TRI4TH 撮影=大橋祐希
15年間の流行りすたりの荒波をくぐりぬけ、“踊れるジャズ”を掲げ走り続けてきたバンドへ、そこに共感して共に拳を挙げてきたファンへ、そしてジャンルを超えた調和を目指す未来の音楽へ、これは最高の贈り物だ。踊れるジャズバンド、TRI4THの結成15周年記念アルバム『GIFT』は、フィーチャリングボーカリストにチバユウスケ(The Birthday)、Kan Sano、ラッパーのASOBOiSM、岩間俊樹(SANABAGUN.)を迎え、各曲に気鋭のプロデューサーを配した豪華盤。ジャズ、スカパンク、ファンク、ヒップホップなど縦横無尽、自由闊達にやってのける音の楽しみと、信じたものをやり続ける生きざまのかっこよさ。すべての音楽好きへ捧げるギフト、受け取ってほしい。
インストバンドでジャズバンドだからこれだけの振り幅を咀嚼できるし、誰でも乗っかれるし、振り切れている、ということは自信を持っていいかな。
――すごいアルバムができました。正直、想像以上です。
伊藤隆郎(Dr):“15周年を記念するアルバム”ということが先に決まっていたので、15周年を象徴するような豪華なアルバムにしたいというのがメンバー全員の意見でした。その上で、インストジャズという部分での集大成と、前作でトライしたヒップホップとのコラボレーションをさらに拡張することと、何人かのボーカリストを迎えることで、歌ものとしての自分たちの新しいカラーを打ち出すことができたと思います。
――ボーカリストとしては、チバユウスケ、Kan Sano、ASOBOiSMの3人と、プロデューサーとしては、Kan Sano、Shingo Suzuki(Ovall)、Ethan Augustin、MPC GIRL USAGIという、非常に個性的なメンバーが参加しています。
竹内大輔(Pf):Kan Sanoくんに関して言えば、彼はもともと、僕が入る前の初期のピアニストが辞めた時に、サポートで入ってくれたことがあって、その時の縁もあったんですね。ずっと作品を作っていて思うのは、目指すものがちゃんとあるだけに、なかなか違うところに行きづらいというか、“これはTRI4THっぽくないんじゃないか?”とか、思っちゃったりするんですよ、良くも悪くも。だけどKan Sanoくんは、うちらのことも知ってくれているし、目指すところを汲み取ってくれて、面白いアイディアが次々と出てきて、僕らが授業料を払いたいぐらいのことをしていただいて(笑)。それがすごく刺激的で、ほかの曲への刺激にもなったと思います。
藤田淳之介(Sax):実は、プロデューサーを迎えて作るという流れになるまでは、自分たちでずっと作業していて、苦しみにもがいていた時期もあったんですね。“15周年とは何ぞや? 集大成とは何ぞや? 踊れるジャズって何ぞや?”というところで。記念すべき作品にしたい思いが強すぎて、そこはすごく苦しかったんですけど、Kan Sanoくんと一緒にやることで一歩進んで、さらにShingo Suzukiさんとやることでまた一歩進んで、新たな扉が開いていったんです。前回から始めたヒップホップへのチャレンジも、さらに自分の中に落とし込めたなと感じてますし、ホーンとしても、バリエーションがかなり出ているし、“まだまだ、やれることいっぱいあるじゃん”という、ここがスタートになりそうな作品だなという実感があります。
織田祐亮(Tp):僕らが15年やってきて、お互いの長所も短所も知っている中で、たとえばShingo Suzukiさんが“関谷くんのベースのここがかっこいいんだよ”とあらためて言ってくれたり、メンバーが持っているポテンシャルをさらにブラッシュアップして、“君はこんなこともできるんだよ”というものをリアルタイムで体感させてくれる、そういう時間は宝物のようでした。“授業料を払いたい”という言葉がありましたけど、まさにその通りで、それぞれのプロデューサーが純粋な音楽の楽しみ方を思い出させてくれて、行き詰まっていたエネルギーが急に流れ出したりとか、そういう感じがすごくありましたね。
関谷友貴(Ba):僕は、Kanちゃんと再会できたことが一番うれしかったです。もともと僕とKanちゃんは、バークリー音大の同期なんですよ。お互いに十代の時から、同じクラスで勉強したり、セッションしたり、メシ喰ったりしてきた仲で、その後はお互いの音楽を20年やってきて、こうやって再会できたことが、“続けてきてよかったな”としみじみと思いました。そのKanちゃんが、“僕より上手な人を紹介するよ”と言って、来てくださったのがShingo Suzukiさんで。Shingoさんとは同じベーシストとして面識があったんですけど、同じ楽器の人にプロデュースしてもらうのは初めての経験で、何よりも楽曲のポテンシャルを引き出してくれたのにすごい感銘を受けました。TRI4THのアルバムにはいつも、きれいなバラードを1曲入れているんですけど、今回は竹内くん作曲の「Just a Drizzle」でShingoさんに入っていただいて、“きれいな曲だけじゃ刺さらない。毒を入れる必要がある”と言って、僕と(伊藤)隆郎さんのワルいグルーヴというか(笑)。ストリートなグルーヴで“目の前の黒人を踊らすんだ”というアドバイスをいただいて、パッと絵が浮かんだ瞬間に全部がつながって、一つの言葉で曲が生まれ変わるんだと思ったし、鳥肌が立ちながら演奏していました。
竹内:この曲では、同じベーシストとして、関谷くんが一番いろんなことを教わったんじゃないかなと思いますけど。
関谷:相当緊張しましたけどね(笑)。
竹内:こういう曲、作りたかったんですよね。でも僕のイメージだけだと一歩先へ踏み出せなかったというか、踏み出したいんだけど、どう説明すればいいのかわからなくて。そんな時にShingoさんが背中を押してくれて、できた曲だと思いますね。
TRI4TH/伊藤隆郎(Dr)
――楽器で言うと、「Echoes」と「Goodtime」の2曲で、エレクトリックギターが重要な役割を担っているのも、新しいなと感じました。
伊藤:コロナ禍に突入していく中で、有観客ライブも減りましたし、それまでこだわり続けてきた“5人で完成させる”ということではなく、ライブの再現度を横に置いたところから制作をスタートしたということが大きかったので、“ギター入ってもいいじゃん”と思ったんですね。そこをプロデューサーが汲み取ってくれて、「Goodtime」にジェームス・ブラウンみたいなファンクなギターを入れてくれたりしたのは、すごく自然なことでした。作品は作品としてより良くするために、いろんなミュージシャンの力を借りて完成したのが、今回のアルバムの特徴ですね。
――やはりコロナという時代背景は、音作りに関係していますか。
伊藤:そうですね。今回、バラエティには富んでいるんですけど、曲のテンポに関しては以前よりもちょっと落としているんですよ。もともと「Goodtime」も、踊らせるというよりは、踊り狂うという感じのテンポだったんですけど、BPMをぐっと落として、90とか100とかにして、ミッドテンポなんだけど揺れる感じというか、それはライブ会場よりも家で聴いて心地よい感じだし、ライブに行けなくてもノれる曲として、音源と向き合ってほしいなという思いはあった気がしますね。そこは新境地だと思います。
――そうですね。まさに。
伊藤:やっぱり、時代に合わせていかないと。フェスもなかなかできないですし、その中で求められている音楽や、この時代だからこその自分たちの良さは、追及してしかるべきだと思うんですね。できないことを嘆いているだけじゃ、たぶんこのアルバムは作れなかったと思います。そこはすごくポジティブに、声を出せなくても楽しいし、家で聴いても踊れるような、外に向いた形で作品作りができたかなと思います。
――フィーチャリングボーカリストの話をしましょう。Kan Sanoプロデュースの「New days feat.ASOBOiSM」には、ラッパーのASOBOiSMさんが参加しています。
伊藤:まずKan Sanoくんのプロデュースで作品を作ることになった時に、僕らのプリプロがある程度進んだ状態で来てもらって、全部聴いてもらったんですよ。「SENRITSU feat.Kan Sano」という曲は、僕らのほうから彼に歌ってほしいとお願いしたんですけど、「君想ふ故に、僕在り」という曲に関しては、彼のテイストを思い切り出してほしいということと、もう1曲の「New days」は彼がチョイスしてくれて、“ヒップホップのトラックにしよう。ラッパーを入れよう”ということで、“アソボさんがすごく合うと思うよ”という提案を受けて、そこから作っていったんですね。そしてアソボさんに「New days」という仮タイトルのままでトラックをお送りしたら、2~3日ですぐに返ってきた。
織田:速かったよね。
伊藤:リリックとメロディは、すべてアソボさんです。それが「New days」という仮タイトルにインスパイアされたリリックだったので、そのまま本タイトルになりました。
――すごくフレッシュに感じますね。
伊藤:こういう形で女性シンガーをバンドに招くのは、初めてに近いので、自分たちとしてもすごく新鮮でしたね。アルバムの中で、一番新鮮だったかもしれない。
TRI4TH/織田祐亮(Tp)
――声が、とっても可愛い感じなんですよね。それがTRI4THの男くさいサウンドと、不思議にマッチしている。
伊藤:それは藤田くんがずっと言ってましたね。
藤田:最高です! レコーディングは別々に録ったんですけど、今までの5人だけの空気感と全然違うんですよ。ああいう声や歌い方をする女性シンガーが前から好きで、TRI4THと合う部分はないかな?ってずっと考えていたんですけど、それが実現してすごくうれしいです。そこに自分たちのインストがどこまで主張していいのかはすごく考えましたけど、結局は、楽器のソロの間にもラップが入って来るし、対等な感じでできたので。それも新しい音楽のありかたとして、僕らの中で変わった部分ではありますね。
伊藤:演奏をこれだけシンプルにしたからこそ、音の作り方にはこだわりました。
竹内:ドラムは、ほんと、かっこいいですよね。
伊藤:曲の頭の、スネアの一発目で全部持って行きたい。それがヒップホップの、ストイックなビートの美学だと思いますし、そういうカルチャーも踏まえながら、ビートを追求できたのは、「New days」もそうですし、「Just a Drizzle」とかにもつながっていってるのかなと思います。
TRI4TH/藤田淳之介(Sax)
――確かに、今回、特にリズム隊のストイックな演奏と音作りは、重要なポイントになっていると思います。
関谷:ベースに関しては、エンジニアさんの渡辺省二郎さんの力がすごく大きいと思っています。僕は今回、「航跡」という曲以外は全部同じ、オールドのコントラバスを使っていて、音作りも全部一緒なんですね。でもマイクを2本立てたり、エフェクターをかけたり、その組み合わせで、僕の想像の斜め上からすごい音を返してくれて、僕は演奏に集中することができたので。“同じベースからこんなに違う音が出るのか?”という、それはもう彼のセンスだと思います。エンジニアの、トップ中のトップの人ですから。
藤田:“俺が全部考えました”って、自分の手柄にしないところが謙虚だね(笑)。
関谷:いやいや(笑)。前々作『jack-in-the-box』のツアーが終わったところで、“ロックなサウンドをウッドベースで出す”という音作りに満足しちゃって、そこからもう一回ウッドベースと向き合うために、オールドのコントラバスを購入したり、また新しいことを始めて。前作『Turn On The Light』では、当時自分でできる一番の演奏ができたと思うんですけど、今回さらにブラッシュアップできた。ベースとドラムは、本当にすごいと思います。
――じゃあ最後に、真打登場と言いますか。アルバムの1曲目、ミュージックビデオも作られたリード曲「LET JERRY ROLL feat.チバユウスケ」は、作詞に武藤昭平(勝手にしやがれ)、プロデュースにシライシ紗トリ、ボーカルにチバユウスケという、とんでもないメンバーが大集結しています。この組み合わせは、どんなふうに実現したんですか。
伊藤:これはアルバムの中で最後に完成した曲で、最後の最後にビッグカードが決まった感じです。もともとサビを僕が歌うつもりで作っていたんですけど、もっと歌ものとして完成されたものにしようということになって。誰にオファーするのか?と思った時に、この楽曲に一番映えるのはチバユウスケさんだろうと、ダメで元々のアイディアが、チームの意見として出てきたんですね。それは自分たちでもイメージしつつ、とても叶いそうにないから言い出しもしなかったところなんですけど、ディスカッションの時に若いスタッフが“チバさんがいいと思います”と素直に言ってくれて、ハッとしたんです。それで“15周年だし、ダメで元々だから聞いてみよう”ということで、デモを送って聴いていただいたら、予想以上に好感触で、興味を示していただいた。
TRI4TH/竹内大輔(Pf)
――はい。なるほど。
伊藤:そこから、シライシ紗トリさんと一緒に楽曲をブラッシュアップして行く中で、詞はどうしよう?という時に思い出したのが、チバさんと最初に出会ったのは、勝手にしやがれとThe Birthdayのツーマンライブだったんですね。武藤さんが療養中で、僕と織田さんを呼んでいただいて、僕が代打でドラムを叩かせてもらって、そこで出会いが生まれたので。そういうことを思い返す中で、勝手にしやがれのフィーチャリングでチバさんが歌っている「ロミオ」という曲があるんですけど、そのビジョンが鮮明に浮かんできて、僕らの曲で武藤さんが詞を書いてくれたら、きっとチバさんはかっこよく歌ってくれるだろうと。それで本当にぎりぎりだったんですけど、勝手にしやがれのライブを見に行った時に、武藤さんに直接お願いしたら、快く引き受けてくれた。そこに関してはずっと前から、インディーズ時代から、勝手にしやがれとはツーマンをやらせてもらったり、いろんな物語がありましたし、自分たちがかっこいいと信じてやり続けてきたことが間違っていなかったなと思いました。そういう関係値があるからこそ実現したことなので、それこそが『Gift』だと思いましたね。
――ああー。まさに。
伊藤:アルバムの最後に特別なものを付け加えたいと思った時に、そういうミラクルが起こった。人と人が出会うことは、メンバーもそうですし、15年間応援してくれているお客さんもそうですし、チバさん、武藤さん、岩間(俊樹)くん、Kan Sanoくんや、いろんなアーティストとの出会いも全部含めて、象徴する出来事がそこにあったと思います。最後に完成すべく完成した曲なのかなと思います。
竹内:全部の点が、線になってつながった気がします。
伊藤:「LET JERRY ROLL feat.チバユウスケ」に関しては、“踊れるジャズ”という自分たちの音楽的背景を象徴している1曲だと思いますね。アルバムのほかの楽曲は、新しい扉を開けていくところが大きいですけど、変わらないTRI4THらしさが一番出ている曲を、チバさんがさらに本物にしてくれた。この1曲があるかないかで、アルバムの説得力がまったく変わるという気がします。
TRI4TH/関谷友貴(Ba)
――踊れるジャズのロックンロール「LET JERRY ROLL feat.チバユウスケ」で始まって、ラストはヒップホップスタイルの「航跡 feat.岩間俊樹(SANABAGUN.)で締めくくる。完璧じゃないですか。
伊藤:ストーリーとして、そういう流れはありましたね。岩間くんの曲も、オファーした段階でアルバムの最後の曲にしようと決めていたので。そこに岩間くんの提案で、トラックメイキングでMPC GIRL UASGIさんに入っていただいて、僕は潔く、ドラムはまったく叩いていないんですけど、ほかの曲との親和性は保たれているし、うまく辻褄が合うようになってると思います。
――まさに、すべての点が線になってつながった、15周年にふさわしいアルバムだと思います。
伊藤:たくさんのアーティストを招いているのが豪華とか、そう見えると思えるんですけど、これだけのバラエティを1枚にコンパイルして提案できるというのは、インストバンドでジャズバンドだから、TRI4THだから、これだけの振り幅を咀嚼できるし、誰でも乗っかれるし、受け皿が僕らだからこそこれだけ振り切れている、ということは、自信を持っていいかなと思います。だって、ほかのバンドがこんなことやったら、絶対ダメでしょ(笑)。
――賛否両論で、炎上するかもですね(笑)。なんたって、ヒップホップも入っていれば、元祖スカパンクのオペレーション・アイヴィーのカバー「Sound System」も入ってますから。
伊藤:そこはちゃんと、カルチャーとして理解できてるから、一緒にできているんだと思うんですよ。逆に言うと、一緒にしちゃダメなものもあるじゃないですか。でも文化的な背景として、スカはもともとパンクとの相性は抜群だし、ヒップホップもそうだし、ジャズもそうだし、レベルミュージック=反逆の音楽というのは、何をもってレベルミュージックと呼ぶのか?というと、サウンド感じゃないと思うんですよ。それは哲学だし、文化だし、うわっつらのサウンドは別のもので、そういう背景を背負っているからこそ、ヒップホップを軽々しくやってはいけないと思っていたので。その音楽を背負っている人たちがちゃんといる、すごく大事なジャンルの音楽ばかりを今回扱えたのも、そういうところに敬意を払ったからこそ、今でこそようやく一つにまとめられたという感じがある気がしますね。
取材・文=宮本英夫 撮影=大橋祐希
TRI4TH