『UNITED FRONT 2021』 撮影=TAKAHIRO TAKINAMI
DRAGONASH LIVE TOUR『UNITED FRONT 2021』2021年9月28日(TUE) Zepp Osaka Bayside
Dragon Ashが8月9日(月・祝)に予定していた盟友たちとの対バンツアー『UNITED FRONT 2021』の振替公演を、9月28日(火)にZepp Osaka Baysideにて開催した。ROTTENGRAFFTYを迎えた怒涛のファイナル公演をレポートする。
DAへの友情と共に濃密ステージを披露したROTTENGRAFFTY
ROTTENGRAFFTY 撮影=Yukihide”JON…”Takimoto
「飛べー!」。ステージから地鳴りのように「ハレルヤ」が轟き出したのを合図に、ROTTENGRAFFTYのボーカル、N∀OKIが叫ぶ。あの瞬間、会場中のオーディエンスが痛感したはずだ。「身体中で感じるロックバンドの生音はやっぱり最高だ!」と。
Dragon Ashが2018年に立ち上げた盟友たちとの対バンツアー『UNITED FRONT』。3度目の開催となる『UNITED FRONT 2021』が9月28日(火)、ZEPP Osaka Baysideにてファイナルを迎えた。7月に始まり、TOTALFAT、04 Limited Sazabys、マキシマム ザ ホルモン、ストレイテナー、そしてロットンを迎え、全国5会場5公演が開催された対バンツアーは当初、8月9日(月)にファイナルを迎える予定だった。しかし、ロットンメンバーの体調不良により開催は延期。まさにこの日は待望のファイナル公演となった。
ROTTENGRAFFTY
「Dragon Ashには俺ら、死ぬほど愛をもらってるから」
「響く都」で場内を熱く盛り上げた後、N∀OKIが言う。そして披露されたのは、Dragon Ashの初期曲「天使ノロック」のカバーだった。ソリッドに生まれ変わった「天使ノロック」を歌い終えたボーカルのNOBUYAが叫ぶ。
「Dragon Ash、大好き!」
こんなふうに彼らがDAへの友情をストレートに告げるのには理由がある。両者は共にハイブリッドな音楽を追求するバンド仲間であり、互いにさまざまな経験を重ねながら同じ時代を突き進んできた同志。そして、Dragon Ashのオリジナルベーシスト、故・IKÜZÖNE(馬場育三)が自ら名乗りを上げてプロデュースを手がけたバンドのひとつが、ロットンだ。そんな目に見えない絆を確かめるように、ギターのKAZUOMIがマイクに向かう。「あの人来てくれたかな? 馬場さんと一緒にレコーディングした曲をやります」。披露されたのは、IKÜZÖNEがCO-プロデュースを手がけた「毒学PO.P 革新犯」。さらにIKÜZÖNEに捧げた、命がけで音楽を鳴らす決意の曲「D.A.N.C.E.」を響かせ、場内を極限まで煽る。
ROTTENGRAFFTY
「Dragon Ashと対バンするまで時間かかったわ。山あり谷ありのロック界で馬場さんに見つけてもらって、プロデュースされたもののなかなか立ち上がれず。やっとの思いでDragon Ashと対バンできて、メンバーともだんだんバンド仲間になれた。ほんとに感謝しかないです」
中止ではなく、延期という形で自分たちと共にツアーファイナルを飾ることを選んだDragonへの思いを語るN∀OKI。「金色グラフティー」では、歌うN∀OKIの後ろでNOBUYAとKAZUOMIが互いに向き合い、ジャンプをキメる。もはや対バンの枠を超えた濃密な選曲と熱い演奏の最後を飾ったのは、「マンダーラ」だった。<馬場さんの言葉がなんかずっと胸に残ってるし>。この日のための即興リリックとかき鳴らされるギターのエモーショナルな音に、フロアから突き上げられたいくつもの声無き拳と掌が応える。
モンスターライブバンド、Dragon Ashのニューフェーズ
Dragon Ash 撮影=TAKAHIRO TAKINAMI
夜明けのようなSEが流れる中、Dragon Ashがついにステージに登場した。幕開けのナンバーは「New Era」。5人体制としてリスタートしたバンドの新たな始まりの歌だ。続けてサポートベースのT$UYO$HIを迎えてレコーディングした最初の1曲「Fly Over feat. T$UYO$HI」を鳴り響かせた後、Kj(Vo.Gt)が叫ぶ。
「屋根ブチ破るくらい飛び跳ねろ!」
Dragon Ash
Kjの声と久々の「AMBITIOUS」に、飛び跳ねるフロアから歓喜の拳が挙がる。さらに上昇した熱気を煽るように、もはやDA定番のカバー曲「ROCKET DIVE」を披露。亡きIKÜZÖNEが敬愛するhideの名曲に、場内は声無き熱狂の坩堝と化す。
その直後にバンドが放ったのは、IKÜZÖNEとレコーディングをした最後の曲「Walk with Dreams」だった。メンバーの誰よりもファンと近く、 DAとロットンとの絆を深めてくれたIKÜZÖNE。柔らかなメロディと美しくエモーショナルな演奏に、場内全ての人の思いがゆっくりと重なっていく。続いて披露されたのは、なんと初期の名曲「Melancholy」。滅多に聴けないレア曲の披露に、観客の誰もがマスクの下で驚きと歓喜の笑顔を浮かべていたに違いない。
Dragon Ash
「馬場さん(IKÜZÖNE)とやった最後のライブが渋谷のO-EASTのライブで、それがロットンとDragonの初めてのツーマン。俺らはいろんな時に一緒にいるバンドなのさ。それでもまだ、お互い板(ステージ)の上に立ってます。だって音楽が大好きだから。ルールだらけだけど、音楽を傍らに置いて……ライブハウスに来てやってください」
そう言ってKjが一人一人に語りかけるように歌った「ダイアログ」の後、「静かな日々の階段を」のアルペジオギターが響く。この日、聴衆それぞれの人生に寄り添ってきたその美しく穏やかな曲は、久々に最後のバースをRIP SLYMEの「One」とのマッシュアップで披露した。
<共に行こう、君はひとりじゃないさ>
Dragon Ash
目の前の観客とロットン、そしてすべての音楽仲間へのメッセージにも響く最後のリリックを噛み締めながら、ふと気づく。そもそもライブモンスターと呼ばれる彼らのライブで、こんなふうに静かに語りかける曲が連続するなど、コロナ禍以前には考えられなかった。しかし、復活の曲「Revive」が鳴り響いた瞬間、確信した。これは、歓声もシンガロングもモッシュも禁じられた状況を嘆き立ち止まるのではなく、どんな状況でも前に進むという、Dragon Ashらしい再興の誓いなのだと。「いいよ、座って」と観客をいったん座席に座らせ、自らもステージ前に座りながら歌い始めた「Jump」で、<let’s jump>を合図に全員でジャンプするというユニークな演出も、この状況下だからこそ誕生したDA流のニューフェーズだ。
ところでこの夜、「今でもライブハウスは大好きな場所ですかー?」というKjの問いかけで「百合の咲く場所で」が始まった直後、不思議なことが起きた。レイヤードされたビートが押し寄せる場面でふっと、同期演奏が消えたのだ。とはいえ、そこは百戦錬磨のバンドマンたち。演奏は何事もなく進行したが、数えきれないほど演奏されてきた中で初めて起きた出来事……ロットンとのツーマンをきっと見届けたかったはずの誰かのいたずらだったような気がしてならない。
Dragon Ash
「ロットンとはお互い嫌なこともいいこともたくさん経験して、何よりたくさんのファンに囲まれてて幸せだから……みんなが音楽でちょっとでも幸せになれるように、俺らはずっと音楽を続けていくんで」
Kjがそう告げた後、最後に披露されたのは「Lily」だった。エモーショナルな演奏と、絶望の中で見出した小さな希望の歌が響く中、フロア中から、拳とDragon Ashのロゴが入ったタオルが掲げられていく。
完璧でも強靭でもない私たちにとって、音楽やライブは必要なものだ。ここで得た目に見えないもの。それは間違いなく、明日を生きるための小さな灯火となる。
Dragon Ash
取材・文=早川加奈子 撮影=TAKAHIRO TAKINAMI、Yukihide”JON…”Takimoto