伊藤蘭、キャンディーズ解散発表をした伝説の日比谷野音で44年ぶりにコンサート開催「ただいま、野音!」
夏の暑さから一気に涼しい秋の空気へと変わった、東京、日比谷公園。緑の木々に囲まれた公園内にある日比谷野外音楽堂で、9月26日、「伊藤 蘭コンサート・ツアー2021 特別追加公演~Beside you & fun fun ♡ Candies!野音SPECIAL!~」が開催された。
2019年6月にソロ・デビュー・アルバム「My Bouquet」をリリースし、キャンディーズ解散以来41年ぶりに待望の音楽活動を再開した伊藤蘭。今回は9月1日にリリースされた2ndアルバム「Beside you」を引っ提げてのコンサート・ツアーだが、すでに9月20日(月・祝)の大阪フェスティバルホール公演を大盛況のうちに終え、今回は野音ならではの特別プログラムで挑むコンサートだ。何しろ彼女が野音のステージに立つのは44年ぶり。その44年前、キャンディーズはここ野音のステージで衝撃の解散宣言をした。ファンにとっても鮮烈な記憶を残した野音のステージに伊藤蘭が再び帰ってくる。そんな期待と興奮が入り混じったざわめきの中、コンサートはスタートした。
午後5時を少し回ったあたりで、まずはバンドのメンバーが入場。冒頭、キャンディーズ応援ナンバーとして知られるインスト曲「SUPER CANDIES!」が演奏されると、観客は早速、手拍子でこの日の主役を呼び出す。すると、ステージ奥の中央から真赤なワンピースに身を包んだ伊藤蘭が登場! それとともに「春一番」のイントロが流れ出す。これは意外なオープニングだった。
何しろ「春一番」はキャンディーズ時代、コンサート終盤の盛り上げ曲として定番化していた。それがまさかの1曲目! あっという間に会場は熱気と興奮に包まれる。観客はマスク着用、声援が送れないもどかしさはあるものの、大きな拍手と手拍子で、44年ぶりのランちゃんの野音帰還を迎え入れた。
「みなさん、こんにちは! 伊藤蘭です。そして、ただいま、野音!」
最初の挨拶に続いては「Beside you」からエッジの効いたロック・テイストの「ICE ON FIRE」をスタンド・マイクを使った振り付けで披露、そしてエキゾチックな「ひきしお」へと続く。
「shalala ♪ Happy Birthday」「愛して恋してManhattan」とポップでハートウォーミングなナンバーは、コーラスとともにユニークな振り付けで。途中で花柄の鮮やかなワンピースに衣装替えし、トータス松本によるキュートなナンバー「あなたのみかた」に。キメのセリフも可愛らしく、年齢を感じさせないコケティッシュなランちゃんの魅力が炸裂!
「歌を再スタートしたことで、自分自身の新たな気づきがあって、音楽が身近にある日々がとっても新鮮です」
ファースト・ソロ・アルバム「My Bouquet」の収録曲から「Wink Wink」「ああ私ったら!」「女なら」の3曲をメドレーで披露する頃には、会場もすっかり暗くなってきた。そのままバンドリーダーの佐藤準をはじめとするメンバー紹介へ。ギター是永巧一、ドラムそうる透、ベース美久月千晴、サックス竹野昌邦ら、ミュージシャンもレジェンド揃いだ。しゃれたボサノバ・タッチの「ヴィブラシオン」をしっとりと歌い上げ、前半戦が終了。
「この曲をいただいた時は、心臓を撃ち抜かれました」というMCに続いてスタートしたのは、「恋するリボルバー」。前回のコンサート・ツアーでも歌われ、大盛況となった1曲だ。新たなステージの定番曲に育つ予感を胸に、続く「You do you」を歌い終えたあと、伊藤蘭は一旦、ステージ袖に去っていく。そして、キャンディーズ時代のアルバム「夏が来た!」に収録されているインスト・ナンバー「HELLO!CANDIES」がバンド演奏されると、ラメの入ったタイトな黒の衣装で登場し、ライブを盛り上げる定番曲「危い土曜日」で後半戦がスタートした。
ここからはお待ちかね、怒涛のキャンディーズ・コーナー。「その気にさせないで」「ハートのエースが出てこない」を往時と同じ振り付けで歌い踊る伊藤蘭に、観客も大歓喜だ。「キャンディーズ・ゾーンに突入いたしました! 振り返れば、長い人生の中の、ほんの4年半の活動でしたが、素晴らしい歌ばかりでした」「ハート泥棒」「夏が来た!」とアップテンポの軽快なナンバーが続き、一転、柔らかな照明に包まれて、しっとりとした名曲「アン・ドゥ・トロワ」を披露し、観客も感慨深く聞き入っていた。
「懐かしいですね…1つひとつの曲に向き合ってみると、当時の空気が匂い立つように浮かんできます」という言葉に続いて始まったのは「哀愁のシンフォニー」。かつては野音や蔵前国技館、後楽園球場など、数々のステージを紙テープまみれにした、ファンとキャンディーズが一体となれるナンバーだ。紙テープが舞ったサビの歌い出しでは、会場が一気にペンライトを振って応援を送り、間奏では熱い拍手が起こる。さらにアルバム「年下の男の子」に収録の人気ナンバー「悲しきためいき」、華麗なスタンドマイクさばきの「やさしい悪魔」と続き、ご存じ「年下の男の子」では、観客もペンライトを使って振りを再現する。そして「暑中お見舞い申し上げます」とこれ以上ない大ヒット作が連打、往年の振り付けも完璧に再現され、会場は歓喜と興奮に包まれた。
「5曲続けてお届けしました。5連キャン!(笑)でも、皆さんの心の声援もちゃんと届いてますよ。ありがとうございます」
温かいMCに続いて、キャンディーズ・ゾーンの最後を飾るのは、やはりこの曲しかない「微笑がえし」だ。また逢える日までしばしのお別れ。ポップで温かくて、ちょっとだけ切ないこの名曲が会場に響き渡り、本編は幕を閉じた。
アンコールでは、黒ベースのツアー・Tシャツにピンクのトレンチコートをまとって華やかに登場。1曲目はキャンディーズ時代、必ず本編ラストで大いに盛り上げた「Dancing Jumping Love」で、バンド・メンバーやコーラスたちとの熱いコール&レスポンスを繰り広げ、会場からも「心の大歓声」が熱気となってステージに届けられる。さらにアンコールでの定番曲だった「さよならのないカーニバル」が歌われると、各所でどよめきが起こった。なぜならこの曲は、77年の野音公演の最後に歌われる予定であったが、キャンディーズが突然の解散宣言をしたため、唯一歌われなかったナンバーなのである。
「皆さん、楽しい時間を一緒に過ごしていただいて、ありがとうございました。あの日、歌えなかった歌なので、なんとなく欠けていたピースが埋められたと思います」
また逢える日を約束して、ラストは「Beside you」から、布袋寅泰と森雪之丞コンビによるアットホームな「家路」で幕を閉じた。野音の夜空を鮮やかに彩るライティングとともに、ファンは伊藤蘭からのメッセージと、感動を胸に家路に着いていった。
「伊藤 蘭コンサート・ツアー2021 ~Beside you & fun fun ♡Candies!~」は、この後10月28日、29日の2日間、東京・中野サンプラザホール公演まで続く。野音とはまた違ったセットリストでお送りするステージを、ぜひ再びこの目に焼き付けて欲しい。
(文・馬飼野元宏)