけど、ザ・ジャムは前から聴いてたから、ザ・ジャムのポール・ウェラーがザ・ジャムの後に始めたバンドっていうことはもちろん知っていたし、DJイベントではみんながかけるから曲も知ってはいたんですけど、改めて聴いてみたら、“あ、こんなふうにルーツを表現してるんだ”って新しい発見もあって。ポール・ウェラーって、ルーツをすごく大事にしているじゃないですか。そんなふうに、いろいろなレコードを聴く時間っていうのがいっぱいあったことも大きいのかな。
――曲ができてから、今までのTHE BAWDIESっぽくないよねってメンバー自身で思った曲もけっこうあるんですか?
ROY:いっぱいあります。最初にできた「YA! YA!」とか、「OH NO!」とかは、これまでのTHE BAWDIESっぽいですよね。「T.Y.I.A.」もおもしろいと言えば、おもしろいですけど、言ってもガレージの範疇に入るのかな。でも、「YES OR NO」「I DON’T WANNA」「SUN AFTER THE RAIN」の3曲は90年代っぽい雰囲気がちょっとあると思っていて。「YES OR NO」はラーズとか、オアシスとか、「I DON’T WANNA」はウィーザー、「SUN AFTER THE RAIN」はさっき言ったスタイル・カウンシル。あくまでも、敢えてたとえるなら、そういう雰囲気がいろいろ混ざっているってことですけど、今までのTHE BAWDIESが出してこなかった、60年代~70年代の時代感とはちょっと違うものが、その3曲の並びで、連続して出ているというふうに自分たちでは考えていますね。
――それは狙ったわけではなく、たまたまそういう曲になった、と。
ROY:そう。たまたまなんです。これまでだったらそういうふうに出たものを、もうちょっと60年代のビートバンドっぽくしようかってなってたと思うんですけど。今回は、そのままやっちゃえって。
――スライドギターがブルージーに鳴る「RUN AROUND」も90年代っぽいですね。
ROY:これは元々、もっとルーツっぽい曲だったんですけど、デモができた時点で1回、お蔵入りしそうになったものを、JIMがリミックスっぽく仕上げてきたんです。それがすごくおもしろくて、そういうふうに表現するんだったらありかもねって思って、まさに90年代っぽいやり方でレコーディングしました。その感覚は僕にはなかったです。でも、さっきも言ったようにデモをメンバーが持ち帰って、それぞれにアイディアを出し合うって時間がたくさんあったんですよ。
――「RUN AROUND」は最後のROYさんの長尺のシャウトがすごい。
ROY:他の楽曲の短いシャウトを、“こういうふうに聴かせたらおもしろいね”ってJIMが4つぐらい繋げてきたんですよ。で、“もしレコーディングするとしたら、このままできる?”って言うから、“たぶんできると思う”ってやったんです。だから、僕がアドリブでやったわけではなくて、JIMが考えたアイディアがおもしろかったからやってみたんです。
――因みに、さっき話題にあがった「T.Y.I.A.」は何かの頭文字ですよね?
ROY:“Thank you in advance”の頭文字で、ビジネスメールなんかで、“どうぞよろしくお願いします”っていう意味で最後に使うんですよ。意味合い的にはちょっと押しつけがましいと言うか、“よろしくってもう先に言っておきますね”っていう感じがTHE BAWDIESっぽい(笑)。この曲は何かを一緒に叫びたかったんです。言葉って言うよりは、それこそ頭文字をポンポンポンと言いたいなってところで、自分たちらしい言葉を選んだんです。そんなに意味がない言葉がよかったんですよ。意味を考えずに頭を空っぽにして、叫びましょうっていうのが根本にあって。MVも作ったんですけど、それも茶室が宇宙空間に行くっていう(笑)。それはアルバムタイトルの『BLAST OFF!』にもかかっているんですけど、細かく説明しないと何のことかわからない(笑)。
――そういうことだったんですね。
ROY:考えなくていいですよ。ロックンロールって本来、そういうもんでしょっていう。
――あのMV、笑いました。お茶の先生がエイリアンに変わった瞬間のROYさんのびっくりした顔、いい表情しているなって(笑)。
ROY:ありがとうございます(笑)。監督と曲についてディスカッションしたとき、“頭を無にして叫んで欲しいと思いながら作りました”と言ったら、監督が無から宇宙空間を連想して、“そう言えば、茶室って無の境地が宇宙空間に繋がってるって言われてるよね。宇宙空間と茶室を繋げたらどうだろう?”って。オリンピックの開会式の演出を担当する予定だった野村萬斎さんが、茶室を空に飛ばしたいと言ってたらしいです。監督はそのアイディアをすごくおもしろいと思ってたみたいで、“萬斎さん、降板しちゃって実現しなかったから、僕らでやっちゃいましょう”って、ああいうMVになりました。
――なるほど。ただ、おもしろいだけじゃなかったんですね。
ROY:そうなんです。ちゃんと意味があるんですよ(笑)。
――バラエティに富んだ全12曲にアイズレー・ブラザーズの「WHY WHEN LOVE IS GONE」のカバーが混じっていることにも意味があるのでしょうか?
ROY:カバーをオリジナルアルバムに入れるって、メジャデビューしてからは初めてなんですよ。インディーズの1stアルバム(『YESTERDAY AND TODAY』)以降やってないんです。カバーアルバム(『GOING BACK HOME』)はありましたけど。
――あ、確かに。
ROY:僕らってルーツを伝えるバンドでもあるし、そこは大事にしたいという思いがあるから入れたんですけど、今現在、新しいことも含め、いろいろなことをやりながら、THE BAWDIESのロックンロールって一つ形があると思うんですよ。でも、元々根本にあるものって、僕のどストライクはノーザンソウル。ほんとに踊れるノリのいいソウルなんですけど、シンガーに限って言えば、ノーザンソウルの滑らかに歌うシンガーよりも、サザンソウルとか、ディープソウルとかの、ゴスペルの影響も入ったシャウト系が好きなんです。ノーザンソウルにもたまにそういう曲があるんですよ。そういうノーザンソウルの曲調に激しい歌い方をするシンガーが歌を乗せるっていう、ちょっとトゥーマッチな曲が僕は好きで、それをバンドでやるっていうのが僕らの大本なんですけど。アイズレー・ブラザーズのカバーはただそれをやってみたんです。今回、何も考えないってルールがあったから、この曲をTHE BAWDIES風にアレンジしようじゃなくて、ただ、大好きな曲を何も考えずに“せーの!”でやったらこうなりますっていうのを、ただ見せたかったんです。それがアルバムに入っていても違和感はないと思うし、ちゃんと他の曲と繋がっているし。その上で、THE BAWDIESって、ここに原点があるんですよっていうことを今だからこそ見せたいと思ったんです。
元々、曲を作るのは好きで、歌うのも好きなんですけど、自分が作った曲をROYに歌ってもらうのが一番好きなんです。
――好きな曲はきっといっぱいあると思うのですが、1曲だけ選ぶのは大変ではなかったですか?
ROY:この曲をやりたかったんです。スタッフの中には、今さらカバーをアルバムに入れる必要があるのか? せっかくカバーをやるんだったら、この曲をTHE BAWDIESがやるの!?ってみんながびっくりするような曲をやらないと意味がないという意見もあって、そんなに反応は良くなかったんですけど(苦笑)。
TAXMAN:そうだったね。
ROY:でも、僕は今こそ、THE BAWDIESのスタンダードを見せるにはすごくいい曲だと思ったんです。僕が歌うスタイルにもすごく合っていると思ったし、ソウルなんだけど、バンドが演奏するロックな音楽としても伝わると思ったし、これがいいと言い張ってと言うか、ほとんど駄々をこねてやらせてもらったんです。
TAXMAN:ハハハハ。
ROY:レコーディングのスケジュールから、この曲だけカットされてたんですよ(笑)。最後に録ったのが「END OF THE SUMMER」だったんですけど、その日はその1曲しか予定に入れられてなくて、カバーが録れないじゃんって駄々こねて、“朝早く集まって、この曲だけばっと録って、その後、ちゃんと「END OF THE SUMMER」を録るから録らせてくれ”って言って、ほんと2、3テイクしかやってないよね? カバーは。
TAXMAN:そうだったね。
ROY:アレンジもほとんど変えてないしね。
TAXMAN:ちょっとコード進行を変えて、もうちょっとビートバンドっぽくしようっていうところはあったんですけど、カバーの良さってそれぞれに考え方があると思うんですよ。僕らは本来持っている曲の良さを、そのままやるのが好きなんです。昔のバンドって大体そうじゃないですか。誰のバージョンを聴いても大体同じみたいな。だから、この曲をカバーしようとなったら、もう、それなんですよ。コード進行も1コードバージョンと、ちょっと展開を加えるバージョンがあって、どちらも試したんですけど、展開があったほうがTHE BAWDIESっぽいかなってくらいでしたね、変えたのは。だから、時間はかからないですよ。あっという間に録れたね。
ROY:歌も、好きな曲だから前からずっと歌ってたのでさくっとね。
――「WHY WHEN LOVE IS GONE」と同じ日に録った「END OF THE SUMMER」は、みんなと一緒に歌いたい曲を作りたかったとTAXMANさんがおっしゃっていたとおりの曲になりましたね。
TAXMAN:ROYと一緒に作りながら、最初、僕はゴスペルっぽい感じで歌えたらかっこいいなって言ってたんですよ。そしたらROYが“サッカーのスタジアムのチャントみたいな感じがいい”と言い出して、“そんなの無理じゃね?”って話になったんです(笑)。スタジアムって1万人ぐらいが歌うじゃないですか。それをやりたいって言うから、それは無理だぞって話をしてたんですけど、なんかいい感じになりましたね(笑)。
ROY:ハハハハ。
TAXMAN:ゴスペルって本気の人たちがやってこそ成立するみたいなところがあるじゃないですか。そうなると、みんなで歌いにくいんじゃないかっていうのがあって。激ウマの人たちがみんなで歌って、“うわっ”てなるのがかっこいいと思うんですけど、それをやっちゃうとライブだと違うのかな。だったら、下手くそでも何でも、スタジアムでみんなが歌えるほうが確かにいいなと思いました。
――9月11日と22日に日比谷野外大音楽堂と大阪城野外音楽堂でライブをやるじゃないですか。まだ声は出せないから無理だとは思うのですが、そこで「END OF THE SUMMER」をみんなで歌えたら最高でしたね。
ROY:ちょうど夏の終わりですしね。それはちょっと思いました。THE BAWDIESの曲で、季節感を歌うものってほとんどないんですよ。なんとなく夏っぽいっていうのはあるかもしれないけど、この時期の、この感じをっていうのはクリスマスソング以外なかったと思うから、新しい試みと言えば、新しい試みかもしれないです。
――今回もTAXMANさんが作詞・作曲・リードボーカルを務める「LOOKER SUGAR」が収録されていますが、恒例なんだから必ず1曲、作ってねということになっているんですか?
ROY:はい、1曲空けているんです。僕はなくてもいいんですけど(笑)。
TAXMAN:俺もぶっちゃけなくてもいいんです(笑)。
ROY:今年の4月、メジャー1stアルバム『THIS IS MY STORY』とメジャー2ndアルバム『THERE’S NO TURNING BACK』限定で、お客さんにどの曲が聴きたいか投票してもらってライブをやったんですけど、ギリギリまでTAXMANの「B.P.B」が1位だったんですよね。あの時は、バンドをやめようかなって初めて思いました(笑)。
TAXMAN:ハハハハ。
ROY:そんなことがあっちゃいけないんですよ。
TAXMAN:でも、たまに歌う人のほうがちょいおいしい、みたいなところがあるじゃないですか。曲の別メロだけギターが歌うみたいな。で、そこをカラオケでみんなが歌いたがるみたいな。
ROY:僕はわからないですけど(笑)。
TAXMAN:そういうのがあるんだよ。
ROY:でも、そうやって求めてる人もいるわけだし、バンドとしても、もう1人歌えるっていうのは武器だとも思うので、TAXMANのコーナーはインディーズの頃からずっとありますね。
――今回の「LOOKER SUGAR」は、何曲か作った中から選んだのですか?
TAXMAN:今回、めちゃくちゃ作って、みんなに聴かせてない曲も含めたら30曲ぐらい作った中からの1曲なんです。ほんとに厳選された1曲なんですよ。元々、曲を作るのは好きで、歌うのも好きなんですけど、自分が作った曲をROYに歌ってもらうのが一番好きなんです。自分の想像を超えてくる感じがあると言うか、それで毎回、“こういう曲を作っただけど、どうかな?”って投げて、“いいじゃん”ってなったら一緒に作っていって。メロディをつけたりってこともあるんですけど、今回、ROYっぽくないなっていう曲を5曲ぐらいに絞って、その中から1曲歌おうかなと思って、みんなに聴かせたんですよ。“この5曲の中だったら、どれがいいかな?”って。そしたら、MARCYが“この曲、すごくいいね”って食い気味で返事をくれて。ふだんあんまりメールの返事してこないのに珍しくそんなに言ってくれるなら、これにしようって、「LOOKER SUGAR」にしました。
――TAXMANさんらしいポップセンスが光る曲だと思いました。
TAXMAN:ありがとうございます。
――「I DON’T WANNA」のツインリードギターも新鮮でした。
TAXMAN:あぁ、間奏のソロはハモっているんですけど、今回、ライブのことを考えずにバンバン、アレンジしちゃってるので、そこは正確に言うと、ギター3本鳴っているんですよ。僕がソロを弾いて、ハモリも入れちゃったんですけど、音が薄くなっちゃうからってバッキングのギターも加えたので、ライブでどうやって弾こうか、これから考えなきゃいけないんですよ(笑)。
ROY:今までだったらツアーをやりながら並行して、曲を作っていたので、ライブのことを常に意識してたんですよ。だから、ライブでどうしたらいいんだろう?ってことはできるだけないようにしていたんですけど、今回、ライブがない状態だったから、制作するだけの脳みそになってたんです。ライブのことはとりあえず考えずに、とにかくおもしろいもの、自分たちがやりたいことをやろうっていうのも今までと違いましたね。
――ライブの話が出ましたが、10月2日から『BLAST OFF! TOUR 2021-2022』と題したツアーが始まります。その意気込みも聞かせてください。
ROY:前回のツアーは完走できなかったので、今回は完走したいですね。そして、しっかり溜め込んだものを解き放ちたい。みんなもずっと我慢してたわけじゃないですか。もちろん、世の中的には、まだ完全に光は見えていないと思うんですけど、しっかりと希望はそこにあるんだと思えるような光を、多くの人に感じてもらえるライブにしたいです。
――解き放ちたいとおっしゃいましたが、アルバムタイトルの『BLAST OFF!』には、やはりそういう意味が込められているんですか?
ROY:そうです。アルバムタイトルはアルバムの曲が出揃ってから決めたんですけど、この1年半、ずっと溜め込んできたものを解き放つという思いを込めました。アルバムの中で最初にできた曲が、さっきも言った「YA! YA!」なんですけど、冒頭に入っているロケットが発射される時のカウントダウンは、タイトルを決めてから加えたんじゃなくて、「YA! YA!」ができたタイミングですでにあったんですよ。だから、ほんとにそこから始まっているんですけど、その時、感じていた何かを解き放ちたいって気持ちがいまだにずっと続いていて、その中でできたアルバムだからってことで、その「YA! YA!」を1曲目に持ってきて、『BLAST OFF!』をタイトルにしました。
――タイトルを決めてからカウントダウンを付け加えたんだとばかり思っていました。
ROY:ですよね。でも、そうじゃないんですよ。
――バラエティに富んだ全12曲には一貫した思いが貫かれているわけですね。最後に、開催に対して賛否の意見があった『FUJI ROCK FESTIVAL '21』に出演を決めた理由と、実際に出演して、今現在、どう感じているかを聞かせてもらえないでしょうか?
ROY:THE BAWDIESを組む前から、僕らはフジロックに遊びに行っていたから、思い入れがあるんです。僕ら以外にも、フジロックに行ってバンドを始めたとか、本物の音楽に触れたとか、音楽を好きになったとか、そういう人がたくさんいると思うんですよ。特に海外のアーティストに触れることができるという意味では、日本にとって宝のような場所だと思うんです。だからこそ、愛している人も多いし、みんながあそこにたくさんのものを求めている。僕らももちろんそうで。そんなフジロックが日本のアーティストだけで開催するってなって、僕らに声をかけてくれたわけですから、音楽ファンとしてはもちろん、バンドとしてもお世話になっている場所を潰したくなかったし、繋げていきたかったんです。止めないように。オリンピックも開催することには賛否ありましたけど、選手たちってそこに呼ばれることが光栄だし、そこで一生懸命何かするってことでしか、何も表現できないと思うんですよ。だから呼ばれれば一生懸命やるわけじゃないですか。僕らもそれと同じで、開催することが決まって、呼んでもらったら、そこで自分たちにできることをしっかりやる。それだけなんです。お客さんもいろいろな思いで来ていたと思うんですけど、ただストレスを発散するためだけに来ていたわけではないんじゃないかな。みんなもやっぱりフジロックを守りたかったと思うし、守るためには深く愛しながら、しっかりルールを守らないと意味がないと思うんですけど、それを出演者はもちろん、お客さんみんながしっかりやっていたと思いました。マスク越しにみんなが笑顔になっているのもすごく感じて、やっぱりそこに光があったと思うんですよ。そういう光を届けることができたと自分たちは感じていて、それがしっかりと次に繋がっていくと思っています。それは違うと言う人もいると思います。でも、何が正解かはわからない。ただ、自分たちは信じているところで、自分たちにできることを精一杯やりました。お客さんの中には救われたと思った人もいたと思います。何よりも僕らがそうだったんです。あの光景に救われた部分がたくさんありましたね。
TAXMAN:いろいろな意見の人がいて、賛成派、反対派、どれも間違いじゃないと思うんですよ。だから難しいところはあるんですけど。ただ、やっぱり僕らにできることは立ち止まることじゃなくて、音楽を鳴らして、転がり続けることなので、音を鳴らして、みんなに届けたいと思いました。ただ、単純に“フジロック、イエー!”じゃなくて、参加したアーティストがみんな、MCで呼びかけてましたけど、そういうこっちからの言葉ってちゃんと響くと思うんですよね。そういう意味でも、自分たちの信念みたいなものも届けることができて、それが来てくれたお客さんにも届いていると思えたので、それはいい方向に転がっていくんじゃないかな。YouTubeの生配信を僕らもやらせてもらったんですけど、自分の誕生日の時よりも友達から“楽しかったよ”“見たよ”ってメールが来て、みんな、音楽を待ってたんだなって。そういう意味でもやってよかったと思うし、これからもやり続けなければいけないという気持ちがさらに強くなりましたね。
取材・文=山口智男 撮影=森好弘