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チェリスト新倉瞳インタビュー デビュー15周年記念コンサートは「視覚的にも華やかに、お祭りのように」

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新倉瞳

新倉瞳  (C)Yoshinobu Fukaya / アールアンフィニ・レーベル

コロナ禍にもかかわらず、チェリストの新倉瞳が充実した演奏活動を行っている。2021年1月には4人の作曲家に委嘱した新作の世界初演だけでリサイタルをひらき、3月には齋藤秀雄メモリアル基金賞を受賞した。そんな彼女が11月8日(月)に紀尾井ホールデビュー15周年記念リサイタルをひらく。数多くのゲストを招き、華やかな舞台となりそうである。

――『デビュー15周年記念チェロ・リサイタル』はどのような内容になりますか?

10周年のときに、お世話になった方々とお祭りっぽいコンサートをしましたので、15周年では、この5年間で特に影響を受け、支えていただいたみなさんをゲストにお招きして、バロック音楽からクレズマー音楽まで幅の広い音楽を取り上げます。

私がこの5年間で特に大きな影響を受けたのは、クレズマー音楽(注:東欧系ユダヤ人の楽師たちが奏でる音楽)です。クレズマーとの出会いは2013年、2014年頃でしょうか。2、3年前にドイツのワイマールでのクレズマーの大きなフェスティバルにゲストに呼んでいただいたことがありました。その音楽祭で、クレズマーの要素が取り入れられているクラシック音楽を演奏し、ダンスのワークショップなどいろいろ学び、クレズマーの世界に受け入れられたような気がしました。それと同時に、クレズマーが自分の音楽の軸に入っていることも再確認できました。

また、その日本では稀有なクレズマーの祭典にて、アコーディオンの佐藤芳明さんと出会ったことも大きかったですね。フリー・ジャズをはじめポップスでもあらゆる場面で引っ張りだこ。​それでいて、クラシックへのリスペクトが大きく、バロックにも興味を持っておられます。3年前からデュオをしっかりと取り組んでおり、私が知らなかった世界を魅せて頂いています。彼との演奏ではインプロヴィゼーション(即興)も多く、お客様との空気感をとても大事にしています。それで、クラシックの演奏会でもその時々の空気感を大事にするようになりました。フリーに演奏するには自分の基礎がしっかりしていないといけません。佐藤さんと出会って、私自身の視野が広くなりましたね。

――今回の演奏会には、その佐藤さんがゲストにいらして、クレズマー音楽を聴けるのですね。

今回のクレズマーでは、クラリネットのコハーン・イシュトヴァーン​さんにも来ていただきます。ここ1年で彼とデュオを演奏する機会が増えました。彼はクラシック的なアプローチが基本となる方ですが、クレズマーももちろんお父様の世代から取り組まれていらっしゃり、今回のコンサートの中でクレズマー音楽を演奏するならぜひ彼と弾きたいと思いました。

コハーンさんは写真が上手で、1月のリサイタルのチラシの写真も彼が撮ってくれました。クレズマーについては、コハーンさんと佐藤芳明さんとご一緒していただいて、最後は、出演者全員で盛り上がれたらいいかなと思っています。クレズマーの曲についてはまだ考え中ですが、「ニーグン」(伝承曲)は演奏したいと思っています。どこにいてもつながれるよ、という曲です。

――そのほか、ゲストに高橋多佳子さん(ピアノ)、佐藤卓史さん(ピアノ)、礒絵里子さん(ヴァイオリン)、原田陽さん(ヴァイオリン)がいらっしゃいます。

この5、6年、ヴァイオリンの原田陽さんと、サントリーホールのチェンバーミュージック・ガーデンで毎年のように共演する機会があり、ガット弦(注:羊の腸で作った弦。バロック・チェロなどで使用)で弾くことが増えました。私自身、スイスで、ガット弦でバロック音楽を弾くプロジェクトにも参加していましたが、原田さんと演奏することで、バッハの弾き方や自分のスタイルが明確になりつつあります。シンプルで難しいというイメージだったバッハ以前の音楽が腑に落ちてきたというか、楽しくなってきました。今後も、もっとバロック音楽を勉強したいと思っています。

15周年の演奏会では、チェロにガット弦を張って、バッハの「ゴルトベルク変奏曲」(注:オリジナルはチェンバロのための作品)の抜粋を、原田さんと佐藤芳明​さんとのトリオで演奏します。「ゴルトベルク変奏曲」は、原田さんが弦楽四重奏用に編曲したものを、トリオで弾けるように三人で考えました。アコーディオンが第2ヴァイオリンとヴィオラのパートを弾くみたいになりました(笑)。お2人とはここ2年ほど『ゆがんだ真珠の音楽会』(注:「ゆがんだ真珠」とは「バロック」を意味する)をひらいておりまして、今年5月には「ゴルトベルク変奏曲」全曲を演奏しました。

ピアノの佐藤卓史さんとは、所属事務所が同じということもあり、この5年くらい、いろいろなレパートリーをご一緒して、とても信頼感が深まりました。器の大きなピアニストです。彼とは、ベートーヴェンの「チェロ・ソナタ第2番」を演奏します。エモーショナル過ぎるベートーヴェン演奏は苦手でしたが、フォルテピアノとガット弦を張ったチェロの演奏で聴いて、初めてベートーヴェンのソナタが良いなと思いました(笑)。今回、ベートーヴェンはモダン楽器(注:通常、金属弦)で弾きますが、モダン楽器でガット弦テイストの演奏ができればと思っています。

ピアノの高橋多佳子さん、ヴァイオリンの礒絵理子さんとは10年以上活動していて、椿三重奏団として、2年前に初めてのCDを作りました。とても繊細で誠実なお人柄で、しかしそれを押し付けない明るくハッピーに音楽を楽しまれる人生の道しるべになってくださるお2人と、濃い時間を過ごすことができました。レコーディングもしたメンデルスゾーンの「ピアノ三重奏曲第1番」は思い入れのたくさんある曲。節目節目で演奏してきた大事な曲で、違うトリオとのみなさんとも、また、スイスでもたくさん演奏しました。今回、時間の関係で第1楽章を弾きます。

――バラエティにとんだコンサートになりそうですね。

どうなることやら(笑)。お客様に、来てよかったなと思っていただけるコンサートにしたいです。自分の信念をもってやっていればハッピーになれるよということが伝わればいいかなと思っています。15年間小さく積み上げてきたものが良い形で出せたらいいな。私は、ドレスのプロデュースもしているので、視覚的にも華やかで、お祭り感もあったらいいかなと思います。

新倉瞳  (C)Yoshinobu Fukaya / アールアンフィニ・レーベル

新倉瞳  (C)Yoshinobu Fukaya / アールアンフィニ・レーベル

――10月20日には、デビュー15周年記念アルバムとして『11月の夜想曲』がリリースされますね。これは、新倉さんが、ファジル・サイさん、藤倉大さん、挟間美帆さん、佐藤芳明さん、和田薫さんの5人に新作を委嘱されて、世界初演をされたときの録音をCDに収めたものですね。

この5年間で新曲委嘱も実現しました。私がいたバーゼル音楽院では、バロックから現代音楽まで学び、コンテンポラリー・ミュージックにも自然に接していました。でも、新作を依頼したいと漠然と思っていても、​最初は、どなたにお願いすればよいのかわかりませんでした。でもこの5年間で、自然にお願いしたい方が現れてきました。好きなことが見えるようになり、好きな方、尊敬する方に、お願いすることができました。

今回委嘱させて頂いた5名の方々は皆さまは、それぞれの世界で大活躍されていらっしゃいますが、著名でいらっしゃるからではなく、ご縁があったことをきっかけに、敬愛する気持ちから頼ませていただきました。

――ファジル・サイさんの「11月の夜想曲 ~チェロと管弦楽のための」は、コロナ禍が始まった昨年3月に飯森範親指揮東京交響楽団と世界初演されたものですね。

サイさんのトルコの民族的なイメージのつまっている曲です。私のエモーショナルな部分も汲み取って書いてくださいました。コロナ禍でのいろいろな気持ちが入り混じった世界初演でした(注:本来は、日本センチュリー交響楽団と世界初演する予定であったが、大阪でのその演奏会が感染拡大で中止となり、その直後の東京での東響との共演が世界初演となった)。サイさんは「コロナを意識して書いたわけではないけど、そのタイミングで演奏されたなら、その曲がそういう意味を持つんじゃないか」とおっしゃっていました。

――10月21日に、昨年できなかった「11月の夜想曲」の大阪での初演をされますね。

ようやく日本センチュリー響さんとこの曲が演奏できるのがとてもうれしいです。

――藤倉大さんの「スパークラー ~チェロのための」、挟間美帆さんの組曲「イントゥー・ジ・アイズ」、佐藤芳明さんの「2つの楽器のための2つのカノン」、和田薫さんの「巫 ~チェロと和太鼓のための」は、今年1月にHakuju Hallのリサイタルで世界初演されました。CDに収められたものを聴いていかがですか?

挟間さんと佐藤さんと和田さんの作品は他の楽器とのデュオです。私のアルバムという軸がありつつ、各楽器とのアンサンブルがあり、チェロが立ち過ぎていません。エンジニアさんは苦労されたと思います。

――ちなみに、先ほどドレスのプロデュースのお話がありましたが、今回のアルバムとリサイタルにこのドレスを合わせた理由は?

今回、シンプルな白と黒のドレスを合わせています。イメージがつかないモノトーン。初演には色がつきすぎていないドレスがいいと思って選びました。お客さまご自身のパレットで聴いていただきたいという想いを込めています。

ドレスって、音楽の内容と合う、視覚的にもその音楽の世界に行くようなものにしたいと思っています。発表会の延長のような、ショスタコーヴィチなのにピンクみたいな、そういうことにはなってほしくないですね(笑)。

――次の5年はどのようになりますか?

もう少しバロック的なアプローチができるようになりたいし、委嘱ではなく「新倉に弾いてもらいたい」と曲を書いてもらえるようになればいいなと思っています。最近では、歌舞伎の方とコラボするようになりましたし、音楽劇のような舞台に出たり、もありました。そのときそのときの出会いが次につながっていくのかなと思っています。

椿三重奏団でアウトリーチもしているのですが、子供たちに向けて、子供目線になり過ぎず、音楽の深みを伝えるプロジェクトができたらなと思います。

取材・文=山田治生

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