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人間椅子、全国ツアーファイナルのライブレポート到着「2年ぶりでみなさんの前で生音を聴かせることができて、本当に嬉しいです」

アーティスト

カメラマン:ほりたよしか

人間椅子が、最新アルバム「苦楽」を引っ提げた国内ツアーを敢行し、各地での熱いライヴを経て、最終日となる東京・Zepp DiverCity公演が行われた。もちろん、チケットは完売。結成から32年という長いキャリアを持つが、まさに今こそが全盛期と断言したくなるパフォーマンスが繰り広げられた。

暗転した場内に「此岸御詠歌」(2013年発表の「萬燈籠」収録)が流れる中、盛大な拍手の中で和嶋慎治(vo&g)、ナカジマノブ(vo&ds)、鈴木研一(vo&b)がステージに迎え入れられた。そこで定位置についた3人が奏で始めたのは何と「夜明け前」。新作を総括する意味合いもあるエンディング・トラックをまさかの1曲目に据えるという、いきなりのハイライトとも言える演目に驚かされる。トリオ編成ならではのアンサンブルから生まれる、ヘヴィで骨太なバンド・サウンド。その人間椅子固有のスタイルに体を委ねた観客は、メッセージ性も内包した歌詞のストーリーにも鼓舞され、力強く拳を掲げて反応する。そのまま間髪入れずに「神々の行進」へ。“エイエイオー”と鬨を上げながら一体感を高めていくバンドとオーディエンス。BLACK SABBATH直系のドゥーミーさを湛えつつ、日本という出自も強烈に感じさせる。

鈴木は「2年ぶりでみなさんの前で生音を聴かせることができて、本当に嬉しいです」と、コロナ禍にもかかわらずこの場に集ったファンに感謝の意を伝えながら、率直な気持ちを吐露する。和嶋も同時配信されていることに触れ、「世界中の方々の声が(心の中で)我々に聞こえております」と話す。そして「心の叫びってありますよね」と彼ら独特の“文芸シリーズ”最新巻である、芥川龍之介の同名小説にちなんだ「杜子春」をコール。イントロでは音源同様にノブがコンガをプレイする。「苦楽」のリード・トラックとしてミュージック・ビデオも制作された7分超の楽曲だ。“お父さん”“お母さん”という特徴的なフレーズの存在感も強い(和嶋はかつて「お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました」を歌っていた遠藤ミチロウの名を挙げて敬意を表していた点も付記しておきたい)。新たな代表曲として長く親しまれていくことになるだろう。

和嶋がアナログ・ディレイを手動で操作し、テルミンでメロディを奏でるという技で“宇宙感”を演出する「宇宙海賊」で気分を昂揚させた後は、TVアニメの主題歌として書き下ろしながら、約1年間演奏する機会を得られなかった「無限の住人 武闘編」を満を持して披露。その後は「洗礼」と「恐怖の大王」という、それぞれ「三悪道中膝栗毛」(2004年)と「怪談 そして死とエロス」(2016年)からのマテリアルを並べたが、フロアからのリアクションを眺める限り、8月にリリースされたばかりの「苦楽」の楽曲群が、早くも十分に浸透しているのかが逆説的に伝わってくることにもなった。

だからこそ、ここからの「人間ロボット」「恍惚の蟷螂」「疾れGT」でも熱狂的な空間が広がっていったのは当然だろう。それぞれ歌詞は未来的、普遍的、現代的な内容であり、加えてメンバー個々のパーソナリティも着眼点の面白さに見えてくる。また、正統に受け継ぐオーセンティックなロックの醍醐味を音源以上に見せながら魅了していくのも、やはりライヴという場でしか生まれない一回性の芸術であることを再認識させられた。次に演奏された「暁の断頭台」(1999年発表の「二十世紀葬送曲」収録)に組み込まれるリフ・プレイもその一例だ。

ここで初めてノブがMCを執る。「心の声と大きな拍手で、俺のことを“アニキ”と呼んでくれ!」「心の声で“Yeah!”と叫んでくれ!」と今回のツアーらしい煽りをして、曲は彼がメイン・ヴォーカルを担当する「至上の唇」へ。新作を彩るアップ・テンポの楽曲で、実演を通せばなおさら勢いも増幅する。マイクから解き放たれた鈴木と和嶋のステージングもよりアクティヴになった。曲を締め括るドラム・ソロもいいアクセントだ。その疾走感は「超自然現象」(2017年発表の「異次元からの咆哮」収録)で切迫するほどの鋭さで高められ、本編は予想だにしていなかった「ダイナマイト」(1995年発表の「踊る一寸法師」収録)で圧倒的な激しさを伴って駆け抜けていった。

ほどなくして行われたアンコールでは、鈴木は「今年も去年もねぷた祭が中止になってしまいましたよ」と故郷の青森県弘前市の話題から、まず「ねぷたのもんどりこ」(2013年発表の「萬燈籠」収録)をセレクト。人間椅子が催す千秋楽の祭をより享楽的、狂気的なものに変容させる。そして最後に演奏されたのは「無情のスキャット」(2019年発表の「新青年」収録)だ。彼ら初のヨーロッパツアーでシンガロングが広がった“シャバダバディア”というフレーズも話題になったが、YouTubeで公開されているミュージックビデオも約1000万回再生されるなど、現在の人間椅子を象徴する世界的アイコンたる楽曲である。8分半という長尺であり、曲そのもののキャッチーさは決して強くない。しかし、だからこそ彼らの個性が特に詰め込まれたマテリアルとも言える。先行きが見通せない昨今ゆえに、この3人から生まれる音塊の説得力に改めて頷かされる瞬間の連続でもあった。

いろいろな制限が課される中でのライヴではあったが、終始、存分に堪能できたのは、何よりも彼らが普段と変わらぬモチヴェーションでパフォーマンスに心血を注いでいたからだろう。とはいえ、本当の歓声が自由奔放に飛び交う環境下での実演こそが、「苦楽」の本来的な完成形になるはずである。その日が訪れることを楽しみに待ちつつ、このツアーを終えた人間椅子が歩む新たな道にも注目しておきたいところだ。

セットリスト

1. 夜明け前
2. 神々の行進
3. 杜子春
4. 宇宙海賊
5. 無限の住人 武闘編
6. 洗礼
7. 恐怖の大王
8. 人間ロボット
9. 恍惚の蟷螂
10. 疾れGT
11. 暁の断頭台
12. 至上の唇
13. 超自然現象
14. ダイナマイト
EN1.ねぷたのもんどりこ
EN2.無情のスキャット

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