Ms.OOJA 撮影=高田梓
デビュー10周年を迎えたMs.OOJAが、7ヶ月連続でデジタルシングルをリリース。その最後を飾ったのは、布袋寅泰がトータルプロデュースを務めたミッドバラード「鐘が鳴る」だ。シンプルな中に、慈愛がこもった完成作を聴いて、歌った彼女も思わず涙したという名曲が完成。この「鐘が鳴る」を含む2021年の集大成ともいえるアルバム『PRESENT』には、“Ms.OOJAらしさが詰まっている”という。10年歌い続けた彼女がみつけた、“Ms.OOJAらしさ”とは?
――『PRESENT』には、“贈り物”という意味だけでなく、“今、現在”という意味も含ませているんですね。
そうなんです。コロナ禍になって特に大切にしたいと思ったのは、今、この瞬間だったし、今を積み重ねてきて、過去や未来があるということを歌っていることが多くて。
――アルバムを出す前に、7ヶ月連続でデジタルシングルをリリースをした理由はなぜでしょう。
デビューから今までずっとアルバムタイトルは、アルファベット5文字だったんです。10周年を機にその縛りから離れて、新たなスタートの気持ちでタイトルを付けたくて。それで、『PRESENT』という7文字を毎月ジャケ写で見せていくという仕掛けをするために、7ヶ月連続と謳ったんです。実質は、8ヶ月連続のリリースだったのですが(笑)。
実は今年の2月にアルバムを出す予定でしたが、コロナ禍で変更せざるを得なくて。ライブもできないし、イベントもできない。そんな中、“ファンの皆さんに楽しんでいただけることはないかな?”と考えたとき、“毎月ドキドキできるプレゼントができたら”と企画したチャレンジでもありました。いざやってみると、普通にアルバムに曲を収録するのとは曲の捉え方が全然違って、おもしろかったです。
――“捉え方が違う”というのは?
毎月1曲リリースするって、シングルを出している感覚なんです。3月に出すならこの曲、4月に出すなら、5月に出すならって、バランスを見ながらリリースを考えていく作業は、アルバムの中の曲として作るのとは、また全然違っていて。立体的にというか、1曲1曲、個性が光っているものがお届けできたんじゃないかな?
――そうなんですね。2月にアルバムを出す予定だったということは、配信された曲たちは、早々に出来上がっていた曲ということでしょうか。
アルバム用に作っていた曲もあるし、作り直したりたものもあるし、新たに制作したものもあります。時の流れや季節感を意識して、その時々に合うものを出しました。
10周年に花を添えるという意味で曲を作っていただいるので、すごく大きな花束をもらった気持ちです。
――連続配信の最後を飾ったのが、布袋寅泰さんがプロデュースした「鐘が鳴る」ですが、どういうご縁で?
うちのバンドでギターを弾いてくれているアッキー(黒田晃年)は、布袋さんの大ファンでギターを始めて、ギターの腕を磨いて、今や布袋さんの右腕になった方で。そのご縁で、布袋さんのライブでお会いすることができたんです。
――OOJAさんからのラブコールで?
そうです。“書いてほしい!”というのは、マネージメントからも、私からも、たぶんアッキーからも何度もお願いをしてまして(笑)。布袋さんは、“タイミングのいいときに”とおっしゃってくださっていて、そのタイミングがまさに、“今”だったんですよね。
――なぜ、布袋さんだったのでしょう。
今井美樹さんがライブで、布袋さん作詞作曲の「あなたはあなたのままでいい」という曲を歌われていたのを観たんです。すごくシンプルで優しくて、真っ直ぐで、その時の今井美樹さんが歌うのにピッタリな、女性の凛とした美しさを引き出す曲だなと感じて。そこで“いつか布袋さんに曲を書いていただきたいな”と思うようになったんです。
――それが3年前なんですね。実は私も、「鐘が鳴る」を聴いて、今井美樹さんの「PRIDE」を思い出しました。布袋さんって男性なのに、女心がある作家さんですよね(笑)。
そうなんですよね。ご自身でもおっしゃっていました。“僕は女心が書けるので”って(笑)。「PRIDE」も一度聞いたら忘れられない、シンプルさと強さがある曲ですね。
――布袋さんとの曲のやりとりは、どのように進めていったのでしょう。
最初は、ロンドンにいらっしゃる布袋さんとオンラインでミーティングをさせていただきました。ちゃんとお話しするのはその場が初めてだったので、すごく緊張して(笑)。“どんな曲がいいかな?”と考えていたのですが、今井美樹さんのライブを思い出して、“布袋さんが作る女性の凛とした美しさを引き出すような愛の歌、大きな愛を唄いたいです”とお伝えして、コンセプトを固めていきました。その後はメールでやり取りをして、布袋さんがラララで歌ったシンプルなメロディの仮歌……、サビだけ歌詞があるデモが送られてきました。
――どんな印象でしたか?
一聴して、そのメロディの強さに引き込まれました。強さといっても、芯のある強さ。デモをいただいて、すぐに自宅で自分の声で録って戻しました。布袋さんのデモの時点でも素晴らしかったのですが、私が歌うことでさらに良くなったのが実感できたんです。1回聴いて歌っただけの、ラララの状態、私のつたない録音技術の録りっぱなしの音源なのに、もうそれだけで成り立っていたというか。メロディが素晴らしいと、曲ってこんなシンプルでも成り立つんだなという驚きを覚えました。
――名曲の予感しかなかった……。
はい。私の歌声を聴いてから、布袋さんが歌詞を書いてくださって。その歌詞をまた私が歌って送り返して。歌詞も、言葉の運び、一つひとつのメッセージに何一つ無駄がない。でも足りなくもなく。メロディの強さもですが、歌詞の言葉がメロディとピッタリはまる。本当に素直に歌える曲だと思いました。歌うたびに、自分にどんどんフィットしていくのを感じました。その間はメールでのやり取りだったのですが、曲のやりとりだけでなく、いろいろな言葉を頂いて。その言葉にすごく励まされたし、本当に嬉しかったんですよ。そんな風に、プロデュースを全体像でやられる方なんですよね……。プロデューサーとしての凄さもひしひしと感じました。
――ちなみに、すごく励みになった言葉とは?
(携帯で確認しながら)“スタッフやファン、ご家族やMs.OOJAを応援してくれているすべてのみなさんが喜んでくれるような曲を作ります”とおっしゃってくださって。10周年に花を添えるという意味で、曲を作っていただいるので、すごく大きな花束をもらった気持ちですね。
――「鐘が鳴る」はトラックも、メロディも言葉もすべてがすごくシンプルですよね。
本当に、シンプル。でもすごく響きますよね。布袋さんのライブを観たときに、ギターソロ、歌のメロディ、どれをとっても印象に残る。本当に凄いメロディメーカーだなと思いました。「鐘が鳴る」も、Aメロから一度聴いたらすぐ覚えたし。
――今回は作詞作曲だけじゃなくアレンジも演奏もプロデュースも全部やってくださったそうですが。
ミックスや歌のエディットまで! 本当に全てにおいてプロデュースをしてくださいました。レコーディングの時、東京にいらしたのでスタジオに来てくださったのですが、アドバイスをした後は、“僕がいると緊張するだろうから”って最初だけ立ち会って、すぐにスタジオを出られたんです。そういう気遣い含めて、ジェントルマンなんですよね。ほんとに素敵な方だなと思いました。
――布袋さんのインスタグラムに、「鐘が鳴る」のギタープレイが載っていましたね。
あれがOKテイクです。制作中に“曲がすごくシンプルだから、今のままでも成り立つけれど、ギターソロ欲しいですか?”ってきかれて、もちろん即答で、“欲しいです!”って(笑)。
――驚いたのは、コーラスの声も布袋さんで!
そうなんです(笑)。あの《Yes you can》で、布袋さんのギターと、私の声、そして布袋さんのコーラスが融合するんです。布袋さんのファンの皆さんにも聴いてほしいなー。布袋さん自身も“この曲は奇跡の曲だ”っておっしゃってくださっていて。本当にいい曲ができたので、早くたくさんの人に届いて欲しいねと話しています。
――制作中に、“特別な経験”のようなことはありましたか?
トラックダウンを終えて、最終確認をしたんです。その時にレコーディング以来、布袋さんにお会いして。一緒に並んで聴いたのですが、私、泣いちゃったんですよ……。客観的に聴いたのに、ラストサビのところで感情が込み上げてきて。その後にもう一度、小さなスピーカーで聴いたのですが、やっぱり同じところで泣いてしまった。これはあんまりない経験だったので、それくらい突き刺さる曲、すごい力を持った曲だなと思いました。
――ライブでも、そこで泣いちゃうかも!
“ライブで歌いながら泣かない”と、自分に課しているんです。届けることに徹しなきゃいけないけれど、もしかしたら泣いちゃうかもしれませんね。でも泣かないようにします(笑)。
――連続配信された7曲の中から、何曲かご紹介いただきたのですが、個人的に、「FLY」が好きなので、「FLY」のお話しをきいてもいいですか?
わ~、凄く嬉しいですね。ものすごく思い入れのある曲なんです。10年やって、悩みや葛藤もたくさんあって。カバーをやったり、タイアップをいただいて何かのために書いた曲もあるし、気付いたらいろいろな曲を歌っていた。ふと、“Ms.OOJAらしい歌ってなんなんだろう?”ということが頭をよぎって、いち音楽ファンとして自分が好きな曲を作ってみようと思ったのが「FLY」だったんです。
――OOJAさんが今、好きな曲……なんですね。
はい。なので出来上がった時に、自分ですごくシビれた(笑)。“めちゃめちゃかっこいい曲ができた!”と思えたので、連続配信の第1弾にしたんです。今までのMs.OOJAの曲と比べると少し強い印象なので心配していたのですが、ファンのみなさんも受け入れてくれました。新しいMs.OOJAを見せられた曲だったんじゃないかな。
――ファンの反応が意外だった曲は?
「星降る夜に」ですね。去年『流しのOOJA』という歌謡曲カバーアルバムをリリースした後に、どの時代に聴いても、どの世代が聴いても心に刺さる曲……、エヴァーグリーンな曲を作るという想いが湧いて制作した曲です。坂本九さんの曲をイメージをしながら作ったのですが、YouTubeに60代の方がコメントをくださったり、今までにない反響でした。
――シティポップに挑戦した「Cold Kiss」は、ファンにとっても意外でした(笑)。
松原みきさんの「真夜中のドア ~Stay With Me~」を『流しのOOJA』に収録した直後に大ブームになっていて、驚きました。この曲をカバーした反響も大きくて、自分的にも合ってると思ったので、Ms.OOJAなりのシティポップを作ってみたいと思いました。作り溜めていた曲が多い中で、「Cold Kiss」はシティポップブームを受けて書き下ろした曲。これもすごく反響がありました。
――シティポップ、合いますね!
そうみたいですね(笑)。オシャレすぎるものは自分に合わないと思っていたのですが、洋楽を聴いてきたこと、歌謡ポップスが好きだということで、Ms.OOJAらしさを表現できたんじゃないかと思います。2年前、友だちに“見えたんだよね、OOJAはシティポップを歌うべきだよ!”って言われたんですよ(笑)。そのときはシティポップが何なのかよくわかっていなかったけれど、すごく自然な流れで、「真夜中のドア」からシティポップを歌った。予言は当たってました(笑)。
――冒頭で“捉え方が違う”というお話しがありましたが、連続配信はリリースの度に“捉えられ方も違う”企画だったんですね。
そうですね。いろいろなチャレンジができたというのと、それぞれの反応が見られたのは面白かったですね。アルバムを出すのとまた違う見せ方ができた気がします。「星降る夜に」と「Cold Kiss」を出した時に、次のフェーズが見えたような気がしたんです。それで「鐘が鳴る」というとてもシンプルで普遍的なメロディとメッセージが込められた曲で、最後を締めくくることができたのだと思います。
全てに私の“好き”が詰まっているので。ずっと悩んでいた“Ms.OOJAらしさってなんだろう?”の答えをこのアルバムがくれました。
――「ONCE」、「HELLO」、「Happy Birthday To You」、「Christmas Song」という4曲の新曲も収録されています。私は「ONCE」が好きなんですけれど(笑)。
なんか好みが合いますね(笑)。私にとって、すごく大事な曲なんです。この曲はすごく悩んでいたときに書いた曲。人生では“あの選択は正しかったのか?”、“やり直したい”と思うこともたくさんあるけれど、そのときの選択は、必然。それを伝えたくて。人間ってどんなに切望して手に入れても、自分のものになったら欲しがっていたことを忘れてしまう。でもそうやって、もがきながら、悩みながら生きている人間の愛おしさを表現した楽曲です。実はこれ、Ms.OOJA史上、一番難しい曲で(笑)。これまでで一番難しい曲が「Be…」だったのですが、超えました。
――“難しい”の定義って?
テクニカルな部分で。「ONCE」は「Be…」と作家さんが同じなんです。「あなたが決めた今日」なんて、すごくキャッチーな曲も作るのに、難しい曲も作る(笑)。でも、歌いこなしていけばすごく歌い応えのある、修業のような曲です。
――心して聴きますね(笑)。アルバムにはさまざまなジャンルの曲が収録されていますが、不思議とまとまっていますね。
そうなんです。全てに私の“好き”が詰まっているので。ずっと悩んでいた“Ms.OOJAらしさってなんだろう?”の答えをこのアルバムがくれました。どんなジャンルの曲を歌っても、Ms.OOJAらしい曲があるというのを証明できたアルバムになりました。ファーストアルバムを超えられない“ファーストアルバムの呪縛”って多くのアーティストにあるけれど、私もそうでした。ファーストの『VOICE』は大好きだけど、『VOICE』が超えられないという想いをずっと抱えていたんです。そこから抜け出したくて、5文字のタイトルを止めた。この『PRESENT』で『VOICE』が超えられた。殻が割れた感じです。
――結局、Ms.OOJAらしさって、何だったのでしょう?
明確にはわからないんですよ、それが(笑)。でも今回の『PRESENT』に関しては、自分の肌にピタッと密着するような感覚なんです。“やっとここにたどり着けた”という実感があるんですよね。
――それがわかったということは、“ちょっと強くなった”ということでは?
そうですね。そんな風に吹っ切れたのは、10周年というところも大きくて。曲作りは悩むことの連続だけど、自分の中の“好き”という思いだけは大事にしなきゃいけないと思えた10年目でした。
私はずっと、早く大人になりたい願望があったんです(笑)。40歳が近づいてきている今、歌と自分の中のイメージが合う年代になってきたのかな。
――OOJAさんにとって、どんな10年でしたか?
本当に幸せな10年でした。歌手になりたいのを諦めかけた時にメジャーデビューできて、毎日が夢のようでしたけれど、ハッと気付いたらまたバイト時代に戻るんじゃないかという不安とともにやってきた10年でもあります。長いようで、あっという間。体感は3年くらい(笑)。何も分からない状態でデビューして、やっとちょっと大人になれたのかなという10年です。
――そんな10年で、転機となったのは?
やっぱり「Be…」は、すごく大きかったですね。私がデビューした頃は、着うたが大ブームで。『恋愛ニート~忘れた恋のはじめ方~』(TBS系金曜ドラマ)の主題歌というのもあって、「Be…」で100万ダウンロードという貴重な経験ができました。この曲で私を知ってくれた人も多いし、ひとつの大きな転機でしたね。
――10年の中でも、コロナ禍の影響というのも大きかったのではないでしょうか。
そうですね。まず連続配信は、コロナ禍じゃなければやらなかったと思います。それに、ライブというものが、いかに自分を支えてくれたかを実感しました。ファンと同じ空間で過ごすことがどんなに大切か……。ライブだけじゃなく、イベントだったり、ファンに会うというのが当たり前だったから。人に支えられて生きているんだなというのは、すごく感じました。
――ライブといえば、デビュー10周を祝うべく、来年3月に初の武道館公演が決まりました。アーティストにとって、武道館は憧れの場所ですよね。
決まったのが去年の10月28日、私の誕生日だったんです。その日はライブをやっていて、1部と2部の間に“武道館取れるけど、今返事をしないと抑えられない。どうする?”って言われて。“今?”って思ったけれど、やらない手はないし、今ここで勝負しないと2度とチャンスはないと思って、“やる!”と即決しました。
トライすることに意味があると思うんです。一筋縄ではいかないだろうけれど、自分の中でもいろんなことが変わるはず。武道館までに、燃え尽きているかもしれませんが(笑)。でもそれくらいの覚悟を持ってやるべきこと。神さまが誕生日にそのチャンスをくれたんだと思っています。コロナの状況次第でまだどうなるかわからないけれど、トライしがいがあります。
――久しぶりに取材させていただきましたが、年を重ねるごとにOOJAさんの歌の説得力が増していると感じました。年齢は経験値ですものね。
そうですね。私はずっと、早く大人になりたい願望があったんです(笑)。40歳が近づいてきている今、歌と自分の中のイメージが合う年代になってきたのかな。恋愛の曲も歌うけれど、人生を歌っている方が自分には合うと思うし。説得力をどんどん増していけるような、いろんな経験を重ねたいですね。ここから大人のゾーンに踏み込んでいけば、40代だから歌える曲もたくさんあると思うので、まだまだ成長期です。
――そうですね。人々の心のよりどころになるような歌を期待しています。この先の10年はどんなプランを?
『PRESENT』で、自分が歌うべきものがちょっと見えてきました。原点に戻っていくっていう感じなのかな? よりシンプルになっていくと思うし、心に響く歌をこれから先も歌っていきたい。その時々の素直な気持ちを音楽で伝えていくのがMs.OOJAらしさかなと思っていて。見た目は抗っていきますが(笑)。経験を重ね、楽しみながらやっていきたいと思っています。
取材・文=坂本ゆかり 撮影=高田梓