あらき
ARAKI LIVE TOUR 2021 -HETERODOX-
2021.9.23 豊洲PIT
“異端”上等。孤高のロックシンガーとしての矜持がステージにあまりにも満ちていたからだろうか。思い浮かんだのは、ライブタイトルの意味が重なるそんな言葉だった。
『ARAKI LIVE TOUR 2021 -HETERODOX-』と題した全国ツアーを、9月23日の豊洲PIT公演からスタートさせたあらき。“矛盾”をテーマに、個性豊かなボカロPたちに加え自身も楽曲を書き下ろした、全曲オリジナルアルバム『UNKNOWN PARADOX』を軸にした構成はとんでもなく刺激的だし、枠や型にはめることのできないあらきという存在が、とてもとても痛快。ツアーは11月まで続くが、初日公演の模様をお伝えするこの記事はネタバレを含んだ内容となることをご了承いただきたい。
あらき
ライブでこの曲から始まったら鳥肌モノだなと期待していた「DOXA」から、ライブはスタート。『UNKNOWN PARADOX』の1曲目を飾る、ドラマティックなナンバーだ。バンドメンバーが生み出す骨太なインストゥルメンタルにあらきの歌声が重なり、ライブタイトルが大きく映し出された紗幕の向こうにその姿を確認した瞬間、会場の熱も一気に上がる。長引くコロナ禍にあって、まだ“ののめけ(声高に叫べ、という意味の古語)”というフレーズに大声で応えられないオーディエンスだが、あらきのイメージカラーである赤色が光るペンライトを振ったり、身体を揺らしたり。気持ちはひとつだ。
続く「夢現境界層」は、“夢”か“現”か、不可思議な世界観をたたえたナンバー。突き抜けるようなサビにあらきのハイトーン、ファルセットもよく映えて、紗幕いっぱいに広がる映像や退廃的な歌詞も鮮烈。<「何かが変われば」>というフレーズのあとに、紗幕が振り落とされるというタイミングも完璧すぎる。
あらき
ハンドマイクに持ち替え、「さあ、始めからぶっ飛ばしていきましょう、東京!」とフロアに向かって呼びかけ、『UNKNOWN PARADOX』のリードトラックである「UNKNOWN PARADOX」へ。ロックを体現するあらきの歌声がパワフルに貫いて、そんな彼をがっちり支えるバンドメンバーのコーラスもエモーショナル。反骨精神に満ちた突破力を全身で浴びれば、なかなか先の見通せない日々で抱く閉塞感や不安感が吹き飛んでいくようだ。
「Until the END」は、鳴風(Gt)と共に作曲し、作詞はあらきが手がけ、8月に配信リリースされた新曲。ロゴ入りの赤いフラッグが取り付けられたスタンドを肩にかけ、ステージ中央から伸びる花道へと進みながらシャウトしたり、フロアをぐるりと見渡しながら歌ったり。『UNKNOWN PARADOX』の先で提示した新たなる入魂のロックナンバーは、今後のライブで頼もしい武器となっていくだろう。再びのスタンドマイクでタイトルコールしたのは、「拡声ノイジー」。歪ませボイスから、感情むき出しなサビ、転調、メンバーと重ねる歌声……高揚してしまう展開だ。
あらき
一転、繊細な歌い出しでハっとさせたのは、「Hollow」。「Hollow」と同じく自ら作詞・作曲を手がけた「Misery」にしても然り、愁い色をたたえた歌声はとても美しい。シンガーとしてもコンポーザーとしても、あらきの表現の幅はとても広いことを再認識する。
凝ったリズムと上下動の激しいメロディラインを、完全にものにしてしまっていた「烽火」。<他人に良く思われなくたって いいじゃんか>など、背中を押してくれるフレーズは心強い。
あらき
「みなさんが声を出せない中、こうしてライブをやらせてもらっているわけですけど……これができないあれができないじゃなくて、今なにができるかを考えたほうがいいじゃないですか。言葉は意思疎通ができる便利なもの。でも、アクションひとつで感情は伝えられると思います。たとえば、曲によっては手拍子したり、手や拳をあげたり、身体を揺らしたり、頭を振ったり、ペンライトを振ったり。それぞれの表し方で、みなさんの感情をもっと見せてください!」
そう言って、これまた自らが作詞・作曲した「Freefall」へ。渦巻く轟音、それでも埋もれない歌声。バンドメンバーと向き合ったり、アイコンタクトをとったり、お立ち台に立ったりするあらきにつれれて、オーディエンスも制限された中で最大限に自分を解き放っていく。
難しい起伏を見事に操り、万能感さえ漂わせた「闇は白く」。物憂げな雰囲気で“愛”を歌いつつ、かっこよすぎるマイクスタンドさばきでもドキドキさせた「ロストチャイルド」。花道でくるくると舞うように、艶っぽい歌声を響かせた「Midnight Effect」。もどかしい“恋”に惑わされる主人公になりきって歌う、エレクトロファンキーな「ナリキリ」。ノンストップで目まぐるしくたたみかけていくあらき、『UNKNOWN PARADOX』という作品で新たな表現の扉を開けた彼は無双状態だ。
あらき
さらに、あらきのジェスチャーにつられオーディエンスが大きくクラップしたのは、白熱する“討論”を歌で表現する「トーロン」。バッキバキなスラップベース、韻踏みや言葉遊びを自らギュウギュウ詰めにしたよどみない歌が際立つ「イスカノサイ」といい、その中毒性は極めて高い。
「今日は、本当にありがとうね」
会場にいるオーディエンス、生配信映像を観ている人たちに感謝して、「Ark -strings arrange ver.-」へ。<誰かじゃなくて あなたじゃなきゃいけない> <届くまで何度も抗おうか>……直接言葉を交わすことができなくても、離れていても、あらきは“あなた”=ファンを想いを歌い続ける。
「「Ark」という曲を僕はこれからもライブハウスで歌い続けていきたいと思います。次が、最後の曲です。こんな時代を想って、鳴風さんと作りました。地道でも泥臭くても、前に進むという意志があればいい。遠回りだったとしても構わないと思わせてくれる曲です。みなさんもいつだって今を生きてください」
あらき
力強くメッセージした上で届けた「Live this moment」は、ツアー開始前日に動画を公開したナンバー。突き動かされるまま、ただただ歌い、“走る”。それは、あらきの覚悟だ。<この手 届けよ今>と手を差し伸べるあらきに、精一杯手を伸ばしたオーディエンス。共に進むなら、怖いものはない。
そして。
「ライブは人と人とのつながりでできるものだし、人生を豊かにするもの。今は窮屈な世の中だけに、なにかを探して、求めて、あるいはなにかを忘れたくてここに来ててくれているんだろうけど、どういう理由やきっかけであれ、最後にはみんなに笑顔になっていてほしいと強く思います」
あらきが途中で口にした願いは、叶った。
限界知らずで駆け抜け、アンコールはなし、という潔さも実にいい。エンドSEは、『UNKNOWN PARADOX』の最後を飾る「Relight」のインストゥルメンタルバージョン。余韻に浸りながら、しかしなんとも素晴らしいスタートを切ったなとしみじみ思ったツアー初日である。
あらき
なお、10月23日の梅田TRAD公演、10月24日の名古屋ボトムライン公演、地元・青森にてファイナルを迎えることとなる11月7日の青森クォーター公演は、ツイキャスプレミア配信もされるとのこと。『UNKNOWN PARADOX』の収録曲はじめ、ライブを重ねるごとに楽曲がたくましく育っていくだろうと想像するだけで楽しいし、ライブにかける気迫と驚異の歌力が画面越しでもあふれ出てしまうのがあらきである。彼の生き様さえにじむ『ARAKI LIVE TOUR 2021 -HETERODOX-』、ぜひご堪能あれ。
文=杉江優花